1. テーマ:タンザニア援助実施体制評価
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2.国名:タンザニア |
3. 評価者:
絵所秀紀 法政大学経済学部教授
橋本吉之 (株)ブイ・エス・オー調査研究部長
中畝義明 (社)世界経営協議会研究調査部長
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4.調査実施期間:2002年2月12日~3月31日
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5.評価の目的
我が国の援助全般に関わるタンザニアの援助実施体制及び我が国の現地援助機関の活動状況、他ドナーとの連携状況等を把握することにより、その現状、問題点を明らかにし、援助実施体制の改善に係る提言を行い、同国における我が国援助のより効果的・効率的な援助実施体制づくりに資することを目的とする。
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6.評価結果:
(1) |
タンザニアにおける経済協力環境の変化
(イ) |
1990年代後半から、社会開発に重点を置く貧困削減レジームが導入され、限られた予算を効率的に活用しようとの意図から途上国のオーナーシップと被援助国のパートナーシップが重視されることとなった。(イ) タンザニアにおいては、ヘライナー・レポート(1995年)が上記テーマを掲げ、タンザニア政府による長期開発計画であるVision2025、さらにはタンザニア政府と援助国・援助機関で合意された社会経済開発戦略ペーパーであるTAS、タンザニア援助の中核的枠組みとなるPRSP(2000年)が導入・策定された。セクター・プログラム(SP)はセクター別開発計画として、予算配分は中期支出枠組(MTEF)として、予算のモニタリングは公共支出レビュー(PER)として具体化された。セクター別開発計画の実施に対する援助様態としては、ドナーにより異なる援助手続きの共通化、コモン・バスケット、タンザニア政府の脆弱な財政基盤を支えるために一般財政に直接投入される財政支援等が強調されている。
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(ロ) |
コモン・バスケット、財政支援といった新しい援助様態に対し、世銀等はコモン・バスケット中心、イギリス等は財政支援中心、オランダ等は双方を併用するといったように、各ドナーはそれぞれ異なった対応をみせている。我が国は新しい援助様態に限定的に参加している。
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(2) |
タンザニア側の援助受入体制
(イ) |
タンザニアにおける援助はSPを中心に展開され、教育、保健、農業、道路などの各セクターでタンザニア政府と各ドナーの協調の下でセクター別開発計画が策定されつつある。 |
(ロ) |
各セクターにおける受入体制が整えられつつあるが、セクター別開発計画の立案・実施においてタンザニア政府の組織的・制度的・財政的キャパシティ不足が見られ、キャパシティ・ビルディングが必要とされている。 |
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(3) |
日本側の援助実施体制
(イ) |
タンザニアは我が国の重点援助国の一つであり、外務省により策定された「タンザニア国別援助計画」において、1)農業・零細企業の振興のための支援、2)基礎教育支援、3)人口・エイズ及び子供の健康問題への対応、4)都市部等における基礎的インフラ整備等による生活環境改善、5)森林保全を5重点援助分野としている。また、JICAの国別事業実施計画においては上記5分野の他、観光開発、水産業、地方拠点開発、湖水環境の保全等の開発課題とそれを通じた組織能力拡充(キャパシティ・ビルディング)が重視されている。また、SPを促進する流れへの対応として、複数のプロジェクトを開発課題に合わせてプログラム化し、セクターごとの援助効果が明瞭になるような工夫がなされている。 |
(ロ) |
国際的なSPを促進する流れの中で、これまで行われてきた個別案件を中心とした従来の援助体制は、タンザニア政府との政策対話、他ドナーとの協調会議を重ね、タンザニア政府の予算等、財政の枠組にまで踏み込んだ形で案件が形成されるようになってくるため、これまで以上に現地主導による案件形成体制への変化が求められるようになる。 |
(ハ) |
全面的なプログラム型援助への移行には、プロジェクト型援助の必要性という観点から我が国は異を唱えてきた。案件形成・実施、モニタリング・評価、予算管理といったキャパシティが十分とは言えないタンザニアにおいては、我が国としては、コモン・バスケットや財政支援等の新しい援助様態を認めつつも、タンザニアが個別案件を進める上で、援助課題に対するアプローチとして最も有効である援助モダリティの選択肢を残すという配慮が今後とも必要である。この意味で、我が国の援助は、新しい援助様態に傾倒するのではなく、現在有する援助様態を臨機応変に活用することを目指すべきである。 |
(ニ) |
我が国はスキームの特徴を生かし援助を実施しているが、なかでも、草の根無償は、小規模だが即効性のある援助として現地側の評価も高く、教育、保健医療等タンザニアの重点分野への支援として効果的であり、日本の顔の見える援助となっている。 |
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7.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等)
(イ) |
タンザニア政府のキャパシティ・ビルディングに対する支援
(a) |
タンザニア政府のプログラム立案・実施、モニタリング・評価、予算管理等の能力向上の必要性を考えた場合、キャパシティ・ビルディングに対する技術協力の重要性を主張すべきである。 |
(b) |
我が国の農業分野における協力実績を生かして他ドナーをリードし、タンザニアにおける農業セクターの開発課題を解決するために農業セクターを中心としたSPへの参加を継続する。 |
(c) |
セクター別開発計画の策定支援、さらには実施、モニタリングにおける支援を進めるためには、政策分野へのアドバイザーの派遣も必要となろう。それにより、タンザニア政府の開発政策とより深いレベルでの整合性を確認することができるようになる。 |
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(ロ) |
援助様態に関する主張の展開
コモン・バスケット、財政支援といった新規援助様態も認めつつも、各ドナーが効果を発揮できる援助様態によって経済協力を実施すべきとの主張をタンザニア政府及びドナーに対して継続する。
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(ハ) |
新しい援助様態に対応するための体制整備
(a) |
PRSPの重点課題に合わせ国別援助計画(外務省)、国別事業実施計画(JICA)の改訂を行う。PRSP、セクター別開発計画に対する我が国援助の位置づけを明確にする。 |
(b) |
国際的な援助会合の場やドナー会合で我が国が積極的に影響力ある発言をするためには、第一に、我が国はDAC、世銀、SPA等の会合で援助様態に関する議論に積極的に参加し、会議で得た情報を現地、国内関係者において速やかに情報共有し、大使館、JICAの連携の下で、「国別援助計画」、「国別事業実施計画」の改訂に反映させるようにする。 |
(c) |
第二に、ドナー会議等での議論に適切な対応ができ、開発経済学の知見を有する「ハイレベルの専門調査員」を大使館に配置する。 |
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(ニ) |
草の根無償資金協力について
(a) |
草の根無償資金協力は小規模であるが、即効性のある援助であり、現場レベルで非常に評価される援助となっており、今後も可能な限り拡大を図る。 |
(b) |
青年海外協力隊員、JICA派遣専門家等とも連携し、草の根のニーズ把握に努める。また、現地NGO、日本のNGOとの連携をはかる。 |
(c) |
今後案件要請が増加することが予想され、申請内容の確認等手続きに現地コンサルタント等外部人材を活用する。 |
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