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平成17年度 セネガル国別評価

1.テーマ:セネガル国別評価

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2.国名:セネガル
3.評価者他
(1)評価主任:
 渡辺 龍也 (外務省ODA評価有識者会議メンバー、(特活)国際協力NGOセンター理事)
(2)アドバイザー:
 加茂 省三 (名城大学人間学部専任講師)
(3)評価補助業務者
 駒澤 牧子(株)アースアンドヒューマンコーポレーション
 金子 眞知(株)アースアンドヒューマンコーポレーション
 楠田一千代(株)アースアンドヒューマンコーポレーション
4.評価実施期間:2005年8月15日~2006年3月31日

5.評価方針

(1)目的
 a.  日本の対セネガル援助政策および援助実績を総合的にレビューし、今後予定されているセネガル国別援助計画の策定に資する教訓・提言を得ること。
 b.  評価結果を広く国民に開示し、政府の説明責任を果たすこと。

(2)対象・時期

 1995~2004年度における日本の対セネガル援助政策全般および援助実績を評価対象とした。セネガルに対してはまだ国別援助計画が策定されていないため、本評価では、1995年3月の「経済協力総合調査団」による政策協議をもとに策定され、2000年まで毎年若干の手直しをへて公表されてきた「対セネガル国別援助方針」を対セネガル援助政策に準ずるものと見なした。また、同方針が公表されなくなった2001年以降については、政策文書ではないものの、対セネガル援助の方向性を窺い知る数少ない公的文書である「ODA国別データブック」および「JICA国別事業実施計画」も適宜参照した。

(3)方法

 本評価は、以下の視点および評価項目に基づいて実施した。

視点

評価項目

目的

1)日本の上位政策(旧ODA 大綱および旧ODA 中期政策)
2)日本の対アフリカ支援方針やODA戦略における対セネガル援助政策
3)セネガルの開発ニーズとの整合性
4)主要ドナーの対セネガル援助戦略との比較

プロセス

1)援助政策策定過程
2)援助政策実施過程

結果

1)有効性
2)インパクト
3)自立発展性

6.評価結果

(1)セネガルの開発と我が国の協力

a. セネガルの開発概況および国家開発戦略
 セネガルは民主化が進み、構造調整も進んだ国であるが、人口増加率が高く、一人当たりGDPの成長は鈍い。また、都市と農村の格差も広がっている。経済は、第三次産業がGDPの62%を占める一方、国民の半数が就労する農業はGDPの9%を占めるに過ぎず、第二次産業においては、地方の産業振興が課題である。過去10年の主な開発課題には、貧困削減、地方分権化、地域格差・ジェンダー格差の解消、人材・能力開発、民間セクターの育成、債務軽減等がある。
 これらの開発課題に対して、セネガル政府は「第9次経済社会開発計画(1996-2001)」を策定、1)生産セクター強化による経済成長、2)投資拡大と生産性向上、3)人的資源開発、4)農業水利事業の拡大、5)貧困問題への対応、を主要戦略として掲げた。また2002年には、完全版PRSP(2002-2005年)を発表、1)富の創出、2)基礎的社会サービスに関するキャパシティ・ビルディングの推進、3)社会的弱者グループの生活改善、4)運営・執行の分権化に基づいた参加型のM&E(モニタリング・評価)アプローチ、の4つを柱とした開発を進める方針を打ち出した。なお、2005年11月現在、第二次PRSP(2006-2008)を策定中である。

b. 日本の対セネガル援助

 日本政府は1995年の政策協議に基づいて国別援助方針を策定し、その後の1998年、2000年、2004年の政策協議等を踏まえ、概ね以下のような対セネガル援助政策を取ってきた。

・目的:

上位目標: (持続可能な経済成長)
中期目標: 1)貧困問題の解決、経済社会発展の基礎造り、社会サービスの充実
2)環境の保全
3)食糧作物の生産拡大(生産性向上)
・重点分野:
  1) 生活用水: 地下水開発
2) 教 育: 基礎教育
3) 基礎的保健・医療: プライマリー・ヘルス・ケア、公衆衛生、エイズ(1997年から追加)
4) 環境(砂漠化防止): 苗木供給、植林運動
5) 農 業: 食糧増産援助、灌漑施設整備
6) 水産業: 零細漁業の振興
ただし2004年より、7) 人的資源開発、8) (経済)インフラの2分野が追加。
・分野横断的課題/留意点:
  1)南部の武装独立運動の動向、2)キャパシティ・ビルディング、
3)ジェンダー主流化、4)貧困削減、5)対外債務問題
・援助形態:無償資金協力と技術協力
・援助手法:1)他ドナーとの協調、2)スキーム間連携、3)南南協力

