1.評価対象テーマ:専門家派遣事業 |
2.現地調査対象国名及び主な調査対象:
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調査対象国:タイ、フィリピン、メキシコ(専門家の受入数で上位にある国々をケース・スタディとして実施) |
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主な調査対象:技術協力派遣専門家(98年4月以降2000年11月までに帰国した長期・短期個別派遣またはプロジェクト専門家) |
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3.評価者:
笹尾 隆二郎 アイ・シー・ネット(株)コンサルティング部シニア・アナリスト
冨岡 丈朗 アイ・シー・ネット(株)コンサルティング部シニア・コンサルタント |
4.現地調査実施期間:2001年4月27日~6月10日 |
5.評価の目的:
専門家派遣事業は、日本の専門家が開発途上国の経済・社会開発の中心となる行政官や技術者にその国の実情に即した技術移転や提言を行ない、行政能力や技術を向上させることを目指す事業である。
この調査は、国内・海外での質問票調査及び聞き取り調査を通じて現状分析を行ない、専門家派遣事業の制度としての評価とより効果的な専門家派遣事業の改善のための提言を行うものである。
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6.評価結果:
1) |
専門家派遣事業(経費及び人数)実績は、ほぼ一貫して増加し続けており、99年度には経費実績で411億円、派遣人数は過去最高の4,003人(短期専門家を含む)となっている。99年度までの累積値でみると、スキーム別では、プロ技専門家が最も多く(52.2%)、事業区分別では、農林・水産分野に対する派遣が最も多い(25.5%)。所属分類別では、1990年代に派遣された専門家では、民間等の専門家と公務員等からの出身者がほぼ同じ割合となっている(「専門家派遣実績」の各グラフを参照)。地域別にみた場合、アジア地域に派遣された専門家が多く、1990年代では全体の60.2%を占めている。 |
(2) |
専門家派遣事業は、概ね成功裏に実施されている。多少のミスマッチが生じたケースがあるものの、専門家の能力・専門性とニーズの適合性については受入機関は概ね満足しており、専門家の貢献度に関する評価も概ね高かった。具体的には、かつてのカウンターパート(専門家の技術移転の対象者)に対して郵送による質問票調査を実施したところ、5段階評価結果(註:「5」を最上の「非常に適合している」という評価として、5から1までの5段階の評価点の中から最も適当なものを回答者に選ばせた結果)の平均値は、タイでは4.2、フィリピンでは4.4、メキシコでは4.5と適合度は非常に高い。
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(3) |
専門家の受入機関への貢献度については、同様な質問票調査の結果をみると、5段階評価の平均値で、タイでは3.0、フィリピンでは3.8、メキシコでは4.0とフィリピン・メキシコの2国では比較的高い評価結果となっている(註:「4」は貢献度がかなり高いことを示す)。
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(4) |
専門家の貢献度や語学力には個人差があり、専門家の派遣が、受入先の機関で十分に効果を上げていない場合があることも認められた。上記の場合の原因について分析したところ、以下の4つの問題点があると思われる。
(イ) |
相手側のニーズに合った分野・専門性と技術力のある専門家が派遣されていない場合がある。 |
(ロ) |
語学力や異文化対応力・社会性などの面で派遣される専門家の資質が不十分な場合がある。 |
(ハ) |
専門家派遣事業の目標が必ずしも明確でなく、また評価体制も不十分である。 |
(ニ) |
日本側での専門家の派遣準備が十分になされていない、あるいは受入機関側で専門家の十分な受入体制が整っていない場合がある。 |
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7.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等):
専門家派遣事業は、援助の相手国の受入機関により概ね高く評価されている。また、事業の実施主体であるJICAは、近年、公募制度の導入、専門家の業務内容・資格要件の明確化など同事業の改善を進めているが、相手側のニーズにより合致したより効果的な派遣事業とするためには、さらに以下のような課題に取り組むことが望ましい。
1) |
「国別援助計画」に沿った形での専門家派遣の推進
ODA全体の効率化のために、専門家派遣事業を個別に検討するのではなく、重要な開発課題の実現に向けて他の事業と一体化して検討する必要がある。具体的には、現在、外務省作成の「国別援助計画」に沿った専門家派遣を行なう形で進められているが、こうした姿勢を徹底する必要がある。 |
2) |
受入機関の専門家に対するニーズの明確化
なぜ当該専門家が必要であるかという受入機関のニーズを事前に期待効果の面で明確に示すと共に、必要とされる専門家に対する要件をより明確に出させる。具体的には、「専門家派遣要請書」の書式(A1・B1フォーム)の改善や「派遣専門家経歴書」への記入の充実を図る。また、相手側にも専門家派遣費用の一部負担を求めることを検討する。 |
3) |
専門家事業の目標の明確化・評価の適正化
専門家派遣をひとつの事業としてとらえ、専門家派遣事業の評価を専門家自身の評価とは切り離して行う。評価に際しては、事前に目標を明確に設定することによる目標管理を導入するとともに、専門家本人やJICA事務所の視点だけでなく受入機関の見方を反映した日本側と相手側との共同評価を行なう。また、評価においては、事前-中間-終了時の評価サイクルを確立する。
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4) |
専門家の派遣準備の充実
新たに長期専門家が派遣される場合にはJICA在外事務所が受入機関を訪問し専門家の受入体制の確認を行っているが、これを徹底する。また、JICA在外事務所が無い国については、在外公館が、適切な事前準備を行う。JICA本部は、新規派遣であるかどうかにかかわらず、専門家派遣の適切な事前準備を行う。具体的には、派遣前研修の内容をさらに充実する。
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5) |
語学力や専門性などの総合的に質の高い専門家の確保
専門家の審査基準の明確化・適正化により質の高い専門家が選定されるようにし、公募・登録制度の充実により優秀な専門家の母集団の拡大を図るとともに、実績を残した専門家の再登用を心がける。また、専門家の派遣待遇の改善によっても優秀な専門家の母集団の拡大を図る。
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なお、上記の取り組むべき課題は、対応する問題点と共に、別図(PDF)にまとめられた。 |
8.外務省からの一言
専門家派遣事業は、開発途上国の人造りに貢献する重要な事業であり、派遣要請も増加傾向にある。今後は国別・課題別アプローチをさらに強化して、戦略的に途上国の重要な開発課題の実現を図るとともに、他のスキームとの連携も考慮しつつ、更なる充実に鋭意努力していく所存。
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