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マレーシアにおける日本政府が実施した開発援助(ODA)の評価
(被援助国政府・機関による評価)

1.テーマ:マレーシアにおける日本政府が実施した開発援助(ODA)の評価

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2.国名:マレーシア
3.評価実施者
・ステファン・レオン
Dr. Stephen Leong)ISIS※1所長補佐
・シャリファー・マリアム・アルハブシ
Dr. Sharifah Mariam Alhabshi)INPUMA ※2 課長代理
・ハディジャ・ハリッド
Dr. Khadijah Md. Khalid)INPUMA※2常任理事
・ザリナ・ザイヌディン
Ms. Zarina Zainuddin)ISIS※1アナリスト
・アニス・アズラ・アブドラ・ラシド
Ms. Anis Azura Abdul Rasid)ISIS ※1調査助手
 ※1 マレーシア国際戦略機構(ISIS)
 ※2 マラヤ大学国際公共政策・管理研究所(INPUMA)
4.調査実施期間:2007年9月~2008年3月

5.評価方針

(1)目的

 本評価の目的は、日本がマレーシアで実施したODAが、マレーシアの成長と発展への持続可能なインパクトを達成する中で、どの程度、どのような状況下で妥当性、効率性、有効性を有したかを評価するものである。特に本研究では、マレーシアに対する日本のODAプロジェクトの妥当性、効率性、有効性、インパクト、持続可能性を評価し、マレーシアにおける日本のODAプロセスの強み及び弱みを明らかにする。

(2)評価方法

 本評価の実施に当たって調査チームは、国際開発機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、在マレーシア日本大使館、国際交流基金、マレーシア経済企画院、マレーシア公共事業局、及びプロジェクト/プログラムカウンターパート・参加者との議論に加え、事後評価報告書分析、机上調査、現地調査を実施した。多くのプロジェクトが、1990年代始めに開始されており、プロジェクトの記憶や情報の入手に制限があった。本評価にあたっては、主としてプロジェクト完了書類やその他の内部書類を参考にして行ない、関係プロジェクトの完了書類により得られた所見は机上調査によりその有効性を検証した。本評価にあたって取り上げた10件のプロジェクトは、マレーシアで実施された日本のODAプロジェクトの代表事例である。これらのプロジェクトは、新旧のODAプロジェクトを代表するものである。(10件のプロジェクトは1982年から2000年までに実施されたものである)。評価は基本的には、各国援助及びプログラム評価に関する日本のODA評価ガイドラインに従った。ボトムアップ評価では、プロジェクトの妥当性、有効性、効率性、持続可能性、及びインパクトを評価した。またトップダウン評価では、各分野における戦略的な業績を評価して、発展の成果に対するODAの全体的な貢献と同時に、ODAの分野ごとの戦略及び位置付けを考察し、ODAの付加価値付け及び長期的なインパクトについても評価した。これらの評価の対象は、マレーシアの技術向上や社会基盤を強化し最終的には経済成長をもたらす政策、制度、及び行動変化を含む。ODAの業績は、さらに被援助者のニーズへの合致、サービスの質、国家戦略に対する貢献、部門のガバナンスへの合致、被援助国のオーナーシップの促進、そしてドナー協調についても評価し、この点の評価は、認識度調査及び関連レポートに基づいて行った。

(3)本評価の合理性

 近年、様々な理由により、日本のODAへの貢献は変化しており、日本国民も日本政府の累積債務等の財政事情を背景に、海外援助に対して説明責任や正当性を求めている。さらに、援助における出費等を正当化するのに十分な見返りが得られていないといった議論が多くなされている。日本の政策立案者は、それらの批判を認識しているが、日本のすべての利害関係者を満足させる決定を選択すること、さらに、日本のODAの必要性を量的に評価することは困難である。これらの困難はあるが、マレーシア及び日本の政策立案者は、日本のODAに対して新たな戦略づくりに取組んでおり、今回マレーシア国際戦略研究所が実施するような被援助国評価も、政策立案者がODAのインパクトを確認し、マレーシアにおけるODAの役割を再認識するための一助となる。

