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対モロッコ支援に関するユニセフとの合同評価

1. 評価対象:

(1)対象国:モロッコ王国
(2)対象案件:ユニセフによる対モロッコカントリープログラム


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2. 合同評価調査団の構成:

喜多桂子(教育・母子保健担当)グローバル・リンク・マネージメント(株)
Simon Latraverse (総括・まとめ)
Karen Hickson (ジェンダー、コミュニケーション担当)
Taufik Bakkala (保健、児童に関する情報システム担当)
Azeddine Akesbi (教育、児童の保護担当)

3. 調査実施期間: 2004年12月12日~2005年8月31日

4. 背景と目的:

(1)合同評価調査の背景と目的:

今回のユニセフとの合同評価は、2003年2月に実施された「第15回日本・ユニセフ定期協議」を受けたものである。そこでは、両者のコミュニケーションの緊密化およびフィードバック確保の観点から合同評価の実施について合意がなされた。ユニセフは162の国や地域において活動を行っており、各支援国において通常5年からなる支援プログラム(以下、カントリープログラム)の計画・立案、実施、モニタリング・評価を実施している。

評価については、年間評価、中間評価、カントリープログラム評価があり、カントリープログラム評価は、支援対象国の政策やニ-ズの明らかな変化が見られる場合に、それらに対応するための戦略的な提言を得ることを目的に実施される。ユニセフが今回、モロッコでカントリープログラム評価を実施することになった背景には、家族法や労働法など、児童と女性の権利の実現に影響を及ぼす多くの国内法の改正がある。こうした法の改正は今後のモロッコ政府の政策や戦略の策定にも影響を及ぼすと予測され、そうした変化に応じて同国における児童と女性の権利の実現に向けたこれまでのユニセフの援助内容や戦略の見直しが必要とされている。

日本がユニセフの対モロッコカントリープログラム評価に参加した主な目的は、(1)ユニセフのプログラムアプローチおよび評価手法を学ぶ、(2)基礎教育および母子保健分野におけるモロッコ国のニーズを把握し、今後の事業形成や援助方針にフィードバックする、(3)ユニセフとモロッコ国において連携するための可能性を探り、効果的な連携のための提言を得ることであった。

(2)ユニセフの対モロッコカントリープログラム評価実施の目的:

  1. 以下の3つの観点から、対モロッコカントリープログラムその役割および妥当性を評価する:(1) 児童と女性の現状、(2) モロッコ国の政策と戦略、(3) 「児童の権利条約 (CRC)」 や 「女性差別撤廃条約(CEDAW)」等の国際法規
  2. 対カントリープログラムのデザインおよび、そのフォーカスについて評価する。具体的には:(1) プログラム・プロジェクトの目的や戦略の策定、(2)「人権を基盤にしたプログラムアプローチ」は、各プログラム・プロジェクトの目的や戦略の設定の他、カントリープログラムのデザインにどのように反映されているか。
  3. 児童と女性の権利実現のために、ユニセフのカントリープログラムの戦略および活動が、国内的・国際的なパートナーとの関係においてどのような点で有利であるかを評価する。
  4. プログラム実施のための支出と結果の観点から効率性に関する評価を行う。
  5. 前期カントリープログラムの中間評価(1999年)以降の予算状況およびプログラム運営資金(通常予算およびその他の予算)の収入状況について評価する。
  6. パイロット・プロジェクトにおいて開発されたツールやモデルが各行政レベルにおいてどのような自立発展性をもたらしたか。また、それらが全国的に導入される可能性を分析する。
  7. ユニセフモロッコ事務所スタッフとモロッコ政府カウンターパートの評価能力を強化するとともに、その経験をユニセフ全体におけるカントリープログラム評価に関する方法とガイダンスの確立のために役立てる。

5. 評価結果:

(1)評価対象プログラムの概要

評価対象となるユニセフの対モロッコカントリープログラムは、「政策支援プログラム(Support for National Priority Programme)」、「農村部における児童支援プログラム(Support for Children in Rural Areas Programme)、「児童の保護プログラム(Child Protection Programme)」、「児童の権利促進に関するモニタリングプログラム(Monitoring on CRC Promotion Programme) の4つのプログラムから構成される。各プログラムのもとで2つのプロジェクトが構成され、その下には2~5のサブ・プロジェクトがある。「児童の保護プログラム(Child Protection Programme)」においては4つのプロジェクトのみでサブ・プロジェクトはない

