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ケニア国別評価

1.テーマ:ケニア国別評価  
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2.国名:ケニア
3.評価者他:
評価主任:
 高千穂安長(玉川大学・教授)
アドバイザー:
 笹岡雄一(政策研究大学院大学・教授)
調査団員:
 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
 荒川潤、原洋一、坂野太一、左近靖博
4.調査実施期間:2005年9月18日~10月2日

5.評価方針

(1)目的
○ケニアに対する日本の援助政策をレビューし、教訓・提言を得ると共に、国民に対する説明責任を果たすこと。

(2)対象・時期
○「ケニア国別援助計画」(2000年8月)

(3)方法
○「ODA評価ガイドライン(第2版)」(2005年5月)に準拠して、評価対象を「目的の妥当性」「結果の有効性」「プロセスの妥当性」から検証した。

6.評価結果

○目的の妥当性:

  • 「ケニア国別援助計画」は、我が国及びケニアの上位政策に基本的に合致していると共に、援助の国際的な動向とも整合している。
  • なお、「国別援助計画」の目的・目標に関しては、それらを直接的に示す項目が設定されておらず、若干分かりにくい。

○結果の有効性:

  • 【インプット】 我が国の対ケニアODAでは、「国別援助計画」の重点分野(及びその下位のサブ重点分野)において、他ドナーとの比較でトップ水準もしくはそれに次ぐ水準の援助額が投入されている場合が多い。我が国の国別援助計画における目的・目標を達成するとの観点からは、評価期間中における案件実施は、そのカバレッジや件数の点で必ずしも十分ではないが、これは相手国があるという状況や、我が国の財政状況等を勘案すれば、やむを得ない。
  • 【アウトプット】 「国別援助計画」に基づいて実施された個別案件は、所期のアウトプットを産み出していると考えられるが、他方で現在実施中である案件も多く、これらのアウトプットは現段階では確認できない。
  • 【アウトカム】 重点分野によって若干の相違はあるが、ケニアの全般的な社会経済状況を示すアウトカム指標は、全体として改善の方向にあるものの、依然として重要な開発課題が残る状況であることを示している。(なお、データ制約上、全般的に代替的な指標を用いた分析となっている。)
  • 【ケニア側の意識】 ケニア側は日本の援助に対して、持続可能性の高い案件が多い点。技術専門性が高い点、教育・保健分野などでケニアに有益な援助を実施してきた点、などを高く評価している。他方で、実施案件の成果が全国的に波及しにくい点、などで改善の余地があるとしている。
  • 【援助政策目標】 全体的には、現段階はいずれの分野においてもまだその成果を出し始めている段階であり、「国別援助計画」にて想定されている援助政策目的の達成に大きく寄与するだけの効果を産み出すには至っていないと考えられる。

○プロセスの妥当性:

  • 【計画策定プロセス】 「国別援助計画」は、東京と現地との協議、相手国との協議、実施機関との協議、などの点で、適切に策定されたと考える。
  • 【計画実施プロセス】 「国別援助計画」の実施プロセスは、全般的な枠組みとしては妥当と考えられる。他方で、ケニア側からは、計画実施プロセスの実務において、コミュニケーションの質・量面での不足が主たる原因と思われる問題点(優先案件の非整合、ケニア側の考え・ニーズの理解やベースライン把握の不足等)が、指摘されている。
  • 【他ドナーとの連携】 他分野でドナー・コミュニティとの対話が行われている一方で、特にケニア政府も重視し始めているセクターワイド・アプローチ(SWAPs)に対しては、日本の姿勢の不明確さについて指摘がある。
  • 【検証システム】 我が国の「国別援助計画」は、検証システムを有していないため、例えば政権交代などの諸環境の変化に柔軟に対応しにくい。

7.提言

○目的・重点分野に関して:

 1) 目的・目標の明確化と現実的な目標設定:

  • 「国別援助計画」においては、我が国とケニア双方の国益を見据えた上で、我が国としてなぜケニアへの援助を実施するのか、具体的な目標は何か、何を重点分野としていくのかなど、「対ケニア援助の目的・目標」が一層明確にされている必要がある。
  • 次期「国別援助計画」の策定に際しては、相手国の社会経済状況を一気に改善するような大きな目標(最終成果)ではなく、計画期間中における我が国の援助案件の実施を通じて達成可能な現実的な目標(中間成果)を設定することが重要である。
  • 中間成果の設定については、「国別援助計画」に対応する「年次行動計画」のような文書を作成し、そこでより現実的かつ具体的な目標を設定することも有効である。

 2) 戦略計画としての「選択と集中」:

  • 我が国としての重点分野を厳正に絞り込んで、「国別援助計画」の有効性を高めていくことが求められる。
  • 「選択と集中」を効果的に進めるためには、開発課題とその解決手段との関係を明確にする「目標体系図」を計画策定段階にて構築する方法や、「開発課題」によるクロス・セクトラルな重点分野を設定する方法などが、可能である。
  • 「選択と集中」を明確にした後も、重要なイシューがある場合には、上記「年次行動計画」等を活用して柔軟に対応することが求められる。

