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「保健分野における日米パートナーシップ」に関するUSAIDとの合同評価
(プログラム・レベル評価)

1.テーマ:「保健分野における日米パートナーシップ」に関するUSAIDとの合同評価(ザンビアを事例として)
2.調査対象国:ザンビア
3.評価チーム:
(1)USAID
 Adam Slote グローバル・ヘルス局
 Janean Martin グローバス・ヘルス局
 西村 恵美子 日米連携アドバイザー
(2)外務省
 飯塚 裕一  国際協力局評価室 上席専門官
 椎原 猛 国際協力局評価室(~2007年8月)
 守屋 綾 国際協力局評価室(2007年8月~)
 多久島 容子 国際協力局多国間協力課
 地引 英理子 国際協力局多国間協力課
(3)コンサルタント
 株式会社ティーエーネットワーキング
4.調査実施期間:2007年8月~2008年3月

5.評価方針

(1)目的・対象・時期

 評価の目的は、以下のとおりである。

イ 2002年から現在までのザンビアの保健分野における日米協調の活動を検証する。
ロ ザンビアにおける日米協調活動の利点と課題について調査する。
ハ ザンビアにおける日米パートナーシップを成功へと導く重要な要素を明確にする。
ニ ザンビアにおける日米パートナーシップの教訓と提言について検討する。
ホ 評価の結果を今後の保健分野の日米パートナーシップ全体への検証に活用する。

(2)方法

 日米合同評価チームは、文献調査・分析やインタビューによって、日米連携の活動や成果を調査し、以下の4つのレベルに分類してパートナーシップを評価した。

イ 政策レベル:援助効率を上げる政策立案や政策提言について
ロ 現地調整レベル:ザンビア政府による会合等を通じた連携について
ハ 戦略的計画レベル:戦略計画の設計や形成を通じた連携について
ニ プロジェクトレベル:プロジェクトの合同計画や合同実施について

6.評価結果

(1)日米連携活動の形態

 2002年から2006年にザンビアの保健医療セクターで日米が連携した活動には、「日米共同の計画と実施」、「日米間の調整された計画と実施」及び「日米の補完的計画と実施」の3つの形態がある。それぞれの形態における事例は以下のとおりである。

イ 日米共同の計画と実施: 「国境におけるHIV/AIDS及び性感染症(STI: sexually transmitted infections)啓発活動(COH: Corridors of Hope)」プロジェクト
 COHプロジェクトは、ザンビア全国の国境地域におけるHIV/AIDS及び性感染症のハイリスクグループを対象に、アウトリーチ(教育普及・啓発活動)やピアエデュケーション(性の健康教育)を通じた対象グループの行動の変容、避妊具のソーシャルマーケティングによる配布及びSTI治療や自発的カウンセリング・テスト(VCT: voluntary counselling and testing)サービスの質の向上のための活動を行った。プロジェクトをリードしたのはUSAIDの実施パートナーであるFHI(Family Health International)であり、これらに対してJICAはSTI治療薬の供与や専門家の派遣を行った。プロジェクト実施の結果、ハイリスクグループである性産業従事者及びそのパートナー(長距離トラック運転手等)において、STI感染率の低下、STIやHIV/AIDSの知識の向上及びVCTへのアクセスの増加が認められた。

ロ 日米間の調整された計画と実施: HIV/AIDS及び結核検査ネットワーク支援
 JICAの「HIV/AIDS検査ネットワーク強化プロジェクト」がザンビアの最高検査機能を有するUTH(University Teaching Hospital)検査部から徐々に県立病院の検査部へネットワークを広げる一方で、USAIDのZPCT(Zambia HIV/AIDS Prevention, Care and Treatment)プロジェクトや米国疫学防災センター(CDC: Centers for Disease Control)の活動は、地区レベルへの協力を全国規模で行うことを通して、地区レベルの検査サービスの結果を、県や中央レベルで疫学管理し、またより精密な検査のために県や中央の研究所へ再検査を依頼できるよう紹介等を行う保健システムの強化へとつなげることを可能としている。したがって、日米双方のプロジェクトは、地区レベルから中央レベルまでのザンビアの包括的検査システムの強化という包括的なプログラムへと発展していくことができる。

