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開発調査
(スキーム別評価)

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2.調査対象国:全世界
  現地調査国:インドネシア及びエジプト
3.評価チーム:
(1)評価主任:牟田 博光 *
 (東京工業大学大学院社会理工学研究科長)
(2)アドバイザー:坂元 浩一 
 (東洋大学国際地域学部国際地域学科教授)
(3)コンサルタント:(コーエイ総合研究所)
 砂川 眞 *
 安西 尚子
 下村 暢子 *
 内田 陽子 *
 * 現地調査団メンバー
4.調査実施期間:2006年7月~2007年3月

5.評価方針

(1)目的
 我が国は1962年以来、技術協力の一環として「開発調査」を実施し、途上国の社会・経済開発のための公共的開発計画の策定の支援を行うと共に、計画策定のための技術を伝える工夫を行ってきた。また調査の一環として、実証事業や緊急支援事業など技術協力としての援助方法のフロンティアを切り拓いてきた。その意義は大きいものの、開発調査で策定された計画が事業化に至らない場合や、途上国自身の計画や政策に充分に活用されない場合もあるとの指摘もなされている。他援助スキームの前段階を担う開発調査を評価することは、2008年度に発足する新ODA実施体制を整備していく上でも重要な意味を持つ。従って本評価では、開発調査という技術協力の一形態を総合的、包括的に評価し、今後のより効果的・効率的な開発調査の実施へ向けて参考となる教訓を得て、提言を行うことを目的とする。同時に、開発調査の強みや改善点を明らかにすることにより、国民の開発調査への理解を深め、途上国政府関係者や他ドナーにもフィードバックして我が国援助の広報に役立てることも目的とする。

(2)対象・時期
 本評価では、過去約10年間(1995年度以降)に開始された開発調査全案件を対象とする。これまでの開発調査案件を総覧すると同時に、より詳細レベルに踏込んだ調査・分析とするため、インドネシアとエジプト1 の2カ国を取り上げて現地調査(ケーススタディ)を実施した。

(3)方法
 本評価では、A.開発調査全体と、B.現地調査対象国における開発調査という2つのレベルで調査・分析を行う。外務省ODA評価ガイドラインに則って、「目的の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3つの視点を切り口として、それぞれの評価レベルについて評価基準・項目を設けた「評価の枠組み」を作成し、この枠組みに従い、1)関係者へのヒアリング、2)文献調査、3)JICA「開発調査実施済案件現状調査」に係る分析、4)現地調査(ケーススタディ)、5)開発調査を実施したコンサルタントに対する質問票調査の5つの評価作業を実施し、総合評価、および提言をまとめた。

1 インドネシアはこれまでの開発調査実施件数が最大であること、エジプトはアジア以外の国々の中で開発調査案件数が最大であることが、これら2国の選択にあたって考慮された。

6.評価結果

(1)目的の妥当性

 開発調査の分野・課題や対象地域は、国際開発課題や我が国ODA政策の重点課題・地域に対応している。開発調査で従来多かったフィージビリティー・スタディ(F/S)型が減少する一方、マスタープラン型が増え、セクタープログラム調査や政策支援型調査が登場し、保健・教育等の社会開発分野や災害対策・復興支援にも活用されている。対象地域は従来ASEAN中心であったが、アフリカ等多様な地域で実施されている。開発調査の強みとしては、支援分野・課題に対する初期の状況把握や計画策定から一部の事業実施まで包括的かつ多様な活動が行え、特に緊急支援に柔軟に対応できることが挙げられる。

