(2000年3月、個人コンサルタント(鈴木千穂)
<プロジェクト概要>
援助形態 |
有償資金協力 |
協力年度 |
92年度 |
協力金額 |
100億円 |
相手国実施機関 |
パキスタン農業開発銀行(Agricultural Development Bank of Pakistan:ADBP) |
協力の内容 |
パキスタン農業開発銀行が実施している農業融資プログラムの拡充化に対する支援計画であり、コンサルタントによるリボルビングファンド設立のための技術協力を含む。
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<評価要旨>
1.効率性及び目標達成度
融資は1991年にさかのぼって始まり、1995年までに全額実行され、現在ではリボルビングファンドにある資金で継続されている。本計画のスキームはサブローンの条件を小規模・自給農家に限定することにより、大規模農家やアグロビジネスなどの事業による不良債権問題を抱えることもなく、究極的な目標であった貧困層に便益を図るという成果があげられた。また、小規模農家に対する農業融資(中期・長期ローン)制度が拡充されたことにより、農家の機械化や農業施設の整備が促進され、農家の所得が向上したと同時にセクター全体としての生産性と効率性の増加に貢献した。パキスタンの場合、大規模農家やアグロビジネス業者ほど政治力や経済力をバックに融資の返済を行わない場合が多く、逆に小規模農家は未返済が将来的に融資を受けられなくなるというリスクを負うため返済率が高い。規模の大きい農家やアグロビジネスをその対象に含んだ他の国際金融機関の支援スキームは失敗したとの評価になっている。
2.インパクト
本計画によるインパクトは多岐にわたる。具体的には、農村部における地域経済の発展、農業開発金融部門の資金基盤の強化、農業セクターの機械化、小規模農家の所得向上およびその波及効果による生活改善(教育・保健・衛生環境などの改善)などがあげられる。
3.計画の妥当性(プロジェクト選定・形成の適正度)
本計画は当国における開発政策、農業セクターのニーズ、ターゲットグループのニーズ、また援助側の政策との整合性が高い。また、農業が当国経済にしめる位置や民族や宗派の多様性から考えて、全国規模で展開された計画は妥当であった。
4.自立発展性
日本政府の円借款供与に始まった融資プログラムは、現在リボルビングファンドを資金源として継続されている(返済率は平均70-80%)。また、受益者である農家の殆どが事業の発展・拡大を実現しており、施設や機材も有効活用されている。しかしながら事業体としては(これはADBPに限ったことではなく、当国一般にもいえることだが)公共機関の抱える肥大した組織とその非効率的な経営、政府の政治介入という問題を抱えており、自助努力による組織改革なども行ってはいるが、その成果を期待するのは時期尚早である。また、今回の評価で露見した最大の問題は、末端レベルでは必要なインフラが整っていないということである。347カ所にある支店はコンピューター化されていないため、各融資案件は“ファイル”として記録され、基本的な情報は月ごとに地域事務所を経て本店へ報告されているものの、それらが統合されて累積データとなるためのシステムがないようである。
5.環境及びWID(開発における女性)への配慮・影響
計画時において環境及びジェンダーヘの配慮は特段うかがわれなかったが、結果として環境及びジェンダーヘの影響は多々見られる。環境に関してはプラス(果樹園などによる植林、農家の所得向上による生活環境の改善など)およびマイナスの影響(揚水機導入による地下水汲み上げの結果としての塩害の促進など)があったと思われる。後者に関しては更なる調査を必要とする。また、ジェンダーヘの影響として、借り手の女性のエンパワーメントや家族の生活改善及びそれらの女性をいわば“ロールモデル”とするようになった周囲の女性に対してプラスの影響があったことは明白である。借り手が女性である場合には返済率も高いという点は経験的に実証されており、我が国として今後の支援を検討するに際して、女性を融資対象の中心とするような計画に協力していくことも一案と考える。