6.評価結果

(1)「妥当性」に関する評価

 全てのプロジェクトはマレーシアの短・長期的発展の必要性に対して妥当である。

(2)「効率性・有効性」に関する評価

 導入段階の困難にもかかわらず、全てのプロジェクトは実施の残りの段階において有効性が証明された。プロジェクトの効率性は有効性を反映している。すなわち、プロジェクトの初期段階は、効率性は限定的であったが、その後のプロジェクト期間においては、効率性は高くなった。

(3)「インパクト」に関する評価

 全てのプロジェクトはマレーシア社会・経済発展に直接的なインパクトを与えた。多くのプロジェクトが、引き続きマレーシア経済において重要な役割を担っている。

(4)「継続可能性」に関する評価

 プロジェクトは持続可能性をもっていた。プロジェクトの長期的な持続可能性の一部は、マレーシア政府による経済的必要性の認識の高まり(そして、関連する投資の増大)によるものであった。

(5)日本の政府開発援助の強み

 技術移転は全てのプロジェクトにおいて重要な要素であり、日本のマレーシアにおけるODAの強みは、専門知識の複合的な技術移転であった。

(6)日本の政府開発援助の課題

 マレーシアは、プロジェクトの管理技術を発展させることに焦点を充てる必要がある。

7.提言

(1) マレーシアはプロジェクト管理技術の向上が必要である

 マレーシアにおける日本のODAには、日本とマレーシアの間の手続きと要求の調和等多くの課題があるが、最も重要な課題は不十分なプロジェクト管理、及びガバナンスの欠如であった。たいていのプロジェクトが何らかの遅延、中断、後退の影響を受けているが、後退はアジア金融危機等、外的要因によるものも含まれる。多くのプロジェクトの遅延は、より良いプロジェクト管理及び危機管理により最小限にとどめられたはずである。この分野は即座の配慮と将来の向上を明らかに必要としている。これに関し、マレーシア国家政策では、マレーシアの人的能力、生産性、及び知識の吸収・利用の能力の向上が強調されており、プロジェクト管理技術の向上は、この能力開発プロセスの重要な一部になりうるであろう。

(2) 日本の政府開発援助は、能力向上、人及び知識の交流に、さらに焦点を当てる必要がある

 協調(Cooperation)は、全てのプロジェクトにとって重要な構成要素の1つであり、近年、能力向上及び人的交流に重点をおくプログラムは、特に成功している。多くのプロジェクトが、人的交流に焦点を充てており、それが幅広い知識と能力向上へとつながっている。これらは日本のODAにとって重要な改善点であり、継続させる必要がある。マレーシアが発展するにつれて、双方向の交流プログラムが導入されるべきである。この協調的なプログラムは、日本・マレーシア双方にとって有益となる。

(3)ODAは強い国内のリーダーシップによって裏づけされるべきである

 幾つかのプロジェクトは、最終的にはマレーシア政府トップの支援により成功を収めている。このリーダーシップは、たとえ困難が発生しても、プロジェクトをゴールへ導き、進展させるのに重要な役割を果たした。要するに、幾つかのプロジェクトにおいては、政治的リーダーシップによる個人的な関与がプロジェクトを成功させる上で不可欠であった。このような高いレベルのリーダーシップによる関与を継続するべきである。

(4)プロジェクトスタッフは、プロジェクトゴールの達成に向けて大いに貢献する必要がある

 全てのプロジェクトの相対的な成功は、関係する日本及びマレーシアのスタッフの関与によるところが大きく、各ODAプロジェクトは貢献/関与する職員の存在が重要である。

(5)更なるプロジェクトの評価/フォローアップが、長期的成功及び持続可能性の確保に有益である

 更なるプロジェクトの評価/フォローアップが、長期的成功及び持続的可能性の確保に有益である。加えて、専門家は、提案された計画の実行についてモニタリングすべきある。この提案は、マレーシアと日本双方の政策決定者により既に導入されているが、マレーシア側から見れば、このような評価は、マレーシアへのODAの質の改善において、重要な役割を果たし続けるだろう。結局は、プロジェクトのさらなる評価とフォローアップが、その長期的成功と持続可能性を確実にすることになるだろう。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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