広報・資料 報告書・資料

保健関連MDGs達成に向けた日本の取組評価

1. テーマ:保健関連MDGs達成に向けた日本の取組評価
2. 国名(現地調査実施国):フィリピン共和国
3. 評価チーム:
 評価主任:
  池上清子  国連人口基金(UNFPA)東京事務所長
 評価者:
  上原鳴夫  東北大学大学院医学系研究科教授
 評価者:
  迫田朋子  日本放送協会番組制作局チーフディレクター
 業務従事者:
  田上 豊  三菱総合研究所主席研究員
  加藤義彦  三菱総合研究所主任研究員
  石里 宏  三菱総合研究所シニアコンサルタント
  山口健太郎 三菱総合研究所研究員
  八巻心太郎 三菱総合研究所研究員
  松山章子  グローバルリンクマネージメント研究員
4.調査実施期間:2004年8月~2005年3月
5.評価の基本方針:
(1)評価の目的
 国際社会が2015年までにMDGsを達成するために、日本が実施してきた援助がどのように貢献できているかを検証し、今後一層の貢献を図るための教訓・提言を得ること。また、結果を公表することで説明責任を果たすことも目的としている。
(2)評価対象
 平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッド・ガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどを課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を提示したミレニアム宣言と、1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標(Millennium Development Goals : MDGs)である。これら目標の中、保健関連MDGsとして「目標4~6」の「ターゲット5、6、7、8」の達成に向けた日本の取組みを評価対象とした。また、ケーススタディ国としてフィリピンをとりあげた。
 なお、例えば、目標7ターゲット10にあげられている「2015年までに安全な飲料水を継続的に利用できない人口の割合を半減する」など間接的に保健MDGsに寄与し得る取組みについては対象とはしていない。
(3)評価対象期間
 日本の取組みについては、MDGs発表後(2001~2003年度)の実績の整理・分析(地域別、スキーム別等)を含め、定性的及び定量的に分析した。

6.評価結果

(1) 日本の保健分野援助はMDGsの達成にどのように貢献しているか?(貢献度)
 日本のODA総額は減少傾向にあるが、この中、ODA総額に占める保健分野投入額の割合は、近年やや増加傾向にあった。
 日本が実施する諸々の二国間援助案件から、保健関連MDGsに直接的に関係する分を「保健MDGs関連案件」としてスキームごとに抽出し、本件評価で設定した「MDGs案件分類コード」に基づいてこれら案件をMDGsのターゲットごとに分類した。その結果、例えば一般プロジェクト無償の案件については、ターゲット5の幼児死亡率削減への取組み、ターゲット8のマラリア等予防については、金額も相対的に多く、安定した取組みがなされている点、技術協力プロジェクトについては、ターゲット8のマラリア等予防への取組が金額的にも多く、漸増している点などが特徴として見られた。
 その他、国際機関等を通じた援助においては、世界エイズ・結核・マラリア対策基金を通じた援助が金額的にも多く、また増加傾向にあること、そして国際会議の主催などを通じた貢献も多く見られることが確認できた。
(2) MDGs達成に向けて政策・戦略が明確にされ周知されているか?(政策的コミットメント)
 新ODA中期政策では、背景となる国際社会の潮流としてMDGsの策定を踏まえ、「人間の安全保障」の視点を軸とした重点課題として掲げており、また日本政府は、多くの会議においてMDGs達成に向けたコミットメントをハイレベルで明確にしている様子が確認できた。但し、明確にMDGs達成を目標としたイニシアティブなどは、未だ策定途上であった。
(3) MDGs達成に向けて戦略的なアプローチがとられているか?(戦略性)
 日本が果たしてきた役割については、ケーススタディ対象国のフィリピン政府などからは高く評価されているが、同国政府がMDGs達成に対して日本政府が積極的な戦略をとっているとの理解を示している様子は確認できなかった。また、フィリピンでは独自のMDGsターゲットを作成しており、保健分野では「リプロダクティブ・ヘルスへのアクセスを保障する」というターゲットを追加しているが、このユニークな追加ターゲットに応える形で、日本が支援を進めているという事実は調査段階では確認できなかった。
 日本は、形式上は要請主義による援助を実施しているが、政策協議の実施、政策アドバイザー配置、JICAの国・課題別計画策定事業によるプロジェクト形成調査や企画調査員派遣、在外専門調整員の活用などを通じ、案件の形成段階から適切なアドバイスを被援助国に提示することを心がけている。但し、国際保健などの専門分野の知識や知見を備えた人材が一層必要となるであろうものと思われた。
(4) 効果を確実にし、効率を向上させるために、援助事業の質の確保と改善が適切に行なわれているか?(質の確保)
 案件形成の実態は、リソース指向、即ち目的よりも利用可能なリソースで出来ることを検討するというアプローチにとどまっているため、PDMが本来の趣旨で活用されるには至っていないものと思われる。また、援助の現場において、政策文書、事業計画と実績報告、評価報告、各種調査報告など、事業の立案や質管理に不可欠と考えられる文書(あるいはそのサマリー)が必要な時にいつでも参照できる体制が確立されていない場合もあり、戦略的かつ効果的な援助を実施していく上では支障となる可能性もあるのではないかと思われた。
 日本が援助案件を形成、選定、実施する際の他ドナーとの連携及び調整は、在外公館・事務所が主体となって行っている。他ドナーとの調整は、日本の援助戦略の有効性・実現性を確保する上で重要な役割を果たすことから、ドナー会合には必ず参加し、可能な連携を視野に入れつつ、投入のダブりを防ぐなど情報交換を行うことが期待される。
 相手国との調整に際しては、専門的知識、知見を有する人材が必要とされるが、特に重要となるのは、途上国の現状に精通した国際保健分野の専門性である。事業の実施にあたっては、質や結果を重視するため、これまでのように、各専門家を個別に選考・委託するのではなく、策定した実施計画案に従って事業全体を法人に委託する方法が採用されはじめていることが確認できた。
7. 提言
(1) MDGs達成の意義と政策的コミットメントを確立すること:
<提言1-1>IDIその他のイニシアティブを統合した、日本のMDGs戦略を政策として早急に示す。
(2) 戦略的に援助を進めるとともに、MDGs関連の戦略課題を特定し、案件策定に寄与するよう努めること:
<提言2-1>MDGs達成にむけたODAのインプット状況(案件数、実績額)を、MDGsの目標ごとに分類し、インプット状況のモニタリングを行うために、保健医療分野案件を目的別に把握し分類化するための適切な分類方法を定め、必要な情報を登録できる案件データベースを構築する。
<提言2-2>戦略的な援助課題を設定し、それに沿った案件発掘と案件形成を任務とする専門家を配置する。
(3) MDGs達成に効果的に貢献できるよう、質のマネジメントシステムを確立し、あわせて、専門性を有する組織・機関(NGOなど)との多面的な連携を促進すること:
<提言3-1>文書管理の方法を改善し、案件データベースを構築し、知識や経験の共有化を図る。
<提言3-2>PDMを目標指向の案件形成を援けるツールとして有効に活用する。
<提言3-3>援助能力を高めるための国内の人材育成や、専門組織の活用を強化する。
<提言3-4>国連機関等との協力事業をさらに推進する。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


このページのトップへ戻る
目次へ戻る