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平成14年度タイ国別評価

1.テーマ:タイ国別評価

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2.国名:タイ
3.評価者他:
(評価者)
 黒田康之 (財)国際開発センター 主任研究員
 大久保信一(財)国際開発センター 主任研究員
 細川さわ (財)国際開発センター 研究員
(監修)
 安田 靖 拓殖大学国際開発学部 教授
 長谷川弘 広島修道大学人間環境学部 教授
4.調査実施期間:2002年10月-2003年3月
5. 評価方針:
(1) 目的
a. 今後のより効果的・効率的な対タイ援助政策の策定・実施のための教訓・提言を得ること。
b. 本評価結果を、国民に開示することで説明責任を果たすこと。
(2) 評価の実施要領
 本評価では、1995?99年度の間に協力が開始された援助案件及びプログラムが対タイ国別援助方針等の援助政策の下で行われたものと推定し、目標の体系図の作成や指標の設定を援助政策レベルの視点より行い、分析・評価した。具体的には、主として1995?99年度のタイに対する我が国の援助政策を対象として、以下のように「理論」、「プロセス」、「効果」の3点における評価を行った。
(1) 対タイ援助政策の「理論」に関する評価
 対タイ国別援助計画が、上位政策であるODA大綱及びODA中期政策それぞれと整合性を有するかどうかを検証することによって、対タイ援助政策が妥当な理論的根拠に基づいているかどうかについて評価した。さらに対タイ援助政策はタイの開発計画と整合し、タイが目指す開発の方向性を的確に把握しているかについて評価した。
(2) 対タイ援助政策の「プロセス」に関する評価
 対タイ国別援助計画の策定プロセス及び実施プロセスを評価した。策定プロセスでは、対タイ国別援助計画が十分な情報収集と分析を踏まえ、適切な過程と体制によって策定されたのかどうかについて検証した。実施プロセスでは、同計画が政策として国際協力事業団(JICA)・国際協力銀行(JBIC)の両実施機関の対タイ援助実施方針及び案件選定に反映されているかどうかについて検証した。
(3) 対タイ援助政策の「効果」に関する評価
 対タイ国別援助計画の重点分野毎に関連する指標を用いて効果の評価を試みた。加えて、タイでの現地調査において10の個別実施案件を事例案件として視察し、視察によって得られた見地を上記評価の中に盛り込んだ。
6. 評価結果:
(1) 対タイ援助政策の理論に関する評価
 タイ国別援助計画は、ODA大綱及びODA中期政策の中で謳われている人材育成、教育・保健等社会セクター分野への支援、環境保全を目的とする協力、経済インフラ分野への支援等の精神を特に具現化した内容であると判断された。よって、対タイ国別援助計画は妥当な理論的根拠に基づいたものであると評価した。
 他方、我が国の対タイ国別援助計画とタイの開発計画は、相当の確度で整合する。我が国がタイの自助努力を前提とした開発を後押しすることを眼目に、タイ政府が優先したいと考える開発の分野と要請される案件の傾向に常に注意を払ってきた結果、タイが目指す開発の方向性と我が国が重視する対タイ援助分野双方が互いに収斂されてきた結果であるのだとも言える。
(2) 対タイ援助政策のプロセスに関する評価
 国別援助計画は、外務省経済協力局政策課の国別計画策定室が主導となって作成されている。その策定プロセスは、大使館、JICA、JBICからの情報、タイ政府・現地NGOの意向等を踏まえ幾重にも協議を重ねた上で、国内のNGO・有識者等からのコメント、また大使館で取り纏められた現地関係者からのコメント等が随時取り入れられるなど、大変な作業を積み重ねて完成されていたことが確認された。検証の結果、対タイ国別援助計画は国別援助計画の策定対象国選定基準に則り、一般的策定プロセス を踏まえており、適切な過程、時期、体制にて策定されたものと評価した。
 実施プロセスの妥当性の検証では、対タイ国別援助計画の重点分野はJICAの国別事業実施計画及びJBIC国別業務実施方針にも、またそれぞれの実施案件にも確実に反映されていることが確認され、対タイ国別援助計画は政策としての機能を十分に果たしていると評価した。
(3) 対タイ援助政策の効果に関する評価
 我が国援助額がタイ政府予算額に占める割合が小さいことなどから、定量的に我が国援助の貢献度や効果を測ることには限界があることが、当初より予想された。
 このような制約がある中で作業を行った結果、評価対象期間(1995?99年度)のタイの開発は、少なくとも我が国援助が政策的に支援実行を決断した分野に関しては、比較的良好な推移を示していることが分かった。特に「経済基盤整備」分野においては、我が国援助がタイの開発に相当程度寄与した可能性が高いものと考えられる。従って、我が国の対タイ援助政策は有効に機能し、相応の効果を挙げたものと評価した。
