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草の根無償資金協力・プログラム評価

1.評価対象テーマ:草の根無償プログラム
(クリックすると画像が変わります)
2.国名及びプロジェクト:
 キューバ、グアテマラ、チリ、ペルーの9案件
 対象プロジェクトは、評価結果をホームページに掲載いたしましたので、ご参照下さい。
3.評価調査団:
 荒木 光彌 (株)国際開発ジャーナル社編集長
 中畝 義明 (社)世界経営協議会研究調査部長
 幡谷 則子 アジア経済研究所地域研究2部副主任研究員
 橋本 吉之 アイ・シー・ネット(株)企画部プログラム研究員
4.現地調査実施期間:2001年1月20日~2月5日
5.評価の目的:
 草の根無償は、1989年に小規模無償資金協力として導入されて以来、要請国及び案件実施機関各方面より高い評価を得ており、その実施件数は1989年度の95件から99年度には1,264件と飛躍的に拡大した。また、近年では開発途上国の地方自治体及びNGOが実施する社会開発分野での協力ニーズが増加していることから、草の根無償の重要性は一層高くなってきている。このため、本評価調査では、中南米地域(キューバ、グアテマラ、チリ、ペルー)を対象として、今後の草の根無償資金協力のプログラムの形成等に役立つ提言を行う。
6.評価結果:
 今回の調査対象草の根無償9案件を課題別に分類すると、次の4つに分けられる。
 (1)女性の地位向上に関する支援(グアテマラ市女性職業訓練センターへのミシン供与、チリの女性を中心としたきのこ栽培のためのカレラ市職業技術訓練所建設および零細女性漁民加工工場支援のための冷凍トラック供与、および女性の水くみ労働を軽減させたインディオ村落エル・パライソ地区上水道ポンプ供与)。(2)教育支援(キューバの特別養護学校校舎整備、ペルーの青年たちの都市流出を防ぐための農学校への機材供与)。(3)保健医療支援(ペルーの貧困者を助ける診療所への医療機材供与)。(4)自立をめざす零細協同組合活動支援(キューバの「青年の島」村落の環境との調和をめざした持続的発展計画と日系人を核とする農業協同組合へのトラクター供与)などである。
 以上の4つの課題は、「貧困撲滅」という21世紀型途上国援助の最も重要な要素となっている。
 “援助される側”に立って総評すると、草の根無償資金協力は途上国の一般庶民たちの渇望する機材、器具類がタイムリーに直接入手できるので、直接援助される庶民にとって実質的な支援になっている。経済的に苦しい途上国では政府の施策が広く一般庶民のすみずみまで浸透するには時間がかかりすぎる。社会的に不公平な状況のなかで、貧しい人びとが自立するには経済的に大変だ。草の根無償援助は間違いなく彼らを後押ししている。いうなれば、貧しい人びとの“かけ込み寺的な存在”になっている。ただ、現場では自立に必要な知恵を貸してほしいと訴えられた。これからの草の根無償援助は機材供与だけに限定せずに、草の根的な知恵や知識の供与が必要になってこよう。
 なお、調査団は訪問4カ国政府の外国援助受入担当官との会合をもった。その時、彼らは草の根無償援助を高く評価し、できれば自分たちもモニタリングや評価活動などに参画したいとの意向を示していた。
 次に“援助する側”に立ってみると、草の根無償資金協力は、日本ならびに日本人の善意を直接、途上国の貧しい人びとに届けることのできる「顔の見える援助」であるといえる。中南米4カ国を視察して印象深かったことは、草の根無償援助を通して副次的に、中南米社会のあちこちに庶民レベルの親日感情が芽生えていることであった。子どもたちも地図をゆび指して「ここがハポン(日本)だ」と叫んでいた。まさに、草の根無償援助はわが国の“国民外交”の旗手といえる。
7.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等):
(1) 草の根無償援助は2000年度で85億円、2001年度で100億円を超える見込みである。一般無償資金協力に比べると1件当たり援助金額も上限5,000万円で、通常は1千万円以下が一般的で非常に小さな金額である。しかし、「日本の顔が見える援助」として相手国国民のなかに広く浸透し、日本への信頼感を醸成するという点でその費用対効果はずば抜けて高い。したがって、日本政府は今後、戦略的な観点から草の根無償援助を大いに活用すべきである。
