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教育関連MDGs達成に向けた
日本の取り組み評価

1. テーマ:教育関連MDGs達成に向けた日本の取り組み評価
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2. 国名:途上国全般
3.評価実施者
(1)評価主任: 縣公一郎(早稲田大学政治経済学部教授)
(2)監修者: 黒田一雄(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科助教授)
杉村美紀(上智大学文学部教育学科講師)
(3)実施者: 石田洋子((株)コーエイ総合研究所)
西村 幹子(個人コンサルタント(株)コーエイ総合研究所嘱託)
滝本 葉子((株)コーエイ総合研究所)
長谷川 安代((株)コーエイ総合研究所)
4.調査実施期間:2004年9月1日~2005年3月31日
5.評価の目的
 本評価調査の目的は、教育関連MDGs達成に向けた日本の取り組みについて、日本の取り組みがどのような目的を持ち、どのような過程を経て策定・実施され、どのような成果を上げてきたかを総合的かつ包括的に評価し、今後のより効果的・効率的な協力の参考とするための教訓・提言を纏めることにある。同時に、その評価結果を広く公表することで説明責任を果たす。
6.評価結果
 本評価調査では、教育関連MDGsの達成には、初等教育分野だけでなく関連分野を含む総合的アプローチが重要であるとの基本的認識に立ち、上記の2つの教育関連MDGs達成に向けた総合的、普遍的な取り組みの論理的流れを示す「取り組みの体系図」を整理・作成した。「取り組みの体系図」には、初等教育分野の取り組みに限らず、コミュニティにおける貧困削減や子供のレディネス(学習準備)の改善、保健・栄養サービスの改善、安全な水供給や道路整備などのインフラ整備、行政レベルにおける教育計画策定や教育行財政の能力強化などを網羅し、教育関連MDGsを達成するために優先度の高い取り組みとその因果関係を示した。この体系図に沿って日本の投入実績を分析し、「目的の妥当性」、「プロセスの適切性」、「結果の有効性」の視点から評価を行い、今後の方向性について提言を取り纏めた。

(1) 日本の教育援助政策(BEGIN)の「目的の妥当性」
 BEGINが策定されるまでは、日本に教育に特化した援助政策はなく、政府開発援助(ODA)大綱及び政府開発援助(ODA)に関する中期政策が教育支援の基本方針を示すものであった。BEGINは、EFA(「万人のための教育」)等の国際的潮流を受け、日本初の教育支援政策として、基礎教育分野における日本の支援強化を掲げて2002年に発表された。
 BEGINは、基礎教育への機会拡大を3つの重点項目のひとつとして掲げており、BEGINの実施を通して教育関連MDGsの目標2「普遍的初等教育」達成への貢献が期待される。目標3「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」達成については、重点項目としては掲げられていないものの、教育への機会拡大に加えて、質の向上やマネジメント強化を通じて貢献が期待されよう。BEGINの基本理念では、途上国政府の自助努力支援、地域社会の参画促進と現地リソースの活用、他の開発セクターとの連携を掲げ、コミュニティ・レベル、行政レベルへの支援も網羅した総合的アプローチを重視する日本援助の基本方針を示した。BEGINが提唱するアプローチは、教育関連MDGs達成への「取り組みの体系図」にも沿っており、教育関連MDGs達成の論理的流れに照らして妥当性が高いと言える。
 BEGINは、カナナスキス・サミットで日本がリーダーシップをとりながら、各国がEFA達成を目指して協力することを呼びかけるために発表されたものである。BEGINの示す新たな取り組みの中でも、国際機関等との広範囲な連携の推進が示されている。途上国における基礎教育分野に対して、国際機関や他ドナーと目的を共有して支援体制を強化するという日本の姿勢が示されている。
 一方、教育関連MDGs達成のために世銀を中心として進められているFTI(ファスト・トラック・イニシアティブ)については、リカレント・コストへの支援を含む直接財政支援が支援の柱の一つとなっており、日本としては積極的な支援が難しい状況となっている。今後、日本は、教育関連MDGs達成へ向けて、FTIを通した支援の必要性についてさらなる検討が求められよう。

