平成23年5月
2011年の経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会に際し,OECD設立50周年を祝賀し,相互に関連しあう世界においてOECDが効果的かつ影響力のある役割を確保する道筋をつけるため,アメリカ合衆国の議長及びドイツの副議長の下,首脳及び閣僚が参集した。
ブラジル,インド,インドネシア,中華人民共和国及び南アフリカ,そしてOECD加盟に向けて準備を進めているロシア連邦の参加を得て,閣僚理事会の議論は充実したものとなった。閣僚は,2007年のロードマップに沿って,ロシアの加盟審査が更に進捗することを期待する。
議長は,構想声明(ヴィジョン・ステートメント)を提示した。この声明は,開発のための新たなパラダイムを実践し,グローバルな政策ネットワークに向けて前進することにより,政策の開発と対話のためのフォーラムであるOECDの歴史を祝し,より良い暮らしのためのより良い政策に貢献するOECDの重要な役割を見通すものである。加盟各国及びロシア連邦の閣僚は,構想声明を支持し,その実践に向けた具体的な方策を策定するよう理事会に要請した。
OECDは,過去50年間にわたり,政策の知見を共有し,成功事例(グッド・プラクティス)を特定し,共通の問題に対する解決策を見つけ,グローバルな課題への対応について協力するため,各国政府が集まることができる他にあまり例のない場を提供してきた。閣僚は,OECDの核となる強みは,その基準の質の高さ,その勧告の客観性,事実に基づく相互学習,及びその厳密な相互審査(ピアレビュー)の過程にあることを強調した。閣僚は,OECDがG20を含むグローバル・アーキテクチャーの発展に大きく貢献してきたことを歓迎した。
閣僚は,OECDの影響力,包括性及び将来においてもOECDが有益であることを強化するため,事務総長が自らの戦略を示した戦略指針ペーパーを歓迎した。また閣僚は,グリア事務総長の再任に祝意を表した。
閣僚は,外国公務員贈賄防止条約加盟に向けた重要な一歩であり,OECD加盟の必要条件であるとの認識に基づき,ロシアに対する贈賄作業部会参加への招待を歓迎した。閣僚は,ロシアが同条約に早期に加盟することを期待するとともに,作業部会の全ての参加国に対し,条約を効果的に執行するよう求めた。
閣僚は,OECD多国籍企業ガイドラインの改訂を採択した。同ガイドラインの改訂は,人権に関する新たな章を含み,インターネットの自由を促進するため,企業が適切なフォーラムにおいて協力的な取組を支援するよう慫慂している。また,閣僚は,紛争地域及びハイリスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンの適切な手続きに係るガイドラインに関する勧告を採択した。
閣僚は,また,OECD及び南アフリカ政府の支援を受けた,OECDアフリカ公的債務及び債券市場管理センターの設置を歓迎した。センター設置に係る了解覚書は,南アフリカの代表と事務総長によって署名された。
OECDのチーフエコノミストは,公開のOECDフォーラムにおいて経済見通し(エコノミック・アウトルック)を発表した。危機からの回復は緩やかに進行しており,最近の成長は予測より若干強くなっている。成長はますます自立的になっており,景気刺激による支援は減少し,民間需要が回復している。しかしながら,課題は残っており,新たなリスクも浮上している。特に,原油及びその他の商品価格の上昇,いくつかの新興市場国におけるインフレ圧力,及び日本の悲劇的な地震の余波が挙げられる。グローバル・インバランスは引き続き存在する。グローバルな危機により,いくつかの国は,潜在的成長率の低迷,高失業,巨額の財政赤字及び公的債務を抱えたまま取り残されている。閣僚は,回復を維持してリスクを最小化するために警戒を続け,必要な行動をとることを約束した。
閣僚は,各国固有の状況や回復の脆弱性を考慮に入れつつ,財政再建のための計画を策定し,真剣に実施しなければならないことを認識した。税制改革は,この取組みにおいて中心的な役割を果たし得る。構造改革は,長期的には潜在的成長率を押し上げ得る。
閣僚は,政策提言を行い,成功事例(ベスト・プラクティス)を共有し,構造改革及び分野横断的分析における知見を活用することにより各国政府を支援するOECDの役割を賞賛した。閣僚は,OECDのG20に対する貢献,特に,グローバル・インバランスという重要な課題に取り組む相互評価プロセスを評価した。
