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平成14年度スリランカ国別評価

1.テーマ:スリランカ国別評価

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2.国名:スリランカ
3.評価者他:
(評価者)
 池田孝治 アイ・シー・ネット株式会社 副代表取締役
 粟野晴子 アイ・シー・ネット株式会社コンサルティング部
(監修)
 森園浩一 秀明大学国際協力学部教授
 近藤正規 国際基督教大学国際関係学科助教授
4.調査実施期間:2002年8月 -2003年3月
5.評価方針:
(1) 目的
a. 今後のわが国援助の効果的かつ効率的実施に向けての教訓や提言を得ること。
b. 本評価結果を公表することにより、援助の透明性および説明責任を確保すること。
(2) 対象・時期
 わが国の対スリランカ援助政策のうち最も代表的なものの一つである「国別援助方針」を対象効果の発現には通常2~3年かかることから、1995年から1999年までを対象期間とした。
(3) 方法
 評価対象を理論、過程、効果の3つの側面から検証する総合的評価手法を採用し、スリランカにおけるわが国の国別援助方針をその基本的な理念、過程、効果の側面から検証した。
(4) その他
 「国別援助方針」は今後策定されず、「国別援助計画」がその役割を担うことから、本評価調査の結果は今後策定される「国別援助計画」に役立てることが期待されている。
6.評価結果:
(1) 基本的な理念
 国別援助方針の基本的な理念を妥当性という項目で評価する。評価対象である対スリランカ国別援助方針の内容がODA大綱などのわが国のODA政策やスリランカの主要開発計画などに見られるスリランカ側のニーズと整合しているかについて検証を行った。
 国別援助方針の内容はODA大綱の原則や重点項目、ODA中期政策の内容、当時のスリランカ政府の公共投資計画に示される重点分野とほぼ整合している。但し、国別援助方針の重点分野である鉱工業開発はODA中期政策では重点分野としてあげられていないこと、「国別援助方針」に示された農業分野における「基本食料生産の自給向上」という目標は、スリランカの主要な食料である米が1980年代中期に自給を達成しているなど、いくつか改善の余地がある。
(2) 援助政策の過程
 援助政策の過程については、国別援助方針のi)政策の策定・見直し過程と、ii)政策の実施過程という2つの過程を、「適切性」及び「効率性」という評価項目で検証した。
1) 政策策定過程の適切性
 ここでは、策定過程の適切性を、(a)策定に関わる組織の適正さ、(b)お互いのニーズの反映や相手国のニーズの変化への対応、(c)相手国の自立発展性への配慮の観点から検証した。
(a) 策定に関わる組織の適正さ
 国別援助方針の原案策定にあたっては、外務省本省、大使館、JICA、JBICの本部及び現地事務所の間で協議が行われていた。ただし、当時の関係者によると国別援助方針に対してNGOや民間の意見を求めることはしておらず、より幅広い意見を聴取する余地はあると考えられる。
(b) お互いのニーズの反映や相手国のニーズの変化への対応
 国別援助方針の策定過程では、経済協力総合調査団等におけるスリランカ側との政策対話が行われるなど、スリランカの開発ニーズについて詳細な調査と検討が行われており、お互いのニーズを反映する過程がとられていることから、適切性が高い。但し、DACの「新開発戦略」(1996年策定)は、スリランカでも日本の援助政策において留意すべきものとして政策協議においてもスリランカ政府援助受入機関と詳細に検討されたが、その後の「国別援助方針」に「新開発戦略」に関する言及はなかった。また、スリランカのマクロ指標やニーズの変化に対しては、国別援助方針のサブセクターの変更や追加という形での調整が行われていたことから、ニーズの変化に対応する過程が取られており、適切性が高いと言える。
(c) 相手国の自立発展性への配慮
 相手国の自立発展性への配慮は、国別援助方針策定の準備段階で国別援助研究会や年次政策協議などの機会を捉えて行われたことが確認された。しかしながら、国別援助方針自体には自立発展性に関する記述はなく、自立発展性の重要性に鑑みれば何らかの形で記載することが望ましい。
2) 政策実施過程の適切性
 ここでは、国別援助方針が実施機関の業務方針や計画に反映されることを確保するようなプロセスが取られていたか、また実際どの程度事業実施に反映されたのかという点からその適切性を検証した。
(a) 実施機関の業務方針及び計画への反映
 JICA、JBICの援助方針策定過程には大使館との意見交換もあり、援助方針を反映する過程が取られていた。しかし、国別援助方針に掲げられている上位目標と実施機関の業務方針及び計画に掲げられている上位目標が一致していないケースがあった。国別援助方針と実施機関の業務方針・計画における上位目標の相違は日本の援助政策の上位目標を不明確なものにする可能性があることから、この点改善の余地があると考えられる。
(b) 案件形成・実施過程への反映
 当該期間に終了した援助案件は、殆どの案件が「国別援助方針」で設定されたセクターに入っており、国別援助方針が適切に反映されているといえる。但し、国別援助方針の農業分野に掲げられているアグロ・インダストリーの振興は案件の実施に至っていないなど一部改善の余地はあったと考えられる。
3) 策定過程の効率性
 ここでは、国別援助方針策定過程の効率性を重複の有無と迅速性という点から検証した。その際、重複の有無を相手国との関係、実施機関との関係及び他ドナーとの関係から考察した。