(2) 日本の取り組みの「プロセスの適切性」

援助政策(BEGIN)策定とその実施体制
 BEGINの発表のタイミングは、教育関連MDGs採択直後であり、日本の教育関連MDGs達成への貢献の意志を表明する上で効果的であったと言える。作成作業も、外務省、文部科学省、JICA、JBICや学識経験者を交えて検討会が重ねられ、政策レベル、援助実施機関レベル、学識経験者レベルの意見が網羅された。ただし、BEGIN発表後も、援助の現場では、BEGINとは関係なく、これまでの施策や年間事業計画に従って事業が実施されている。個々の事業のBEGINへの貢献度や、BEGINの進捗状況、BEGINによる成果を明らかにするようなしくみは構築されていない。国際的な場で日本の教育援助戦略として発表したものであるから、それが実際にどのように実現されているかを把握して、国内外へその成果を発信していくことが必要であろう。

案件形成・実施体制
 日本の国別援助計画、国別事業実施計画の作成、案件形成・採択の段階において、援助実施機関であるJICAやJBICで、担当者の間にEFAや教育関連MDGs達成への認識が高く、これらの国際的共通目標への貢献が念頭に置かれている。各途上国においては、現地ODAタスクフォースによって課題別アプローチが検討され、課題別に初等教育支援事業に取り組むための体制が整備されつつある。案件形成段階での適切性は高いと言える。
 前述の現地ODAタスクフォースによる日本の援助関係機関の連携が、現地でのドナー協調や課題別のアプローチ検討に止まらず、事業実施の場面でも効果的に実践されることが望まれる。現在、教育関連MDGs達成への貢献を目指して、現地での対応が比較的容易な青年海外協力隊や見返り資金、草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下、「草の根無償資金協力」という)などを活用して、一般無償資金協力や技術協力と連携させるケースは見られる。こうした連携をきっかけとして、ODA予算が縮小傾向にある中でリソースを有効活用するために、技術協力、一般無償資金協力、有償資金協力や、草の根無償資金協力、青年海外協力隊、シニア・ボランティア、国際機関への拠出金を通した支援、NGO支援等の援助形態を効果的に連携させて、教育関連MDGs達成のためのプログラムとして実現するための体制整備や制度改革が望まれる。
 実施段階の反映として教育プロジェクトの各種報告書を検証すると、教育関連MDGsやBEGIN等との関連性が述べられているケースは少ない。また、教育プロジェクトのインパクトや教育関連MDGs達成への貢献が図れるような定量的・定性的指標の提示や、それに基づくモニタリング、評価が行われているケースも希である。
 ドナー協調は、政府開発援助(ODA)大綱やODA中期政策、BEGIN等で強調されている。現地でも、実施機関担当者が教育分野のドナー調整会合などに積極的に出席して、日本の援助方針や具体的案件の実施計画などに関する報告が行われている。ただし、現状では現地大使館、JICA、JBIC事務所や調査団が有する意思決定の権限は限られており、また、語学力や交渉力にも制約がある場合もあることから、ドナー調整会合での議論を対等に進めることが困難な場合もある。
 一方、教育分野の国際的潮流として、セクタープログラムに基づいた支援が欧州各国の援助機関や国際機関によって進められている。セクタープログラム支援が推進されている国々では、タンザニアの例のように日本のプロジェクト型支援に対して他ドナーからの理解・協力が得られないことから、案件の成果に対する持続性が危ぶまれるケースもある。他ドナーによるセクタープログラム支援を外部要因と考えずに、案件形成時から、個別プロジェクトとして実施する目的や意義、セクタープログラムにおける位置付けを確認し、相手国政府や他ドナーの理解を得ることが不可欠であろう。