(2)目的に関する評価

 過去10年間の日本の対セネガル援助政策は、1995年に策定の国別援助方針を基本としていたが、目的(上位目標と中期目標)や達成目標を明示しておらず、開発課題ないしニーズの記述が羅列的であるなど、不十分な面があった。重点6分野、および優先的に取り組む重点サブセクターを国別援助方針が明示していたのは妥当だった。ただし、セネガルへの援助規模に照らせば、重点分野を整理し、絞り込む必要があったと思われる中で、2004年に8分野へと拡大したのは妥当性に欠けていた。分野横断的課題に関する記述は、南部の武装独立運動への留意のみで、セネガル側の重要課題だった地方分権化には政策的な対応が見られなかった。また、援助形態に関しては、セネガルが債務削減対象国であり、円借款を供与せず、無償基金協力と技術協力で対応してきたことは妥当であった。援助手法として他ドナーとの協調やスキーム間連携を明示し、TICAD II東京行動計画の推進という表現で間接的に南南協力に取り組もうとしてきたのは、概ね妥当と言える。
 全体として過去10年の対セネガル援助政策は、日本のODA上位政策、国際イニシアチブおよびセネガルの国家開発計画については、概ね整合していた。整合性が弱いないし取れていない分野・課題としては、民間セクター支援、貧困層/社会的弱者層への支援、地方分権化、ジェンダー、NGOとの連携、市民社会との対話があった。

(3)プロセスに関する評価

 援助政策策定過程の適切性については、2000年以前に3回開催された政策協議のタイミングは適切であったが、2004年の協議については、2002年に完全版PRSPが完成していたことを鑑みると、開催時期は遅かった。政策策定の準備過程については、セネガルの開発ニーズを体系的に把握するメカニズムが弱いという指摘がセネガル側からあった。しかし、現地タスクフォース主導となった2004年以降は適切性が高まっているように思われる。このため、1990年代の政策協議は内容・レベル・インパクトともに適切だったが、2000年以降は、外務本省・JICA本部も参加したハイレベルの政策協議を定期的に行なって、新たな援助方針の策定・見直しをすべきだった。
 政策実施過程の適切性については、水供給、教育、環境、農業分野は、ほぼ重点サブセクターに絞って案件が選定されてきた。ただし、環境と農業分野は、実施内容がセネガル側のニーズとは合致してない一面があったと思われる。また、保健衛生分野と水産分野については、当時の援助キャパシティに見合わない重点サブセクターを選んだことが、適切性を欠く結果となっている。この他、援助形態に関しては適切に実施されたが、援助手法については、国別援助方針として具体的な提示がされていないため、適切性の評価が困難な課題が多かった。今後、政策実施の適切性を確保するには、達成目標や達成度を測る指標を国別援助計画に明記し、モニタリング・評価の時期、方法などについて十分にセネガル側と協議することが重要である。

(4)結果に関する評価

 重点分野別では、水供給、人的資源開発(職業訓練)、水産分野の成果、インパクトが、ともに大きかった。また、教育、環境分野(教育分野の中の就学前教育、環境分野の村落林業など)でも一定の成果が見られた。一方、保健・医療、農業分野では限定的な成果しか見られなかった。分野横断的な課題として、貧困削減に関しては、日本は農漁村部や遠隔地への支援が他ドナーよりも多く、貧困層が裨益してきたと見なすことができる。
 援助形態に関しては、技術協力は、中央政府からコミュニティ・レベルまでセネガル側の能力強化に貢献している。無償資金協力については、セネガルの政府、NGOともに、その質については高く評価しているものの、タイド(ヒモ付き)援助であることによって非常にコストが高いものになっていると指摘している。援助手法に関する成果については、援助協調はまだ日が浅いこともあって、成果が現れるまでには至っていない。スキーム間連携は、特に無償資金協力と技術協力の連携が深まりつつあり、効果を上げてきているが、南南協力はまだ実績も成果も限定的である。その他セクター間連携とNGOとの連携は、限定的ながら一定の成果を上げている。セネガルの状況や開発課題に鑑み、諸連携、中でもNGOとの連携を今後強化することが望まれる。
 日本は基本姿勢としてセネガル側の主体性を尊重した援助を行なってきたことで、全体としてセネガルのオーナーシップや自立発展性の醸成に寄与してきたと言える。特にソフト面の援助は、分野による違いはあるものの、総じて中央から住民レベルまでセネガル側の能力やオーナーシップを高め、持続性や自立発展性を向上させていると言える。

7.提言

(1)「対セネガル国別援助政策」のあり方に関する提言

目的および目標の明確化

 援助の一貫性、透明性、予測可能性、効果を高めるために上位目的を明示するとともに、5年間程度を目処にした具体性のある中期目標を設定する必要がある。中期目標は、セネガル自身の開発目標に沿って、可能な限り数値目標を含めて提示することが望ましい。

