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フィリピン教育分野評価

1.テーマ:フィリピン教育分野評価(NGO・外務省合同評価)  
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2.国名:フィリピン
3.評価者他:(*はフィリピンでの現地調査参加者)
 本件評価調査は、NGO側、外務省側双方の評価者が、実務コンサルタントの補助を受けながら実施した。
(NGO)
 野田 真里(*)(特活)名古屋NGOセンター理事 / 中部大学助教授
 山本 知恵(*)(特活)関西NGO協議会提言専門委員   
 渡辺 龍也 (特活)国際協力NGOセンター 理事 / 東京経済大学 教員
(外務省経済協力局)
 海老原 厚子 アジア大洋州局南東アジア第二課 外務事務官
 北沢 寛治  経済協力局開発計画課 企画官(~2005年11月)
 吉井 幸夫  経済協力局開発計画課 上席専門官(2005年12月~)
 上田 奈生子(*)経済協力局開発計画課 課長補佐(2005年11月~)
 興津 妙子  経済協力局開発計画課 外務事務官
 深澤 千春  経済協力局開発計画課 外務事務官
 藤田 聡   経済協力局国別開発協力第一課
 小杉 弥恵  経済協力局民間援助支援室 課長補佐
 岩澤 俊輔  経済協力局技術協力課
 正岡 孝   経済協力局有償資金協力課 課長補佐
 上野 徹   経済協力局無償資金協力課
(コンサルタント)
 岩垂 好彦(*)(株)野村総合研究所 上級コンサルタント
 山岸 良一(*)(株)野村総合研究所 上級コンサルタント
 リチャード・ゴンザレス(*)(株)野村総合研究所 上級コンサルタント
 山口 臨太郎(*)(株)野村総合研究所 コンサルタント
4.調査実施期間:2005年9月~2006年3月

5.評価方針

(1)目的
 フィリピン教育セクターに対する日本の援助を総合的かつ包括的に評価し、今後の同セクターに対する我が国の援助方針策定、及び今後のNGOとの協力・連携を通じた援助実施のための教訓、提言を得るとともに、評価の結果を国民に対して公表し、説明責任を果たすことが、本評価調査の目的である。

(2)対象・時期
 2000~2004年度にフィリピン教育セクターに対して実施された39事業を対象とした。

(3)方法
 対象期間中に実施された各案件につき、フィリピンの国家開発計画、日本の対フィリピン国別援助計画を上位目標として目標体系図を作成し、これに沿って1)目的の妥当性、2)結果の有効性、3)プロセスの適切性を評価した。

6.評価結果

(1)目的の妥当性
 日本の援助政策・方針(新旧ODA大綱、ODA中期政策、対フィリピン国別援助計画、BEGIN)、フィリピンの開発政策(中期国家開発計画、基礎教育セクター改革アジェンダ(BESRA))の目的と照らし合わせて、特に貧困削減、基礎生活分野の充足、教育インフラの整備等、重要な項目について概ね整合的であったと考えられる。
 ただし、新ODA大綱、BEGIN、BESRAといった、比較的最近に策定された方針の中には、「人間の安全保障」「ノン・フォーマル教育の重視」「NGOとの連携」といった視点が強調されている。これらは、評価対象期間の後半に策定されたものであり、今後の援助にあたってはさらに重視する必要があると考えられる。

(2)結果の有効性
 結果の有効性については、基礎教育における教育施設整備・拡充は高い成果を収めてきたことが確認された。学校ベースでのマネージメントが導入され、コミュニティの学校運営・経営への参画が促されるなど、その後のフィリピン教育政策へも大きなインパクトをもたらした。これらの取り組みがすぐに教育の質、効率性の向上につながるわけではないが、初等、中等教育においてともに中退率が改善されていないこと、全国レベルで見た学習到達度も、初等教育では若干改善しているが中等教育では低下していることなどが懸念される。
 今後は、中退率を減らす取り組みとともに、学校教育から離脱せざるを得なかった人々に対するノン・フォーマル教育の提供も充実が期待される。高等教育については、まだ成果を評価するのは時期尚早であるが、援助の実施方法については効率性を向上させる余地がまだ残されていると考えられる。中級技能開発については、地域の貧困削減、人間の安全保障という視点から有効性が確認された。