(4) 総括評価
 以上を踏まえて、我が国のタイに対する援助政策は、適切な過程を経て策定されている対タイ国別援助計画によって、その時のタイの政治・経済・社会情勢等を鑑みつつ、柔軟に実施されていると評価する。同時に対タイ国別援助計画は、上位方針に当たるODA大綱及び中期政策が示す我が国援助政策の大きな流れの中に位置付けられていることが確認された。またJICA・JBICが実施する個別案件においても、対タイ国別援助計画が示す方向性が忠実に再現されていると評価する。このように対タイ国別援助計画は、ODA大綱から始まり個別案件選定に至るまでの我が国対タイ援助政策の流れの一貫性を担保する中軸的機能を果たしているのだと評価する。
 一方、我が国のタイに対する援助政策策定及び案件選定協議の際や案件選定作業において、JICA国別事業実施計画及びJBIC国別業務実施方針は様々な形で参考にされてきたのだと見られる。JICA・JBICが援助実施機関として長年被援助国の現場で案件を実施し培ってきた経験が、政策機関である外務省によって大いに活用されてきたものと評価される。
 我が国のタイに対する援助政策の効果については、少なくとも重点分野の一つである経済基盤整備においては相当程度の寄与があったという評価は可能であろう。具体的には本評価対象期間において、同分野における我が国援助金額がタイ政府予算の2割以上を占めていることが推計されている。タイ経済が農林水産業から製造業へと構造転換をしていく過程で、大きな貢献を果たしてきたものと推測されるのである。また我が国援助は1997年の経済危機において、公共投資計画の推進支援を通した雇用創出、更なる経済悪化の防止等といった効果ももたらしたものと考えられる。
7.提言:
 我が国の対タイ援助政策は、その中心である対タイ国別援助計画が方針から計画へと転換する過程において、政策としての機能を漸次充実させてきたものと評価したい。但し、中進国に転換を遂げようとするタイとの協力関係を今後とも益々確かなものとしていくのであれば、対タイ国別援助計画はその策定及び実施のプロセスを更に充実するべきだと考える。タイ政府は今後、援助国とは対等の立場にて対話をしていきたいとの意向を示しており、そのための準備も進めていると推察される。また特定分野においては、外国援助を通した借入れによる開発に難渋をしめす傾向が強まっている。従って、我が国においても現在の援助政策の策定・実施体制に留まることなく、タイ政府の動きを念頭に置きつつ、有用な対応を行うことが賢明と考える。具体的な提案を二点、以下のように行った。
(1) 援助政策レベルでの指標設定とモニタリング体制の確立
 JICA・JBIC、大使館から得られる情報等を更に有効に対タイ国別援助計画の策定や改訂に活用すべく、我が国の援助が貢献した度合の客観的な推察が可能となる指標を国別援助計画の策定時に取り入れるべきだと考える。現在、大使館がタイにおける政治・経済・社会情勢全般に関する詳細な情報収集と分析を行い、JICA・JBICの実施機関が開発課題に関わる情報の収集と分析を担い、それぞれが外務省にて集約されていると理解する。これら情報も参考にしつつ援助政策に関わる意志決定が行われる訳だが、国別援助計画に対応する指標を計画策定当初から設定することによって、援助国の現場より送られてくる情報をより客観的に分析することが可能となると考える。
(2) 草の根無償資金協力案件の評価体制の更なる充実
 草の根無償資金協力案件については、スキーム別評価(プログラム・レベル評価の一形態)の一環として外務省により評価が最近行われてはいるものの、事前に指標を設定し、それに基づきプログラム・レベルの事後評価を行うようにはなっていない。外務省には、政策またはプログラム・レベルの評価を行うことが期待されており、今後草の根無償資金協力の評価体制についても、上述のスキーム別評価を充実させる事により草の根無償資金協力案件を全体として把握する努力を行っていく必要があるものと考えられる。他方、現在の大使館では草の根無償資金協力案件の実施団体に対し中間報告書と最終報告書提出を義務付けているものの、現地調査では、これらの報告書は全ての案件において提出されている訳ではなく、提出された場合でも必ずしも内容が十分とは言えないことなどが確認されている。これまでは、それら報告書の提出はプログラム・レベルでの評価を行うために行ってきた訳ではないが、今後我が国が草の根無償資金協力の全体像を把握するためには、これらの報告書提出状況と内容の充実の他、プログラム・レベルの評価で使用する指標を事前に設定しておくことなどが有用であると考えられる。


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