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マダガスカル国別評価

1. テーマ:国別評価
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2. 国名:マダガスカル

3.評価チーム
(1)評価主任
 山形 辰史 アジア経済研究所開発スクール教授
(2)アドバイザー
 森山 工 東京大学大学院総合文化研究科 助教授
 平野 克己 日本貿易振興会(JETRO)ヨハネスブルクセンター所長
(3)コンサルタント
 盛 信博 コーエイ総合研究所
 浜部 裕 コーエイ総合研究所
 高橋 恵 コーエイ総合研究所

4.調査実施期間:2006年9月29日~2007年3月31日

5.評価方針

(1)目的
 我が国の対マダガスカル援助政策を全般的に評価し、今後の我が国の対マダガスカル援助の政策立案、及び援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得る。また、評価結果を公表することで国民への説明責任を果たすとともに、同国政府関係者や他ドナーにフィードバックすることで、今後の同国の開発の参考とし、かつ我が国の援助の広報に資する。

(2)対象・時期
 本評価では1997年及び2005年に策定された我が国の対マダガスカル援助政策を評価の対象とする。評価対象期間は1997年から2005年とするが、必要に応じて対象期間前後の状況、政策にも言及する。

(3)方法
 外務省ODA評価ガイドライン第3版に則り、「目的の妥当性」、「プロセスの適切性」、「結果の有効性」という3つの評価項目(基準)を用いて総合的に評価する。

6.評価結果

(1)目的の妥当性

 目的の妥当性については、全般的に高く評価される。

 対マダガスカル援助の上位目標としては、以下の3つのタイプのものがある。

 1) マダガスカル政府の掲げるもの:貧困削減戦略(PRSP)および、これを2007-2012年の間に具体化させるマダガスカル行動計画(MAP: Madagascar Action Plan)、

 2)国際社会が掲げるもの:ミレニアム開発目標およびTICAD東京行動計画

 3)我が国の掲げるもの:ODA大綱および中期政策等

 評価期間中に実施された対マダガスカル援助は、これら3つの主体が掲げる目的に、いずれも整合的に実施されてきた。

(2)プロセスの適切性

 プロセスの適切性については、概ね達成されたと評価される。

 実施プロセスについては、1) 援助実施計画の援助政策との整合性、2) 政策立案組織と実施組織の連絡・協議実績、3) 現地ODAタスクフォースの組織・人材配置・評価体制、4) マダガスカル側援助受入機関、関係省庁との連絡・調整、5) 他ドナーとの連絡調整の5つの観点から評価を行った結果、大きな問題はないと判断された。

 他方、政策決定プロセスに関しては、国別援助計画策定のタイミングとそれを契機とした他ドナーとの連絡・調整という観点から、一つの大きな留意点がある。政策決定はマダガスカル政府、および他ドナーとの連絡調整の下、我が国の政策決定プロセスに基づいて遂行されるべきである。マダガスカル政府関係者との連絡調整は密になされており、この点についてはむしろ高く評価されるが、課題として残ったのは、他ドナーとの連絡調整を深めることである。

(3)結果の有効性

 結果の有効性については、今回検討した限りにおいて高く評価される。

 いずれの分野においても日本の援助のみを取り出して、定量的な側面からの分析を厳密に実施することは困難であるものの、事業単位で見た場合高い効果が発現していることが確認される事例が複数あった。また、マダガスカル政府関係省庁より日本の支援の質の高さについて多く言及されたことは高く評価される。

 現地調査の際に視察できた主たるプロジェクトは「アロチャ湖南西部地域流域管理及び農村開発計画調査」、「国道七号線バイパス建設計画」の2件であった。現地調査期間が限られていたこともあり、「結果の有効性」に関する詳細な調査はプロジェクト毎の評価に譲らざるを得ないが、その前提の下に両プロジェクトの有効性を論ずるとすれば、これらは共に日本人専門家の高い技術とプロフェッショナリズムの下、有効に実施されていると看取された。

 また、前者のプロジェクトの有効性を高めるのに貢献しているのはインドネシア人専門家を活用したアジア・アフリカ協力であることが特筆される。

 マダガスカル側のニーズの反映度については、日本の重点分野いずれについても、PRSP・MAPの重点分野となっているものであり、その中でも貧困層の割合の高い地域、対応の遅れている地域への支援が多かったことから、全般にマダガスカル側ニーズを反映した案件形成、実施であったものと評価できる。また、マダガスカル側が重点分野としていながら日本が重点分野とはしていないガバナンス等の分野についてはUSAID、UNDP等の他ドナーによって支援が行われているため、マダガスカル側の重点開発分野はおおむねカバーされていると考えられ、各ドナーの優位性を生かした支援が行われていると理解される。

