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ルーマニア/ブルガリア国別評価

1. テーマ: ルーマニア/ブルガリア国別評価
写真
2 .調査対象国:ルーマニア/ブルガリア
  現地調査国:ルーマニア/ブルガリア
3. 評価チーム:
(1)評価主任:田中 弥生
 (独立行政法人 大学評価・学位授与機構 准教授)
(2)アドバイザー:中島 崇文
 (学習院女子大学 国際文化交流学部 准教授)
(3)コンサルタント:
 財団法人 国際開発センター
4. 調査実施期間:2008年6月~2009年3月

5.評価方針

(1)目的

  1. 日本の対ルーマニア/ブルガリア援助政策の総括評価として支援の成果を総合的に確認すること
  2. EU加盟を果たした両国に対して、ODA卒業を見据えた援助のあり方を考える上で参考となるような提言を得ること、加えて、ルーマニア/ブルガリアがODA卒業を間近に控えていることから、対ルーマニア/ブルガリア援助と類似の特徴を持つ他国への援助に際して参考となる教訓を導き、提言を得ること
  3. 評価結果の公表を通じて国民への説明責任を果たすとともに、ルーマニア/ブルガリア政府関係者や他ドナーに評価結果をフィードバックすることで今後の両国の発展の参考とし、かつ日本の援助の広報に資すること

(2)対象・時期

 ルーマニア/ブルガリアがG24の支援対象国となった1990/1991年から両国がEUに加盟した2007年まで

(3)方法

 外務省発行の『ODAガイドライン第4版(2008年5月)』及びその後のODA評価有識者会議での議論に基づき、「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3つの視点から総合的に検証を行った。

(4)評価の制約

 国別援助計画は援助量・戦略的重要性を考慮して策定国を選定していることから、ルーマニア/ブルガリアに対しては、これまで国別援助計画が策定されておらず、あるいはそれに類する日本の援助計画を明文化したものが存在しない。また、本評価の対象期間が長期にわたること、ルーマニア/ブルガリアがDAC分類においてODA対象国に分類されていなかったことから、入手できる情報・データが限定されていた。本評価は、以上の制約の下で、入手可能な情報・データを関係諸機関からのヒアリング調査に基づいて実施された。

6. 評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 日本の対ルーマニア/ブルガリア援助は、両国の国家目標である民主化・市場経済化、EU加盟を一貫して支援してきた。この支援内容は、日本の上位政策(新旧ODA大綱、新旧ODA中期政策)、主要ドナーの援助政策や国際潮流とも合致しており、整合性は高い。
 ルーマニア/ブルガリアにおいては、ドナー会合の実績は多くない。EUが最大かつ最重要なドナーであったため、案件形成時に他ドナーの援助動向を把握し、適切な政策協議が行われていれば、ドナー間で援助が重複することはなく、援助協調の必要性は高くなかった。日本は、大使館、JICA現地事務所を中心に相手国政府と日常的に密なコミュニケーションを取り、案件形成時には必要十分な情報収集を行ったため、援助協調が少ないことによる問題は確認されなかった。
 一方、日本の重点分野は、他ドナーと比較するとやや分散傾向にあり、「選択と集中」の観点からは、重点分野の絞込みが検討されるべきであった。しかし、重点分野が分散傾向となったのは、相手国に定期的な開発計画が策定されない状況が続く中、日本が具体的な支援を検討する言わば試行的段階が続いたことが一つの理由と考えられる。そのような状況の中、日本が、地震災害対策、省エネ対策、港湾・地下鉄整備等、日本が比較優位をもつ領域で支援を行ってきたことは評価できる。
 また、日本の文化無償資金協力による機材供与、施設建設などは、他のドナーにはない貴重な協力としてルーマニア/ブルガリアで高く評価されていたことが現地調査を通じて確認された。

(2)「結果の有効性」に関する評価

 日本の対ルーマニア/ブルガリア援助政策・援助活動は、両国への援助の政策目標である「市場経済化」、「二国間関係の発展」に、一定の役割を果たしたと評価できる。
 「市場経済化」については、ルーマニア/ブルガリアが2007年にEU加盟を果たしたことから、EU加盟支援を通して両国の「市場経済化」を目指すという日本の政策目標は達成された。ただし、日本の貢献度を資金規模だけでみると、総額でEUの10分の1程度であることから、日本の貢献度は限定的であったと言わざるをえない。援助の重点分野における目標の達成度では、インフラ整備、環境保全、省エネ等において顕著な改善がいくつか確認された。
 「二国間関係の発展」では、日本のODAと二国間関係の発展の因果関係を定量的に説明することは困難ではあるが、日本のODAの独自な協力である人的交流・人材育成を重視した協力、文化協力等を通して相互理解が促進され、二国間関係の発展に貢献した。外交関係、経済関係、文化関係それぞれの局面において一定の成果が確認された。
 有効性の促進要因として、ルーマニア/ブルガリアが東欧諸国の中でも親日国であることが挙げられる。最も困窮した時代に日本がタイミング良く支援してくれたという感謝の念、頻繁な広報による日本のODAの認知度の高さ、旧共産党時代からの良好な歴史が、親日度を高めた要因と考えられる。また、相手国の状況とその時々のニーズを的確に把握し、柔軟にスキームを使い分けた協力を行った点も促進要因として指摘できる。具体的には、研修受入・専門家派遣から開始し、相手国の受入れ態勢が整ったところで技術協力プロジェクトを実施し、マクロ経済が安定したところで円借款の供与を行うというプロセスが取られた。さらに、日本は各重点分野の中でも、日本が高い技術を有し、比較優位を持つ領域に協力を集中させていた。ルーマニア/ブルガリアが日本の高度な技術を受入れられる体制・能力を備えた中進国であったことも功を奏し、結果、高い成果の発現に繋がった。
 援助効果の持続発展性の観点では、ルーマニア/ブルガリアがODA卒業の段階にあることから、これまでの協力で培われた人的アセットの維持・活用とODA卒業戦略について両国の取り組みを確認した。両国ともJICA研修員同窓会が創設されており、JICA事務所閉所後の活動の維持が期待される。ブルガリアでは、技術協力プロジェクトからの波及効果として、ブルガリア産業界の品質向上に関する表彰制度が創設されている。このような具体的なタスクを持つことで、組織の持続発展性が高まると期待される。また、ODA卒業戦略として、EU加盟に伴いドナー化が義務付けられた両国に対するドナー化支援のためのCD(キャパシティ・ディベロップメント)と、CDの先にあるODA案件の日本との共同開発・共同実施が検討されている。その際、JICA同窓会メンバーをリソースパーソンとして活用することも期待されている。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価

