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タイ保健分野評価(NGO・外務省合同評価)

1.テーマ:タイ保健分野評価

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2.調査対象国:タイ
3.評価者他:
 本件評価調査はNGO側、外務省側双方の評価者が、実務コンサルタントの補助を受けながら実施した。
(1)NGO
 古沢 広祐 * (特活)国際協力NGOセンター理事
 山崎 眞由美 *(特活)名古屋NGOセンター理事
(2)外務省:国際協力局
 吉井 幸夫  評価室上席専門官
 梅沢 千春  評価室
 菊池 美帆子 評価室
 山本 太郎  多国間協力課課長補佐
 大島 寛之 * 多国間協力課(~2006年12月)
 多久島 容子 多国間協力課(2007年1月~)
 仲澤 純   国別開発協力第一課
 岩澤 俊輔  無償資金・技術協力課
(3)コンサルタント:三菱UFJリサーチ&コンサルティング
 岡本 義朗  主席研究員
 荒川 潤 *  主任研究員
 岩名 礼介 * 副主任研究員
 *=現地調査団メンバー
4.調査実施期間:2006年8月2007年3月

5.評価方針

(1)目的
 本評価は、セクター別評価であり、かつNGOとの合同評価であることから、第一に、タイの保健分野への今後の我が国のより効果的・効率的な援助に資するための教訓や提言を得ること、第二に、外務省とNGOとの協力・連携のあり方についての教訓・提言を得ること、そして、第三に、評価結果を公表することで国民への説明責任を果たし、我が国政府開発援助(ODA)に対する国民の理解を促進することを目的とする。

(2)対象・時期
 本評価は、我が国「対タイ国別援助計画」策定(2000年)以降の、我が国のタイ保健分野に対する一連の協力を対象とし、「目的の妥当性」「結果の有効性」、及び同計画の策定と実施に関する「プロセスの適切性」の視点から分析を行った。

(3)方法
 今回の評価は、「ODA 評価ガイドライン(第3版)」(2006年5月)に準拠して、評価対象を目的、結果、プロセスの3つの側面から以下の基準に従って検証した。

(イ)「目的の妥当性」
 我が国のODAに関して、「我が国の上位政策」「相手国の保健分野開発ニーズ」「国際的な優先課題」との整合性や関連性、などの検証を行った。

(ロ)「結果の有効性」
 前述のように、結果の有効性として、当初作成された目標の達成度の検証を行った。具体的には、インプットからアウトプット、そしてアウトカムに至る流れを踏まえた上で、どの程度のインプット及びアウトプットの実績があるのかを検証すると共に、実際にどういう効果が現れて、タイの保健分野における開発課題の解決に貢献したのかを検証した。

(ハ)「プロセスの適切性」
 「対タイ国別援助計画」「対タイ経済協力計画」の策定・改定及びそれを踏まえた保健分野のODAの実施に際して、政策の目的の妥当性や結果の有効性を確保するような、適切かつ効率的なプロセスがとられていたのか検証を行った。

6.評価結果

(1)目的の妥当性

  • 我が国のタイ保健分野におけるODAは、全般的にタイ第9次国家保健医療開発計画と整合している。またタイ側の方針である、新興援助国として周辺国との国際協力を重視する意向にも整合している。さらにタイ側のニーズの変化にも、柔軟に対応している。
  • 我が国のタイ保健分野に対する援助政策は、いずれも、その上位政策である「ODA大綱」「ODA中期政策」及び分野別政策「「保健と開発」イニシアティブ」を踏まえ、これらと整合する形で策定されている。
  • 評価対象期間に実施された我が国の案件は、基本的に、「対タイ国別援助計画」(2000)の重点事項に合致している。また、評価対象期間中の実施案件は、「対タイ経済協力計画」(2006)の援助形態別の要件にも基本的に合致している。そして、「地域協力」に関する実施案件も、同計画に整合している。その中で、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」では政府部門にも多く支援が行われているが、これはタイの状況を踏まえたものであり、計画の趣旨に反するものではないと考える。
  • 今後は、タイ側の更なるニーズ変化(分権に伴う中央・地方双方の重視)への対応のあり方を検討する必要性がある。

(2)結果の有効性

  • 本評価により、現在行われている案件の多くは評価期間以前からの継続性の上に成立していること、協力の中心は能力開発に焦点が絞られてきておりその点がタイ側からも高く評価されていること、さらに人材育成を中心とした協力の対象はカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムを含む周辺地域に拡大しており周辺国からの研修員からも高い評価を得ていること、が確認された。また、HIV/AIDSの予防と治療、感染者・患者への社会的支援というそれぞれの課題について、援助形態毎に我が国の支援が効果的に行われていることも確認した。
  • タイ保健分野に対しては、我が国が量的に最大のドナーであるが、タイ側の自立性の高まりにより、少子高齢化といった新しいテーマを除いては、保健分野での援助のプログラム化は困難であると日本側は認識しており、実態としても「ピンポイント」型の援助が実施されている。

(3)プロセスの適切性

  • 我が国のタイ政府中央レベルとのコミュニケーションが不十分であるとの指摘がタイ側からなされている。また、我が国の方針や案件実績が、タイ中央政府関係者に十分に認識されていないという状況もある。このような状況は、タイ政府が中央レベルでドナーとの密接な関係を構築できていないというタイ政府側の課題である側面が大きいが、同時に、我が国としても改善の余地があると考える。また、日本の活動方針や案件実績についての認知度の低さは、他ドナーやNGOにからも指摘されている。
  • 日本側の大使館と実施機関との連携に関して、特に新規の案件形成に関するコミュニケーション不足が指摘されている。また地域協力案件実施時の各国JICA事務所と大使館のコミュニケーションについて、その強化の必要性が指摘されている。さらに、タイ保健分野への支援に関与する外務省、厚生労働省、実施機関の間の連携強化の必要性も指摘されている。
  • 我が国の案件形成・実施段階での厳格性(綿密な事前設計とその忠実な実施)に対しては、有益であるとの評価と、改善の余地があるとの評価の双方がタイ側にある。そのような厳格性は、案件の円滑な遂行とタイ政府職員の能力開発に結びついている一方で、タイ側の実態的なニーズの変化を柔軟に反映できないケースが指摘されている。

