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「NGO・外務省との共同評価」(ラオス)
カムアン県農林複合プロジェクト
ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズ II

1. NGOとの共同評価:
 政府の援助関係機関とNGOが実施しているプロジェクトについてそれぞれのプロジェクトの成果と貢献度を双方の視点から共同学習することにより、今後の双方のプロジェクト形成・実施、援助方針・戦略などにフィードバックしつつ、これを通じてNGOと政府の援助関係機関の協力推進を図ることを目的とした評価である。
 97年10月にバングラデシュ、99年3月にカンボジアで実施された。
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2.国名:ラオス
3. 評価対象プロジェクト:援助形態
(1)カムアン県農林複合プロジェクト
 (NGOプロジェクト:日本国際ボランティアセンター(JVC)プロジェクト、1997年7月~2000年8月)
(2)ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII
 (ODAプロジェクト:プロジェクト方式技術協力、1997年11月~2002年10月)
4.評価調査団:
(NGO側)
 和田 信明 ソムニード・サンガム専務理事(名古屋NGOセンター専門委員)
 磯田 厚子 女子栄養大学助教授、日本国際ボランティアセンター副代表(NGO活動推進センター)
 中田 豊一 関西NGO協議会 顧問
(外務省側)
 今井 洋之 外務省経済協力局民間援助支援室事務官
 西野 恭子 国際協力事業団国内事業部国内連携促進課課長代理  宮崎 慶司 オーバーシーズ・プロジェクト・マネージメント・コンサルタンツ株式会社企画課長
5.現地調査期間:
(1)2000年2月10日~12日
(2)2000年2月14日~16日
6. プロジェクトの分野:
(1) 参加型開発、環境、農業
(2) 参加型開発、農業
7.プロジェクトの目的:
(1) カムアン県農林複合プロジェクト
 カムアン県6郡の25村において村の土地森林移譲手続き(注)を支援し、また自然農法を普及させること により、村人が自らの森を守り、持続的に管理・運営できるようになり、森林資源と共存した持続的農業を営めるようになることを目指す。また、同時に女性ボランティアを育成したり、ジェンダー問題に関する研修を村人、女性同盟、県郡の行政官に対して行うことにより、男女の平等な社会参画の促進を図る。
(2) ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII
 ヴィエンチャン県のプロジェクト対象5村において、村落開発委員会、各種農業振興グループなどの農民組織を育成し、小規模な灌漑システム等の農業基盤整備、農業生産技術の開発、生活用水やトイレなどの生活環境施設の整備、研修などの活動を支援することにより、農民参加による持続的な農業農村開発のための方法および技術が確立されることを目指す。
(注)ラオスでは土地の所有権は基本的に全て国家に帰属することとなっているが、土地森林移譲法に則って登録された森林および土地については、その管理と利用権は国から地方自治体、村、個人、企業体に移譲することができる。土地森林移譲法の主要目的は森林の不法伐採を防ぎ、森林を保全することである。森林管理の原則は、環境に影響を与えることなく持続的に森林を利用することと定められている。JVCが行う土地森林移譲手続きの支援とは、これまで村人が慣習的に行ってきた森林の管理と利用を、土地森林移譲法の手続きを踏むことにより、法的に村人に保障する活動を支援することである。
8.評価結果:
(1)カムアン県農林複合プロジェクト
 (イ) 経済面の開発(Economic Development)の視点からの評価
JVCが導入する自然農業の方法は、自然環境および人体に与えるダメージもなく、コスト的にも技術的にも村人自身が比較的容易に導入や実践ができることを目指している。この自然農業の活動は1999年より開始され、現在は試験導入段階にあるため、村全体が農業生産の向上を実現するまでには至っていない。
 (ロ) 環境面の開発(Ecological Development)の視点からの評価
本事業はラオス政府が推進する土地森林移譲政策をプロジェクトの中心コンポーネントとして巧みに取り込み、住民参加型の環境保全や保護と密接に連動したかたちでプロジェクトを組み立てており、優れた着想である。本事業は、それより前に行われたJVCの森林保全プロジェクト(1993年~1996年)を引き継いだかたちで行われているが、前事業の実績を含めると1999年末においてカムアン県下約800村のうち86村で土地移譲が完了しており、そのうち16村がJVCが支援した村であった。JVCが支援した村においては、森林保全に対する村人の意識が根付き、無秩序な森林伐採を食い止めることができ、自然環境の破壊を防ぎ、森林の持続的な保全と利用を促進することに貢献した。
