広報・資料 報告書・資料

「日本の津波支援」の評価
(重点課題別評価)

1. テーマ: 「日本の津波支援」の評価
写真
2. 調査対象国:スリランカ、モルディブ、インドネシア
  現地調査国:スリランカ、モルディブ、インドネシア
3. 評価チーム:
(1)評価主任:牟田 博光
 (東京工業大学 理事・副学長)
(2)アドバイザー:源 由理子
 (明治大学大学院ガバナンス研究科 准教授)
(3)コンサルタント:財団法人 国際開発センター
4. 調査実施期間:2008年6月~2009年3月

5. 評価方針

(1) 目的

 わが国は、自らの過去の災害経験から培われた優れた知識や技術に基づき、緊急支援とならんで防災及び災害復興分野の重要性を強く認識して、積極的な国際協力を行っている。
 2004年12月にインドネシアのスマトラ島沖で発生した大地震と、それに伴う大規模な津波により、インド洋沿岸諸国は未曾有の被害を受けた。これに対しわが国は、緊急支援措置として表明した5億ドルの無償支援のうち、2億5千万ドル相当については、二国間無償資金協力(ノンプロジェクト無償)としてインドネシアに146億円、スリランカに80億円、モルディブに20億円を供与することを決定し、2005年1月に全額の拠出を完了した。また、2006年7月のジャワ島南西沖地震・津波災害等、インドネシアで立て続けに発生した災害に対しても、わが国は緊急援助物資の供与をはじめとする各種支援を実施した。
 本評価調査の目的は、津波被害に対するわが国の支援にかかる政策の妥当性、結果の有効性、及びプロセスの適切性を総合的に検証することにより、これまでの支援の成果を確認し、今後わが国が効率的・効果的な災害支援を実施するための教訓や提言を得ることである。また、評価結果の公表により国民に対して説明責任を果たすと共に、関係国政府関係者や他ドナー等に対して評価結果をフィードバックすることによりわが国ODAの広報に役立てることも目的としている。

(2)対象・時期

 2004年12月のスマトラ沖大地震及びインド洋津波被害を受けたインド洋沿岸諸国へのわが国の支援を本評価の対象とする。本評価調査の分析が取り扱う範囲は、二国間の無償・有償資金協力並びに緊急援助を含む技術協力に加えて、当該災害発生に際して同時に行われた国際機関を通じた支援である。

(3)方法

 本評価分析においては、まず支援実績を含む政策目標を整理した上で、「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の各視点から検証し、教訓を抽出すると共に提言を行った。実施手順としては、評価の実施計画策定、国内情報収集、現地調査を経て、収集情報を分析し報告書を作成した。

6. 評価結果

(1)政策の妥当性

 津波支援開始当時、災害緊急復旧支援に関する上位政策と位置付けられる政府文書は策定されていなかった。従って、ここでは、ODA大綱に照らし、津波支援が整合性を有していたか否かを確認した。その結果、津波支援はODA大綱の目的、基本方針、重点課題、重点地域、またODA大綱に定められた援助実施の原則、援助政策の立案及び実施の在り方と整合したものであった。
 各被災国の支援ニーズとの整合性を見ると、相手国側からの評価も高く、総じて整合性の高い支援であった。これには、日本の津波支援の二国間援助の部分において、その中心的な支援スキームをノンプロジェクト無償としたことにより、資金の供与後に相手国政府の支援ニーズに沿って現地で支援案件を形成することができたことが大きく貢献したものと考えられる。ただし、一部には、特に日本国内における災害支援とのバランスを考慮すると、過大な支援と考えられる事業も含まれた。

(2)結果の有効性

 津波支援の主な受入国であるインドネシア、スリランカ、モルディブの各国別に検証した。
 インドネシアに対する日本の支援は、緊急救援期においては、迅速性があり、プレゼンスも高く総じて有効であった。また、復旧復興期においても、日本の支援は、復旧復興支援という支援目的に合致した支援であり、ノンプロジェクト無償の長所を最大限に引き出した効果的な支援であった。ただし、ドナーによる支援全体の規模と比較した場合にはその量的貢献度は大きいとは言えない。また、多くの支援は、必要性・有用性のある内容となっているが、一部には、他の支援事業との連携上の課題や、実質的な使用頻度の面で、有効性(実効性)が現時点では十分に高いとは評価できない支援案件も含まれた。また、顔の見える援助という面からは、十分とは言えない面があった。
 スリランカに対する日本の支援は、緊急救援期においては、迅速性が高く、大きなプレゼンスがあった。また、復旧復興期においては、同国の復旧復興事業に重要な役割を果たすとともに、単なる復旧にとどまらず「開発」目的の支援の要素も付加しており、ノンプロジェクト無償の長所を最大限に引き出した効果的な支援であった。日本による支援は量的貢献度も比較的大きく、必要性・有用性のみならず有効性(実効性)も高い。顔の見える援助という面からは、日本の支援は抑制的であったもののおおむね適切であり、シンボル的な案件の形成、広報活動などの面で改善の余地があった。
 モルディブに対する日本の支援は、緊急救援期においては、迅速性、プレゼンス共に高く、また、復旧復興期における支援は概して復旧復興支援という目的に合致しており有効であった。更に、支援対象地域の住民にはよく認知されている。
 国際金融機関への日本の信託基金を通じた支援については、機関及び対象国によってばらつきがあるものの、インドネシアにおけるアジア開発銀行の貧困削減日本基金(JFPR)プロジェクトの中には中止や活動の遅れに直面した案件があり、結果は必ずしも良好でない。その他のJFPR及び世界銀行の日本社会開発基金(JSDF)案件については、有効性という観点からはおおむね肯定的な評価をすることができる。

