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タンザニア国別評価

1. 評価対象
(1)対象国(地域)・分野
   タンザニア
(2)評価を行うにあたって参考とした主な案件
 *キリマンジャロ農業技術者訓練センター
 *ダルエスサラーム魚市場建設計画
 *地方教育行政強化計画
 *モロゴロ州保健行政強化プロジェクト
 *マクユニ・ンゴロンゴロ間道路改修計画
 *国家統計局データ提供能力強化計画

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2.評価実施者
 評価主任
 池上清子 国連人口基金(UNFPA)東京事務所長(ODA有識者会議メンバー)
 アドバイザー
 井上健 アジア生産性機構(APO)工業部長
 評価補助業務従事者
 新井文令 (財)国際開発センター 主任研究員
 黒田康之 (財)国際開発センター 主任研究員
 小室雪野 (財)国際開発センター 研究員
3.調査実施期間
 2005年8月3日~2006年3月31日
4.評価の目的
 タンザニアに対する日本の基本的な援助政策は「タンザニア国別援助計画(以下、「援助計画」と略称)である。2000年6月に「援助計画」が策定されて以来、タンザニアに対する日本の援助はこの「援助計画」に基づき実施されてきた。しかし「援助計画」策定後すでに5年が経過し、国内においては新ODA大綱の策定(2003年8月)、またタンザニアにおいても貧困削減戦略(PRS: Poverty Reduction Strategy)の進展・援助協調への動き等、援助環境を巡る諸情勢が大きく変化しつつある。
 このような状況を踏まえ、本評価調査はタンザニアに対する日本の援助政策全般を「援助計画」を中心に据えて評価し、今後のより効果的・効率的な援助の実施の参考とするための教訓を得、提言を行うとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たすことを目的として実施されたものである。
5.評価結果
 日本は、タンザニアに対して2000年6月に「タンザニア国別援助計画」を策定し現在まで援助を実施して来ている。本評価調査は、同「援助計画」の下で2000年6月から2005年5月までの期間に実施された援助事業を対象に、外務省「ODA評価ガイドライン(第2版)」に基づき、「目的の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3視点に基づき評価を実施した。また、タンザニアでは政府・ドナー間の援助協調が大きく展開していることから、日本の「援助協調」への関わりにつき概略の評価を試みた。
(1) 目的の妥当性
◎日本のODA政策との整合性については、基本的に整合的であると判断された。
◎タンザニア開発計画との整合性については、タンザニアでは2000年後半以降、貧困削減戦略(PRS)、成長と貧困のための国家戦略(NSGRP)等が策定され、援助環境は大きく進展しつつあるが、日本の「援助計画」は包括的であったことから、現在もなお概ね整合性はとれている。
(2)

結果の有効性
 本視点からの評価は、援助事業の全体としての成果が必ずしも明確でないこと、また多様な外的要因が存在すること等から、直接的な指標ではないが、下記の4点に関し事業をセクター別に検証し、総合的に結果の有効性の評価を行った。
*資金的貢献度
*タンザニア側ニーズの反映度
*プロジェクト間の相乗効果・波及効果
*セクター/地域・マクロ的指標の改善度

以上の諸点に基づく検証の結果、以下の評価を得た。

◎日本の支援は全般的にタンザニア側から重要と認識されている。
◎全般的に、農業・道路等インフラ関係で援助は有効であった。
◎教育・保健セクターでは重要な貢献を行い、有意義であったが、両セクターでは多数ドナーの援助協調が盛んであることから、日本独自の貢献の観点では有効性は比較的限定的である。しかし日本がこれらの分野で積極的に参加している点は有効であった。
◎タンザニア側の貧困削減への協力事業は有効であった。
◎水産業への貢献は、タンザニアの栄養改善などの点で有効であったが、先方国家政策・日本の援助政策との整合性の点でやや効果が限られる。
◎電力・森林保全・零細企業振興などのセクターでは、日本の支援は限定的であった。電力分野ではタンザニア側の電力政策が不透明な点もあり、日本の支援の有効活用が困難な点もあった。
◎事業間および全体的な戦略性がやや不十分であった。
◎指標の導入が期待される。

(3) プロセスの適切性
◎「援助計画」の策定過程の適切性については、当時、タンザニアで進展中の援助協調に関する情報が必ずしも十分取りこめず、やや柔軟性に欠けるものであった。
◎実施過程の適切性については、タンザニア側で展開する援助協調など新たな援助環境に対して実務上ではかなり積極的に対応できたが、政策レベルでは「援助計画」の改訂など抜本的な対応は不十分であった。
◎タンザニア側の受け入れ体制については、政府上層部ではかなりのオーナーシップが確認できたが、ライン省庁などの実務レベルではなお体制強化が必要と判断された。
◎検証システムについては、本調査対象期間5年間で、1回実施体制評価調査が行われたのみで、かつその結果がその後に十分取り入れられたとは言い難い。定期的なフィードバック体制の確立が望まれる。
(4) タンザニアでの援助協調への対応
◎日本は、2000年度以降、主に実務上で同国で進展する援助協調に積極的に対応してきた。この対応は評価され得るものである。
◎大使館・JICA事務所の現地職員数は実質増は僅少(大使館1名、JICA3名)だが、現地ODAタスクフォース立ち上げおよびその活発な活動により柔軟に対応してきている。
◎日本は協調の場(政策協議等)に非常に積極的に参加している(22部門中16部門)。
◎しかし、資金的参加(セクターバスケット等)への参加および手続き的面(調達、会計監査等)での参加はなお限定的。
◎援助協調への関わり方(どの分野に参加するか、どの程度深く関与するかなど)についてはなお検討の余地がある。