(2)評価項目と評価結果

  1. 役割:
    カントリープログラムの2つの役割は、1)モロッコ政府が「児童に関する権利条約」で提唱されている児童の4つの権利(生存、発達、保護、参加)を実現することを支援すること、2)教育、保健、地域開発、児童の保護分野における開発ツールとモデルを開発するためのパイロット・プロジェクトを実施すること、である。
  2. 妥当性:
    カントリープログラムの目標と活動は、モロッコ国の優先事項と政策、児童の権利条約やミレニアム目標、「児童にふさわしい世界」に対して妥当性がある。しかし、カントリープログラム立案時には、ジェンダー間の平等は最優先事項とされていなかったため、「女性撤廃条約」に対しての明確な妥当性は確認されなかった。教育分野では、カントリープログラムは、すべての児童が就学前教育と初等教育を受けられるようにすること、教育の質の向上および中途退学をなくすることを目的とした国家政策と戦略を支援している。従って、カントリープログラムは、ミレニアム開発目標のうちの「普遍的初等教育の達成」と「ジェンダーの平等の推進」の達成に貢献している。また、カントリープログラムは、これまでにない新たな分野であり、ユニセフの5つの中期戦略の優先事項とされている、「3歳以下の乳幼児の総合的ケア」にフォーカスしている。農村部における女子教育への介入は十分ではない。保健分野においては、保健省の国家プログラムのほとんどの分野(予防接種、母子保健等)がカントリープログラムに統合されているため、カントリープログラムの目的は国家政策と一致している。また、それはミレニアム開発目標のうちの「幼児死亡率と妊産婦死亡率の削減」と一致している。
  3. デザインとフォーカス:
    現行のカントリープログラムがデザインされた当時は「人権を基盤としたプログラムアプローチ」や「ジェンダー主流化アプローチ」は優先事項ではなかったため、これらのアプローチは十分には採用されていない。「結果重視のマネージメント」アプローチについても同様である。
    カントリープログラムのフォーカスについては、アドボカシーよりもオペレーショナルな活動により重点が置かれている。
  4. ユニセフの比較優位性:
    ユニセフの比較優位性は、1)児童の人権を保護し、その実現にむけた政府の取り組みを促進する、2)都市部と農村部でのフィールド活動とそうした活動によって蓄積された経験、3)調査や研究の実施と調査・研究結果に基づいた活動、そして開発モデルやツールの開発、である。
  5. 目標達成度:
    アウトプットのレベルにおいては、運営計画(Master Plan of Operation)および年間行動計画で示された活動とアウトプットに合致した多くの良い結果が見られた。アウトカムレベルでは、パイロット・プロジェクトにおいて期待されていたアウトプットの達成度を主にレビューした結果、児童の権利の実現に貢献しており、とりわけ、教育とプライマリーヘルスケアにおいては、パイロット・プロジェクトでの経験が既に複製または、国の政策の中に組み込まれるプロセスにあるとの評価結果を得た。
  6. 効率性:
    カントリープログラムの有効性に関する評価は、「結果のマトリックス」と活動の費用に関するデータが欠如しているため、容易ではなかった。現行のカントリープログラムは、多数のプロジェクトから構成されており、しかも、そのうち数個のプロジェクトは、5つの農村地区と都市部に拡散しているという特徴を持つ。そのため、活動の十分な監理とモニタリングが必要とされるが、現在のユニセフモロッコ現地事務所にはこうした業務を十分に行うためのスタッフが不足している。
  7. 自立発展性:
    カントリープログラムは実施が終了していないため、パイロット・プロジェクトの自立発展性があるかどうか、また開発モデルの一般化の見通しについては分析されなかった。しかし、成功と制限の要素について分析した結果、自立発展性を決定する要素として、ユニセフ資金以外のプログラム運営費用、リーダーシップ、プログラム実施関係者のやる気、ボランティアによる活動、コミュニティの人々の活動への参加、パイロット・プロジェクト実施への制度上の支援、結果の制度化が指摘された。
  8. プログラム運営資金の調達と活用:
    運営計画で予定されていたプログラム資金よりも、実際に2000年~2004年に配分された資金は平均15%ほど多い。反面、年間のドナーからの資金援助については、予定額よりも60%も少ないことが明らかになった。一方、プログラム資金の使用状況はよく、2002年と2003年には、配分された全ての資金が使用された。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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