広報・資料 報告書・資料

マレーシア国別評価

1.テーマ:国別評価
(写真:労働安全衛生能力向上計画プロジェクト)
2.調査対象国: マレーシア
  現地調査国: マレーシア
3.評価チーム:
(1)評価主任:長峯純一
  (関西学院大学総合政策学部教授 )
(2)アドバイザー:小野沢純
  (拓殖大学国際部教授)
(3)コンサルタント:
 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
4.調査実施期間:2010年10月~2011年3月

5.評価方針

(1)目的
  本評価は,対マレーシア援助の意義を踏まえ,わが国の対マレーシア援助政策を全般的・総括的に評価し,今後の援助政策の立案や実施のための教訓や提言を得ることを目的としている。
  特に,直近の国別援助計画(2009年4月)が策定されてまだ間がなく,現時点でマレーシアへの援助政策を評価することは,2020年までに先進国入りすることを国家目標(Vision 2020)に掲げているナジブ現政権による具体的な取組みを踏まえて1,中進国である同国へのこれまでの援助政策を総括的にレビューし,今後の援助政策(もしくは協力・連携政策)の方向性と内容の再検証を行うという点で,重要な意味があると考える。またそうした評価は,アジア地域における日本のプレゼンスを鑑み,経済成長が一定程度進んだ中進国に対する日本の援助政策の全般的なあり方を考える上でも,重要な示唆を与えうると考える。

(2)対象・時期
  本評価は,日本の対マレーシア援助政策を対象として行う。わが国の対マレーシア援助政策を全般的・総括的に評価するという目的の下で,現行の「マレーシア国別援助計画」(2009)及びその旧版である「マレーシア国別援助計画」(2002)を主たる対象とし,日本のマレーシアへの援助に関連した政策全般を扱うものとする。
  なお,本評価は政策レベルの評価であり,個別の援助案件(事業)の評価を行うものではない。しかしもちろん,援助政策全体は個別の案件によって構成されており,援助政策全体を評価する上で,個別案件がマレーシアのニーズに的確に応えているかどうか,成果をあげているかどうかの評価も当然に関わってくる。よって,本評価においては,個別案件の状況も適宜参照しながら実施していくこととする。

(3)方法
 本評価では,「ODA評価ガイドライン(第5版)」(外務省,2009年2月)に依拠し,OECD・DACの評価5項目(妥当性,有効性,効率性,インパクト,自立発展性)をベースとして,「政策の妥当性」「結果の有効性」「プロセスの適切性」の3つの観点から総合的に検証していく。


  1.  例えば2010年の,新経済モデルの発表,第10次マレーシア計画の発表,等。

6.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価
  日本の対マレーシア援助政策である「対マレーシア国別援助計画」は,マレーシアの状況(課題やニーズ)に整合する形で策定されていると評価できる。たとえば,以下のような点がマレーシア側からも指摘されている。

  • 経済成長に伴う歪みなどが生じるとき,その是正に向けて先方の新たなニーズを掘り起こすといった,日本らしい援助を実施しうる計画になっている。そのような「気づきの促し」に対する謝意が,マレーシア側からも示されている。
  • そのことが,クリーンエネルギー等の新たな重点分野での取組みに対する日本の援助への新たな期待(ニーズ)につながっている。

 2009年策定の現政策は,その後のマレーシア側の状況変化(新政権による諸計画の策定)や現在の国際潮流(環境等のグローバル・イシューの急速な展開)を,ある意味で先取りした内容になっている。よって,現時点において,中進国としてのマレーシアへの援助政策の方針と内容を大きく変更する必要性はないと判断できる。
  その一方で現政策で示されているような,対マレーシア援助を「中進国支援のモデル・ケース」とすること,すなわち,ある程度の経済発展段階に達した国々とのパートナーシップのあり方のモデルとするという点では,その具体的な位置づけや取組みを未だ示すには至っていないと思われる。その位置付けを改めて明確にすると共に,今後,実践面からその点を強化していくことが求められる。
  マレーシアに対する援助政策を基にした実施施策・案件の「プログラム化」については,実施案件数が限定的であることから,実態としてその構築は難しい状況にある。よって,そのような実態を踏まえた方策を検討することがやはり望まれる。その際,援助現場の柔軟性を高めるという意味でのプログラム化は,マレーシアのような国での実施にふさわしい。
  上記の「モデル・ケース」や下記の「卒業プロセス」の観点とも関連して,今後,ODAを越えた日本・マレーシアのより広範な関係を日本の政策として志向していくためには,これまでのマレーシアへの援助政策の範疇に留まっていては狭小に過ぎるとの懸念がある。その点では,日本の援助政策の対象範囲をむしろ拡大していくことも検討課題となるべきである。

