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「『日本水協力イニシアティブ』及び『水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ』」の評価

1. テーマ:『日本水協力イニシアティブ』及び『水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ』
写真
2. 現地調査国:カンボジア及びインド
3. 評価チーム:
(1)評価主任:山形 辰史
 (アジア経済研究所 新領域研究センター 貧困削減・社会開発研究グループ長・開発スクール教授)
(2)アドバイザー:田中 幸夫
 (東京大学 総括プロジェクト機構 「水の知」(サントリー)総括寄付講座 特任助教)
(3)コンサルタント:
 みずほ情報総研株式会社
4. 調査実施期間:2008年6月~2009年3月

5. 評価方針

(1)目的

 本調査は、日本が水と衛生分野における分野別開発政策として定めた「2つのイニシアティブ」の妥当性・有効性・適切性を全般的に評価することで、今後の日本の水・衛生分野での効果的・効率的な援助の実施に資するための教訓や提言を得ることを目的として行った。

(2)対象・時期

 本調査は、2003年「日本水協力イニシアティブ」及び2006年「水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ」(WASABI)を評価対象とした。また、これら2つのイニシアティブが対象とする水・衛生分野のODAについても評価を行った。評価対象時期は基本的に2000~2007年とした。

(3)方法

 政策の妥当性、結果の有効性、プロセスの適切性の3つの視点から評価を行った。評価にあたっては、文献調査、国内でのインタビュー調査に加え、カンボジアとインドにおける現地調査でインタビュー調査及び資料収集を行った。

6. 評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 2つのイニシアティブの内容は、「総合的・分野横断的なアプローチ」、「民間セクターを含む多様なパートナー・資金源との連携促進」など、国際社会が水と衛生分野について掲げる援助理念・方針と整合的であると評価された。また、「人間の安全保障」を援助の基本理念として掲げ、貧困削減の達成に向けて「水と衛生」を重要課題として掲げる我が国のODA大綱・ODA中期政策とも整合的であると評価された。
 なお、2つのイニシアティブは、既存の援助方針や主要な援助内容を総合的に整理した援助メニューを明示するポジション・ペーパーとして策定されている側面が強く、「イニシアティブ」(initiative)という言葉が含意する新規性や主導性を持っていないことは、(全てのイニシアティブに新規性や主導性が必ずしも期待されているようではないものの)留意点として挙げられる。
 一方、ケース・スタディ国における日本の水関連ODAは、2つのイニシアティブに則っているばかりでなく、両国並びに国際的な貧困削減・開発計画、ひいては日本のODA大綱とも整合的であると評価された。

(2)「結果の有効性」に関する評価

 水と衛生分野における日本のODA供与額(全世界)は、2001年度以降概ね拡大傾向を示しており、WASABIが発表された2006年度には30%台に達した。一方、ODA供与の地域別配分を見ると、水・衛生分野で深刻な開発課題を抱えている地域に対して重点的に投入されているとは言えず、それら地域の途上国に対して支援の比重を高めていくことは、今後の重要な課題と言える。
 水と衛生に係るMDGs指標の変化の方向は、全体的にみれば改善しているが、その広がり(改善している国の割合)や度合い(改善の幅)は必ずしも満足のいく水準ではない。このような指標の変化に日本のODA供与がどの程度貢献しているかを特定することはできないが、ケース・スタディを行ったカンボジアとインドでは日本のODAを活用した有効な個別プロジェクトが行われており、そのことに鑑みると、水分野の日本のODAの有効性について、全体として疑義を差し挟むには至らない。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価

