
2006年OECD閣僚理事会議長サマリー(仮訳)
2006年5月24日
(注:この文書の原文は英語なので、より正確な内容をお調べの方は、OECDのウェブサイトの原文
をご参照下さい。)
繁栄の実現
- 2006年の閣僚理事会はギリシャが議長を務め、本閣僚理事会は“繁栄の実現”というテーマに重点を置いた。広がりつつある世界規模の景気拡大を背景に、閣僚は二つの主要な政策課題を特定し、議論した。
- 第一に、閣僚は、景気の回復基調がすでに強固な経済はモメンタムを維持し、循環の中で回復が遅れている経済は遅れを取り戻すべきであり、その確保がいかに重大かということを強調した。また、継続する世界的な景気拡大の脅威となる緊張とリスク、特に国際的、国内的な不均衡に関連した緊張とリスクに対応することの重要性も強調した。国際的協力と政策協調が国際的不均衡の秩序ある是正の達成のために必要であるとされた。OECDと他の多国間組織はこの点に関し、大変重要な役割を果たせるであろう。
- 第二に、閣僚は、長期的な観点から、長い間ベストパフォーマーから遅れをとる傾向があったOECD加盟国において、構造改革のペースを加速させることが必要であると強調し、改革の優先順位及びモダリティを議論した。改革の実施にとっては、改革アジェンダのオーナーシップを拡げる方法や、短期的なコストと長期的な便益の議論を深める方法についてのベスト・プラクティス及び継続的情報交換から学ぶことが不可欠である。
- 閣僚は開かれた市場の重要性及びドーハ貿易ラウンドの速やかな妥結の切実な必要性を強調した。閣僚は、OECD加盟国及び非加盟国におけるオープンで透明な投資制度が持続的な成長及び繁栄にとって必要不可欠であることに合意した。貿易及び海外からの直接投資に対する低い障壁、及び成長にとって好ましい製品市場及び金融セクターの規制は企業の参入、投資及び成長を促進する。
- OECD非加盟国の閣僚は閣僚理事会のほぼ全ての議論に参加し、それらの閣僚との対話は双方にとり有益だった。また、OECD加盟国の閣僚にとって、経済産業諮問委員会及び労働組合諮問委員会との意見交換、やOECDフォーラムの場でのより幅広い市民社会との意見交換も有益であった。OECDの社会的パートナーからの意見を聞き、OECDの目標及び戦略を説明する機会をもつことは、改革アジェンダに対する幅広い理解を深めるために、また、より広い範囲の人々に共有してもらうために常に極めて有益であるということに、閣僚は同意した。
経済概観
- 閣僚は、最近数年間にわたる世界経済の堅調な拡大ペースが近い将来も持続すると考えた。新興経済、とりわけアジアにおける継続的な急成長を背景に、米国および日本では潜在能力がほぼ活用されていること、欧州地域が徐々にキャッチアップしていることから、OECD経済の拡大も継続するであろう。閣僚は、縮小する増産余地と高い商品価格にもかかわらず、国際的競争の高まりが物価上昇の阻止要因となっていることから、インフレーションは引き続き制御できるであろうと考えた。閣僚は、北米及び日本において失業率が低位にとどまり、また多くの欧州諸国においては、緩やかではあるが、低下すると見た。
- リスクに関しては、閣僚は、エネルギー価格の上昇にもかかわらず、グローバル経済が拡大し続けていることを歓迎した一方、さらなる価格上昇のもたらす影響については懸念を表明した。閣僚は、エネルギー効率の向上と供給の各段階における投資を通じたエネルギー安全保障の強化の重要性を認識した。閣僚は、良好な金融状況が今のところ需要を支えているが、これは継続しないかもしれない(資産市場の一部に過熱がみられることから金利は現在上昇している。)点に留意した。閣僚が強調した三点目のリスクは、経常収支の不均衡の拡大に関するものであり、一部は国内の不均衡の反映したものである。閣僚は時宜を得た政策対応-マクロ経済及び構造的な対応-がこのトレンドを反転させ、不均衡のスムーズな是正を促進するために求められていると強調した。
- さらに、閣僚は節度ある財政政策の決定的な重要性に同意した。現在の循環的な好転は財政的調整を強化するための好機となっている。加えて、人口高齢化に起因した増大するプレッシャーと現行の予算状況を考慮すると、財政の安定性はほとんどのOECD加盟国が直面している課題である。閣僚は、幾つかのOECD加盟国において進行中の財政再建の努力を歓迎し、その他の加盟国もこれに追随するよう求めた。
