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モンゴル国別評価

1.テーマ:モンゴル国別評価

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2.調査対象国:モンゴル
3.評価チーム:
(1)評価主任
 池上清子(国連人口基金東京事務所 所長)
(2)アドバイザー:
 窪田新一(笹川平和財団 研究調査役)
(3)コンサルタント:
 財団法人国際開発高等教育機構
4.調査実施期間:2007年5月~2008年3月

5.評価方針

(1)背景・目的

 本評価は、主に2004年11月策定の対モンゴル国別援助計画(以下「援助計画」)の下で承認・実施された案件を中心にレビューを行い、日本の対モンゴル援助や今後の効果的・効率的な援助実施に役立てるような教訓や提言を引き出すことを目的として実施された。

(2)対象・時期

 評価対象は、「援助計画」策定以降、正式承認され、現地調査時点(2007年9月)までの間に実施中の案件である。ただし、重点分野(後述)やセクター全体の流れ、複数の案件の関係(スキーム間の連携)から、2004年以前の案件も必要に応じて評価対象とした。

(3)方法

 「ODA評価ガイドライン」に基づき、「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3つの視点を中心に総合的に評価を行った。

6.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 「援助計画」における日本の対モンゴル援助の方向性・方針・重点分野は、日本の上位政策(新ODA大綱、新中期政策)や、政府行動計画(2000-2004年、2004-2008年)をはじめとするモンゴルの上位政策、ミレニアム開発目標(MDGs)などの国際課題と概ね整合している。
 モンゴルのニーズとの整合性については4つある重点分野により評価が分かれた。「市場経済を担う制度整備・人材育成」では、「基礎教育及び実践的職業訓練の充実」、「公的セクター強化」、「民間セクター支援」を行っている。市場経済運営を担う人材を育成する一方、市場経済化を側面支援する公的部門の制度強化を十分に認識した内容となっている。
 「地方開発」分野は、2つの課題、「地方開発拠点を中心とした特定モデル地域を対象とする支援」(以下「特定モデル支援」)と「農牧業再生支援」に取り組む方針である。「特定モデル支援」は、モンゴル政府のモデル地域の選定が進展しておらず、日本の支援内容も総花的である。また「農牧業再生支援」については、牧畜業や耕種農業で貧困削減効果や効率性の高いところに支援する方向であるが、モンゴルの自然環境や遊牧社会との適合性、日本の比較優位性なども考慮したうえで整理が必要である。
 「環境保全」分野は、2つの課題、「自然環境保全と自然資源の適正利用」(以下「自然環境保全」)、「首都ウランバートル市の環境対策」(以下「環境対策」)に沿って支援が行われている。「自然環境保全」では、生物多様性の保全、草地の劣化、黄砂現象の頻発化、「環境対策」では、首都への人口集中による廃棄物、水質汚濁等の都市型環境の悪化が課題として指摘されていたが、これらの課題への対応は引き続きニーズが高い。
 「経済活動促進のためのインフラ整備」分野については、「首都や地方の拠点都市における産業成長や国民生活に直結するインフラ整備」と「外貨獲得産業の振興を支援する運輸部門」に大別されるが、評価時点でもこれらの分野のニーズは変わっていない

(2)「結果の有効性」に関する評価

 上位目標や中位目標については、2004年11月に「援助計画」が策定されてから3年余りしか経過しておらず、効果が現れる時期ではないことから、現時点で政策レベルでの有効性を具体的に検証するのは困難である。
 他方、セクターによっては、セクターレベルである程度の成果を見ることができるものもある。セクター別の貢献度を重点分野ごとに支援実績や開発ニーズへの対応度合いから検証すると、特に「経済活動のためのインフラ整備」のエネルギー分野における貢献が顕著であった。ウランバートル市の第4火力発電所に対しては、1991年から無償資金協力、有償資金協力、専門家・SV派遣などによる支援が行われ、操業の効率性や安全性の向上により事故・停止が減少、これにより燃焼効率は向上、電力・温熱水の供給量が増加し、停電が減少するなどウランバートル市民の生活や経済活動に大きく役立っており、高く評価される。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価