「選択と集中」の徹底

 セネガルでは準メジャードナーの日本が成果・インパクトの高い援助を行なっていくには、思い切った絞り込みが欠かせない。選択と集中にあたっては、セネガルの開発ニーズを中心としながら、これまでの日本の実績や比較優位性、他ドナーとの協調などを勘案して決めるのが適切と言える。以下に、分野を基準に絞り込んだ場合と、課題を基準に絞り込んだ場合の「試論」を以下に示す。

分野を基準とした場合: 開発ニーズが高いと思われる分野は、農業や民間セクター支援で、日本が実績、比較優位をもつと思われる分野は、水供給や水産、人的資源開発分野である。

開発課題を基準とした場合: PRSPなどから「持続可能な経済成長」、「貧困削減と格差是正」、「キャパシティ・ビルディング(能力強化)」が開発課題と思われる。「持続可能な経済成長」は、農漁業の振興、民間セクター支援や経済インフラ整備、職業訓練、環境保護により、「貧困削減と格差是正」は、基本的社会サービスの提供(教育、保健衛生、生活用水)やジェンダー主流化、NGOとの連携により、そして、「キャパシティ・ビルディング(能力強化)」は、行政官や地域住民を対象とした人材育成などによって達成されうる。

 現在主流となっている課題別アプローチを取る場合には、以下のように内容を絞り込む必要がある。貧困削減と格差是正には、持続可能な経済成長(零細農業意・零細漁業の振興、中小企業支援、農村インフラ整備など)に絞り込む、基礎教育・ノンフォーマル教育、農村部の保健医療に絞り込む、人材育成を地方・草の根レベルに絞り込む、などである。

取組み姿勢の明記

 開発課題への取り組みには、「留意する」といった曖昧な表現ではなく、取り組みの方針・姿勢を明確にすることが望まれる。また、条件や環境が変化し当初の方針・姿勢を修正する場合には、理由を明確にして修正する。

援助形態の検討

有償資金協力(円借款)への慎重な対応: セネガルは重債務貧困国(HIPCs)のひとつなので、有償資金協力の実施にあたっては、債務の持続性などを慎重に検討して対応する必要がある。日本として債務負担能力があると判断する場合には、その判断の根拠を示す必要がある。

財政支援の試み: 当面はプロジェクト型支援を基本としつつも、財政支援に試行的に取り組んでいくことが望ましい。セネガル政府のオーナーシップを高めるため、そして、財政支援の動きが強まるセネガルで、消極的な姿勢のままでは日本援助の重点分野・課題においてリーダーシップを取れない恐れがあるためである。アカウンタビリティーの問題などにも配慮し、他国の先駆的取組みに学びながら、漸進的に取り組む必要がある。また、プロジェクト型支援と組み合わせて実施していくことが望ましい。

援助手法の駆使

各種連携の強化: 援助の効果・効率を高めるために、ドナー間・スキーム間・セクター間連携、NGOとの連携など各種連携について強化していくことが望まれる。スキーム間連携は成果を上げており、セクター間連携も潜在性が高い。活発かつ成熟したNGOセクターが存在し、地方分権化が進むセネガルでは、NGOとの連携を強化することが適切と言える。

南南協力の推進: 西アフリカおよび仏語圏アフリカの中心的国というセネガルの優位性を活かし、地域内の南南協力を推進していくことが望ましい。東アジアの経験に学びたいというセネガル側の強い意欲をにこたえ、アジア‐アフリカ間の南南協力に積極的に取り組んでいくことも望まれる。

セネガルとの枠組み合意と定期政策協議

セネガルとの枠組み合意: セネガルのオーナーシップを高め、両国間のパートナーシップ強化のため、セネガル側と開発協力に関する中期の枠組み合意を行い、枠組み合意に準拠して国別援助計画を策定することが望ましい。枠組み合意では、5年程度の達成目標、開発課題・分野、達成方法、中間レビューや評価のスケジュール・基準、双方の役割・義務などを明確化する。また、日本側が期間中のおおよその援助額を提示することによって、セネガル側は予測可能性を高めることができる。

定期政策協議: 上記枠組み合意や国別援助計画の策定・見直しには、ハイレベルの政策協議を開催する必要がある。中間レビュー実施にも同様である。ハイレベル協議では、現地ODAタスクフォースの主体性を尊重しながら、外務本省やJICA本部も参加し、ODA上位政策や諸イニシアチブとの整合性を確保する。それ以外の年は、現地ODAタスクフォースがセネガル政府と年次協議を行なう。

 定期政策協議の開催や枠組み合意・国別援助計画の策定にあたっては、正統性や透明性を確保すべく、市民社会(NGO)をはじめとするステークホルダーの参画を得る。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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