1.テーマ:ニカラグア国別評価 |
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2.調査対象国:ニカラグア
現地調査国:ニカラグア |
3.評価チーム:
(1)評価主任
山形 辰史
(アジア経済研究所開発研究センター
開発戦略研究グループ長/開発スクール教授)
(2)アドバイザー:
田中 高
(中部大学国際関係学部教授/副学部長)
(3)コンサルタント:
財団法人国際開発センター |
4.調査実施期間:2007年7月~2008年3月 |
5.評価方針
(1)目的
- 国別援助計画を中心とする日本の対ニカラグア援助政策を全般的に評価し、今後の日本の対ニカラグア援助、ひいては日本の援助全体に関わる政策立案、及び援助の効率的・効果的な実施に資するための教訓や提言を得ること
- 評価結果を公表することを通じて国民への説明責任を果たすこと
- ニカラグア政府関係者や他ドナーに評価結果をフィードバックすることで、今後の同国開発の参考となる情報を提供すること
- 日本の対ニカラグア援助の広報に貢献すること
(2)対象・時期
ニカラグア国別援助計画策定(2002年)以降の日本の対ニカラグア援助政策を対象とする。
(3)方法
外務省発行の「ODA評価ガイドライン第3版(2006年5月)」及びその後のODA評価有識者会議での議論に基づき、「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3つの視点から総合的に検証を行った。
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6.評価結果
(1)「政策の妥当性」に関する評価
対ニカラグア国別援助計画と日本のODA政策との整合性は高い。ただし、広域的なプロジェクトに対する支援について、国別援助計画策定時点では、明確な方向性として顕在化しておらず、同計画中では限定的な記述に留まっているため、次回国別援助計画策定時に盛り込むべきであると考えられる。
国別援助計画とニカラグアの国家開発計画の間にも高い整合性が保たれている。国別援助計画は、ミレニアム開発目標に代表される、国際的な優先課題とも整合している。
他ドナーとの間においては、公式の援助協調の機会を通じて、および相互の比較優位を認識した結果として自然に、分業・棲み分けが成立している。ただしセクター・ワイド・アプローチ(SWAPs)を推進するドナーからは、更なる連携強化、情報共有が期待されている。
(2)プロセスの適切性
「農業・農村開発」分野において、日本は農村地域の経済振興と中小農民の生活向上を図るため、資機材の供与と技術や制度の強化といったハードとソフトの両面で支援を行ってきた。1989年に開始されて以来、2004年を除き毎年供与されている「2KR援助」は、農業分野における日本の援助の中でも投入金額が大きい。また、「農畜産物市場開拓調査」及び「中小規模農家牧畜生産性向上プロジェクト(PROGANIC)」は、ニカラグアの経済成長を支援するという目的に整合的である。
「保健・医療」分野に対して、日本は対二カラグア贈与全体の27.5%を拠出しており、資金的貢献度が高い。保健省のヒアリングでは「グラナダ病院建設計画」及び「ボアコ病院建設計画」の保健・医療サービス及びアクセス向上への貢献が特に言及され、高い評価を得ていることが確認された。「マナグア市中長期上水道施設改善計画調査」については、世界銀行が同調査の内容・提言を参考にしたプロジェクト形成・実施を検討しており、他ドナーとの連携の礎となりうる。
「教育」分野への資金投入額は日本の贈与の中で最も大きく、対二カラグア贈与全体の32.9%に相当する。また、広範かつ集中的な基礎教育施設整備・改修を行う日本のスキームは、同分野における援助の一つの模範として、教育省から高い評価を得ている。「初等教育算数指導力向上プロジェクト(PROMECEM)」については、教育大臣が全ての教員養成校でPROMECEMの教授法を適用する事を決定したこと、今後、教育省の財源でPROMECEM作成の教科書の全国普及が進められることに象徴されるように、現地政府の評価が高い。
「道路・交通インフラ整備」分野については、1995年以降、日本が数々の橋梁架け替えや道路整備を継続的に支援してきたこと、また、日本の道路・橋梁の質が高いことがニカラグア政府ならびに他ドナーにより高く評価されている。
「民主化支援」分野では、見返り資金を活用した対人地雷対策支援を実施している。これは、2009年5月までに全ての対人地雷を撤去する、というニカラグア政府の対外公約達成を、強力に支援するものである。
「防災」分野における援助は、近年、災害発生後の緊急支援を臨機応変に実施している。2007年にハリケーン・フェリックスに見舞われた際にも、迅速な支援がなされたことがニカラグア政府から高く評価された。これに加え、「ビジャヌエバ市自然脆弱性軽減及びコミュニティ農村開発支援プロジェクト」等により、住民の防災意識を醸成し、災害被害の軽減を促すような予防技術移転型の援助を実施している。
