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モロッコ国別評価

1.テーマ:国別評価

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2.調査対象国:モロッコ
3.評価チーム:
(1)評価主任:橋本ヒロ子*
 (十文字学園女子大学社会情報学部教授)
(2)アドバイザー:堀内正樹*
 (成蹊大学文学部国際文化学科教授)
(3)コンサルタント:
 芹澤明美 グローバルリンクマネジメント株式会社 
 社会開発部 研究員
 三浦順子 グローバルリンクマネジメント株式会社 
 社会開発部 研究員*
 =現地調査団メンバー
4.調査実施期間:2006年8月~2007年3月

5.評価方針
(1)目的
(イ) 1999 年にわが国とモロッコ政府の間の政策協議で合意された対モロッコ援助重点分野に沿って実施されたわが国のODA の成果を検証し、2007年度に予定されている「モロッコ国別援助計画」の策定に向けて、より効果的・効率的な援助の実施に参考となる教訓と提言を抽出すること。
(ロ) 調査結果を公表することにより、ODAの透明性を確保すると同時に、説明責任を果たし、モロッコにおけるわが国のODAに関する国民の理解を促進すること。

(2)対象・時期
 2000~2005 年度におけるわが国の対モロッコ援助政策及び実績(開始、継続、終了した案件)である。これまでわが国は「モロッコ国別援助計画」を策定していないため、本件評価では、1999年に合意された「6つの重点分野」及び、外務省の「国別データブック」に記載されている「モロッコに対するODAの意義」と「モロッコに対するODAの基本方針」の3項目をまとめて対モロッコ援助政策として捉えた。

(3)方法
「ODA評価ガイドライン第3版」(2006年5月)に準拠し、対モロッコ国別援助政策の、1)「目的の妥当性」、2)「結果の有効性」、3)「プロセスの適切性」について調査・分析した上で総合評価をとりまとめ、提言を行った。

6.評価結果:

(1)「目的の妥当性」に関する評価
 わが国の対モロッコ援助政策については、6重点分野には援助目標が示されていないが、モロッコの開発ニーズとの整合性が高く、妥当と判断される。特に、モロッコの中心的な開発課題である「地域格差是正・貧困削減」を6重点分野の一つに設定したと同時に、他の重点分野においても横断的に対応していたことは、適切である。但し、援助政策の論理構成をみると、上位目標と重点分野との関係、横断的視点が体系的に整理されておらず、総花的で戦略性に乏しい。

(2)「結果の有効性」に関する評価
 全般的に各事業レベルで対象地域の生活状況改善や、モロッコ側援助機関・人材の能力向上などの成果が確認された。特に水資源開発(灌漑、飲料水供給)とインフラ整備(道路、電化)におけるインパクトが大きい。農水産業・水資源・運輸インフラ整備等は経済成長のための基盤づくり並びに地方部における生活状況の改善という成果を挙げただけでなく、援助方針および重点分野である「地域格差是正」に貢献した。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価
 日本側関係者によるモロッコの開発ニーズの的確な把握および緊密な連絡に加え、モロッコ側との協議・意見交換が適切に行われたことにより、先方のニーズおよび日本の重点分野に沿った案件を効果的に形成・採択することができた。但し、日本の案件採択手続上の課題から、モロッコ側が求めるタイミングでの事業実施ができない場合がある。これに対しては、現在援助予測性の向上(中期的な援助事業実施計画の導入)等を通して改善に向けて努力をしている。

7.提言

(1) 援助の戦略化
(イ) 対モロッコ援助の意義、位置付け、適切な規模の再検討
 2007年度の「モロッコ国別援助計画」策定に際しては、対中東援助及び対アフリカ援助の枠組み全体の中でのモロッコへの援助の位置付け、モロッコ援助の意義とメリット、援助の適切な規模について再検討することが求められる。
(ロ) 重点分野の再整理
 「国別援助計画」の策定に際しては、上位目標(基本方針)と重点分野の関係、6重点分野の相互の関係、横断的視点の再整理が必要である。その際には、1)持続的経済成長及び社会的発展、2)貧困削減及び地域・社会間格差の是正、の2つの支援の流れを踏まえて、6つの重点分野をモロッコのニーズ、日本の援助実績及び比較優位により総合的に再整理することも有効である。
(ハ) 地域・社会格差是正支援における地域の「選択と集中」及び総合的な地方開発
今後は日本側援助機関全体(オールジャパン)としてまず地域・社会格差是正支援の対象地域の選択基準を設定し、それらに基づいて地域を選択することが有効である。
(ニ) 人間開発に係る国家イニシアティブ(INDH)への参画(コミットメント)
わが国は財政支援を行わず、既存のスキームを活用してINDHの目的・精神に沿って支援を行うことを先方政府に既に通知済みであるが、今後も貧困削減、格差是正支援という枠内で支援してゆく旨の理解を継続的に求めていく必要がある。
(ホ) 環境・持続可能な開発の支援促進
 環境分野はモロッコ側のニーズが高く、かつ日本の比較優位のある分野でもあるので、今後も重点分野としてより一層積極的に支援していくことが望ましい。政策レベルでは、法整備及びマスタープラン策定支援について検討することも一案である。プロジェクトレベルでは、ドイツ、EU、フランス等多くのドナーが先行して実績を積んでいるので、十分に情報交換をすることが肝要である。
(ヘ) 三角協力の戦略化
 モロッコ政府は三角協力を積極的に推進しており、日本も実績があるので、策定予定の「国別援助計画」においては留意点として盛り込むことも一案である。一方、プロジェクト実施に際しては、モロッコを通じて三角協力を行う意義を十分に検討し、戦略的に対象分野を選択していく必要がある。