7.提言

(1)中進国に適した重点課題の設定

  • 他ドナーの撤退が進み、日本の保健分野での援助額も減少していく中、「選択と集中」に基づき、真に必要性のある課題に対して効果的な援助を実現するために、「中進国モデル」ともいうべき対タイの協力モデルを構築する必要がある。
  • また、援助の絶対量の減少、あるいはタイからの撤退という点も含め、「中進国モデル」の観点はNGOの活動にも共通している課題である。

(イ)能力開発への戦略的取り組み

  • 近年の日本のタイへの支援の多くは、能力開発に収斂しつつあり、日本の取り組み内容やその継続性についてもタイ側の評価は高い。限られた援助額の中で「選択と集中」に基づき実施案件を選択する中で、日本の強みである能力開発を十分に活かした取り組みを行うべきである。

(ロ)人材育成を目的とした「地域協力」への集中

  • 現在進められている第三国研修や地域協力のほとんどが人材育成に着眼しており、タイ側も地域協力における講師養成研修の有効性を認識していることから、人材育成を中心に地域協力を進めることは今後も有力な方向性といえる。
  • 研修参加国の我が国大使館やJICA事務所が地域協力案件を適切にフォローし、研修参加者の自国での活動を支援するような周辺国での二国間協力を検討しやすくするために、在タイ日本大使館・JICA事務所と周辺国関係者が一層の連携を図ることが期待される。また、二国間協力への展開を想定し、研修そのものを設計するといった視点も検討されるべきであろう。

(ハ)相互発展的なアプローチ

  • 我が国とタイのパートナーとしての関係に留意して、「中進国モデル」を追求した相互発展的な取り組みを検討していくことが有効と思われる。
  • 例えばHIV/AIDS対策では、タイ側に充分なノウハウや経験があり、これから途上国で国際協力に従事しようとする日本の若者の人材育成に活かすという方法も考えられる。我が国「対タイ経済協力計画」には「相互利益」、「共に考え、共に取り組む」ことが協力基本姿勢として謳われているように、タイとの協力関係の中から我が国の取り組みへの示唆を得ることもできる。

(ニ)中進国モデルを具体化するために

  • 対タイ経済協力計画が2006年に改定されたばかりであることを踏まえると、中進国モデルを具体化するためには、a)セクター別の戦略を策定し、b)対タイ経済協力計画の「実行指針」とすること、などが一案である。その場合、外務省と、ODA実施機関及び厚生労働省との連携・協働を密にして、我が国として一体性のある戦略を打ち出すことが重要である。

(2)地方分権化への対応

(イ)中央政府・地方政府双方への協力

  • 今後、タイ中央政府からの効果的な誘導により、一定の普遍性をもって施策を全国展開するためには、まずタイ中央政府の能力向上が求められる。
  • 併せて、地方レベルの保健関連機関の職員に対する直接の能力開発の実施も重要である。

(ロ)草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じたNGOとの協力・協働の強化

  • タイ保健分野での案件全体が減少する中、草の根無償資金協力が我が国ODAの主要な援助形態となっており、その採択プロセスが我が国にとってタイの地方レベルの状況やニーズを把握するアンテナとして機能していることも重要な点である。
  • 草の根・人間の安全保障無償資金協力の長所である、「草の根の住民レベルに直接裨益し、多様なニーズに柔軟かつ迅速に対応できる支援」の有効性を確保しつつ、本援助形態を通じて得られた情報を効果的にJICA事務所やタイ保健省と共有する枠組みを持つことが重要と考える。

(3)実施体制・手法

  • タイ保健分野への援助の有効性を高め、対タイ経済協力計画の理念を実現するためには、日本側の一層の連携強化が望まれる。国内での外務省・厚生労働省・実施機関の間の連携強化、及び現地ODAタスクフォースの枠組みを活かしたコミュニケーション強化が必要である。
  • タイ政府との中央レベルでの「コミュニケーション」を、質・量双方で強化することが重要である。そのためには、継続的な情報交換の場を設けることなどに加え、現地ODAタスクフォースを中心として日常的かつ多層的な対話を実施する工夫が求められる。
  • 日本のタイ保健分野での実績にもかかわらず、日本の取り組みへの他ドナーやNGOなどの認識は一般的に低いことから、より積極的な広報活動、あるいは情報の共有を行うことが重要である。

(4)評価・マネジメントの高度化

  • 案件の途中段階で計画変更などが発生する場合には、タイ側のニーズ及びその変化を踏まえつつ、日本側とタイ側で案件の目的や評価指標を共有することが必要である。
  • タイ保健分野の地域協力・第三国研修では、人材育成が援助案件の中心であり、それが日本の強みと認識されている。その強みを今後一層強化するために、タイ保健分野にとどまらず、特に地域協力での能力開発を適切に評価するための指標を今後も継続して改善していく必要がある。

(5)専門家の質の高度化(効果・プロセス)

  • 保健分野でのタイ側の自立性が向上している状況を踏まえ、現地の状況やニーズを十分に把握した上で日本の経験を適切に加工し現地に貢献する工夫が、これからの専門家にはより一層求められる。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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