その他、日本は、2004年7月、HIPCに対する債務削減の枠組みに基づき、ニカラグア政府の全ての円借款債務(129億1,800万円)を免除した。ニカラグアのマクロ経済指標は近年好転していることから、債務削減は一定の成果をニカラグア経済にもたらしたと考えられる。
総じて言えば、日本の援助の結果の有効性は概して高いと結論づけられる。
(3)「プロセスの適切性」に関する評価
国別援助計画の策定プロセスは、当時のニカラグアの開発計画、他ドナーの動向、ODA大綱、中期政策、さらにこれまでの日本の援助実績等を踏まえて策定された、という点で高く評価される。ニカラグア政府関係者も、日本の重点分野については十分承知していた。その一方で、ニカラグアの国別援助計画の英語版及びスペイン語版が作成・活用されなかったため、先方政府や他ドナーに、日本の援助方針の詳細が十分に伝わらなかったという事もあった。
国別援助計画実施プロセスについては、日本側関係者の援助実施体制は適切であったと言える。現地ODAタスクフォース内の連携・意思疎通は十分行われており、また、外務省本省と現地ODAタスクフォースも必要に応じて適宜情報交換を行っていることから、連携は良好である。他方、ODAに従事する職員の量的・経験的充実は課題であり、今後も少ない陣容に留めおかれる場合には、少ないスタッフでより有効な援助を行うべく、機能強化を行う必要がある。
JICA事務所も人員数が少なく抑えられているが、実施案件数が増加傾向にあることを勘案すると、将来的には効果的・効率的な援助の実施が困難になる可能性がある。
案件形成・採択手順については、ニカラグア政府関係者による評価が概して高い。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力の案件形成及び採択については、ニカラグアの団体・機関に対する毎月の説明会の実施、詳細な選考チェックポイント表の活用が効果的になされており、その独自性・有効性は特筆に値する。
日本の援助事業に対するモニタリング・評価も適切に実施されていると言える。特に、草の根・人間の安全保障無償資金協力案件については、ニカアグア大使館では他の国に先行して体系的にモニタリングに取組んできたことが高く評価できる。ニカラグア政府との連絡・調整について、関係各省庁へのヒアリングでは、「日本の援助方針や手続きに関しては十分に説明を受けており、よく理解している」との意見が多かった。要請内容を見ても、ニカラグア政府が日本の援助方針から大きく逸れた案件を要請することはなく、両国の意思疎通は良好であると思われる。また、ニカラグア側の援助受入れ体制に関しては、外務省対外経済協力庁、農牧林業省に政策アドバイザーの専門家を派遣し、政府職員に日本の各種援助スキームへの要請方法、実施手順等の周知を支援していることから、整っていると言える。
他ドナーとの情報交換は、ニカラグア政府と共に開催しているドナー会合において行われている。この他、現地ODAタスクフォースが各分野毎に、日本が行っているプロジェクトの実施状況を公式に報告する等の方法で、他ドナーと情報交換している。今後は、公式・非公式を問わず、分野毎の担当者の間で、日本と他ドナーの情報交換がより積極的に行われることが期待される。
日本の援助スキーム間の連携に関しては、大使館経済協力担当書記官、JICA事務所員、専門家、青年海外協力隊員による「意見交換会」を中心に行われている。ニカラグアは他の国に比べても技術協力プロジェクトと協力隊員の連携が進んでいる国であり、その戦略的な取組は高く評価される。
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7.提言
(1)対ニカラグア
(1-1)新しいニーズへの対応
近年、ニカラグアにおいては、従来の国別援助計画の重点分野に挙げられていない新しいニーズ(エネルギー・環境問題、治安問題等)が現れており、日本として今後、これらの分野に支援する可能性を残す必要がある。
(1-2)援助実施体制強化
援助協調の進むニカラグアにおいて、利用可能なあらゆる手段を講じて、国内外の情報収集、スタッフの経験充実を図り、少ない陣容で有効な援助を行う必要がある。
(2)日本のODA全体に関する提言:非アフリカ低所得国への援助
(2-1)ODAタスクフォースの創意を活かす:ニカラグアでの経験より
ニカラグアにおける草の根・人間の安全保障無償の実施方法に見られるような独自の工夫を推進することで、ODAタスクフォース全体の活性化をはかることが重要である。
(2-2)プレゼンスを維持するためにも援助協調を:まずは情報収集・提供から
今後日本の援助額が減少する可能性を念頭に置くのであれば、日本の存在感を維持するために、より積極的に援助協調の輪の中に入り、情報収集や情報提供を進める必要がある。 |
注)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。