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スリランカ国別評価

1.テーマ:スリランカ国別評価

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2.調査対象国:スリランカ
3.評価チーム:
(1)評価主任
 野田 真里(名古屋NGOセンター理事・中部大学准教授)
(2)アドバイザー:
 荒井 悦代(アジア経済研究所研究員)
(3)コンサルタント:
 株式会社コーエイ総合研究所
4.調査実施期間:2007年8月~2008年3月

5.評価方針

(1)背景・目的

 日本とスリランカはサンフランシスコ講和条約以来、伝統的な友好関係にあり、日本は長年スリランカの発展にトップドナーとして貢献してきた。スリランカは経済開発水準に比して社会開発水準が優れており、UNDPはこれを人間開発の一つのモデル(スリランカモデル)としてとりあげた。他方で、同国では、多数派シンハラ人と少数派タミル人の一部の間の民族紛争が継続している。日本は、ODA大綱の重点課題である「平和構築」の趣旨にもとづき、2002年以降、「スリランカ復興開発に関する東京会議」の開催をはじめ、スリランカの和平プロセスにも大きな役割を果たしてきた。日本は2004年4月、1)平和の定着と復興に対する支援、及び、2)中・長期ビジョンに沿った援助(持続的発展)を機軸とした「対スリランカ国別援助計画」を策定し、同計画に基づいた対スリランカ経済協力を実施してきている。特に、平和の定着は対スリランカ援助の歴史に新たな1ページを開くものと位置づけられている。だが、本調査のまさに大詰めに差し掛かった2008年1月、スリランカでは停戦合意破棄という大きな社会情勢の変化が起こる等、平和構築への協力は大きな困難とチャレンジを伴うものである。
 本評価調査の目的は、国別援助計画を中心とする日本の対スリランカ援助政策全般をレビューし、国別援助計画改定を含む今後の対スリランカ援助の政策立案、及び援助の効果的・効率的な実施に資する教訓・提言を作成することにある。さらに、その評価結果を広く公表することによって説明責任を果たすこと、スリランカの政府関係機関、国際機関、NGO等のステークホールダーに評価結果をフィードバックすることも目的とされる。本評価が日本の対スリランカ援助の向上及びスリランカの平和と発展の一助となれば幸いである。

(2)対象・時期

 2004年4月に策定された対スリランカ国別援助計画を中心とする日本の対スリランカ援助政策全般を対象とし、対象期間は国別援助計画策定作業が開始された2002年以降2006年までとする。援助政策の実施としての援助事業についても、2002年以降に開始された、円借款、無償資金協力、技術協力につきレビューを行った。

(3)方法

 日本の対スリランカ援助政策を、政策目標、重点セクター目標、サブセクター目標、プログラム、プロジェクトに基づき整理し、目標体系図を作成し、これに沿って、外務省ODA評価ガイドラインに則って、「政策の妥当性」、「プロセスの適切性」、「結果の有効性」、の3つの視点から検証し、提言を行った。

6.評価結果

(1)政策の妥当性

 対スリランカ国別援助計画は、新ODA大綱及び新ODA中期政策の重点課題「貧困削減」「持続的成長」「平和の構築」、基本方針に十分対応している。同計画では、平和の定着への積極的な関与と貢献を打ち出しており、「スリランカ復興開発に関する東京会議(2003年6月)」での宣言主旨を十分に踏まえている。このような姿勢はトップドナーとしての役割に照らしても妥当であった。国際開発課題としてのMDGsや「人間の安全保障」の視点についても、同計画は十分に反映している。スリランカ政府の開発政策については、評価対象期間中に存在した3つの国家開発計画「リゲイニング・スリランカ」「新経済枠組み」「マヒンダ・チンタナ10か年開発フレームワーク」の重点分野のほとんどに国別援助計画は対応しており、整合性はおおむね保たれていることから、妥当であると言える。また、日本の対スリランカ援助政策及び重点分野は、そのトップドナーとしての資金力及びスキームの多様性という特長をいかしつつ、世界銀行、ADBをはじめとする他ドナーの支援政策、重点分野との整合性、補完性を考慮しており、妥当である。
 ただし、国別援助計画は、ややもすると網羅的であり、重点セクターの下に挙げられた幅広いサブセクターの優先付けが必ずしも明確でない。紛争をかかえるスリランカにおいては、とりわけ日本のODAの基本理念である「人間の安全保障」にたち、「選択と集中」の観点から、サブセクターの選択もしくは優先度付けをすることが今後の課題である。