 3) ケニアの「東アフリカ地域」重視を踏まえた政策策定:

  • ケニアの「東アフリカ共同体」の重視の姿勢を踏まえて、東アフリカ地域内への波及効果も視野に入れて、我が国の政策を立案することが重要である。

 4) 自国産業育成の重視:

  • 自国産業(特に中小企業)の育成策は、ケニア経済の成長には不可欠である一方で、「国別援助計画」では必ずしもその方向性や方針が明確ではないことから、これを明確化していくことが重要となる。
  • 自国産業育成策は、「トップダウン」(政策的なイニシアティブによる産業育成)と、「ボトムアップ」(企業の自主的なイニシアティブに対する政府の側方支援)との、相乗効果を図るように検討することが求められる。

○援助手法・アプローチに関して: 

 1) ODAのインパクトを全国的に波及させる仕組みの確立:

  • 我が国の援助は、ケニアのオーナーシップや自助努力を重視するものであるが、その原則と整合する方向で、ODAのインパクトを全国的に波及させることも可能と考える。そのためには、援助形態の多様化(プログラム化、SWAPs、援助協調など)、広域性の確保につながる戦略的かつ継続的な案件実施、(案件形成・実施の前提となる)ベースライン調査やモニタリングの恒常的な実施、などが考えられる。
  • プログラム化(共通の目的・対象の下に相互密接に関連付けながら複数のプロジェクトを計画・実施すること)については、外務省において既にそのような方向性が打ち出されているところ、今後その実績を積み重ねていくことが期待される。
  • SWAPsに関しては、次期「国別援助計画」の中で日本の考え方や関与の方法、参加の範囲についてその立場を明確にすべきである。併せて、ドナー間で検討中の「ドナー共同支援戦略」(JAS: Joint Assistance Strategy)に対しても、このSWAPsへの対応との一体性を保つように、我が国の立場・対応を明確化することが必要である。
  • 仮に案件の対象地域が限定的であっても、その実施により、技術や情報が他の地方にも伝達される方法を取り入れていくことも必要である。そのためには、ケニア側との多層的な対話(各地域や社会の各層、NGOや市民組織、各ドナー、各省庁など様々なステークホルダーとの対話)を一層重視し、それを踏まえて案件の戦略性を高めることによって、継続的なプロジェクト実施が、広域性の確保につながるように工夫することが望まれる。

 2) 草の根(コミュニティ)レベルに直接裨益効果が及ぶ実施手法の検討:

  • 次期「国別援助計画」では、草の根(コミュニティ)レベルに直接の裨益効果が及ぶように、「NGOとの連携」「参加型の開発」など、適切な手法を検討し採択することが求められる。

○実施体制に関して:

 1)「現地ODAタスクフォース」の一層の強化:

  • 「現地ODAタスクフォース」は、現地大使館の強いリーダーシップの下で、有効に機能し重要な役割を担っている。今後、期中モニタリングの機能、ケニア側との多層的な対話の窓口としての機能など、この役割を更に強化していくことが望ましい。
  • 援助政策の有効性を高めていくためには、我が国の「システム」としてそれを実現しうるようにしていくことが重要である。「現地ODAタスクフォース」が、そのようなシステムの核として機能していくことが望ましい。

 2)ベースライン調査、ニーズ調査の充実:

  • ケニアに対する我が国のODAの効果を一層高めていくためにも、ケニアにおけるベースラインやニーズの把握を充実させる必要がある。ベースラインの把握に関しては、例えば重点分野として選定した分野については、案件実施の有無に係わらずに恒常的にベースラインを把握する仕組みを構築するなど、ケニア側の状況を常に把握できるようにしておくことが重要である。

 3)手続の簡素化・効率化の方策の検討:

  • より一層効率的な援助の実現のために、手続を簡素化して意思決定を早められるような、具体的な方策の導入が望まれる。例えば、他ドナーとの協調を含めた一定の条件の下で、特定の案件に関して手続きを簡素化する手法などが考えうる。

 4)期中モニタリング・評価のメカニズム構築と実施:

  • 現行「国別援助計画」において我が国が経験したような、相手国の政権交代など大規模かつ急激な環境変化が内外に発生した際に、それに柔軟に対応しうる仕組み、また計画の進捗状況を把握して必要な改善を施していけるな仕組みを検討する必要がある。そのためには、「国別援助計画」をその期間の中間段階でモニタリングして、必要な軌道修正を実施する仕組みが構築されることが望ましい。また「年次行動計画」を作成して、毎年度の環境変化や方針変更などを「国別援助計画」本体ではなくこの文書において柔軟に受け止めていく、という方策も可能である。
  • 手続の調和化の観点からは、期中モニタリングを、ケニア側に過度の負担をかけずに効率的に実施しうる枠組みが、中長期的に検討される必要がある。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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