 協力開始当初、ルーマニア/ブルガリアとも旧JICA事務所は開設されておらず、旧JBIC事務所は最後まで開設されなかったが、大使館と現地JICA事務所を中心に密な連携が取られ、適切な援助実施プロセスが取られてきた。公式な政策協議の実施回数は少ないものの、プロジェクト選定調査等の機会を利用して、日本及びルーマニア/ブルガリアの関係諸機関と情報共有を図ってきた。
 また、協力開始当初は、両国とも西側諸国から援助を受けた経験が少なく、日本の援助スキームの説明、信頼関係の構築が必要であったが、大使館やJICA事務所を中心に、長年の努力の結果、良好な関係が継続している。両国では、援助協調の必要性は高くなかったが、日本側の密なコミュニケーション努力と、両国のオーナーシップの高さ、中進国としての受入れ能力の高さが、それを補っていたと考えられる。
 特にブルガリアにおいては、体制転換後の政情が不安定な時分より、大使館がメディアとの信頼関係の構築に努力してきた。この結果、日本の協力は、国営放送等で頻繁に報道されるほどになっている。広報によって日本のODAの認知度が上がり、国民レベルでの親日度が高まることによって、後継の日本の協力に賛同が得られ、スムーズな実施が可能となり、結果高い効果が発現するという好循環が確認された。

7. 提言

 本評価の対象国であるルーマニア/ブルガリアは、日本のODA卒業の段階に差し掛かっている。このため、以下の提言は、ルーマニア/ブルガリア援助と類似する特徴を持つ他国への援助をも対象とした提言となるよう一般化を試みたものである。

(1)「国別援助計画」あるいはそれに準じる援助計画の策定

 PDCAサイクル 1 の構築と維持は骨太方針にも謳われ全省庁的なコンセンサスとなっている。ODA政策も例外ではなく、評価から得られた教訓や提言を次の行動計画に反映するように努めてきた。援助計画とはまさにPDCAサイクルのP(plan)にあたるところである。よって、援助計画がないということはPDCAの「P」が欠落することになり、PDCAサイクルの構築と維持を困難にすることになる。
 2008年現在、ルーマニア/ブルガリアを含め、日本の二国間ODA対象国の80%以上にあたる123カ国については国別援助計画が策定されていない。援助計画は、政策担当者や実施機関の案件管理手段であるだけでなく、当該国におけるODAが目指す目的と方向を示すメッセージでもあり、相手国政府および国民、また日本国民への伝達手段である。また、援助計画を策定し、それを公開することは国民への説明責任という点からも肝要である。全ての国に重点国と同等の援助計画を求めることは、時間の面からもコストの面からも現実的でないことから、現行の国別援助計画に準じる形で、援助目的、方針、重点分野を明らかにした国別援助計画(簡易版)、ストラテジー・ペーパー、あるいはそれに類するものを作成することを提言する。

(2)トップドナーでない国における援助の工夫の他への活用

 トップドナーでない国においては、人的交流・人材育成、日本の比較優位性、日本の独自性を重視した支援等を行うことにより、少ない援助資金でより大きな効果が得られるような工夫を意図的に行うことを提言する。

(3)ODA卒業国への戦略的支援の実施

 ODA卒業国に対しては、これまでの援助で培われた人的アセットの維持・活用、ドナー化支援のためのCDを行う等、戦略的支援シナリオを準備することを提言する。
 CD支援の際には、両国にも相応の費用負担を求める等、卒業国としての自立を促すよう留意する必要がある。また、CD研修に終わらず、例えば日本の比較優位性の高い分野において、第三国へのODA支援を日本と共同で開発、実施する「三角協力」のシナリオが用意されていることが望ましい。「三角協力」を実施する際には、最終的な援助対象国となる第三国の選定を慎重に行うことが肝要である。援助対象となる国は、ルーマニア/ブルガリアといったパートナー国との政情、近隣国との関係など日本の外交上の視点にも留意して選定する必要がある。
 「三角協力」を実施する際、ルーマニア/ブルガリアのJICA同窓会のリソース等、日本の協力で育成された人的アセットを活かせれば、日本国のみならず諸外国に対してもアピールしうるドナー化支援のモデルの一つとなるだろう。


  1. PDCAサイクルという名称は、サイクルを構成するPlan(計画)、Do(実施・実行)、Check(点検・評価)、Act(処置・改善)の4段階の頭文字をつなげたものである。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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