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農業・農村開発に関わる我が国ODAの評価
(重点課題別評価)

1.テーマ:
 農業・農村開発

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2.調査対象国:タイ、バングラデシュ、ガーナ、ペルー
 現地調査国:タイ
3.評価チーム:
(1)評価主任:野田 真里
 (名古屋NGOセンター理事・中部大学助教授)
(2)アドバイザー:松本 哲男 
 (名古屋大学農学国際教育協力研究センター教授)
(3)コンサルタント:
 加藤 正勝
 アイ・シー・ネット株式会社 シニア・コンサルタント
 畔上 尚也
 同 シニア・コンサルタント
 山崎 三佳代
 同 コンサルタント
4.調査実施期間:2006年7月~2007年3月

5.評価方針

(1)目的
 本評価調査の目的は、人間の安全保障の観点に立ち、農業・農村開発分野における我が国のODAが農業の生産性向上、食糧1 の安全保障および人々の生計向上を通じて貧困削減にどのように貢献しているかを中心に評価し、今後の農業・農村開発分野への援助政策の立案と、援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得ることである。それとともに、評価結果の公表を通じて、国民に対する説明責任を果たし、国際協力のパートナーやドナー、NGO/市民社会、受益者にフィードバックすることである。本評価調査では、「農業開発」を生物と生物環境を主対象とし、人や土地、資本などは生産財あるいは生産手段として位置づけて、生物生産と増産を主目的とする開発と定義し、「農村開発」を主要生計手段である農業とその関連産業のほか、社会インフラ整備などのコミュニティ構成員のエンパワメントを含む農村地域の開発と定義した。この定義に基づき次の課題体系図を作成し、ODA大綱・中期政策の重点課題である貧困削減と農業・農村開発援助の関係を具体化した。

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(2)対象・時期
 評価対象事業については、無償資金協力、円借款、技術協力が中心であるが、政策的に今後のODAに影響を与える可能性があると考えられる日本NGO支援無償資金協力や草の根・人間の安全無償資金協力も評価の対象とした。一方、国際機関などへの拠出金による事業については本評価調査の対象としなかった。評価対象期間は、1980年代から90年代にかけて経済インフラ重視から社会インフラ・社会開発重視へと援助の潮流がシフトしていることをふまえ、1996年-2005年の過去10年間と設定した。

 また、本評価調査はODA大綱・中期政策などに規定される重点課題別の援助政策を主な対象とする重点課題別評価と位置づけられ、日本の農業・農村開発援助の貧困削減への貢献を政策レベルで大局的に検証・評価することを目的とするため、その調査対象は1)当分野における日本の政策レベルの取り組みの分析と2)本調査目的に最も適切と思われる途上国から選定された4カ国(タイ、バングラデシュ、ガーナ、ペルー)の国別ケーススタディからなる。ケーススタディ対象国の選定に際しては、まず農業・農村を取り巻く特徴により大きく4つの地域グループとして1)東南アジア、2)サブ・サハラアフリカ、3)南西アジア、4)中南米を設定した。次に各地域グループから、日本からの援助供与額、国別援助計画策定の有無、国家経済における農業・農村セクターが占める重要性などの観点から、農業・農村開発分野での日本のODAの貢献を評価する国を選定した。

(3)方法
 本評価調査では、我が国の農業・農村開発援助政策全般を対象にした政策レベルの分析・検証と、ケーススタディ4カ国(タイ、バングラデシュ、ガーナ、ペルー)の農業・農村開発援助の評価と合わせて総合的に評価し、今後の我が国の農業・農村開発分野での援助政策立案と援助の効果的・効率的な実施に向けた提言を導き出した。