経済安定性の確保と経済パフォーマンスの改善
- 閣僚は次にOECD加盟国が直面しているより長期的な課題を議論した。閣僚は、加盟国間の一人当たりGDP成長率の差が大きいままとなっていることが最も重要な課題であることを確認したが、そのことは、OECD加盟国の一部においては最良の政策事例を取り入れ実現できていないことを示している。
- しかしながら、閣僚は、いくつかの加盟国がたち遅れた一方で、1980年代、或いは1990年代初頭に経済実績が悪化した諸国を含む他のOECD加盟国においては、経済的衝撃に対する回復力及び潜在成長力が回復している事実を心強く感じた。
- 閣僚は、この事実は、労働力の活用、生産性、技術革新および金融市場等の分野において、より良い構造政策が問題解決のための根幹であることを示していると結論づけた。とりわけ大陸欧州では、労働市場改革の余地が大きい。製品市場も更に開放されることが必要であり、特に、海外からの直接投資の障壁を削減することや、ビジネス環境を改善することが必要である。技術革新は、長期的成長の鍵となる要素であり、これに関してはインセンティブを改善させる政策が重要であった。金融市場改革及びリテール・バンキングでの競争強化も、景気変動を平滑化させ、成長トレンドを支える上で役立った。加えて、世界的規模で環境面を重視することを通じて持続的成長を達成すべきことも強調された。
成長と雇用のための経済改革の実施
- 閣僚は、経済改革の最良な履行方法について意見交換した。強力な政治的リーダーシップをもってしても、特に、社会的目標が経済的プライオリティーと衝突すると見られるなど、政策目標間のトレード・オフがある場合には問題は簡単ではない。また、通常、改革の利益は遅れて、かつ拡散した形でもたらされる一方、改革による短期的コストの影響を受けるグループは往々にして明確であることも問題を困難にしている。
- 閣僚は、なぜ改革が必要であるのかを国民に対して明確な言葉で説明することが必要であると強調した。また、現実的であるべきで、コストを過小に評価したり、便益を過大評価してはならないことに留意した。閣僚は、納税者及び消費者にとっての改革の利点を特定することが重要であることに留意した。将来的なコストである-簿外-となっている政府債務の詳細が明らかにされるべきであると強調した閣僚もいた。数人の閣僚は包括的な改革戦略の必要性を強調し、一旦改革を宣言したらそれを実行し、改革の実行途上では方針を変更しないことが重要であると強調した。また、数人の閣僚は、特に政治的に困難な問題の場合には、改革の必要性と利益を国民に周知するために、改革支持勢力を形成し、ピア・プレッシャー(注:加盟国間の相互圧力)及び国際機関を活用することが重要であると強調した。このような問題の場合、OECDのような機関は有用である;OECDは加盟国にて実行された改革の成功及び失敗事例について研究する事が求められるべきである。
- さらに閣僚は、好況期には改革の必要性はあまり明白に感じられないことに留意しつつも、好ましいマクロ経済条件が改革を促進しうることを認識した。また、閣僚は、財政が健全であれば構造改革の導入に際して安心感を与え、政策的裁量の余地が広がることを強調した。最後に重要な点として、閣僚は、透明性が望ましいこと、様々な利害関係者は、改革の利益と費用のみならず、改革が失敗した場合のコストについても明確な理解を必要とすることを強調した。
OECD開発のための投資イニシアティブ
- 閣僚は、2003年のOECD閣僚理事会後に開始された「OECD開発のための投資イニシアティブ」を構成する「投資のための開発枠組み(PFI)」及び「民間投資促進のためODA活用に関するドナー向け政策ガイダンス」を歓迎した。閣僚は、各国政府による投資環境改善を助長し、成長及び持続可能な開発を支援する政策ツールとしてのPFIの重要性を特に認識した。閣僚は、OECDがPFIの積極活用を促進するために非加盟国政府及び他の政府間組織と引き続き作業するよう求めた。
知的資産と価値創造
- 閣僚は、持続的な経済成長のために知的資産の重要性が増大していること、及びよりよい政策策定のために包括的にそれらを測定する必要性について留意した。閣僚は、「知的資産及び価値創造」についてのOECDの研究、及び協力機関及び地域集団における研究も含め、革新と価値創造の原動力としての知的資産の重要性についての認識を深めるために提案されたフォローアップ研究を歓迎した。