(2) 対象分野と援助対象団体を含めたガイドラインの明確化
(イ) 草の根無償プログラムやプロジェクトを発掘する時の基本コンセプトの明確化。たとえば持続的な発展が見込まれること、自立、自助努力の顕在、政府政策の恩恵が及ばないもの、「貧困救済」、「社会的公平」に寄与できるもの、社会的な裨益効果の高いもの、「人間重視」の精神を充足できるもの--といった基本的な援助コンセプトの提示が求められる。
(ロ) 対象分野の具体的な明示。案件発掘は必ずしもプロの専門家とは限らない。現地採用の人に委託することもあるので、でき得る限り分野別に対象分野を具体的に明示したほうが効率的で効果的である。
(ハ) 対象団体の性格の明示。外務省は対象団体を途上国のNGO(国籍問わない)、地方自治体、教育・医療機関など草の根レベルの社会経済開発プロジェクトを実施している団体であることとしているが、あまりにも漠然としている。たとえば、民間の学校法人、医療法人、協同組合などの対象範囲を具体的に提示すべきである。また、NGOについても、その資格を厳格に提示してほしい。
(3) 在外公館の対応能力の強化-人材確保
(イ) 案件の発掘形成能力を引き上げるために在外公館と専門家派遣、青年海外協力隊やシニア海外ボランティア派遣業務を所掌する在外JICA事務所との連携強化を図ること。特に青年海外協力隊員には案件の発掘形成を義務づけることを提案したい。それは、また青年海外協力隊員の現地での存在感を一層高めることにもなる。
(ロ) 案件発掘形成の外部委託制度の確立。現地の社会事情に精通する現地の人を採用して案件発掘等を委託する制度が存在するが、それは人件費の節約にもつながるので、こうした制度をさらに拡充するとともに東京からの専門家の派遣等を含めた改善策を検討すべきである。
(ハ) 草の根無償援助専門員制の導入。わが国の大学院で国際開発や地域研究を専攻した卒業生にキャリアパスを付加する意味もあって、在外公館で発掘形成の補助スタッフとして採用することも期待される。別名「草の根無償協力隊」と呼ばれるような制度を確立してもらいたい。
(ニ) 在外公館で草の根無償援助を効率的・効果的に処理していくために、手続きの簡素化とともに本省の権限を在外公館に大幅に委譲すべきである。
(4) 草の根無償援助を補完する技術協力の必要性
草の根無償援助は基本的に草の根レベルで裨益効果のある経済社会開発プロジェクトの施設建設や機材供与が支援の中心になっているが、多くの被援助国では案件を持続的に発展させていくために、小さな草の根的アドバイスや技術協力を求め始めている。特に、単発のプロジェクトでなく、各プロジェクトを統合したプログラム型の草の根無償援助の場合、その必要性はますます高まるものとみられる。
(5) 草の根無償援助とわが国NGOとの連携
草の根無償援助は本来、途上国で草の根的なプロジェクトを展開しているNGO活動を支援することであるが、途上国では残念ながらまだ良質のNGOが育っていない。そこで、専門性を有するわが国NGOと連携して、案件発掘形成から案件の維持運営、人材育成までの役割を託す仕組みをつくる考え方もある。わが国のNGOを採用すると案件への担保性が高まる一方で、わが国の国際NGOの育成にも役立つ。わが国と現地NGOとの連携案件を一定期間、パイロット的に支援する草の根無償援助も考えられる。
8.外務省からの一言:
(1) 草の根無償は、少額ではあるが木目細かな手当を行うことが可能であり、かつ末端の一般庶民に日本の「顔の見える援助」として受けとめられる制度であり、今後とも一層活用したい。他方、制度全般についても貴重な提言を頂いたので、更に良い制度にしていきたい。
(2) 特に、制度導入後10年が経ち、予算、件数が飛躍的に伸びていることから実施体制の強化が急務である。案件の適正な実施及び在外公館の対応能力の強化のために、今回頂いた提言の通り、専門家、青年海外協力隊員との連携を一層強化するとともに、外部委託制度を更に活用していきたい。
(3) 「草の根無償協力隊」は、斬新なアイディアであり、この様な仕組みが可能かどうか今後検討したい。


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