(3)プロセスの適切性
 フィリピン教育セクターにおいては、各種の協調・連携の体制が確立されつつある。大使館、JICA、JBICの間では現地ODAタスクフォースが形成され、教育分野についても、政策の方向性が明文化され、プログラム的なアプローチでの取り組みが始まるなど、連携が強化されている。ドナー間の情報交換、協調体制もここ1年ほどの間で進められている。政策パッケージである「基礎教育セクター改革アジェンダ(BESRA)」が主要ドナーの参画のもとで策定され、BESRAの実施に対して資金を提供するためのプールファンドの可能性も示唆されるなど、協調・連携が進んでいる。地域社会の参画という点でも、コミュニティの学校運営・経営への参画が、特にTEEPにおいて進められている。NGOとの連携については、今後、連携パートナーに相応しいNGOのリストアップ、政策立案・案件形成への参画などを進めていくことが必要になる。

7.提言

(1)正規学校教育を補完するサブセクターへの支援
 就学前教育、識字教育、職業技術訓練といったサブセクターは、正規の学校教育と密接に関連し、補完しあうものである。一度正規の学校教育を離脱しても、卒業程度認定試験に受かることで、学校教育に戻ることも可能である。或いは、中等教育を卒業後、職業技術訓練をブリッジ教育的に受けた上で高等教育に進むという進路もある。
 このような認識のもと、基礎教育とその周辺のサブセクターとの有機的な連携の強化を図ることで、人間の安全保障、「万人のための教育(EFA)」の実現に向けてより高い効果を挙げることが期待される。例えば、学校教育への支援に加えて、その学校の立地地域における代替的な学習手段の提供により、学校に通うことの難しい子ども達に対する教育機会の提供なども考えられる。

(2)教育の質の向上とマネージメント能力の強化への支援

<ソフト面との組み合わせを重視したハード整備>
 日本の援助はハード中心から、ハード、ソフトの組み合わせが重視されるようになってきた。今後も、ハード整備にあたってソフト面の視点をもち、教育の質の向上、マネージメント能力強化の取り組みと合わせることで、高い効果を実現することが期待される。既に実施していることに加えて、人間の安全保障の視点からも、後述するように、NGO等による代替的な教育訓練の提供との組み合わせによって、対象地域全体の能力強化につなげていくことなどが考えられる。

<教育の質の向上に向けた教員養成の充実>
 基礎教育の教員の質の向上に向け、教育省と高等教育委員会の連携・調整を促しつつ、教員養成プログラムを充実させることが必要である。特に、現職教員が教えている科目についての大学レベルの専門教育を受けるためのプログラムの提供と機会の創出が重要である。具体的な連携として、現職教員研修において、教育指導主事や青年海外協力隊員が問題と感じていることを、大学等における教員養成プログラムやリカレント教育を行う高等教育機関にフィードバックする制度を設けることが急務である。教員養成プログラムについて、今後、このようなプログラム開発支援の方法論、有効性は検討に値すると考えられる。