(2)プロセスの適切性

(イ)援助政策策定プロセスの適切性
 国別援助計画策定過程においては、政府関係省庁、実施機関だけでなく、本邦民間企業、NGO等多様なステークホールダーとの意見交換の機会を設けていることは評価できる。また、スリランカ政府とも策定の早い段階から数度にわたって協議・調整を行っていることも高く評価できる。他方、スリランカのNGOの中には高い専門性を持ち、政策立案能力も高い団体も存在することから、こうしたNGOの知見を更に活かす工夫が必要である。また、スリランカにおいては地域間格差が大きな問題となっていることから、草の根に近い地方行政の声も十分に吸い上げていくよう一層の工夫が必要である。また、同計画の策定には、ODA総合戦略会議による最初の国別計画ということもあり、1年10か月という長期間を要したが、今後の改定にあたっては、政府関係省庁内の調整等の時間を短縮化することが望ましい。
 同計画策定後、スリランカでは政権交代による開発計画の変更、津波被災等といった社会状況の変化が起きたが、これに対し、現地ODAタスクフォースは、援助重点分野の設定を行う等、柔軟に援助政策を調整していく機能を果たした。今後、同計画の改定においては、このような現地を含めた各セクターの専門家の知見を活用することが望ましい。スリランカ政府関係者は日本の援助政策の大筋を理解しているが、国別援助計画そのものの周知は十分ではなかった。世界銀行、ADBとは、国別援助計画策定過程、経済協力政策協議等で、意見交換が行われている一方、その他のドナーについては日本の援助政策を十分に理解していなかった。同計画改定に際しては、「人間の安全保障」に立脚した日本の援助政策の、スリランカ政府関係者及び他ドナーへの周知に関し一層の努力が必要である。

(ロ)援助政策実施のプロセス
 実施機関の事業実施方針(JICA「スリランカ国別事業実施計画」、JBIC「海外経済協力業務実施方針」「ローリングプラン」)は、対スリランカ国別援助計画とおおむね整合性がとれている。日本のODA政策への理解促進、案件形成支援のため、日本とスリランカ側での非公式であるが頻繁なやり取りがなされ、効果的である。無償・技術協力案件の採択については、現地ODAタスクフォースがニーズに合わせ優先順位付けを行っており、JICA現地事務所主管で案件形成・実施が行われるケースもある。現地における体制の強化が援助政策実施プロセスに有効に機能している。また、事業・スキーム間の連携が確認され、効率・効果的な事業展開が図られていることは高く評価できる。
 スリランカ政府関係省庁・実施機関の援助実施体制・能力向上のため、JICA専門家の派遣、円借款及び技術協力事業での能力向上関連コンポーネントの実施等の支援を行っている。
こうした取組の貢献をスリランカ側も認識しており、高く評価できる。
 日本大使館、JICA、JBICは様々な援助調整の枠組みに参加し、他ドナーとの情報交換・調整を行っている。世界銀行、ADBをはじめ、重点分野を共有する他ドナーとは支援事業に係る情報が良く共有されている。一方、ドナーコミュニティの中で日本の援助方針が正しく理解されているとは言えず、他ドナーと日本の援助政策を共有しトップドナーとして、ドナー協調におけるリーダーシップ及びプレゼンスを高める必要がある。
 NGOとの連携については、資金提供によるNGO事業の支援、円借款及び技術協力事業でのNGOへの業務委託、NGOとの情報・意見交換等が行われおり、おおむね高く評価できる。ただし、現地NGOの高い専門性を十分いかしきれているとは言えず、現地NGOとの協議機会等を通じて、その知見を援助政策策定・実施にいかすための方策検討が必要である。