(1)PRSP策定・改定時期の把握とそれに合わせた国別援助計画策定

 本提言は、国別援助計画策定のタイミングとそれに伴う援助協調に関するものである。

 我が国の対マダガスカル国別援助計画の策定は早くて2007年度が想定されているが、これはマダガスカルにおけるPRSPの失効とそれに伴うMAPの策定からは遅れたタイミングになってしまっている。マダガスカルにおいてはPRSPの失効をにらみ、それに合わせて主要ドナー(世界銀行、EC、フランス、アフリカ開発銀行)がCASの策定を進め、そのプロセスでマダガスカル政府とのみならず、これらドナー間で政策協議を深めていた。Joint CASが作成される動きまではなかったようであるが、このようにPRSPやそれに類する開発計画を被援助国が策定する際に、それにタイミングを合わせてCASを策定し、その際にドナー協調を進めるという慣習が、多くのドナーの間で共有されつつあるように見える。したがって、今後、我が国が援助対象国の国別援助計画を策定する際には、当該国のPRSPの策定や更新の時期に十分留意する必要がある。そして、当該国におけるドナー協調に積極的に参加できる見通しが立ち、かつまたそれが望ましいと判断される場合には、そのタイミングに合わせて国別援助計画を策定すべきである。そのような場合には、援助協調も自ずと推進され易いであろう。

(2)現地におけるより広範な情報発信の必要性

 本提言は、今後の対マダガスカル支援に関するものである。

 本評価に関する現地調査で、首都アンタナナリヴの他ドナーの現地代表やそれに準じる地位にある官吏に対してインタビューを行った際、我が国の援助プロジェクトの細部に関して、批判や疑問が表明されることがあった。それらの中で、改善すべきところは虚心坦懐に改善すべきである。一方、その中のいくつかは誤解に基づくものであった。しかし誤解であるからといって、放置しておくのは得策ではない。問題は、当該ドナーの現地責任者が我が国の援助プロジェクトの実施方法に疑問を感じており、それが解消されないまま、「日本のプロジェクトには問題がある」と認識してしまっているという事実である。

 この問題の一端は当該ドナー側に帰せられるべきものである。マダガスカル支援に関して相当の重要性を有している我が国の援助について、確かな知識・情報を得るために、応分の努力がなされて然るべきである。しかし、この問題の責任の全てを当該ドナーに帰することは正しくもなく、また我が国にとって得策でもない。当該ドナーはマダガスカルにおいて援助協調を進めており、一ドナーの意見や見解が複数のドナーの共通認識としてマダガスカルにおいて、かつまた国際社会において発信されないとは限らないからである。

 結論を言えば、この問題を当該ドナーの認識不足として片づけるのではなく、我が国からマダガスカル政府・社会への積極的な情報発信活動への契機とすべきである。具体的に言えば、我が国の対マダガスカル援助の中で特筆すべきものを現地で大々的にPRしてはどうか。例えば現在実施されている「アロチャ湖南西部地域流域管理及び農村開発計画調査」が今後より拡大・拡充して実施される場合には、アロチャ湖地域で同様の趣旨で支援を進めているフランスと協力してセミナーを開催してはどうか。当然のことながら同セミナーにはマダガスカル政府関係者、フランス援助機関関係者のみならず、その他ドナー関係者、市民社会、メディア、学界等、広く参加を呼び掛けるべきである。これによって、日仏協力が実質的に深化すると共に、我が国が他ドナーと協力してマダガスカル支援を行う姿勢を内外に示すことになる。このような情報発信を進めることにより、我が国の援助について「知らないとは言わせない」状況をつくると共に、真摯に胸襟を開いて、他ドナー、市民社会の声に耳を傾ける重要な機会とすべきである。

(3)対マダガスカル援助の経験の発信:アジア・アフリカ協力(南南協力)の成果

 次に、我が国の現在実施している対マダガスカル援助から得られる教訓を記す。これは対マダガスカル援助の評価から得られた、他国への援助に対する提言である。

 「アロチャ湖南西部地域流域管理及び農村開発計画調査」においては既にインドネシア人専門家を活用した適正技術開発が進められており、現地において高い評価を得ている。このことから、マダガスカルにおけるアジア・アフリカ協力(南南協力)は、今後、その有効性が期待できる分野であると言える。

 我が国の援助の意義を正当化する論拠として、通常は、その援助に我が国が優位性を持っているということが挙げられる。しかし、被援助国には我が国が優位性を持っていない分野に大きなニーズが存在する場合がある。また、当該分野の優位性をいくつかの開発途上国が有している場合もある。そのような場合には、我が国が当該開発途上国の専門家を招聘し、その分野に大きなニーズのあるもう一つの開発途上国に派遣することが大きな意義を持ち得る。つまり、我が国に優位性のない分野でも、南南協力を利用すれば、有効な支援が可能となるのである。しばしば援助評価の基準の一つとして、「評価対象プロジェクトの実施に関して我が国に優位性があるかどうか」が重要視される。南南協力の成功は、この基準の必要性を弱め、我が国の政府開発援助の可能性を広げるものである。

 我が国は開発途上国の立場から先進国の立場になってかなりの年月を経た。したがって、我が国で活躍する専門家では現在の後発開発途上国のニーズに応えられない場合があるのは当然である。具体的に言えばHIV/エイズ、マラリア対策は明らかに我が国よりもいくつかの開発途上国(例えばタイ)の専門家の方が実践的技術に関して優位性を有している場合があるだろう。東・東南アジアとの連携を強めようとしている我が国としてはそれら地域との協力関係を深めつつ、協同してアフリカ支援を行う意義がある。マダガスカルにおけるアジア・アフリカ協力の成功は、他の開発途上国における南南協力、特にアジア・アフリカ協力の更なる推進を支持する事例を提供している。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。



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