1.評価対象
(1)対象国(地域)・分野
ベトナム社会主義共和国(紅河デルタ地域)・運輸交通分野
(2)評価を行うにあたって参考とした主な案件
1994~2004年までの期間内に実施された日本のODAプロジェクト25事業(円借款13事業、無償資金協力2事業、技術協力プロジェクト2事業、開発調査8事業) |
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2.評価実施者
(ベトナム政府評価チーム)
Dr. Ho Quang Minh 計画投資省対外経済局局長
Mr. Cao Manh Cuong 同省対外経済局課長
Mr. Pham Hung Vinh 同省対外経済局上級事務官
Mr. Cao Thanh Phu 同省対外経済局専門官
Mr. Do Duc Tu 同省インフラ局専門官
Mr. Trinh Duc Trong 同省インフラ局専門官
Ms. Nguyen Thanh Hanh 運輸省計画投資局課長
(日本政府評価チーム)
松永 大介 在ベトナム日本大使館公使
岡田 智幸 在ベトナム日本大使館一等書記官
鈴木 康久 外務省経済協力局課長補佐
椎原 猛 外務省経済協力局外務事務官
宮崎 慶司 コンサルタント(OPMAC)
沼田 道正 コンサルタント(OPMAC)
Ms. Nguyen Song Anh コンサルタント
Mr. Mai The Cuong ハノイ国民経済大学講師
Ms. Phuong Nguyen Minh ハノイ貿易大学講師
Dr. Doan Thi Phin ベトナム交通開発戦略研究所副所長 |
3.調査実施期間:2005年7月~2006年2月 |
4.評価の目的
a. ベトナム紅河デルタ地域の運輸交通部門における日本のODAプログラムに関する合同評価調査を計画し実施すること
b. ベトナム側カウンターパートが合同評価調査への参画を通じてODAプログラム評価についての理解を促進させること |
5.評価結果
(1) 合同評価の方法論・前提条件
合同評価を行うにあたっては、JICAによって1994年に実施された「ベトナム北部地域交通システム整備計画マスタープラン調査」に基づく擬似プログラムを評価対象として定義し、この擬似プログラムを「紅河デルタ地域運輸交通インフラ開発プログラム」と便宜的に命名した。この「紅河デルタ地域運輸交通インフラ開発プログラム」は、1994年から2004年までの期間内に実施された我が国ODAプロジェクト群25事業である。対象サブ・セクターは道路、鉄道、海運・港湾の3つに限定することとした。
同時に、上記我が国ODAプロジェクト群と並行して同時期に紅河デルタ地域の運輸交通部門で実施された他の主要援助国・機関(ドナー)のプロジェクトについても参考として、分析対象に含むこととした。
(2) 目的の妥当性
a. 我が国の上位政策との整合性
評価対象プログラムの目的、理念及び方向性と、我が国のODA大綱(1992年版及び2003年版)、中期政策(1999年版及び2005年版)、国別援助方針(1994~1999年)、国別援助計画(2000年版及び2004年版)等との間に整合性があることが確認された。
b. ベトナムのニーズとの整合性
評価対象プログラムの目的、理念及び方向性と、ベトナムの国家開発計画である10ヶ年社会経済開発戦略(1991~2000年版及び2001~2010年版)、5ヶ年計画(第五次:1991~1995年、第六次:1996~2000年、第七次:2001~2005年)、ベトナム版貧困削減戦略文書(CPRGS)、及び全国交通運輸開発戦略(2020年目標)等との間に整合性があることが確認された。
c. 日本のイニシアチブによりベトナムへの支援を行うことの優位性
我が国のODAの優位性として、1)日本は進んだ技術を有する国であり、世界各国における多くの開発事業の経験があること、2)日本は経済大国でかつ優れたODAの体制を有しており、大規模開発事業の実施が可能であること、3)日本のODAはタイムリーであり、現地のニーズに対して直接的に対応していること、4)日本の企業及び専門家は現地カウンターパートに対する技術移転について熱心であること、5)日本の企業及び専門家は、専門性があり、効率的な業務の進め方を行うこと、などが明らかになった。
d. 主要他ドナーの援助方針・プログラムとの比較
他の主要ドナーの援助政策や同計画の基本目標は、一般に共通しており、貧困削減と持続可能な経済成長の確保であり、この意味で我が国の援助方針と基本的に合致しており、計画内容が補完的であることが確認できた。
(3) 結果の有効性及びインパクト
a. プログラムの目的の達成度
<道路サブ・セクター>
国道1号線、5号線、10号線、18号線における交通量は概して安定して増加し、走行時間も短縮した。ベトナム北部地方における道路舗装率(全種類の道路)は1995年の25.4%から2003年には54.0%まで改善し、当初目標であった40~50%(目標年2010年)を既に達成し、紅河デルタ地域における土地面積に対する道路密度は、2004年では1.16km/km2となり、全国平均を大きく上回った。道路アクセス度においても紅河デルタ地域では、集落から一番近い道路までの距離が全国で最も短く、紅河デルタ地域は、ベトナム国内でも最も道路網が発達している地域となった。
