5.評価結果
(1)パリ宣言に関する日本の「コミットメント」の評価
オーナーシップ,アラインメントと成果マネジメントという原則に関しては,包括的な政策文書に現れるパリ宣言への日本のコミットメントは明確で(最も包括的な政策文書において明確化されている),一貫性があり(1992年に承認された旧ODA大綱が承認されて以来示されている),更に強化されている(PD行動計画によって具体性を与えられている)と評価することができる。一方,調和化と相互説明責任という2つの原則に関しては,日本のODA政策の包括的文書に見出される日本のコミットメントは多少曖昧である。しかしながら,機関または個々のスタッフのレベルを見ると,上記2つの原則も含め,パリ宣言の各原則に密に対応するかなりの数の取り組みが見られる。
(2)パリ宣言の実施に係る日本の「能力」の評価
日本は能力面で実質的に進歩したと結論することができる。中でも新興のドナー,特にマレーシア,シンガポール,タイ等のアジア諸国を引きこんだ南南協力という点では,日本は主導的立場にあると言うことができよう。日本の最近の努力にはまた,財政支援への参画,JICAとJBICの制度間改革,外務省とJICAの制度内改革なども含まれる。
一方,改善を要する点も三つあると評価チームは考える。まず,特に財政支援に関して,日本政府が特定のパートナー国に財政支援を提供すべきか否かを決定するに当たって検討する基準または要素を明確化すべきである。二点目としては,現場レベルへのより効果的な権限委譲を確保する上においては,ドナー間協調に係る活動の分野が現場事務所レベルの意思決定権限を強化し得る分野の一つと考えられる。最後に,パートナー国の日本大使館及びJICA事務所は,例えば援助協調活動への館員の関与を強化することなどを通じて,援助協調に関する組織的記憶(institutional memory)を蓄積することに一層注力すべきである。
(3)パリ宣言の実施に係る日本のインセンティブ/阻害要因の評価
全体として,日本におけるパリ宣言の実施にはインセンティブと阻害要因の双方がある。機関と現場のレベルでは,相当数のスタッフが熱心に取り組んでいるが,政府の明確なコミットメントと制度的なフォローアップは共に,個人に意欲を起こさせるには不十分である。現場事務所におけるスタッフがいまなお,政府レベルと直接の管理者による強力なリーダーシップの拡充を必要としていることを考えれば,より具体的で包括的なガイドライン,研修や支援を提供し,ODA関係部局と業務担当スタッフがPD原則を守ろうとする動機を推進することが有用である。また,外務省の専門職員の活用に関しては,開発援助分野でのキャリアを進むことを希望する者のためのキャリア・パス・プログラムを導入することが重要である。 |