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ネパール・インフラ整備分野

1.テーマ:インフラ整備
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2.国名:ネパール
3.評価者:
 日本貿易振興会アジア経済研究所研究コーディネーター
 井上 恭子
4.調査実施期間:2001年2月25日~3月17日
5.評価の目的:
 カトマンズ国際空港の航空安全性を向上するため、無償資金協力で導入されたレーダー管制施設と技術協力により整備された航空レーダー管制・保守体制を対象に、レーダー管制制度の、必要性、航空安全性への貢献、空港利用効果への貢献、航空管制システムの管理・運営の自立性、技術移転、ネパール経済への効果の検討を目的とした。
6.評価結果:
(1)必要性:1992年にカトマンズ国際空港空域で相次いで生じた航空機事故を契機に、事故対策として緊急にカトマンズ国際空港の航空安全性を強化することが考えられた。そのため、それまでの無線連絡と目視による航空管制に加えて、レーダー管制制度の導入により航空の安全性・信頼性を高める必要があった。日本政府によるレーダー設備とレーダー管制制度の導入は、この必要性に対応したものであった。
(2)航空安全性への貢献:カトマンズ国際空港はカトマンズ盆地のなかにあるため、航空機は、盆地の周囲にある2000~3000メートルの山を越えて空港に離発着する。従来の無線連絡と目視による航空管制に加えて導入されたレーダー管制は、捕捉空域を飛躍的に広げ、航空機の運航と航空管制を容易にし、空港の信頼性を高めた。ネパール当局からも高い評価が示された。
(3)空港利用効果:カトマンズ国際空港の利用時間帯はレーダー管制導入で拡大し、運行スケジュールの乱れが減り、運行スケジュールの過密化が可能となった。ただし、3100メートルの滑走路1本では、運行スケジュール過密化には限度があること、また滑走路の長さの不足で大型機の乗り入れが不可能であること、さらに盆地の地形により冬期に発生する濃霧のため午前中の離発着が困難な場合があるなど、カトマンズ空港の立地上の制約により、レーダー管制導入による効果発生には制限がある。
(4)航空管制システムの管理・運営の自立性、技術移転:JICA専門家によるレーダー管制官・管制技術官の育成では、レーダー管制訓練・レーダー管制業務方式の策定、訓練シラバス作成、ネパール人管制官へのレーダー管制訓練教授・指導官育成、さらに航空保守技術では、管制技術官としての訓練・資格付与、レーダー技術官資格制度・技能証明制度の確立、保守・システム管理の体制構築などが進められた。第1期の訓練・資格試験で15人にレーダー管制官の資格が与えられ、レーダー運用開始後は、ネパール人管制官による訓練・資格試験が実施され、12人がレーダー管制官の資格を得た。現在、航空管制官は本年度訓練計画で14人が訓練を受けている。レーダー管制人材育成の進展について、JICA専門家への高い評価が聞かれた。ただし、レーダー施設の更なる維持・保守向上の面で、ネパール側から不安が示され、日本側による保守支援と部品調達への希望が出されたが、これに対しては、ネパール側の自立達成の努力もふまえて注意して対応する必要がある。
(5)ネパール経済への効果:国際経済不況、ネパール経済の悪化、ネパール国内政治・治安不安、さらに2001年9月11日同時多発テロ事件以降の旅行客の減少といった、カトマンズ国際空港管制施設整備とは無関係の要因により、カトマンズ国際空港を経由する貨物・旅客には増加が見られない。今後、これらの要因が改善されるならば、カトマンズ国際空港のレーダー管制の効果が発現すると考えられる。
7.提言
 レーダー施設の維持・保守についてネパール側から不安が示された。レーダーによる航空管制という高度技術を伴う技術移転の定着には、高度技術に対応した保守・管理技術体制の確立が必要である。この点についてネパール側に操作・保守・管理への不安と懸念があるのであろう。
 しかしこれについては、とくに二つの点に注意して見ていく必要がある。まず第1点は、ネパール側が、故障発生への対応体制と事故予防体制の確立、また、在庫管理、定期点検、保守手順の確認と徹底といった、レーダーの利用・定着に必要な作業に、どのような努力を払う用意があるのかという点、もう一点は、レーダー施設の保守・点検・部品交換・修理といったレーダー管制制度の維持体制を、ネパール側が自律的かつ自立的に運営する用意があるのかという点である。レーダー管制が真にネパールのものとなるにはネパール側の自律性と自立性の確立が不可欠である。
 しかし高額で高度技術を要する航空管制レーダーと管制システムを、援助プログラム終了後ネパールが自力で維持することは容易ではない。ネパールの財政事情を考えると、機器の保守と修理、部品調達に大きな不安がある。その不安が増大し、また、トラブルが発生することがあれば、空港の安全性と信頼性を損ないかねない。したがって、航空安全性の確保を第1に考えるならば、今後も、日本が継続して関与する必要があるのではないだろうか。しかし日本の関与が必要とはいえ、安易に援助供与を進めるべきではないと考える。カトマンズ国際空港へのレーダー管制の導入と維持・運営には、カトマンズ国際空港を管轄するネパール民間航空公社(CAAN)が経営的・資金的に自律性・自立性を達成すること、ないしは達成の努力を示すことが先ず重要である。CAANの自律性・自立性の達成を厳格に確認したうえで、日本の関与のありかたを考える必要があろう。


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