<鉄道サブ・セクター>
プログラムの主要対象区間であるハノイ-ホーチミン線における旅客輸送量(人・km)は1994年~2004年の期間で年平均9.8%の増加率であり、国内主要5鉄道区間中、最も高かった。ハノイ-ホーチミン線における貨物輸送量(ton・km)は同期間中年平均5.6%の増加率であり、主要5区間中、最も低かった。一方、各区間における鉄道本数の増加、及び走行時間は短縮した。
<海運・港湾サブ・セクター>
ハイフォン港及びクゥアンニン港(カイラン港はクゥアンニン港に含まれる)の貨物取扱量は劇的に増加した。コンテナ化率についても、ハイフォン港は第I期工事が2001年に完成し、1994年の23%から2004年には46%と増加した。またクゥアンニン港(カイラン港)も2004年からコンテナーターミナルが稼動を開始し、2000年の4%から2004年の30%へと急激に向上した。
<主要他ドナーによる貢献>
道路サブ・セクターについては、日本とともに、世界銀行、アジア開発銀行、フランス、英国が道路交通インフラ開発に主要な役割を果たした。鉄道サブ・セクターについては、ドイツ及びフランスが機関車や通信システム、維持管理施設などへの支援、ベトナム国鉄の組織改革への支援等も行っており、両国の貢献度は非常に高い。海運・港湾サブ・セクターについては、フランス及びドイツの貢献は限られている。
<総合評価>
プログラムは3つのサブ・セクターにおいて大きな改善をもたらした。特に道路交通と海運・港湾の発達は、陸と海における異なる交通手段の結びつきを促進し、さらに各サブ・セクターにおける活動の拡大と、地域経済活動の活発化をもたらした。プログラムは紅河デルタ地域における新しい交通システムの構築に大きく貢献した。一方で、上記の結果の有効性に将来的に悪影響をもたらす恐れのある課題として、施設の維持管理問題、特に道路・橋梁の維持管理問題が認められた。
b. プログラムの財務的貢献
主要ドナーのなかで日本はトップ・ドナーであり、ベトナム運輸交通部門に対して1993年から2005年の期間、29億ドルのODA(承諾額ベース)を供与している。これは同部門へのODA総額の52%であり、日本の対ベトナムODA総額の35%にあたる。うち紅河デルタ地域の運輸交通部門向け日本のODAは19.5億ドルを超え、全ベトナム運輸交通部門向けの日本のODAの66.7%にあたる。また紅河デルタ地域の運輸交通部門向けの我が国ODAの約80%は道路サブ・セクター向けであった。
c. 経済開発へのインパクト
評価対象プログラムは紅河デルタ地域の経済成長と貧困削減の促進に寄与したことが認められた。また、経済成長は市場経済化移行における主要指標のひとつである民間部門の成長促進にとって重要な要因のひとつであることを考えると、プログラムはベトナムの市場経済化の促進そのものを直接的に支援するものではないものの、間接的にポジティブなインパクトをもたらす要因のひとつであったと考えられる。ベトナムの南北間の地域経済格差の縮小へのインパクトについては、それを示すエビデンスは得られなかった。この説明としては南部における経済成長率が北部のそれよりもはやかったことがあげられる。むしろ南北間の経済格差を拡大しなかったことにプログラムは積極的な役割を果たしていると評価できる。経済成長と経済成長率には複数の貢献要因があり、南北間の経済格差を拡大するネガティブな要因も同時に存在すると思われる。さらに、紅河デルタ地域と中国間の貿易・経済活動の活発化に対するインパクトに関しては、ベトナムにおける交通網の改善は中国に限らず海外直接投資(FDI)を呼び込む決定的な要因のひとつであることには疑う余地はない。しかし交通網の改善の他にも、中国からの投資に影響を与えるいくつかの要因、例えば資本能力、地理的条件、人口、中国政府のFDI政策などなども重要であると思われる。
d. ベトナム側カウンターパートに対するキャパシティ・ビルディングへのインパクト
本邦コンサルタント企業、コントラクター、及び日本人専門家の評価では、ベトナム人技術者・専門家との共同作業を通じて、彼らの技術スキルやノウハウの向上が行われたことがあげられた。この評価はベトナム側からの回答結果からも確認された。また同じく本邦コンサルタント企業、コントラクター、及び日本人専門家の評価では、ベトナム側ではあまり認識されていなかったものの、ベトナム側カウンターパートの長期的かつ包括的な計画及び管理スキル、ノウハウの向上が認められた。プロジェクトの実施を通じた日本側からベトナム側への教育、訓練、OJTなどは、ベトナム人技術者・専門家に対して、一定の技術面の向上のみならず、仕事上のモラル、仕事への責任感などの職業倫理などの面においても彼らに良いインパクトをもたらしていることが明らかになった。この結果は、日本側のみならず及びベトナム側の努力によるところも大きい。