 2つのイニシアティブの策定プロセスに関しては、関係専門家、省庁等の知識を総動員する取組みがなされ、水と衛生に係る協力分野で日本が蓄積してきた経験や知見を幅広く反映する手続が取られたことが高く評価される。また、そのように関係省庁の主体的な関与のもとで策定作業が進められたことから、水・衛生分野でのODAに関する各省庁のコミットメントが強化され、連携体制が構築されたと見られ、この点は、他の分野のODA実施についても適用されうる重要な教訓として評価すべきである。一方、両イニシアティブの構成は、関係省庁の管轄が明らかに見て取れる分野別の視点が強く表れており、分野横断的な支援戦略を構築するためには、さらなる課題が残されている。
 2つのイニシアティブの適用・運用プロセスに関しては、国内及びケース・スタディ国でのヒアリングに依れば、2つのイニシアティブの認知度は一般的に低く、また、具体的な案件の発掘・形成・実施という一連の実務プロセスにおいて、これらのイニシアティブが指針として引用されることはないとのことであった。この点に関連し、現場で展開されている援助がイニシアティブで示される援助理念・方針と乖離しているわけではない一方、2つのイニシアティブにおいて分野横断的な方向性として打ち出されている統合的水資源管理とパートナーシップの実現に向けた推進力が十分に得られているとは言い難いことが指摘できる。
 さらに、ODA実施プロセスの適切性の一つの重要な観点である援助協調については、カンボジアでは政府が積極的なのに対し、インドの中央政府は消極的であるという状況の違いがある中、日本のODAタスクフォースは、カンボジアにおいては他ドナーとの援助協調に積極的に貢献する一方、インドにおいてはインド政府との密接な連携に専心するというように、両国それぞれの状況に応じた最大限の努力がなされていると評価された。

7. 提言

(1)水分野を日本のODAの重点分野の一つとして検討すること

 水分野、中でも都市給水並びに浄水は、金額がかさむこともあってか、多くのドナーが取り組んでいる分野ではない。一方、日本は、二国間ドナーの中では世界の水分野の協力に関して、大きな存在感を既に示している。これまでに手がけた都市上下水道、治水等の社会関連資本は多く、それらのアフターケアが期待されることも自然である。融資の返済が長きにわたることから、長期的関与が必要とされる。言い換えれば、それだけの深い関与(commitment)を既に行ったこと自体に「資産」としての意味がある。すなわち、(1)社会関連資本(インフラストラクチュア)建設と融資を組み合わせた協力パターンに関する優位性、(2)過去既に多額の投入を行った経緯、という2点から、日本には水分野の国際協力に強みがある。
 一方、開発途上国の側には、給水、浄水、灌漑、治水等に関して、依然として大きいニーズがあることは今回の現地調査を待つまでもなく明らかである。このように日本の水分野ODAには、大きな要請があるうえに、日本側に支援のための十分な用意・能力がある。したがって、日本が今後も、水分野への国際協力を重点分野の一つとする意義がある。

(2)日本の地方自治体連携型水分野支援を再検討すること

 日本では、都市上下水道事業を地方自治体が担っており、その経験を国際協力に活用するため、開発途上国の都市上下水道プロジェクトに融資する際、地方自治体の給水・浄水専門家を同時に派遣したり、同プロジェクトに関わる現地関係者に対して研修を施したり、さらには関連機材を供与するなどして、融資・技術協力・贈与をセットにした支援を行ってきた。この方法は、日本が自国で進めてきたやり方を移転し、日本の経験を活かすことができるという意味で、これまでは非常に有意義であった。
 ところが現在では、地方自治体における構造改革を背景に、これまで日本が採用していた地方自治体の人的・知的資源中心の協力が維持しにくくなってきた。
 一方、ケース・スタディ国でも見られたとおり、開発途上国の都市上下水道分野においては民間部門の進出が顕著であり、世界的に見ても特に都市上下水道事業に関しては民間連携を進める傾向が見られる。
 この現状を踏まえると、2つの対策が重要である。その第1は、これまで都市上下水道分野における日本の国際協力の強みが地方自治体との連携にあったことを踏まえ、今後も引き続き、協力に応じる地方自治体の数の拡大および専門家の募集・養成に努めることである。
 第2の対策は、地方自治体に加え、民間部門との連携の可能性も検討するため、他ドナーがどのような民間団体・企業と協力しているか、他ドナーが民間部門と連携する方式は現在の日本の地方自治体中心の連携方式と比べてどのような長所・短所があるのか、さらには日本の民間団体・企業の中には水部門に関して専門的知識・技術・経験を持つところがあるのかどうか、といったような点について、調査・検討を行うことである。これは、一足飛びに「他ドナーが現在実施している民間連携と同じ形を日本も採用せよ」と言うものではないが、調査・検討の結果、様々な連携を模索、試行錯誤する中で、日本政府・援助機関・地方自治体・企業が新しい連携のあり方を探ることもできよう。その先に、地方自治体との連携を超えた、新しい日本の水支援の定型が生まれるかもしれない。そのような中期的ゴールを見据えて、今の段階で、他ドナーの民間連携のあり方を調査・検討すべきである。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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