(3)プロセスの適切性

 インドネシアにおける日本の津波支援のプロセスはおおむね迅速かつ的確に管理・実施された。未曾有の大災害下でインドネシア中央及び州政府の行政・調整能力の低下など困難な状況に直面する中で、日本は、いち早く対応を開始し、緊急救援期にも迅速かつ的確な対応を行うとともに、復旧復興期に先駆けて、ノンプロジェクト無償を前提として146億円という支援額を表明し、明確な支援予算額を前提とした支援内容協議を行った。ノンプロジェクト無償の採用により、案件準備期間も大幅に短縮させた。一方、大規模なノンプロジェクト無償を実施し施設建設を含むプロジェクト型の案件を実施する上では、案件形成機能が不可欠となるが、日本側調達代理機関は本来的にプロジェクト型の案件の調査形成機能を十分に有していない面がある。JICAの緊急開発調査の活用を含め、案件形成機能の強化が必要である。
 スリランカにおける日本の津波支援プロセスはおおむね迅速かつ適切に管理・実施されたと評価できる。日本は早いうちから現地ODAタスクフォースの主導により、緊急期から長期的な復興開発に至るまでを全体的に見渡した上で、スリランカ政府のオーナーシップを尊重しながら支援を進めた。日本はいち早く80億円という支援額を明確にしたことや、ノンプロジェクト無償スキームを採用したこと、またJICAの緊急開発調査を戦略的に活用することにより、案件の準備期間を大幅に短縮することができた。
 一方、施設建設を行う場合には、その支援の目的を明確にした上で、被災前と比較してどの程度までのアップグレードを日本の支援として許容するのかといった何らかの基準をあらかじめ明確にした上で、相手国側と共有し設計・実施プロセスに反映させることが、今後の検討課題として考えられる。
 モルディブについては、復旧復興支援の初動の対応では出遅れた感があったものの、「ノンプロジェクト無償運営管理委員会」により迅速に支援を実施した点は評価できる。他方、同委員会による現地主導の支援決定プロセスは、一部の案件で津波被害からの復旧復興支援の域を超えた支援の実施につながった側面は否定できず、今後同様な災害が発生した際の案件実施プロセスの在り方は検討課題である。
 国際金融機関への日本の信託基金を通じた支援については、JFPRのプロジェクト形成には改善の余地がある。形成プロセスをより現地主導で実施することが重要である。また、実施の容易さを意識したシンプルな内容のプロジェクトを形成することも重要と考えられる。

7. 提言

(1)災害緊急復旧支援の目的の明確化と共有

 災害緊急復旧支援の目的についての議論を関係者が進めるとともに、それをある程度明確化しておく必要がある。特に本津波災害のように被災国が多数にのぼる広域・大規模災害に対して今後日本が支援を検討する際に、その災害支援が目指す到達点についての大まかな共通認識を関係者が有していることが望ましい。

(2)日本と災害当事国との関係、相手国の援助吸収能力に応じた支援規模に関する基準設定

 被災規模のみならず、日本と災害当事国との関係、相手国の援助吸収能力などを考慮した災害緊急復旧支援の規模に関する基準を設定する。ただし、基準を絶対的な制限として定めることは現実的ではなく、個々のケースに応じた柔軟な運用を行うことが重要である。

(3)住宅支援を含む個人資産支援の可能性の再検討

 日本として住宅支援を含む個人資産支援を実施する可能性を再検討するべきである。ダメージアセスメントの結果や諸ドナーの支援動向を踏まえると、個人に援助物資等を提供することから生じるリスクは認識しつつも、災害という特殊状況において正に中心的な支援ニーズとなる住宅支援を含む個人資産支援を日本として実施する可能性の余地を再検討することが重要である。

(4)現地日本大使館を中心とした当該災害緊急復旧支援に特化したタスクチームの設置

 災害支援に際しては、現地の日本大使館を中心として当該災害への支援を目的としたタスクチームを臨時設置し、JICSなどを含む関係機関からそれぞれ派遣された人材を一定期間専任のメンバーとするなどの対応を検討するべきである。日本側の調整と命令系統を簡素化することによって、より迅速かつ効果的な支援につなげることがその目的である。

(5)災害緊急復旧支援におけるノンプロジェクト無償及び円借款の活用の在り方の検討

 災害緊急復旧支援におけるノンプロジェクト無償および円借款の活用の在り方を検討しておくことが必要である。特に災害規模が大きく支援が長期にわたる場合のノンプロジェクト無償資金協力の活用については、被災地域における支援ニーズの変化に対応した無駄がない有効かつ効率的な支援実施を担保するという観点から、資金の分割供与の可能性等について検討することが望ましい。

(6)災害緊急復旧支援における広報の強化

 災害緊急復旧支援における広報を、支援内容・活動実績・効果の公表を通じた説明責任の確保と相互理解の促進、広報・報道のプロフェッショナルの巻き込みとメディアの活用、支援内容の説明における分かり易さの工夫、目的・内容が簡明な案件の形成努力の観点から強化する。

(7)日本信託基金を用いた支援の改善

 日本信託基金を用いた支援に関し、現地主導による案件形成の促進、案件承認手続きの簡素化・迅速化と手続きにおけるルールの公表、現地ベースの実施監理の強化、案件モニタリング結果のフィードバックと共有のためのメカニズムの構築を通じて、現地のリアルニーズに合致した支援の迅速で確実な実施と支援結果の有効活用につなげる。

(8)災害緊急復旧支援ガイドラインの設定

 上記の提言の内容を踏まえて、災害緊急復旧支援の在り方に関し検討しガイドラインを設定する。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

このページのトップへ戻る
目次へ戻る