閣僚は,(1)経済回復を維持し,強化する,(2)成長に伴う雇用強度を最大化する,(3)より衡平で持続可能な成長を達成するため,不平等の拡大という恒常的な課題に対処する,という観点から,OECDは,各国政府を支援する重要な役割を果たす立場にあることに合意した。グローバルな経済ガバナンスに関し現れつつある新たな制度の中でOECDが効果的な役割を果たすためには,OECDは,「経済見通し」(エコノミック・アウトルック)及び「成長に向けて」に引き続き取り組み,イノベーションを促す構造的措置,地域の競争力,技能開発,長期失業者のための労働市場の改善に係る戦略に対する分析を含める必要がある。
閣僚は,また,全ての国が中期的に財政収支を均衡させるための計画を持つ必要がある一方で(いくつかの国は短期的な財政危機への対応が必要であるが), いくつかの国は,雇用が強力かつ持続可能に増大すること及び雇用状況がより健全になることについて明らかな証拠が現れるまで,継続的な政策支援に裏付けられたより強力な景気回復を支えるための財政的な余力を持っていることを確認した。
閣僚は,雇用創出及び社会的包含が優先事項であることを強調し,雇用及び社会政策の必要性に留意した。特に,積極的労働市場政策並びに若年失業者を含む社会的に不利な集団及び条件不利地域に対する計画が挙げられる。技能の適切な提供を確保し,これらの技能を労働市場で最大限に活用することは,経済成長を押し上げ,社会進歩と包含を促進する鍵となる。特に,女性は未だ十分に活用されていない代表的な資源であり,より多くの,また生産的な形での女性の労働力参加は,成長と貧困削減を促進するであろう。閣僚は,成功事例の特定と普及の枠組みを供給するOECD技能戦略の立ち上げを歓迎した。
強力な知的財産権制度に裏付けられたイノベーションは,未来の産業及び雇用の創出の基礎である。公的政策及び構造改革は,イノベーションと起業へと導き,生産性と成長を刺激する環境を促進することができる。
閣僚は,グリーン成長戦略を歓迎し,将来の作業について指示を与えた。閣僚は,グリーン成長の手法及び指標は,天然資源の持続的利用を通じた経済成長及び雇用創出,エネルギーの利用における効率性及びエコシステムのサービスの評価の拡大に寄与しうることに合意した。閣僚は,強力な知的財産権制度によって裏付けられたイノベーションは,経済成長を達成し,グリーンな雇用を創出し,環境を保護するための国家の能力の鍵となることに留意した。
閣僚は,経済成長,雇用創出及び環境保護はゼロ・サム・ゲームではないということがグリーン成長戦略の礎である,すなわち,環境保護と結びついた天然資源の持続的利用によって,経済を改善させることができるということを認識した。閣僚は,OECDに対し,グリーン成長指標について更に作業に取組むことを慫慂した。閣僚は,グリーン成長はあらゆる発展段階の国で反響をもたらし,また,民間及び公共部門,科学界,女性及び若者等,広範にわたる利害関係者を関与させるべきことを強調した。閣僚は,グリーン成長政策は各国個別の事情や優先課題に応じて検討すべきであって,また,小規模の組織から大企業に至るまでのあらゆる規模の経済主体当てはまるものであるべきことを強調した。教育,技能訓練,知識の共有,イノベーションを通じた能力開発はグリーン成長の実現のために不可欠である。また,グリーン経済への移行のためには,非自発的離職者を保護することが重要である。
閣僚は,OECDジェンダー・イニシアティブ中間報告書を歓迎し,OECDに対し,引き続きこの分野に取り組むことを要請した。また,閣僚は,事務総長に対し,今後の取り組み及び来年の閣僚理事会まで同イニシアティブを完了することを要請した。また,閣僚は,女性の経済的な力の向上は,より強靱で,公正な経済成長のために極めて重要であることを確認した。閣僚は,OECDに対し,意志のある国際機関と既存のジェンダーに関するデータを,より比較可能かつ有用にし,将来のデータ収集のために,共通の指標のリストを特定することを要請した。また,閣僚は,世銀及びUN Women(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)が,2011年11月に韓国の釜山で開催される援助効率に関するハイレベル会合に向けた共同計画に関し,OECDと共に作業したことに支持を示した。
閣僚は,OECD全体における開発に向けた新たな包括的なアプローチを歓迎した。閣僚は,OECDの広範な開発戦略の骨格をとりまとめた「OECD開発戦略の枠組」を承認した。同戦略の目標は,最大多数の国の,より高く,包括的で持続的な成長を達成することである。これは,OECDと関与を望む途上国の間のパートナーシップの深化のみならず,より拡充された協力と,政策の成功と失敗の共有及び相互学習を含む知見の共有により実現される。
