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カザフスタン援助実施体制評価

1.評価対象プロジェクト名:
 カザフスタン援助実施体制評価
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2.国名:カザフスタン
3.援助形態:
 静岡県立大学教授 小浜 裕久(団長)
 世銀インスティチュートアドバイザー 柴田 勉
 ユニコインターナショナル株式会社 渡辺 博
4.現地調査実施期間:2001年3月12日~26日
5.評価の目的:
 カザフスタン共和国において我が国が実施している政府開発援助-ODA(無償資金協力、技術協力、有償資金協力)に関して現地側の援助実施体制、我が国援助実施体制を把握、問題点を調査し、援助実施体制を改善するための提言を行う。(95年度から、インドネシア、スリランカ、ベトナム、セネガル、カンボジアで実施。2000年度は、ウズベキスタンと併せ実施。)
6.評価結果:
(1) 日本側の援助実施体制の現状及び問題点
(イ) カザフスタン側の開発計画と対カザフスタン援助計画
カザフスタン(今年が独立10周年)は、我が国のエネルギー外交上重要であり、中央アジア・コーカサス諸国に対するシルクロード地域外交の重点国である。現在、カザフスタン側の中長期開発戦略「2030年までのカザフスタンの長期発展戦略」等の文書はあるが、必ずしも明確になっているわけではない。他方、我が国の対カザフスタン国別援助計画は策定中であり、1994年度以降2000年度までの間に有償資金協力約674億円(2000年度まで主として運輸インフラ関連の案件が多い)、無償資金協力約35億円、技術協力約46億円、合計約755億円(年間約125億円)が実施されている。なお、JICA及びJBICは2000年度にそれぞれ国別事業実施計画、国別業務実施方針を策定している。
(ロ) 援助に関する政策対話
大使と閣僚レベルの対話は行われているが、1998年11月以来、本省出張者を含む日本側とカザフスタン側の実務レベルの政策対話が必ずしも充分に行われていないように思われるところ、一層強化する必要があろう。
(ハ) 日本大使館の体制。
(a) 在アルマティ日本大使館の体制
日本大使館の経済協力班担当者は2名であり、ODAと直接関係の無い組織からロシア語も専門ではない出向者が担当している現状にある。最近のODAの事業規模に鑑みれば、JICA事務所がないため、相当の業務をこなさなければならないのが現状となっている。この点、ウズベキスタンにはJICA事務所が設置されており(駐在員2名をはじめ常駐者5名)、大使館にはJBICからの出向者も配置されているのと比較すると極めて対照的で、人的体制が手薄である。国際協力銀行(JBIC)との密接な調整が図られることが望ましい。
(b) 首都アスタナにおける日本側の体制
カザフスタン政府機関はアスタナに全て移転(1997年11月)し、国際機関のカントリーオフィスも移転しつつある。日本側、他のドナーに先駆け出張駐在官事務所を設けたものの、書記官1名と経済貿易省にODAアドバイザーとして長期専門家1名がJICAから派遣されているのみである。
(ニ) ドナー・コーディネーション(援助供与国間調整)
主要国及び国際機関が非公式な意見交換を定期的に(月1回程度)実施しているが、各ドナー国、国際機関の現状の活動報告にとどまっている。
(ホ) 使用言語の問題
アスタナ市小児病院医療器材整備計画の事例であるが、プロジェクト実施に際し、言語の障壁の問題がある。ロシア語を解する人が多いのにも拘わらず機材に貼付されるODAロゴマークは、英語版を使用していた。また、供与機材の保守連絡先(JICS: Japan International Cooperation System=日本国際協力システム)に関する掲示も英語のみであり、受入側職員に充分理解されていない。さらに研修等においてロシア語専門用語に堪能な通訳の数が限られており、十全な効果があがっていないような例が見られた。
(2) カザフスタン側援助受入体制の現状と問題点
(イ) 交換公文(E/N)、借款契約(L/A)、討議の記録(R/D)
交換公文(E/N)等がサインされると、援助に係わる国際的なスタンダード(援助プロジェクトに関する機材、専門家などの非課税処置など)に沿って、すぐに援助が実行に移される。
しかしながら、今回、カザフスタン側の説明によれば、交換公文(E/N)に定められている内容や借款契約(L/A)、討議の記録(R/D)が議会承認を必要とするとのことであり、E/N等がサインされても相当の間議会承認が得られないために援助プロジェクトがタイミング良く実施されないケースがある。この遅延問題の背景には、援助受入機関である経済貿易省・外務省などと、国家歳入省との間で、関税、所得税等の免税問題についての対立がある。カザフスタン側は、何らかの「包括的な協定」により個々の交換公文等の議会承認を不要にし、援助がより円滑に行われるようにしたい意向である。(なお、カザフスタンは技術協力に関する協定を米国、ドイツと締結している。)
