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モロッコ水資源開発分野協力評価

1.テーマ:モロッコ水資源開発分野協力評価
2.国名:モロッコ
3.評価者他:
(評価者)
 和田正樹 日本工営株式会社 水資源・エネルギー事業部
 藤田伸子 財団法人国際開発高等教育機構 事業部
(監修)
 中島正博 広島市立大学 教授 
 佐藤寛  アジア経済研究所 主任研究員
4.調査実施期間: 2003年8月 - 2004年2月
5.評価方針:
(1) 目的
 本評価の目的は、我が国がモロッコに対し実施した水資源開発分野に係る一連の協力を、総合的かつ包括的に評価し、今後のより効果的・効率的な協力の実施の参考とするための教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表して説明責任を果たすことである。
(2) 評価の実施方法
 本評価では対モロッコ経済協力政策協議に係る文書を手懸りに、1999年度から2001年度の間に実施された当該分野に係る我が国の一連の協力が「農業生産性の向上、飲料水の供給を通じての住民(零細農民や地方部住民)の生活向上」を最終目標とし、1)灌漑施設の整備、2)水源の確保(中規模ダムの建設)、3)給水施設の整備(3)-1 中規模都市の給水施設の整備、3)-2 地方村落部の給水施設の整備)、4)施設の運営管理、を中間目標として実施されたものと捉えた。その上で援助の結果(成果)を計るための指標の設定を行い、「目的」、「結果」、「プロセス」の視点から評価を行った。
(a)「目的の妥当性」
 我が国の対モロッコ支援の目的がODA上位政策やモロッコの水分野のニーズ、当該分野の世界的な援助動向と整合していたか否かを検証した。
(b)「結果の有効性」
 1999年度から2001年度の間に当該支援によりどのような実績があったのかインプット及びアウトプットベースで検証した。更にモロッコにおける当該分野の主要指標の推移および他ドナーの対モロッコ水資源開発分野支援の方針と実績を参考情報として調査した。
(c)「プロセスの適切性」
 我が国が対モロッコの水資源開発分野の支援を実施するにあたり、モロッコ側のニーズを適切に把握し、立案・実施が適切に行われたか否かを評価した。具体的には、モロッコ政府との協議や、JICA・JBIC、NGO等の民間、他ドナーとの連携・協議の実施状況を検証した。
6.評価結果:
対モロッコ国別方針の内容の妥当性
(a) 「目的の妥当性」に関する評価
 我が国が実施した当該分野に係る一連の協力は、ODA大綱及びODA中期政策で重点課題として謳われている基礎生活分野(BHN)、人材育成、インフラ整備への支援と合致していた。また我が国の協力はモロッコの国家開発5ヵ年計画(2000-2004)における水資源開発政策と整合性があった他、水資源開発に係る国際的な援助動向とも概ね整合性のとれたものであった。特にBHNに係る「地方村落部の給水施設の整備」はその妥当性が高いものであった。
 但し、モロッコ政府は現在水資源開発計画の全面的な見直しを含む「国家水計画」を策定中であり、今後の支援にあたってはその結果を反映させるべきである。また国際的に重視されている統合的水政策、制度構築、マクロレベルでの料金設定等については我が国の協力には含まれていなかった。
(b) 「結果の有効性」に関する評価
 インプット実績は、金額では「中規模都市の給水施設の整備」及び「灌漑施設の整備」に、件数では「地方村落部の給水施設の整備」に投入が集中する傾向にあった。1999年度から2001年度の間に開始された案件のみに限ると、金額では「地方村落部の給水施設の整備(有償・無償計83.7億円)」、「中規模都市の給水施設の整備 (有償64.12億円)」、「水源の確保 (開発調査5.09億円)」、「灌漑施設の整備 (無償0.11億円)」の順となっており、給水施設の整備については、特に近年「地方村落部の給水整備」に金額・件数がシフトしてきている。これらは引き続きモロッコ側のニーズが大きい分野である。