閣僚は,この新たなアプローチが,我々の政府が追求するより広範な政策と世界的な開発を促進する願望とが,一貫性を有していることを確保するための戦略を特定することを確認した。それは,OECDの豊富な開発協力の経験に重ねて構築され,南南協力と三角協力を含む途上国間の協力から得られるベストプラクティスが組み込まれることになる。
OECDは,新興国や途上国の需要やニーズがあり,OECDが中核的な能力を有し,他の国際・地域機関やドナーの活動と重複せずに貢献でき,かつ多岐にわたる専門知識を活用しうる分野において,開発に係る活動を強化する。閣僚は,DAC議長及び開発センター理事会議長は,事務総長と緊密に協力し,開発戦略の策定と実施にしかるべく関与すべきであると述べた。
閣僚は,OECDの開発戦略は,次の分野,すなわち(1)革新的で持続的な成長の源,(2)好ましい投資環境整備を含む開発のための国内資源の動員,(3)グッド・ガバナンス,(4)開発のための進捗測定,に焦点をあてるべき旨合意した。多くの途上国において,腐敗,透明性の欠如,及び脆弱な税制は,長期的な成長にとって障害である。閣僚は,より効果的な税制の構築及びオフショア脱税への対処につき支援することになる,OECDの税と開発プログラムの設立を歓迎した。
多くの閣僚は,これらの戦略分野は,農業と食料安全保障の促進によって補完されるべきと示唆した。閣僚は,食品価格の最近の上昇が食料安全保障と経済発展の長期的な課題を浮き彫りにしていることに合意した。世界の農業生産と生産性の増加,及び世界の農業市場と貿易の機能改善が不可欠である。OECDは,パートナー機関と協力して,現在の分野横断的な作業と途上国における経験と知見に基づき,分析と重要な政策的洞察を提供する立場にある。
閣僚は,開発援助は引き続き,貧困削減と開発のための他の資源動員の梃子となるために重要であることを確認した。閣僚は,援助,及びミレニアム開発目標の達成を優先するとのコミットメントを再確認した。
閣僚は,OECDの新たなアプローチは,すべての国と民間組織の間のより広範かつより実質的なパートナーシップの確立,及び2011年11月に韓国の釜山で開催される「援助効果向上に関するハイレベルフォーラム」で明らかになる新しい国際的な開発協力構造の形成に寄与するものであることを認識した。
閣僚は,ガバナンス改革は,経済成長と開発を支える重要な役割を果たしているとの見解を共有した。中東・北アフリカ地域における自由と経済的機会への民衆の要求は,政策形成,公共財政管理及び公共サービスの提供について高い水準を達成する重要性を如実に示している。同地域の一層の繁栄のためには,起業家精神とイノベーションのためのより良い環境を創出する必要がある。閣僚は,OECDに対し,OECDの中東・北アフリカプログラムに基づき,中東・北アフリカ諸国において,政府が腐敗防止対策を策定,実施及び調整し,投資環境を整備することを支援することを目標に,この重要な問題に関する今後の作業のための提案を策定することを求めた。
閣僚は,多国間貿易システムの重要性と,この強固な規則ベースのシステムは,持続的経済成長,開発及び雇用創出の不可欠な源泉であることを再認識した。閣僚は,ドーハ開発アジェンダ(DDA)が直面している困難に関し,深い憂慮を表明し,DDAの結末が今後数十年間の世界貿易の条件を決定することに鑑み,次のステップを深刻に見直す必要があることを強調した。閣僚は,保護主義に対抗することへのコミットメントを新たにするとともに,最近の自然災害を受けて,WTO協定と不整合な措置を講じないことの必要性についての見解を共有した。
閣僚は,喫緊の政治的懸念に対処する時宜を得た努力である貿易と雇用に関する国際協力イニシアティブ(ICITE)を歓迎した。閣僚は,貿易が雇用パターンに影響するメカニズムをより良く理解するというICITEの目的への支援を差し伸べるとともに,広く労働者の間に貿易の恩恵が広がるように策定された政策を特定することが,対話と結論にとって必要であることに合意した。閣僚は,2012年閣僚理事会の際に,ICITEの成果を検討することを期待した。
国内経済におけるサービス部門の重要性にかんがみ,サービス貿易が経済全体に与える経済的恩恵の展望を考慮し,閣僚は,サービス貿易に関する研究を深化し,主要なサービスの提供者,又はそれを目指している重要なセクター・国を網羅したサービス貿易制限指標を作成するOECDの努力を賞賛した。閣僚は,OECD加盟国及び事務局が,関与強化国がこの重要な作業の一旦を担うことを確保し,共に取り組むことを慫慂した。