(3)結果の有効性

(3-1)スリランカ開発資金への貢献:スリランカ政府支出に対して、日本は少なからぬ割合(6~7%)の資金支援をしている。

(3-2)援助政策重点分野での貢献:1)日本は様々なスキームを有効活用し、地域・民族バランスを考慮しつつ、北・東部復興支援を実施し、高い評価を受けている。2)道路、電力、水セクター等経済インフラ整備に対する日本の資金的支援の貢献は大きく、地域社会経済の発展への寄与が期待できる。3)鉱工業・建設セクターでの振興支援で資金的に高い貢献をしている。職業訓練分野でも技術協力プロジェクト3件実施しており、工業セクターの成長に何らかの貢献をしていると言える。4)日本は民族・地域バランスを配慮した形で貧困削減への支援を実施してきた。農業・かんがいセクターへの資金的貢献は高い。保健・医療セクターでは、日本が策定支援したマスタープランは有効活用されている。5)津波被災復興では、様々なスキームを有効活用し、緊急フェーズから中長期に至る貢献をしている。

(3-3)援助政策目標の達成:1)平和の定着:停戦合意(2002年2月)前後の北・東部の状況を比較できる経済社会データはほとんど無く、国別援助計画策定時期に比して、紛争状況は悪化し停戦破棄(2008年1月)に至っている。よって、平和の定着に向けた日本の貢献度を定量的に測ることは困難である。他方、北・東部のLTTE支配地域で支援を行うことにより、住民への教育・啓蒙、民族間の相互理解と信頼醸成がなされたことも聞かれた。これらの支援は、紛争助長要因の除去、和平に向けた環境整備という観点からは高く評価される。2)持続的発展:スリランカのGDP成長率は、津波被災、紛争状況にもかかわらず順調な成長が見られる。また、社会開発は高い水準を示している。これらにつき、日本のODAの貢献は定量的に確認することは困難であるものの、日本の長期的な支援が成果をあげていると考えられる。日本は民族・地域バランスに配慮した支援を行い高い評価を得てきたが、その有効性が発現するためには現在実施されている事業が終了し、想定される効果・インパクトの発現を待つ必要がある。3)人間の安全保障の確保:日本は、北・東部における紛争の脅威にさらされている人々への復興支援はもとより、農漁村コミュニティ及びプランテーション部門における疎外された人々への生活・社会・経済基盤整備へのきめ細かい支援を行ってきた。これら支援は、脅威にさらされている人々・コミュニティの状況を徐々にではあるが改善し、人間の安全保障の観点からも貢献していると言える。

7.提言

(1)対スリランカ国別援助計画に関する提言

(1-1)「人間の安全保障」を軸にすえた選択と集中:紛争を抱えるスリランカに対する援助政策では、日本のODAの基本理念である「人間の安全保障」を軸にすえることが特に重要であり、脆弱な人々に対して直接裨益する援助に一層力を入れることが大切である。そのためには、「平和の定着」と「持続的発展」の2本柱を有機的に連関させ、「選択と集中」を行うことが重要である。その際、重点セクター目標の達成に重要かつ効果的なサブセクターの選択・優先度付けをする必要がある。

(1-2)援助政策の2本柱「平和の定着」と「持続的発展」の有機的連関:「平和の定着」と「持続的発展」の2本柱はきわめて重要であり、その有機的連関について、以下の観点から、再考が必要である。1)和平プロセスにおいて重要なのは当事者間の努力であり、これが前提となり、ODAにより平和の定着を後押し、「開発の基盤としての平和」を推進する。2)和平プロセスの進展に伴い、目に見える形でただちに「平和の配当としての開発」を推進し、信頼醸成を促進する。3)北・東部のみならず、全土において地域や民族のバランスに配慮して「平和の礎としての開発」を推進し、新たな紛争の火種を消す。

(1-3)長期的アプローチの継続:対スリランカ援助は状況の改善・悪化の繰り返しの中で、長い時間をかけて取り組む必要があり、ポジティブリンケージで当事者の努力を促す粘り強い、息の長いアプローチを今後とも継続していく必要がある。