(3) 日本の取り組みの「結果の有効性」
 日本の教育支援は、教育関連MDGs発表前の1990年代から、EFA、ダカール行動枠組みなどの国際的潮流に沿って重点的に行われてきた。従って、1990年代と、2000年の教育関連MDGs採択後の2001年度~2003年度でその投入実績に大きな変化は見られない。2001年度以降は、1990年代からの教育支援強化の流れを基盤に、教育援助重視の日本の援助政策やBEGINに沿って、総合的アプローチを基本方針として、教育関連MDGs達成に対して直接的及び間接的貢献が期待される取り組みへの投入が積極的に展開されている。
 地域別に見ると、教育関連MDGs達成への直接的貢献が期待される取り組みの投入実績についてはサブサハラアフリカへの投入実績が全体の4分の1を占めている。第2位は東南アジアへの投入で19.16%となっている。一方、コミュニティ内のインフラ整備や後期中等教育や職業訓練など教育関連MDGsへの間接的貢献が期待される分野については、日本の援助重点地域である北東アジア、東南アジアへの投入が圧倒的に大きい。さらに南西アジアについては、直接的貢献が10.64%、間接的貢献が1.39%と、前述のアジア2地域(北東アジア及び東南アジア)への投入実績に比べて低い割合に留まっている。日本が新ODA中期政策に示すように、総合的アプローチによって教育をはじめとするMDGs達成への貢献を目指すのであれば、直接的貢献が期待される取り組み、間接的貢献が期待される取り組みの両方において、サブサハラアフリカや南西アジアへの投入のあり方に検討が求められよう。
 教育関連MDGsの各ターゲット指標を達成するに当たって貢献度が高いと思われる教育関連MDGs達成に向けた課題に対する「取り組みの体系図」に示す取り組みへの投入額のサマリーを下表に示す。なお、「取り組みの体系図」に示される各取り組みは、総合的アプローチによってMDGs目標を達成することが期待されている。従って、一つの取り組みであっても、複数のMDGsターゲット指標に貢献することも考えられる。このような場合は、貢献が考えられる全てのターゲット指標の合計金額に重複して加算している。

教育関連MDGsの各指標への日本の取り組みの投入実績(サマリー)
(2001年度~2003年度)
教育関連MDGs
ターゲット指標
直接的貢献が期待される取り組み(体系図小分類)の合計金額(億円) 間接的貢献が期待される取り組み(体系図小分類)の合計金額(億円)
MDGs指標6:初等教育就学率 1,003,49 6,433,71
MDGs指標7:第1段階に就学した生徒が第5段階まで到達する割合 1,278,24 7,371,07
MDGs指標8:15~24歳の識字率 67,61 524,32
MDGs指標9:初等・中等・高等教育における男子生徒に対する女子生徒の比率 977,47 6,336,13
MDGs指標10:15~24歳の男性識字率に対する女性識字率 67,61 524,32

(出典:ODA関連データより調査団で作成)