 政策レベルの分析では、農業・農村開発援助に関する全体的な政策の評価を、おもに援助政策の目的と結果の観点から行うが、関係プロセスも考慮する。「開発援助政策の目的」については、その内容の妥当性に焦点をあて、当分野援助の国際的な開発目標、我が国の施策指針やアプローチとODA大綱や中期計画、あるいは他の外交政策など上位政策との整合性、開発途上国の政策や自立発展への努力、受益者のニーズやミレニアム開発目標(MDGs)など国際的な優先課題との整合性を総合的に検証した。「農業・農村開発援助の取り組み・アプローチ」は、国別援助計画における農業・農村開発援助への取り組み、ODAタスクフォースの役割、機能などの観点から評価した。「援助政策の結果」については、援助事業の実施形態・分野、対象地域など多方面にわたっていることから、すべての事業のアウトプット、インパクトを把握することは困難であるため、インプットの実績を把握・分析し、ケーススタディ国での主要結果を参照することで、当該分野における日本の援助政策の貢献度を検証した。

 ケーススタディ国の分析では、農業・農村開発に関わる案件を目的の妥当性、結果の有効性、プロセスの適切性と効率性の視点を基本にしつつ、インパクト、自立発展性も視野にいれた評価とする。また、上記の3つの評価視点に加えて、1)NGO/市民社会など多様なアクターとの連携、2)効果的なスキームの組み合わせ、3)南南協力・広域協力、4)他ドナーの動向と援助協調、5) 持続可能な農業・農村開発の推進を今後さらに重要となる援助アプローチの課題として取り上げて、各国の事例を検証、評価した。

1 本評価調査においては「食糧」は「生きていくための糧」を示す用語法および固有名詞(世界食糧農業機構など)の場合に用い、「食料」は上記を含む食べ物一般を示す用語法、固有名詞をさす。なお、引用・参照については、これにかかわらずそのまま元の文章の用法を踏襲している。(例:ODA大綱における「食料」など)。

6.評価結果

(1)農業・農村開発援助の政策レベルの評価結果

(イ)開発援助政策の目的の妥当性
 農業・農村開発は、人間の安全保障の観点から世界の開発において重要な位置を占めている。貧困・飢餓の撲滅はミレニアム開発目標のトップに位置づけられ、また、多くの途上国において農業は基幹産業であり、貧困層の多くが農村で生計を営んでいる。我が国は農業・農村開発分野のトップドナーであり、当分野の援助政策は、ODA大綱・中期政策に示されている政策との合致、主要相手国の農業・農村開発政策との一致、当該分野での国際的な優先開発課題・潮流との整合性から判断して妥当であると評価できる。ただし、当分野のDAC諸国最大ドナーとしてのイニシアティブを発揮し、より効率的・持続的な援助を実施するために、農業・農村開発援助における分野別政策を整備することが課題としてあげられる。

(ロ)農業・農村開発援助の取り組み・アプローチの適切性
 ケーススタディ4カ国(タイ、バングラデシュ、ガーナ、ペルー)では、相手国の開発政策と日本のODA政策に基づいて国別援助計画(経済協力計画)が作成・改定され、そこで設定された重要課題や取り組みの方向性はJICA・JBICの国別業務実施計画の指針となっている。今後の課題として、体系的な援助の計画・プログラム化や、相手国で日本の援助計画・実施を担う現地ODAタスクフォースの専門的能力の強化、NGO/市民社会との連携強化などがある。また、相手国の開発計画・政策の変更への柔軟な対応が必要である。

(ハ) 結果の有効性
 農業・農村開発分野へのインプットに関しては、我が国は過去10年間DAC諸国の中で最大のドナーであったが、援助額は近年では減少傾向にある。地域分布はアジア中心だが、アフリカや中南米のシェアも拡大し多様化が見られる。当分野での援助内容は9割以上が農業生産性向上と生計向上に集中している。個別案件のアウトプットだけでなく、アウトカムに関する情報や上位目標への案件の貢献度を測るインパクトに関する情報が非常に限られており、貧困削減への貢献を体系的に検証することはできなかった。