(1-4)ODA政策マネージメントの考慮:ODA政策策定、実施、評価、フィードバックのサイクルが機能するためには、国別援助計画において以下の改善が必要である:1)政策目標の明確化及び具体的指標の導入、2)目標体系の最適化、3)モニタリング体制の改善及び政策見直しの仕組みの導入、4)結果の有効性の検証時期の検討。尚、目標値及び指標に当たっては、スリランカ政府開発政策で設定された目標値・指標等を活用することも考えられる。また、その設定にあたっては、スリランカ側と協議と合意形成が必要である。

(2)援助政策策定プロセスに関する提言

(2-1)迅速化:ニーズや情勢の変化に対応するために、より一層の効率的な策定と期間の短縮化(可能であれば1年以内)が望ましい。

(2-2)策定体制:今後の国別援助計画改定に当たり、現地ODAタスクフォースが十分に機能するよう、その関与の程度及び権限をより明確化する必要がある。中央政府関係機関はもとより、草の根レベルに裨益する支援のために、地方政府やNGO等、広く関係者の意見を聴取・反映できる仕組みの確保が必要である。

(2-3)援助政策の周知及び理解促進:今後の国別援助計画改定に当たっては、中央政府関係省庁だけでなく、州政府、地方自治体、他ドナー、NGO等多くのステークホールダーへの改定版の周知と理解の促進をすることが重要である。また、日本のODAの成果をスリランカの人々はもとより、国際社会や日本の納税者に対し広報する工夫がなされているが、これについても一層積極的に取り組む必要がある。

(3)援助政策実施プロセスに関する提言

(3-1)ODAタスクフォースの強化:スリランカの場合、紛争や政権交代等、社会情勢がめまぐるしく変化しており、これに柔軟かつ適切に対応する体制が重要である。現地事情・ニーズに精通しているODAタスクフォースが政策実施プロセスに関与することは有効であり、2008年のJICAとJBICの統合に向けても、現地ODAタスクフォースの機能の制度化(権限と責任の明確化)及び強化が求められる。

(3-2)モニタリング・評価体制:現地ニーズにかなったより効果的・効率的なモニタリング・評価体制を整備していくためにも、現地の状況・ニーズを把握した、実施機関現地事務所の一層の関与、スリランカ計画実施省との連携促進を検討していくことが必要である。アカウンタビリティー、当該国・当該セクターへの支援に係る知識の共有という観点からも、これらのモニタリング・評価結果につき、その管理・公開体制を改善・より充実していくことが望まれる。

(3-3)人間の安全保障にもとづく事業・スキーム・セクター間連携の更なる強化:今後のODA予算の全般的削減も見据え、効率及び効果的な事業・スキーム・セクター間連携の検討・推進が必要である。

(4)MDGs達成における社会開発の質の向上とアジアとアフリカをつなぐ南南協力の拠点化
 スリランカは高い社会開発水準で定評があるものの、その質の改善においては課題を抱えており、更なる支援が重要である。また、スリランカを社会開発におけるアジアとアフリカをつなぐ南南協力の拠点として支援していくことも重要である。

(5)ドナー協調におけるトップドナーとしてのリーダーシップ
 日本はこれまでトップドナーとして多大な貢献をしてきたのみならず、ポジティブリンケージにもとづく長期的かつ寛容な姿勢で援助を行ってきた。こうした日本の援助政策及び実施における方向、「人間の安全保障」への考え方等をスリランカ復興・開発に関わる他のドナーに周知し、正しい理解を促していく努力が必要であり、トップドナーとして、ドナー調整におけるリーダーシップ、ドナーコミュニティの中でのプレゼンスを高めていくことが必要である。

(6)人々に直接裨益する草の根で活動するNGOや地方行政との連携強化
 地域間・民族間のバランスや疎外された人々に配慮しながらより草の根に裨益する支援を促進することが重要であり、NGOや地方行政との戦略的な連携強化が望まれる。特にNGOとはより戦略的に連携する必要がある。草の根・人間の安全保障無償、NGO支援無償、草の根技術協力スキーム等の更なる改善が必要である。対象地域・住民にとって最も効果的・効率的な事業実施を行うという観点から適切なNGO/CBOと連携を進めることが重要であり、日本側関係機関においてもNGO/CBOの情報の蓄積をふまえて、日本の援助計画全般の中でNGOの役割を明確化する等の体制整備が必要である。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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