(ロ) 援助窓口関係機関の調整
援助窓口が一本化(一つの役所が窓口となって援助の実施に係わる手続きがすべてその役所と交渉すれば実施できる体制)されていない。形式上は、外務省がまとめ役になり、経済貿易省がこの中心的役割を担っているが、財務省、国家歳入省も援助に関係しており、他省庁との関係で調整が必ずしも充分でない。国連開発計画(UNDP)、世界銀行(WB)からも同様の指摘があった。
(ハ) 運営保守予算
アスタナ小児病院を視察しただけであるが、カザフスタン側の供与機材に対する運営保守予算が充分ではないように感じられた。
7.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等):
(1) カザフスタン側の開発計画の優先順位を踏まえつつ、日本側の開発援助計画を早急に策定すべきである。援助の効率化を図ると同時に、ODA大綱にも謳われている「民主化支援」の一環として「初等・中等教育の充実」に力を入れるべきである。援助の効率化を図るには、プロジェクト実施可能性調査(Feasibility Study)における需要予測の精度を一層高めることが必要である。さらにインフラ整備においては資金需要が多くあることに鑑み、個々のプロジェクトの計画に当たっては、適正な事業規模と適切な設計・施工を心がけ、事業効果の高い厳選したプロジェクトに援助すべきである。
(2) 政策対話については、本省出張者や大使館による実務者レベルでの対話をより頻繁に開催し、中身の濃い政策対話を実行する体制を確立すべきである。さらによりハイレベルで、カザフスタン側の資金援助担当副首相、外務大臣、経済貿易大臣等との政策対話の強化も望ましい。
(3) カザフスタンの国内問題を解決し、援助のより円滑かつ迅速な実施を確保する為に、両国間で何らかの法的枠組みを早期に確立することが望ましい。
(4) 日本側援助体制の強化
JICA、JBICからの派遣を含め、より経済協力の経験の深い書記官の配置(ロシア語ができることが望ましい)等、日本大使館経済協力班の更なる強化が望まれる。アスタナにおける出張駐在官事務所の拡充と共に、JICA、JBIC事務所設置を含めた人的体制の強化が望まれる。その際、ローカルスタッフを有効に活用すべきである。特に、ウズベキスタンにJICA事務所(駐在員2名、企画調整員2名、協力隊調整員1名の計5名が常駐)が設置されていることを鑑みると、援助実績に比較して、体制の強化が必要不可欠ではないかと思われる。他のドナー、国際機関の中央アジアにおける拠点はアルマティに置かれており、アスタナにはカザフスタンの国別オフィスが置かれつつあるのが大勢である。
(5) カザフスタンは二重課税防止条約を破棄した経緯(95年)があり、現在両国間に二重課税防止条約は締結されていない。このことが日本企業進出の妨げの一つとなっているとのカザフ側の指摘もある。援助はODAと民間投資とが補完してなされるべきであり、この点、二重課税防止条約の早期締結が望まれる。
(6) 供与された機材の運営、保守の為、以下の方策を実施してはどうか。
(a) 技術移転にあたってはロシア語のできる専門家や専門用語に堪能な通訳の起用を図る。また、ロシア語の堪能な欧米人専門家の起用も一案と考える。
(b) 供与した機材の運営保守の問い合わせに対するロシア語での対応体制の充実をはかる。
(c) 運営保守費用に関し、カザフスタン側の更なる自助努力を喚起した上、ノンプロ無償資金協力の見返り資金の活用など柔軟な対応が望まれる。
8.外務省からの一言:
(1) カザフスタンの国別援助計画を現在策定中であり、カザフスタン側の開発分野の優先順位等も踏まえ、できる限り早く完成させたい。
(2) 実務レベルでの政策対話をより頻繁に実施するとともに、ハイレベルでの政策対話も強化したい。
(3) 対カザフスタン援助の規模に鑑みれば、在アルマティ大使館及び在アスタナ出張駐在官事務所における我が方援助実施体制の強化が重要である。JICA、JBIC事務所の設置も含め、予算等種々の制約もあるが、実施体制強化のために何ができるのか方策を検討したい。
(4) 調査団指摘のカザフスタン国内の課税問題のため個々の案件が議会承認を要する問題については、案件毎に早期に議会承認するようカザフスタン側に働きかけている。また、より円滑かつ迅速なODA実施のための具体的な解決策についてカザフスタン側と協議を行っている。
(5) 調査団指摘の供与機材の運営・保守費用に関するノンプロ無償資金協力の見返り資金の活用などに関しては、先方の自助努力を妨げることとならないよう配慮しつつ、ケース・バイ・ケースで検討することとしている。
(6) 日本企業進出にはカザフスタン側の法整備が十分でないという阻害要因もある。二重課税防止条約の締結については、今後の課題として検討していきたい。(但し、他にも多くの国から二重課税防止条約の申し込みがあり、カザフスタンと直ちに交渉を開始するのは難しい状況にある。)


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