(2)「結果の有効性」に関する評価
  現行の対マレーシア国別援助計画の下で,マレーシアの状況(課題やニーズ)への応答性の高い「ピンポイント型」の案件が形成され実施されている。すなわち,特定分野へのきめ細かい支援がなされてきていると評価できる。
  日本によるこれまでの支援の結果,明らかに「成果」を上げてきたと判断しうる「セクター」として,税務・税関,労働安全,高等教育,環境・エネルギー,障害者の社会参加,海上安全・テロ対策,職業訓練,社会インフラなど,複数の分野を挙げることができる。またこれらのセクターでは,政策面での成果およびマレーシアの経済・社会へのインパクトも生まれている。
  人材育成については,その卒業生・修了生たちが,日系企業や外国企業を含めた産業界の幹部人材として育ちつつあることが指摘される。しかしその一方で,日本の人材育成が理工系の学生に力点を置いてきたことの結果,企業のエンジニアとしての育成が主となり,企業経営者や政府幹部の養成という点では弱さがあったことも指摘される。近年,中国・韓国等が台頭してくる中で,東方政策が依然として維持されてはいるものの,マハティール時代よりはその重要性が薄れてきており,日本の存在感は相対的に弱体化しつつある。そうした中で,日本留学を経験した企業経営者及び政府幹部の人材が少ないことへの危惧は,現地の日本産業界からも指摘されている。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価
  日本とマレーシアの間では,政府間協議の枠組みが確立されており,適切に機能してきたと評価できる。
  しかし,「ピンポイント型」の案件をさらに有効に機能させていくためには,案件形成と実施にかかる効率性(機動性)の向上に向け,以下のような側面でさらなる改善も必要であると思われる。

  • 案件採択(意思決定)の期間の短縮化,専門家人選の期間の短縮化
  • 最適な人材の確保

 政策の実施プロセスにおいて,マレーシア側が強固なオーナーシップを握っていることが,全般的に確認された。日本側の関係主体(外務省・大使館,実施機関,日本人専門家,業務実施請負企業など)及びマレーシア側の関係主体(政府,実施機関など)に対するヒアリング調査からも,その点が一様に確認された。案件実施に要する費用負担の面でも,日本のみの経費負担ではなく,マレーシアとの費用分担やマレーシア側の費用負担にて実施している案件もある。このことは,マレーシア自身が先進国入りを目指すことへの重要な布石になるものと評価できる。また日本にとっては,「卒業プロセス」を今後検討していく上で,また南南協力の強化等を通じて「中進国支援のモデル・ケース」として対マレーシア援助を進化させていく上でも,貴重な基盤となることが期待される。
 いわゆる「卒業プロセス」に関しては,日本側・マレーシア側の双方が,現在,マレーシアがその段階に入りつつあることを十分認識している。しかし,その具体的なプロセス,到達点,方策,タイミングなどについて,何らかの共有した見解を持つには至っていない。中国・韓国などの存在感が向上していること,マレーシア側の要請がより一層明確かつ「ピンポイント」になっていること,現在実施中の主要案件の終了時期が迫っていること,それらの案件で日本人専門家の存在感も強いことなどを踏まえると,ここ1~2年の間に「卒業プロセス」の内容を具体化していくことが必要である。
  日本による長期かつ深度のある支援の結果として,日本-マレーシア協力の「資産(Assets)」と認識しうる価値が醸成されている。しかし,それら資産は,まだ十分に活用されるに至っていないと言える。また,何を資産として認識しうるのかについても,共通の理解が形成されているわけではない。案件の実施がより一層厳しさを増す中で,日本として,また日本のODAとして,このような資産をどのように位置づけていくのかが,今後の重要な戦略課題となりつつある。表現は不適切かもしれないが,「案件の切れ目が縁の切れ目」とならないような戦略的対応が必要になっている。上記の「卒業プロセス」を実施していく中で,この「資産(Assets)」をいかに活用していくかが重要なポイントになるように思われる。
 マレーシア側に強固なオーナーシップが存在していることとは別途,現在進行中の主要案件において,日本人専門家の熱意と能力にも強く依存している状況があることも認識された。そのような案件において,自立的発展性を確保していくことも,卒業プロセスにおける重要課題になる。

7.提言

(1)「中進国支援のモデル・ケース」としての位置付けの明確化
(2)「卒業プロセス」の考え方
(3)「資産(Assets)」のフル活用
(4)案件採択・開始期間の短縮
(5)「人材育成」の考え方
(6)「プログラム化」の考え方
(7)「案件を越えた自立発展性」向上/日本の「案件形成能力」向上
(8)中進国に対する援助政策の対象範囲の考え方
(9)(ODAを越えた)日本・マレーシア関係深化の仕組み構築

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

このページのトップへ戻る
目次へ戻る