(2)ケーススタディ国農業・農村開発援助プログラムの評価

(イ) 目的の妥当性
 ケーススタディ国においては、タイの「足るを知る経済」等いずれも農業・農村開発を重視しており、農業・農村開発援助の貧困削減への貢献、相手国政府の農業・農村開発政策との合致、日本の援助政策との整合性という点で、妥当性は高いと評価できる。日本の経験・技術も活用されていると評価されるが、これについては、これまでの農業・農村開発分野における日本の経験活用の有効性についての包括的な分析が必要と考えられる。

(ロ) 結果の有効性
・農業生産性向上、2)食糧の安全保障、3)生計向上に関する効果を、ケーススタディ国の事例を用いて検証した。農業生産性の向上は、灌漑開発、水管理、農村金融などへの援助を通じて実現しており、収量の増加から所得向上、さらには経済的な貧困の削減に貢献していると考えられる。食糧の安全保障の達成については、自給食糧の生産増加により実現している事例がある。生計向上は、農村インフラ改善による利便性の増大、村落共同体活動の推進、農外収入の向上、農村生活改善などを通じて実現している。

・プロセスの適切性・効率
 1)ODAタスクフォース、2)相手国政府の案件審査能力、3)相手国実施機関の能力、4)プロジェクト実施体制の観点から検証した。ODAタスクフォースは限られた資源を効率的に活用するため、各種援助スキームの連携に努力している。相手国政府側の要請案件審査・選定には、プロセスの適切化・迅速化の余地がある。相手国政府の組織能力は援助プロジェクトの有効性、援助終了後の持続性にとって重要な要因であり、相手国実施機関の財務・組織能力が脆弱な場合、実施の効率性だけでなく自立発展性に課題を抱えることも多い。複数の実施機関やコンサルタント、NGOなど多様なアクターが参加するプロジェクトでは、連携の強化と実施能力の向上が必要になる。特に、NGO/市民社会との連携は、人間の安全保障の観点に立った社会的弱者へのよりきめ細やかな支援の促進のうえで不可欠である。

・妥当性、有効性、適切性・効率性に影響を与えた貢献・阻害要因
 農業生産性、食糧の安定供給、生計向上、貧困削減、プロセスの適切性・効率性などに影響する貢献・阻害要因として、実施機関との継続的対話による実施促進、きめ細やかなニーズ特定・計画策定、農民の考え方・態度に対する理解、受益者・非受益者間の公平性、ターゲットグループの選定があげられる。

・今後さらに重要となる援助アプローチと課題
 今後さらに重要となる援助アプローチ及び課題として、1)NGOなど多様なアクターとの連携、2)効果的なスキームの組み合わせの戦略的制度化、3)南南協力・広域協力、4)他ドナーの動向と援助協調、5)持続可能な農業・農村開発の推進、が挙げられるが、これらは援助の有効性、自立発展性、効率性に影響する重要な要因である。

7.提言

(1)農業・農村開発援助政策に関する提言
(イ) 人間の安全保障の観点に立った分野別援助政策の策定
(ロ) 国別援助計画・業務実施計画のプログラム化の推進
(ハ) インスティテューション・メモリーと事業インパクト・モニタリングと評価の強化

(2)農業・農村開発援助プログラムに関する提言
(イ)人間の安全保障を促進するNGO/市民社会との連携強化と関連スキームの有効活用
(ロ) ODAタスクフォースによる共時的・通時的スキーム連携の戦略的制度化の促進
(ハ) 農業・農村開発分野の日本の経験や途上国への適用等グッド・プラクティスの分析・応用
(ニ) 地域間・地域内の格差や社会的弱者への配慮
(ホ) マルチセクター化に適切に対応する相手国側実施体制の検討と持続的取り組み
(ヘ) 事前・事後評価の強化
(ト) 市場メカニズムの活用とJETRO、民間セクターとの連携
(チ) パートナー国の人的・財務的持続性向上のためのインスティテューション・メモリーの構築
(リ) 新興ドナー支援と南南協力・地域協力の橋頭堡の構築

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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