 (ハ) 地域社会・生活共同体の開発(Community Development)の視点からの評価
本事業のカウンターパートであるカムアン県および郡の農林局行政官に対しての参加型開発の技術や手法に関する技術移転は一定の成功を収めており、土地森林移譲手続きを住民主体で行うという意識が地元行政側に広がりつつあることを確認した。
(2)ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII
 (イ) 経済面の開発の視点からの評価
 小規模灌漑などの農業基盤整備、農業生産技術の普及・開発のための農業振興グループの活動などは、現在も進行中のものであり、これらがどの程度の目標を達成できたか、あるいは各農家経済にプラスのインパクトを与えたかについては、現時点ではよくわからない。
 (ロ) 環境面の開発の視点からの評価
 環境への配慮はプロジェクト実施において優先度は高く、例えば農業基盤整備に係る構造物の建設においても、工法、技術、設計、規模などの面で、環境に配慮したものとなっている。また自転車式くみ上げポンプなどのアイディアや、化学肥料や農薬投入を極力避けながらの栽培技術の開発を支援するなど、環境への配慮と調和に意欲的に取り組んでおり、その成果も評価できる。
 (ハ) 地域社会・生活共同体の開発の視点からの評価
 住民の発想や提案を引出し、住民の参加を制度化するような適切な形の組織を助成・支援する働きかけの一環として、この事業では村落開発委員会、各種農業振興グループ、水利組合などの農民組織の育成と強化を行ってきている。この活動も現在進行中であり、また組織が成熟しその成果が発現するまでには時間がかかる。
9.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等):
(1)各プロジェクトに関する提言
 (イ) カムアン県農林複合プロジェクト
(a)単に森林保護だけでなく、森を利用しながら保全して行くという自然資源管理の視点に立った林業の確立と技術の普及についても今後検討する必要がある。
(b)自然農法に関しては外からの技術の導入だけではなく、在来の自然農法の技術や篤農家の掘り起こし、およびそれらの改良普及の道も同時に開く必要がある。
(c)ジェンダー活動については、啓発活動だけでなく、いかにして実質的に女性が村の決定に重要な役割をはたすようになるかという点を中心に、活動全体の組み立てとモニタリングの仕方を検討することが必要である。
(d)参加型開発のコミュニケーションの技術をはじめとする関連技術と考え方をより分かり易くかつ普及しやすいものとしてメッセージ化してゆく必要がある。
 (ロ) ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII
(a)プロジェクト対象村の選定基準については、プロジェクトの成果を高めるためにも、さらに分かりやすく明確化する必要がある。
(b)ラオスの社会体制や既存組織の状況を十分考慮しながら、住民組織育成方針をさらに明確にする必要がある。
(c)開発調査の結果をより一層生かしてゆくためにも、社会開発専門家の配置や育成に一層の配慮を期待する。
(2)NGO側と外務省側の連携に関する提言
 (イ) 各NGOが、必ずしも、その分野での技能や経験が組織として十分に蓄積し、かつそのような人材を十分に有しているわけではない。したがって、NGO側と外務省側のプロジェクトレベルでの連携においては、まず、双方とも経験豊かな人材を配置するよう十分配慮すべきである。
 (ロ) 社会開発分野を中心とする人材を互いに育成するためには、互いの現場で学びあうような現場を使ってのインターン制度を取り入れることが必要である。
 (ハ) 援助対象国の人々の生活の現実に根ざした政策決定が必要だが、経験に基づく知見が外務省側に常にあるとは思われない。特定の地域や国に特化して草の根で活動を続けているNGOの知見やネットワークを生かすために、国別援助計画の策定にNGOを参加させるべきである。
10.外務省からの一言:
 今回、評価の対象となったNGO、外務省双方のプロジェクトは、ラオスの基幹産業である農林業において、住民参加を基本とし、そこに自然・環境保全を密接に連動させるメカニズムを組み込むという共通したアプローチを採用しており、ラオスの国土保全と民生安定のモデルケースを開発するという共通の目標を持っていると言える。
 わが国の外務省とNGOの連携を図っていく上で、こうしたプロジェクトを評価対象として取り上げた意義は大きいと言えよう。


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