(2) プロセスの適切性

 外務省及びJICAは、要望調査の改善、緊急支援等に対応した新制度を適用する等、手続きの効率化を図り、課題に関する専門性充実や在外事務所の役割強化による現地情報収集・協議の充実等を進めている。実証事業の導入が、調査結果の説得力や相手側のオーナーシップの向上に貢献していることが注目される一方、コンサルタント側は、現地事情を勘案した柔軟な対応、承認や精算手続きの合理化、調査を活用した相手国政府との協議支援に関して改善を求めている。他方、相手国関係者からは、能力開発の観点から調査プロセスへのより積極的な関与を望む意見が出された。また、調査終了後の状況を体系的に把握する開発調査実施済案件現状調査が行われているが、コンサルタントと相手国実施機関へのアンケート調査による情報収集するに留まっており、プログラム化の流れの中で開発調査終了後の事業化・活用を確保する体制充実が求められる。

(3) 結果の有効性

 開発調査は幅広い課題に対応し、国家計画・政策への貢献、データ整備、事業の実施等、様々な成果を生んでいる。ケーススタディ国では報告書は政策立案・実施に活用されており、調査結果の有効性は肯定的に評価されている。一方、事業化を目的とした開発調査が5年以内に実現した割合は全体の6割であり、案件フォローアップの早期着手の重要性が確認された。

7.提言

(1) 新JICAを見据えての調査の戦略的活用

(イ)他スキームとの間との調整を行い、案件形成については機動性・柔軟性を確保する  開発調査の目的には、大きく分けて、(i)開発計画作成協力と(ii)能力開発支援があり、前者は更に、a)セクター調査(具体的支援の前段階で当該分野全体の状況とニーズを把握するもの)b)次段階での資金協力等を目的に行う調査、c)相手国政府の計画・政策策定への協力、に分類できる。

  (i)-a)ないし(i)-b)を主目的とする調査については、JICAとJBICの類似機能をもつ援助活動もあり、運用上の比較優位を勘案しつつ、整理統合し得るだろう。案件の準備や形成に関する部分は、国際約束の対象となる「技術協力」としてよりも、その前段階と位置付けて機動性・柔軟性を確保することに重点をおき、開発調査ではマスタープラン策定や政策・制度支援等を主に担ってゆくような棲み分けが重要となろう。

(ロ)開発調査の担ってきた刷新的な役割を担保する
 これまで開発調査が果たしてきた役割や成果を俯瞰すると、その最大の強みは、1)実証事業により調査内容を充実させる共に、試行錯誤過程を経て新たな手法やアプローチを創出してきたこと、2)緊急時対応や平和構築支援において、現状調査から一部の事業実施までを一案件内で一気に行ってきたことに集約されるだろう。今後、開発調査と類似機能をもつ援助活動の整理統合が進む中で、この2つの側面を我が国技術協力において戦略的に活用していくことを提案する。
 特に実証事業においては新しい手法、制度を相手国政府とともに運営していくことで、能力強化の面で大きな効果があったが、それを通じて相手国政府が課題を具体的に理解し、政策への反映にも影響を与えた例が注目される。更に調査団員の5割までの外国人登用を他のスキームに先駆けて認めたことも特筆すべきであろう。日本人コンサルタントの経験の浅かった保健・教育など比較的新しい援助分野、または制度構築支援などの分野において外国人コンサルタントを登用することでより相手国政府のニーズに応えるとともに、一緒に調査した日本人コンサルタントの能力強化にも繋がった例も存在する。開発調査が生み出してきたこうした刷新的な機能や制度は、今後も開発調査の中で、あるいは他の何らかの形で担保されることが重要であろう。

(ハ)プログラム化に伴う政策協議の充実に開発調査を一層活用する
 現在外務省、JICA及びJBICでは各国レベルでODAスキームを横断したプログラム化を検討中であり、事業化などの方向性が示される見通しである。プログラム化が定着した暁には、充分な情報や知識が実施機関内に蓄積されるであろうが、それまでの段階において開発調査は、セクター、地域を横断し状況を把握するために、重要な役割を果たしうる。開発調査のアウトプットを活かして日本側関係者のみならず、相手国政府と充分な協議を行うと共に、当該分野に関与するステークホルダー(他ドナー、現地有識者、市民グループ等)とも調整して、認識を共有すると共に、日本の支援に対する理解を得ることが重要である。