 国別援助方針は大使館による原案作成、外務省における実施機関など関係者との協議・決定という過程を経て作成される。相手国との関係では、特に同じ内容を繰り返し協議していた等の重複はなく、実施機関との関係でも実施機関の調査研究の結果が国別援助方針の策定に活用されるなど作業の有機的な連携が見られた。また、ドナーとも意見交換を行うなど重複を避けるための努力が行われており、策定過程の効率性は確保されていたと判断できる。また、国別援助方針は、途中の中断があったものの2年で策定され、その後毎年見直しが行われていたことから、特段の遅延があったとは思われず、援助方針の策定・見直しは効率的に行われていたと判断される。
4) 実施過程の効率性
 ここでは、国別援助方針の実施過程の効率性を、(a)実施機関の援助方針・計画及び案件形成・実施への反映の迅速性、(b)各組織・機関の連携・協調の有無という点から検証した。
 実施機関の援助方針・計画への反映及び案件形成にあたっては、国別援助方針の重点分野との整合性を検証する作業が行われたが、ここでは特段の困難はなく、迅速に行われていたと判断できる。
 大使館・JICA事務所・JBIC事務所の三者間の情報交換や対話は活発に行われ、案件実施でも開発調査と円借款、円借款と専門家・青年海外協力隊派遣など、援助効果を挙げるためのJICA・JBIC間の連携例が多く見られたことから、効率性は確保されていたものと判断できる。
 また、他ドナーとの協調・連携も開発フォーラムや分野別のワーキング・グループ会合、JBICとADBによる協調融資案件等が実施されており、効率的な実施がなされていたと考えられる。
(3) 援助政策の効果については、有効性及びインパクトという評価項目から検証した。ただし、国別援助方針にはその目標値や指標が設定されておらず、その有効性(目標達成度)を定量的に分析することは困難であることから、評価対象期間における主要経済指標の動向を追い、外部要因を明らかにすることで援助政策の効果の検証に代えた。インパクトも同様に定量的な分析が困難であることから、国別援助方針がスリランカの開発政策やわが国のODA上位政策へもたらした影響の有無を検証した。
 評価対象期間における主要指標の動向は以下の通りであった。
(a) 評価期間には、LTTEによるテロ活動の激化と軍事支出の増大等の外部条件の影響があったが、GDP成長率の5%台での推移、貿易額の増加傾向、対外債務GDP比率・インフレ率・失業率の減少傾向等、概して健全な経済発展に向かっていた。
(b) 分野別のマクロ指標については、経済・社会基盤の整備・改善で、港湾の貨物取扱量、通信インフラの固定電話線数・移動電話数、電力受益者数などが増加した。他の分野でも、鉱工業の生産高・輸出額・付加価値、農林水産業部門の輸出額、人的資源開発での学力や大学入学者数、保健・医療での病院数などが増加もしくは改善した。
 一方農業分野では、96年の降雨不足の影響があったものの、生産性を示す例としてあげた米の単位面積当りの収量は殆ど変わっていない。
 なお、「国別援助方針」が我が国の経済協力の上位政策(ODA大綱やODA中期政策など)や、スリランカ政府の開発政策や制度開発に影響を与えたかの検証を試みたが、明確なインパクトは観察されなかった。
7.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等):
(1) 国別援助方針」とODA大綱やODA中期政策との位置付けおよび策定基準の明確化国別援助方針とわが国ODAの上位政策や相手国のニーズとの整合性を図るため、「国別援助方針」の我が国援助政策全般の中での位置付けを明確化するとともに、その策定基準を基準自体の優先度も含めて検討すべきと考えられる。
(2) より幅広い意見の聴取の維持促進
 ODAの透明性・公開性や、効果的な政策を策定する上でも、幅広い意見聴取の促進が望ましい。
(3) 「国別援助方針」と実施機関の援助方針との位置付けの明確化
 わが国の援助政策における上位目標を明確化するために、「国別援助方針」と実施機関の援助計画の位置付けを明確にすることが望ましい。例えば、国別援助方針は実施機関の援助計画の上位政策であり、実施機関はこれを具現化するものとして援助実施計画を策定することが明確に定められれば、国別援助方針の上位目標が実施機関の援助方針・計画に確実に反映され、わが国援助政策の上位目標が明確になる。
(4) 「国別援助方針」の目標の体系化
 国別援助方針の確実な実施につなげるために、「国別援助方針」の内容をより明確にすることが必要であると考えられる。例えば、援助方針に援助政策目標、重点セクター目標、サブセクター目標がその達成度を測る指標(定量指標及び定性指標)が明記され、さらに開発課題を達成するためにどのように支援するかという方法論や優先順位がより具体的に示されていれば、関係者の共通の理解に基づく案件形成が行われ、国別援助方針の確実な実施、援助のより効率的な実施に貢献できる。
(5) 「国別援助方針」の見直し過程の明確化と基準の設定
 スリランカ側のニーズやわが国の援助政策の変化に柔軟に応え、援助効果を高めるためにも、具体的な見直し過程やその基準を設定することが望ましい。
(6) 「国別援助方針」の評価の実施
 「国別援助方針」の実施を確保するために、その進捗度合いを定期的に測定し、評価することが重要である。それにより、国民や対外的に援助の透明性を確保できると考えられる。
(7) 「国別援助方針」の記載事項の改善
 援助方針の内容をより充実したものにするため、相手国の行政のあり方(関係省庁の連携の必要性など)など、実施機関や専門家などの経験に基づいた留意点や、実施過程で自立発展性を高める方法が記載されていることが望ましい。


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