(2) 貧困削減・男女格差是正など、横断的視点の強化
(イ) 貧困層・社会的弱者への配慮及び文化的多様性の保護の強化 
 地方電化・給水事業等における住民負担が重いことを考慮し、事業の案件審査時から事後まであらゆる段階で貧困層・社会的弱者へのより一層の配慮が必要とされる。また、貧困地域の多くがベルベル地域というモロッコの特殊な社会事情に配慮し、策定予定の「国別援助計画」においては、「文化的多様性の保護」を留意点として盛り込むことが望まれる。
(ロ) ジェンダー配慮の強化
 日本は、プロジェクトレベルでは女性のニーズに意識的に対応している既存案件があるものの、EUのように政府のジェンダー政策形成及びその実施を支援するには至っていないため、今後はプロジェクトレベルでの男女格差是正努力を継続しつつ、日本政府が2005年に発表したGADイニシアティブに沿って政策レベルでの男女格差是正支援を行うことが求められる。

(3) 援助手法の活用と連携
(イ) スキームの連携強化・連携パターンの多様化 
 今後は、1)無償資金協力+技術協力(+三角協力)のみならず、2)同じ地域において現地ODAタスクフォースがスキームの連携を図り地方総合開発を行う、3)既存案件との連携も考慮して青年海外協力隊・シニア海外ボランティアの配置及び草の根・人間の安全保障無償案件の採択を行う、4)開発調査と円借款を連携して計画・実施する、5)円借款で施工中または事業後の案件について技術協力でソフト面の追加的支援を行う、6)日本の比較優位のあるセクターにてセクター改革支援を検討する、等様々な連携パターンを洗い出してみることが有効である。
(ロ) 無償資金協力の継続の検討及び多様なスキームの活用 
 モロッコは無償資金協力と技術協力の段階から円借款支援プラス投資の段階に移行しつつあるが、根深い貧困問題、地域・社会格差及び天災による脆弱性を考慮すると、一般無償資金協力の継続的適用の可能性を検討することが必要である事から、モロッコに適用可能な無償資金協力スキームを洗い出してみることも有効である。
(ハ) ボランティア及び帰国研修員の積極的活用
 INDHへの対応など地方格差是正への支援が引き続き求められることから、既存案件との連携を考慮に入れ、新重点分野に沿って有機的にシニア海外ボランティアと青年海外協力隊を配置していくことが期待される。また、JICA帰国研修員及び「JICA研修員同窓会」の人材を積極的に活用する具体的方法が検討されることが期待される。

(4) 援助政策策定・実施プロセスの改善
(イ) 国別援助計画の策定プロセス改善
 「国別援助計画」の策定プロセスにおいては、1)基本方針、重点分野、横断的視点、留意点が体系的に整理されること、2)現地ODAタスクフォースがモロッコ側カウンターパートとの窓口として原案のレベルから積極的に関与していくこと、3)日本政府の円借款に関する「ローリングプラン」や、検討中の「JICA・JBIC共同国別援助方針」を積極的に活用し、現場のニーズとの整合性を高めることが肝要である。
(ロ) 案件形成・選定・採択にかかる手続きの簡素化・迅速化・透明性向上
 わが国ODA全体の改革の中で、現場への権限委譲及びそれに伴う現場の人員増強、単年度主義の見直しなどを検討する必要がある。また、洪水対策・被災後の復興など緊急性のある案件については、「防災・災害復興支援無償」など迅速に対応できるスキームを活用することも一案である。一方、案件の採択状況及び不採用案件に対する十分な説明によりプロセスの透明性をより高めることが求められている。

(5) 現地体制の強化
(イ) ODAタスクフォースのさらなる連携
 現在JICA・JBICの「共同国別援助方針」策定が検討されており、外務省・JICA・JBICの三者間で情報共有・連携がしっかりとなされているが、策定予定の「国別援助計画」との整合性を図るうえでも、三者のさらなる連携の強化と方針・戦略のすりあわせが望まれる。
(ロ) ナショナルスタッフ(モロッコ人職員)・帰国研修員の活用
 今後環境やジェンダー等の分野での協力を強化し、ドナー会合へのより積極的な参加を図るためにも、現地体制の強化が強く望まれる。モロッコ側との関係の維持・強化、及びアラビア語による広報の推進などの観点からも、ナショナルスタッフ及び各省庁のJICA帰国研修員を積極的に活用していくことが望まれる。

(6) 国家戦略・制度へのアラインメント(整合化)、他ドナーとの調和化促進、及び日本のプレゼンス向上
 パリ宣言の12のモニタリング指標を再点検し、1)案件採択手続きの簡素化・迅速化、2)国内競争入札にかかる書式の他ドナーとの共通化、3)「国別調達アセスメントレビュー」の他ドナーとの共同評価、4)他ドナーとの合同調査団派遣の可能性についての検討、4)協調融資に加えて他ドナーとの他の形態での協力の可能性の模索、等の努力が求められる。また、1)特定分野における特定ドナーとの協調の促進、2)広報手段の拡充、等のアプローチを通じて、今後はドナーコミュニティーにおけるわが国のプレゼンスを高めていくことが望ましい。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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