ハ 日米の補完的計画と実施:長期残効型蚊帳(LLIN:Long lasting insecticide treated nets)の供与
 日本の無償資金協力案件「マラリア対策計画」によって供与される蚊帳LLINは、USAIDの実施パートナーであるSFH(Society for Family Health)のソーシャル・マーケティング・システムによって計画対象である5歳未満の子どもや妊産婦のいる家庭へ配布される計画である。これは、日米の比較優位性を活用した補完的な連携活動である。

(2)日米パートナーシップの利点と課題

イ 政策レベルでは、日米各々が提言する保健分野の開発イニシアティブに共通した課題が多く、パートナーシップによってこれらの政策提言はより強力なものとなり得る。また、本パートナーシップはパリ宣言の援助協調の方針に則ったものであることから、日米双方にとって非常に意義深いものである。一方で、日米各々の本国関係省庁と現地実施機関間の調整や日米各々の援助環境(政策)の変化等により、パートナーシップの促進が困難となる場合もある。

ロ ドナー協調レベルでは、ザンビアでのドナー協調は活発であり、日米間だけでなく他ドナー間とも協調の機会は豊富にある一方で、日米パートナーシップが全体のドナー間協調に逆行するものと誤認される可能性もあることから、留意が必要である。

ハ 日米の戦略的協調のための計画レベルでは、日米パートナーシップは、インパクトを増長し、ギャップを埋め、また優先性に沿った投入を検討する等の利点が挙げられる。しかし、積極的な連携計画立案の動きは乏しい。

ニ プロジェクトレベルでは、より包括的なプログラム化、比較優位性の活用、アウトカムの増大、コスト削減など、実際に日米パートナーシップの利点が認められた。一方で、日米連携は単に供与規模の拡大ではなく、双方の優位性を活用したインパクトの増大であることを、カウンターパートや実施パートナーをも含んだ現地関係者が明確に認識するためのツールや場が必要である。

(3)その他

 上記の他、日米パートナーシップに関しては、認知度の低さ、ダイナミックな日米の援助環境の変化及びドナー全体の援助協調における二国間協力フレームワークの欠如等が判明した。

7.提言

(1) ザンビアにおける二国間パートナーシップの戦略的妥当性の限界

 ザンビアのように、合同戦略の枠組み(JASZ: Joint Assistance Strategy for Zambia)が確立され、援助協調が進んでいる国においては、日米パートナーシップのような二国間連携は、パートナー国側あるいはドナー側にとっても戦略的な妥当性は低い。

(2) 日米コミットメントの改定

 現時点の日米パートナーシップの枠組みは、活動計画、期待する成果、成果測定方法等が明確でないため、これによって効果を測定することは困難である。この枠組みを整理・検討することによって、パートナーシップの開発パートナーへのコミットメントや日米各々のパートナーシップに対するコミットメントが明確となる。
 パートナーシップの枠組みを策定するにあたっては、日米連携は単に供与規模の拡大ではなく、双方の優位性を活用したインパクトの増大であることを明確にし、これを広くプロジェクトレベルで現地関係者(日本側では専門家やそのカウンターパート、カウンターパート機関、並びに米国側ではUSAID実施パートナー機関や他の米国援助機関を含む)が認識し、実施機関(日本側では在外公館やJICA事務所、米国側のUSAID国別ミッション)においては、連携のために柔軟に対応する姿勢が重要である。

(3) 日米パートナーシップの効果測定のための新たな評価の実施

 本評価を通じて、ザンビアには日米連携活動の潜在的な機会が豊富にあり、連携のインパクトもより増大する可能性があることが確認された。
 日米パートナーシップのより多くの事例についてさらにその効果を測定し、その上でパートナーシップによるインパクトの増大を確認するためには、今回のザンビアに続いて、他国について新たな評価を実施することが望ましい。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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