e. 社会面及び環境面へのインパクト
自動車登録台数の増加や交通量の増大につれて、ベトナムにおける死傷者を含む交通事故件数は1994年から2001年の間、急速に増加した。2002年以降の交通事故件数は減少傾向にあるものの、交通事故死亡者数は増え続けている。紅河デルタ地域及びメコンデルタ地域が最も負傷者事故件数が高く、なかでもハノイ及びホーチミンに集中している。運輸交通部門における全交通事故のうち、鉄道事故は道路に比べて件数的には低いが、近年、増加傾向にある。事故原因の半数は列車機材の老朽化によるものである。海運事故の絶対的件数は比較的少なく、年平均100件であるが、近年10~15%の割合で増加している。
紅河デルタ地域における環境及びジェンダーに係わるインパクトに関する包括的な調査研究はいまだ実施されておらず、十分な既存情報もないため、今回の評価調査において実証的に示すことは困難であった。
(4) 計画・実施プロセスの適切性
a. 計画プロセスの実施体制及びニーズアセスメントの適切性
調査の結果、プログラムの計画・実施プロセスには、日越両国の主要機関(日本側は日本大使館、外務省、JICA、JBICなど、ベトナム側は計画投資省を中心とする関係機関)が適切に関与し、決められた手続き、意思決定、協調・連携、ニーズアセスメントが適切に行われたことを確認した。
b. 我が国ODAスキーム間及び主要他ドナーの援助方針、プログラムとの連携
プログラムでは、25プロジェクトにおいて14件のODAスキーム連携事例があった。その他にも無償資金協力と技術協力プロジェクトとの連携(道路建設技術者養成計画)、開発調査と技術協力プロジェクトとの連携(高等海事教育向上計画)などでスキーム間の連携事例があった。
プログラムと主要他ドナー間の連携については、世界銀行、アジア開発銀行、英国が関与した国道1号線のリハビリについての事例があった。また、国道5号線および国道18号線に関しては、それぞれ台湾、韓国との間で部分的な事業連携が見られた。またドナー間の連携は、運輸交通部門における各ドナー間の優先サブ・セクターの選別においても行われており、道路、鉄道、海運・港湾の3つのサブ・セクターの開発を、まんべんなく主要な二国間ドナー及び多国間ドナーが支える関係がみられた。加えてセクター別及び課題別に設けられているパートナーシップ・グループ・ミーティングも、ドナー間連携において重要な役割を果たしていることが確認された。
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6.提言
(1)ベトナム運輸交通部門への開発援助戦略としては、これまでの実績から、今後も同様に選択と集中 方式を継続することが望ましい。
但し、ベトナム全国において、道路補修維持管理費の増加、交通事故の増加などが顕著であり、事態の重大性に鑑み、これらの問題を優先事項として取り組むことを提言する。交通事故対策としては、現在JICAがハノイ交通安全人材育成プロジェクトを実施しているが、全国的な交通安全マスタープランの作成が求められている。
(2)日本のODA事業のうちの人材開発については、実施面で次の提案がある。
a) 円借款プロジェクトにおいて、人材育成コンポーネントを強化する。またJICA-JBICの連携(JICAによる円借款プロジェクトへの専門家派遣)の維持・強化も重要である。その際の実施経費及び人材の確保が必要となる。
b) 職業訓練的なJICA技術協力プロジェクトでは、実務的な能力開発のニーズが高まっていることからカリキュラムの中で理論講義部分との調整の上、実習や実務時間を増やすこと。
c) JICA開発調査に関してカウンターパート研修の一層効果的な活用を検討すべきである。その際の研修内容として、専門的な技術移転のみならず、一般的な調査技術や運営管理のノウハウなどを対象とすることにより、より総合的な協力効果が得られるものと考えられる。
(3)運輸交通部門では、長期にわたり、広範囲の日本のODAの中で異なる援助形態間の連携が行われて、成功している。これまでの個別プロジェクト中心の援助から、今後はプログラム単位での援助が重要となるため、このような連携の継続が求められる。
(4)同様にして国際協調・協力においても成果をあげている。ドナーとベトナム政府が共同で開催している、パートナーシップ・グループ等を活用して、今後とも国際協調を積極的に推進することが求められる。
(5)現在のベトナム開発援助優先分野への協力が長期にわたって継続したことの効果に鑑み、両国政府が一定の成果を得たと判断し、合意するに至る適切な時期まで継続して維持することが求められる。
(6)評価技術移転に関しては、限られた資金、人材、時間を有効に利用して、最大の効果を得るため、ベトナム政府職員、現地コンサルタント等について、それぞれのニーズにあった技術移転を実施する必要がある。
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