 日本の「援助計画」策定方法・体制、実施体制や案件形成・実施過程・検証体制、援助協調と連携、モンゴルの受入れ体制の観点からプロセスの適切性を検証した。
 上記のウランバートル市の電力供給や同市の廃棄物管理に関する一連の支援は、スキーム間の連携効果が円滑な実施過程を促進した要因として挙げられる。ウランバートル市の廃棄物管理に関しては、札幌市の協力を得て実施された研修、開発調査とそれに続く無償資金協力、SVやJOCVによる実施機関に対する側面支援等のスキームの連携が、開発調査で効果を上げたキャパシティ・ディベロップメントや関係者の熱意と相乗効果をなして、首都の環境改善に貢献している好例である。
 援助協調については、日本がアジア開発銀行(ADB)や世界銀行とともにリードした教育セクターにおける援助協調が特筆される。「教育セクターマスタープラン2006-2015年」はモンゴル政府や教育関係者、ドナーが一体となって策定され、このマスタープランに基づいて、教育セクターにおける支援の実施計画策定や、共同でのモニタリングが行われている。
 モンゴル側の受入れ体制における課題としては、市場経済化以降の構造調整による政府職員数の大幅削減の影響などによるモンゴル政府機関の人員不足が挙げられ、今後もこの点を考慮した対応が必要となっている。

7.提言

(1)選択と集中の強化

 今後、援助の規模が拡大されないことを前提に、費用対効果を維持していくためにも、重点分野あるいはその中の重点課題は、日本の比較優位性やインパクトの大きさを考慮して、一層の絞込みを検討すべきである。絞込みにあたって、現在の4つの重点分野には以下のような整理が求められる。

 イ.「市場経済を担う制度整備・人材育成」では、引き続き市場経済の健全な発展のための支援を継続する。
 ロ.「地方開発」では、地方の拠点都市の開発の具体的な戦略・アプローチの明確化が求められ、また日本の比較優位性が限定される牧畜分野や、自然条件や社会文化的な面で成長が未知数の耕種農業への支援については優先度を十分検討する。
 ハ.「環境保全」では、首都の都市環境悪化の現状に鑑み、都市計画の中で包括的に環境問題を捉え直す。地方の自然環境保全は、過放牧や井戸の問題(枯渇、管理の不備による家畜・牧民の集中化)に伴う草地の劣化や牧民の都市近郊への移動等、地方開発・牧畜と密接に関連するため、優先度を検討した上で、地方開発の一環として組み込む。
 ニ.「経済活動促進のためのインフラ整備」は、2008年に完了予定の「ウランバートル市都市計画マスタープラン」改訂版に沿い、都市の機能整備という観点から計画的に実施する。

 上記ロ.~ニ.については、首都、地方中核都市、人口密度の低い地方部に分けて考えていくことで、スキーム間の連携もより容易になると考えられる。
 今後の重点分野の整理の仕方として、昨今のモンゴルの開発ニーズの変化に鑑み、以下を一案として提示する(但し、2008年1月に国家大会議で承認された「国家開発総合政策」の詳細が明らかになるのを待って再検討することが必要である)。

 イ.「市民社会発展に向けた制度整備支援」
 ロ.「人間の安全保障」
 ハ.「民間セクター支援」

 これらの重点分野を横軸とし、かつ首都・中核都市・人口の少ない地方部という地域分けを縦軸として、地域の特色にあった開発を進めるため、都市計画マスタープラン、中核都市や地方の地域開発計画などの包括的な計画を基に、ニーズが高く、かつ日本の比較優位がある優先課題を見極めて支援することが重要である。

(2)「援助計画」における目標体系の論理を整理する

 「援助計画」の目標体系の論理を整理することで、より戦略的な案件形成・選択を行うことが可能になる。具体的な目標を設定するのであれば、「援助計画」の5年間で何をどれだけ達成したいのかを、ある程度明確にすることが望ましい。

(3)実施プロセスについて

 モンゴル側の受入れ体制に人員数などの制約がある中で、事前にカウンターパート配置を含む受入れ体制を十分に検討することが必要である。一方で、人から人への知識や技術の移転、体験の共有が、モンゴル側のリーダーシップ、オーナーシップを醸成する好例がみられたことから、今後も、専門家・SV・JOCVの派遣、研修員の受入れなどが、有償資金協力・無償資金協力・技術協力のスキームに効果的に組み込まれていくことが望まれる。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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