6.提言
【援助計画の基本方針・戦略の明確化】
提言1.タンザニアの開発戦略との整合性の確保
 援助を真に有効で効率的なものとするためには、被援助国のオーナーシップの尊重、自助努力の醸成が不可欠である。この観点から、次期「援助計画」においてはタンザニア側開発戦略(MKUKUTA、JAS等)との整合性をとることが重要となる。また、タンザニアのオーナーシップを尊重しつつ、タンザニア側の援助受入体制・組織・人的能力の実態を把握し、その強化策も「援助計画」に含めることが重要である。
提言2.戦略性の向上
 限られた援助資源を有効に活用するためには、「援助計画」を戦略的に策定することが重要である。日本の優位性を踏まえ、選択と集中を図った援助内容とする。具体的には、日本が注力する分野・課題を明らかにし、ODA大綱や中期政策にも示されているように、より横断的な課題別の視点で臨むとともに、さらに各注力分野・課題間でも優先順位を確認しておくことが重要である。

【援助計画の構成、策定・見直しプロセスの改善】
提言3.「援助計画」へ指標の導入
 タンザニア次期「援助計画」の策定に当たっては、一般的な理念や方向性に加えて、先方政府が設定する戦略目標を十分に考慮した上で、定量的もしくは定性的に測定可能な戦略目標を、時間軸を伴って設定し、その上で、可能な範囲で、設定時間内で目標を達成するために必要な投入(インプット)、具体的な達成方法、見込まれる結果(アウトプット)、及び成果(アウトカム)を明らかにできるようにすることが望ましい。
提言4.「援助計画」策定の迅速化と継続的見直しプロセスや中間評価の導入
 昨今の急激な援助環境の変化に鑑み、次期「援助計画」は1年間程度の期間で策定することが望ましい。また、策定後は日常業務的に計画の適合性を検証し、状況の変化に迅速に対応できるようにする。さらに、3年1を時期的な枠組みとして設定し、抜本的見直しを実施する。

【援助協調への対応の明確化】
提言5.援助協調に対する日本の対応・方向性の明確化
 現在進行中の援助協調の流れは、それ自体が目的ではなく援助の目的・目標を達成するための手段の一つとしてとらえられるべきである。その上で、日本がどのようにこの流れに対応するのかを示す基本方針を明らかにすることが重要である。具体的には、「政策」、「資金利用」、「手続き」の各側面で日本の基本的認識を明らかにし、それらを基に、重点分野・課題との関連で、それらをどう組み合わせていくのかを明らかにする必要がある。実施において、日本がリードをとる分野・課題かどうか、一般財政支援、セクターバスケット支援、プロジェクト型支援のいずれを選択するのか、が明確にされなければならない。また、スキームの拡大やスキーム間の有効活用、コモンファンドへの投入も可能な費目の整備等の検討も必要と思われる。これは、調達、事業管理報告、会計報告についてどの程度タンザニア側の方法に則って実施するか等、手続きの面の検討も含まれる。

【援助実施体制の改善】
提言6.体制・組織・人材の強化
 援助協調も含め援助の効果的実施の点から、組織力の強化と職員の能力開発を体系的計画的に行うことが重要である。少なくとも、現地タスクフォースのメンバーと、本省の国別二課のタンザニア担当官の双方での強化が必要である。昨今の公務員削減の流れの中、人員拡充は容易ではないことから、単に正規職員数の増加だけによるものではなく、企業や大学との提携、青年海外協力隊員やインターンの活用、教育訓練による知識・スキルの向上等、従来のやり方にとらわれない柔軟な発想をもって問題に対処することが重要である。
提言7.業務実施体制の効率化・迅速化
 タンザニアの援助環境の変化やタンザニア側の要望をすばやく事業活動に取り込めるような業務の流れや仕組みを作ることが重要である。迅速な対応を可能とするためには、現地大使館・JICA等現地関係者にある程度権限を移譲し、現地タスクフォースによる意思決定可能範囲を拡大するとともに、運用規定の柔軟化を図り、現地主導型体制を構築することが望まれる。具体的には、成果志向型の管理を積極的に導入し、現地中心の活動計画や期待される達成内容を事前に明らかにし、東京の本省はその成果の達成に関してチェックを行う方向に進むことが望まれる。
提言8.体系的定期的な事業の説明責任の遂行
 援助事業の説明責任は、5年に1度の政策評価だけで果たされるのものではない。また一部の「成功例」のみを取り上げて広報するだけで果たされるわけでもない。タンザニアの援助状況は現在の国際的援助潮流において先端を行っているので、これを積極的に情報発信することは、日本の新たな取り組みの紹介、ODA広報の観点からも有意義と考えられる。
提言9.情報管理の強化と改善
 タンザニア援助事業において測定可能な目標と戦略を定めた上で、その達成のために収集・分析された情報を関係者間で容易に共有出来るための情報管理システムの構築は重要であり、これは現地タスクフォースの機能強化に資することにもつながる。このシステムは、他の援助国や国際機関とも比較可能な指標を定めて定期的かつ体系的に情報収集しておくことが重要である。

【評価の枠組み】
提言10.援助事業の評価の枠組みの見直し
 現在の「ODA評価ガイドライン」には、まだまだ改善の余地が残されているように思われる。例えば、ニューパブリックマネジメントの普及が公共プログラムの評価やマネジメントの枠組みを大きく転換させたことに鑑み、今後、評価の専門家グループによって検討が重ねられ、評価の枠組みの更なる改善がなされることを期待する。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

1 3年とする理由について:現行のPRSは2005年7月?2010年6月を対象としている。JASも2006年には策定が終了するものと考え、次期「援助計画」が2006年度中に策定され、2007年4月から有効となった場合、現行のPRSが終了する2010年までの3年間を有効期間とすれば、タンザニア開発戦略との整合化の観点から適切なサイクルである思われる。


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