(3)NGOとの戦略的な連携体制構築に向けた取り組み
 EFAの実現に向けて、今後は小学校のないバランガイの解消、都市部のスラムや援助の実施が難しい地域(ムスリム・ミンダナオ自治区(ARMM)等)などにおける校舎・施設整備、少数民族、障害者、不十分なカリキュラムに基づく学校に通う児童・生徒など、多様なニーズを持つ対象への支援が必要になってくる。また人間の安全保障の視点から、学校教育に加えて、貧困等の理由により学校に通えない子どもたち、或いは正規の学校から離脱してしまった青少年、非識字の成人などに対する代替的な学習機会の提供も求められる。
 このような援助の実施に当っては、対象コミュニティを熟知して、教育だけでなく分野横断的な取り組みを行うことができ、需要サイドに起因する問題(貧困等により子どもを学校に通わせることができない等)に対しても、例えばマイクロファイナンスなどを行うことのできるNGOと連携することにより、さらに高い効果を実現することが期待される。
 政府からNGOに対してウィッシュリスト(NGOによる活動展開があればありがたいと思われる活動内容のリスト)の提示、政策立案過程、案件形成過程への主要NGOの参画等を通じて、援助プログラムの中にNGOとの連携を戦略的に位置付けていくことが期待される。
 現在のところ、フィリピン教育セクターに対する援助にあたり、連携しうる有力なNGOのリストアップ、それらNGOの強みのある分野の特定、キャパシティ上の限界などについて、政府及び援助実施機関において十分に把握しきれているわけではない。このため、他ドナーとの情報交換の中で有力NGOの情報を入手するとともに、有力NGOの持つ比較優位の見極め、相互補完の可能性について調査を実施することが必要である。
 また、有償、無償のプロジェクトによって建設された学校に対して、その後の運営支援をNGOが行う、或いは理数科教育の支援でJOCVが派遣期間を終了して引き上げた後の更なるフォローアップをNGOが行うといった形で、現場に根付いた継続的なフォローをNGOが実施するということも想定される。但しこの場合、NGOへの支援スキームが、現在の草の根・人間の安全保障無償、日本NGO支援無償では1年間、草の根技術協力では3年間となっているが、より長期にわたる活動に対する支援が可能となるよう、スキームのあり方についての検討が必要になる。

(4)他ドナー等との戦略的な連携体制構築に向けた取り組み
 既にドナー会合では今後の主なドナーのプロジェクト・マッピングも行われており、重複の排除や全体的なバランスを取ることは行われている。また、第4章で述べたとおり、基礎教育セクター改革アジェンダ(BESRA)は基礎教育に対する包括的な取り組みで、BESRAの実施に対してプールファンドが設置される可能性がある。日本はBESRAの策定に関わってきたが、日本の既存のプロジェクト、今後予定されているプロジェクト等との補完性、BESRAの取り組みの有効性、進捗や成果のモニタリング・評価方法などを十分に担保した上で、必要と判断されればそのようなファンドに参加していくことも考えられる。
 TEEP、SEDIPといったプロジェクトでは、JBICとWB、ADBが協調融資を行ったが、JBICインフラ開発のノウハウ提供と実施、政策調査によるプロジェクト設計への貢献などを行う一方で、WB、ADBは日本の援助として実施しにくい教科書配布などのコンポーネントを実施するなど、相互補完的な体制を構築して実施してきた。今後も、他のドナー等と相互に補完しあいながら、援助の実効性を高めることが期待される。例えば一つの事例として、理数科教育支援は、教授言語である英語に対する生徒の理解力を高めることでさらに生徒の学習成果の向上が期待されるが、オーストラリア国際開発庁(AusAID)、米国国際開発庁(USAID)が英語教育支援を実施しているARMM地域の学校でSBTPを実施するといった連携を行うことも考えられる。
 より具体的には、今後のドナー会合及びフィリピン政府との政策協議、BESRAを通じた基礎教育への包括的な支援の実施の中で、案件の形成・計画を行っていくことが現実的と考えられる。

(5)積極的な「情報公開と広報」活動の推進
 新ODA大綱では、援助政策の立案及び実施について「国民参加の拡大」を掲げ、「情報公開と広報」の推進を行うとしている。これには、国内に対しては、納税者への説明責任を果たすとともに、国内NGO活動の裾野を広げ、国際社会に対しては、日本の貢献をアピールするという背景がある。フィリピンに対する教育セクターへの支援にあたっては、上述の通りNGOとの連携も今後の重要な課題となっている。NGOとの対話を円滑にするためにも、フィリピン教育セクターの課題と日本のODAによる取り組みについて、広く日本、現地、国際社会に情報発信を行うことが重要である。
 広報活動は、国民と国際社会に対する説明責任を果たすだけでなく、日本及びフィリピン市民社会に対してこの国で起っている問題を伝えることで、国民の意識が向上し、フィリピンでの教育支援を行うNGOに参加する国民が増えるという前向きで積極的な参画の促進につながることが期待される。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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