 5つのMDGsターゲット指標のうち、普遍的初等教育の達成に関連したMDGs指標7「第1段階に就学した生徒が第5段階まで到達する割合」への投入実績が最も多く、次いでMDGs指標6「初等教育の就学率」への投入実績が高かった。いずれの場合も、間接的貢献が期待される取り組みによる投入実績が最大であった。一方、識字率やジェンダーの平等の推進に関連したターゲット目標の中では、MDGs目標9「初等・中等・高等教育における男子生徒に対する女子生徒の比率」の投入実績がもっとも多いが、間接的貢献が期待される取り組みによる投入実績が大部分を占める。MDGs目標8「15~24歳の識字率」、MDGs目標10「15~24歳の男性識字率に対する女性識字率」への投入実績は他の3つのターゲット目標に比べて低い。
 教育関連MDGs達成へ向けて直接的に貢献が期待される取り組みついて援助形態別の投入額を見ると、教育の量の拡大で一般無償資金協力、草の根無償資金協力への投入量が多く、教育の質の改善でも、施設のリハビリなどに一般無償資金協力と草の根無償資金協力が活用されて投入量が多い。さらに、子供のレディネス(学習準備)向上のための保健・栄養改善でも、一般無償資金協力及び草の根無償資金協力からの投入量が多い。これら3つの分野で、草の根無償資金協力全案件の投入額の合計は、一般無償資金協力のそれに比べると約4分の1である。しかし、建設コストの関係から、一般無償資金協力によってカバーされた対象校と、草の根無償資金協力によってカバーされた対象はほぼ同数に近いのではないかと推測される。また、一般無償資金協力の校舎建設案件では、アクセスしやすいサイトが選ばれることが多く、質の改善にはつながるが、アクセス改善には貢献しにくいケースが多い。
 初等教育における教育の質の改善や教育サービスの量的拡大、そして教育政策・制度における開発調査への投入額にも注目される。教育開発調査は、従来型のマスタープラン作成のためのデータ収集・分析からなる「調査」に止まらず、参加型やキャパシティ・ディベロップメントの実践、実証調査による現職教員研修や校舎リハビリ、井戸建設などの具体的な活動が行われ成果を上げている。技プロは、中等教育に対するものが多いため、初等教育の質の改善より、関連サブセクターでの投入金額が大きくなっている。初等教育における質の改善は、技プロより開発調査を通した投入が大きい。
 識字教育や未就学児童を対象としたノンフォーマル教育については、一般無償資金協力や草の根無償資金協力による施設建設が上げられるが、ソフト面での貢献も考えるとNGOとの連携事業による成果の高さが挙げられよう。例えば、ベトナムの日本ユネスコ協会連盟への開発パートナー事業による支援で実施された識字教育推進のための事業が挙げられる。この識字教育推進事業は「寺子屋プロジェクト」と呼ばれ、アジア各国で進められている。
 一方、国際機関の技術力やノウハウを活用して教育援助プロジェクトを行う拠出金は、現時点では投入金額やシェアも小さい。今後、教育分野のソフト、ハード両面からのより効果と持続性の高い支援を行う上では、さらに拡大が期待される分野と言える。
 一般無償資金協力や草の根無償資金協力、技術協力について、アジア、アフリカ、中南米の各国で案件が実施されている。しかし、各援助形態のコンポーネントは、どの地域に対してもほぼ一律で、同じ手順、スケジュール、予算規模、実施体制等によって実施されている。教育の量の拡大を達成し、質の改善を目指す国の多いアジア地域や、まだまだ量の拡大が必要とされるアフリカ地域では、援助形態のしくみを工夫して相手国のニーズに合致したアプローチをとることが、費用対効果から見ても、そのインパクトから見ても教育関連MDGs達成へのより高い成果が期待されよう。
7. 提言
 2005年には、国連により教育関連MDGsへ向けての国際的取組みの進捗状況に関する中間報告が行われる。しかし、現時点で教育関連MDGsの達成にはかなりの困難が予測され、ドナー間の連携・協調によりギャップを埋めていく重要性がますます高まっている。日本が教育関連MDGsに対して、さらに効果的・効率的に貢献していくために、本評価調査の結果より以下の提言を取り纏めた。
(1)教育援助戦略(BEGIN)の実施体制の見直しと主流化
(2)ドナー協調・財政支援に対する日本の柔軟な対応
(3)教育関連MDGs達成への総合的アプローチの構築
(4)国際機関への拠出金の有効活用
(5)教育関連MDGs達成へ向けた地域別・国別の教育援助メニューの開発
(6)技術協力の多様化
(7)教育関連MDGs達成への無償資金協力の有効活用
(8)草の根無償資金協力の有効活用
(9)初中等教育分野での有償資金協力の増大
 以上、日本の教育関連MDGs達成への評価結果に基づいて、9つの提言を取り纏めた。これらの提言が、今後の日本の教育援助強化に役立ち、教育関連MDGs達成へ向けて日本のODAがより一層貢献していくことを期待する。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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