 アウトプット実績はいずれの中間目標についても見られた。「中規模都市の給水施設の整備」ではポンプ施設24箇所、貯水槽23箇所、管路長413.1km、「灌漑施設の整備」では灌漑面積19,000ha、水路長17.3km、研修員受入3名、「地方村落部の給水施設の整備」ではポンプ施設102箇所、貯水槽8箇所、管路長357.9km、共同水栓数83箇所、給水車15台、研修員受入4名、「水源の確保」では開発調査1件、研修員受入2名、「施設の運営管理」では専門家派遣5名となっている。
 アウトカム実績については、国・州レベルでの農業生産性、飲料水供給、住民生活向上に係る主要指標(農作物生産高、給水量、水汲みに要する時間等)とわが国の援助の関係を直接確認することはできなかった。しかし、飲料水供給は全国で約140万人に直接・間接に裨益するものであり、全国レベルでの指標改善に効果があったものと推測できる。
(c) 「プロセスの適切性」に関する評価
 当該分野支援の政策立案・実施にあたり、JICA・JBICと連携・協議は適切に行われた。相手国政府との要請に基づく個別案件ベースでの協議も適切に行われ、特に地方村落部給水では専門家派遣による協力計画策定支援が行われた。一方政策協議以外には、当該分野支援の政策全般に係る公式な協議はとくに実施されなかった。またNGO・他ドナーについては、個別案件ベースでの連携・協議は部分的にあったが、当該分野支援の政策に関する総括的な協議は行われなかった。
7.提言:
(1) モロッコ政府による水資源開発計画の見直しを受けて、今後の表流水・地下水開発支援の方向性を探る
 国家水計画がモロッコで作成されている途中であることから、今後は、それに基づいた大きなフレームの中での、日本の各協力案件の位置づけを明確にする必要がある。同計画では、既存の流域別水資源開発計画に記載されている水資源開発可能量が下方修正される可能性が高い。従って、今後の大規模灌漑案件に対する協力、大・中規模ダムに関する協力についてはとくに、国家水計画を踏まえ、その必要性と代替案を吟味していくことが重要となろう。
(2) 需要管理、制度・組織改革に対する支援を今後の重点分野に加えるか否か検討する
 開発可能な水資源賦存量の漸減、地下水の過剰な開発による枯渇、ダムの堆砂、全国レベルでの水質悪化の進行を背景に、モロッコが水の供給力強化のみならず今後一段と水の需要管理に注力していくのは明らかである。制度・組織改革への支援に関しては短期的に成果を上げにくい支援ではあるものの、日本のODAの持つ様々なスキームの中で、専門家派遣、研修事業等を通じ、水資源開発・管理のための組織制度の整備を視野に入れた案件を実施していくことが望ましい。
(3) 中規模都市の下水道施設整備に対する支援を今後の重点分野に加えるか否か検討する
 我が国及び他ドナーの支援を受け中規模都市で上水道整備が進む一方、下水道整備の進捗が遅れている。人口増加、特に都市への人口の集中による生活排水増加が水質汚染や生活環境の悪化を加速させており、早急な対応が望まれる。下水道事業に参入可能となった水道公社(ONEP)が管轄区域をカバーする投資計画を立案していることから、これらに対する支援の可能性を検討すべきである。
(4) 大使館・実施機関と現地政府・NGO・他ドナーとの協議を強化する
 現地政府とは要請に基づく個別案件ベースでの協議は適切に行われている。しかしながら、当該分野支援の政策に係る協議は、政策協議以外にはなされていない。今後は個別課題に対する支援から、モロッコの水分野を広く見据えて政策レベルの課題も抽出し、解決にあたるアプローチが有効になると考えられる。2003年に発足した現地ODAタスクフォースが、現地政府のみならずNGOや他ドナーを含め幅広く連携・協議を強化していくことが期待される。


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