新興経済
- 閣僚は、主要な新興経済国が、多様なチャネルを通じてOECD加盟国及び世界経済に及ぼす、増大しつつある影響について、また、将来のOECDの活動にもたらす意味合いについて議論した。閣僚は、これら新興経済が地球規模の成長と生産性レベルの向上に対して積極的に貢献したと認識した。総じて新興市場のダイナミズムは、地球規模の比較優位のメカニズムにより、世界の繁栄に役立ってきた。閣僚は、これらの展開、あるいはOECD加盟国における構造的な圧力の増大は、OECD加盟国が構造改革の課題に早急に取り組むことを求めるものであると指摘した。
- 閣僚は、世界標準の対等な競争環境に対する共通の関心が高まっていることに留意した;これは、OECDと主要非加盟国のより密な協力を必要とする。閣僚は、主要新興経済国がOECDの活動に一層積極的に参加し、特に輸出信用、投資、腐敗防止、知的資産、開発援助及び環境といった分野においてOECD水準や規範に一層歩み寄ることを促した。閣僚は、OECDに対し、このプロセスを支援すること、また、包括的、体系的、未来指向の方法により、グローバルな問題や、新たな重要プレーヤーのもたらすインパクトに対処できる能力を強化し、加盟国が十分に利益を享受し、グローバル化の課題に対応できるようにすることを求めた。
- 閣僚は、世界的な模倣品、海賊版が顕著に増加する徴候について、懸念をもって留意した。これらについては、消費者の健康、安全に対してのみならず、影響を受ける企業の販売、利益に対しても悪影響を及ぼすもので、増大する社会への脅威であると見なした。この議論において、日本は、模倣品・海賊版の拡散防止のための更なる研究を提案した。
貿易
- パスカル・ラミーWTO事務局長は、WTOドーハ開発アジェンダ交渉の現状について報告を行った。閣僚は、交渉の成功裏の妥結が世界経済、特に途上国を大きく成長させること及びこれによって、多角的貿易体制の信頼性を高めることを強調した。時間はなくなってきており、期限をこれ以上伸ばしてはならない。したがって、閣僚は、今後数週間で、農業、NAMA、サービスを含む全ての交渉事項について、バランスの取れた方法で解決を模索することを約束した。これは、貿易自由化と多角的な貿易ルールの強化に向かう決定的なステップとなるべきである。
- 閣僚は、ドーハ・アジェンダを超えて、特に貿易自由化の大きな余地を残しているセクターや国に関して、作業が行われるべきことを認識した。OECD規約に書かれているように、閣僚は、多角的貿易体制を強化し、時代にあったものにするための野心的なプログラムを追求し続けるべきである。
- 加えて、閣僚は、「貿易のための援助」に関するWTOの取り組みへのOECDの貢献を評価し、この分野の途上国の必要性を一層十分に考慮に入れるべきであるとした。閣僚はまた、OECDがドーハラウンドの成果及びそれと国内改革との関係、ポスト・ドーハの課題に関する作業に取り組むことを求めた。
OECD組織運営と拡大
- 閣僚は、2006年6月1日に施行される新たな組織運営に関する理事会決議を歓迎し、事務総長に対し決議の完全な履行のため必要な行動をとるよう要請した。閣僚は、加盟国の拡大と重要な非加盟国との関係強化を通じて、OECDの世界的な広がりと政策的影響力を拡大することが重要であることに合意した。また、潜在的な加盟候補国及びOECDが関係を強化すべき国を特定するメカニズムを2006年7月までに設立するとの理事会決議を歓迎し、事務総長に対し、来年の閣僚理事会において進捗ぶりを報告するよう求めた。
- 閣僚は、事務総長に対し、加盟国と非加盟国のため、OECDを世界経済について対話する恒久的な拠点とすべく、新たなアイデアづくりをし、非加盟国に積極的に働きかけるよう求め、また、2007年の次回閣僚理事会にその進捗ぶりを報告するよう求めた。
- 閣僚は、ドナルド・J・ジョンストン事務総長に対して、その強いリーダーシップと過去10年間にわたるOECDへの卓越した献身について感謝し、高く評価した。閣僚はジョンストン事務総長が行ったOECDの変革と近代化を讃え、同氏がOECDを去る時、OECDは今後の主要な課題に取り組むにあたって十分に準備できていることに留意した。閣僚はジョンストン氏の今後の幸運を祈念した。閣僚はジョンストン氏の後任として6月1日に就任するアンヘル・グリア氏を歓迎した。