(ニ)F/S型調査を高度化する
 F/S型調査については、途上国自身のF/S作成能力も育っている中、より難度が高く、セクター全体の制度や財務・組織面を含む包括的検討が必要な案件や、資金目途も立ち迅速な対応が可能な案件に特化させ、付加価値を確保することが重要である。事業化に必要となる実施体制強化や制度改善については相手国の自助努力だけに任せるのではなく、必要な支援を見極め、具体的内容を検討し提案することも求められる。

(2) 調査の質向上へ向けた制度の充実と改善

(イ)援助の事前準備プロセスの充実と合理化をはかる
 外務省、JICA及びJBICで検討中の援助のプログラム化の流れの中で、分野・課題毎に開発調査と他スキームを総合的に捉えてローリングプランを作成し、それに基づき案件形成と準備を行うことが試みられている。そのような改善を一層進め、未実施国にも展開してゆくと同時に、案件採択前に充分な検討や相手国政府との協議を行い、採択後には相手国事情や実施体制も踏まえた的確なTORを完成させて、優良案件を効率的かつタイムリーに準備してゆく努力が求められる。外務省とJICAが管理する事前準備のプロセス全体をレビューし、更なる充実と合理化を検討することが重要である。

(ロ)能力開発の目的に対応した仕組みや投入を工夫する
 開発調査の中で能力開発が強調される場合が増えているが、調査期間や予算の制約により、計画・政策策定をコンサルタント主導で進めざるを得ない場合が多い。一方、ワークショップや研修、実証事業を機動的に活用し、能力開発に大きく貢献したという例もある。能力開発の効果を上げるためには、開発調査活動が行われれば自ずと能力開発が達成されると考えるのではなく、能力開発を意図した活動を実施することが必要である。相手国実施機関の意向、実施体制、能力水準等を確認した上、当該案件の緊急度に鑑みて調査方法を検討し、能力開発の目的や具体的アプローチについてTORに明記して相手国政府とコンサルタントの合意を得ておく必要がある。

(ハ)調査の質向上を目指して諸手続きの合理化と柔軟な運用を行う
 調査実施中、諸手続きの硬直性や煩雑さが業務の妨げになることが多いと多数のコンサルタントが指摘する。JICA、コンサルタント共にあくまで調査結果の質確保に焦点を当て、手続きの厳密さを追及するよりも質の向上に時間とエネルギーを振り向けられるよう、更なる仕組みの改善が求められよう。具体的には、事前準備段階で決めるTORについて、戦略・概念レベルを大枠で押さえるものとし、調査実施中に新たに発覚した事実や事情変更に柔軟に対応できるよう裁量の余地を残したものであることが求められる。既にJICAの一部にはそのような動きがあるが、今後組織内で主流化してゆく必要がある。
 また、実証事業実施や再委託業務に係る承認や精算手続きに関して、コンサルタントとJICAの双方に発生する取引費用を勘案して出来る限り合理化・簡素化すると共に、報告書については調査の目的、期間、相手国事情、投入予算額等に鑑みて柔軟に決めてゆくなどの工夫が求められる。
 加えて、ケーススタディ国で聞かれたように、現地の大学関係者やコンサルタントの活用を求める要望が強い。現地人材の活用は当該国自身による課題対応能力向上にも寄与し、調査のオーナーシップを高めるアプローチであり、そのための制度整備も重要であろう。

(ニ)終了後のフォローアップ体制を充実し、事業化・活用を推進する
 プログラム化の導入促進に伴い、初期の段階から終了後を意識した枠組みが今後構築されてゆくが、開発調査案件の終了後の具体的なアクションのための仕組み作りも重要である。調査終了直前或いは直後に、具体的なフォローを行ってゆくため相手国政府との合意に基づく「アクションプラン」を作成し、JICAを中心に現地ODAタスクフォース機能も活用して行動していく体制整備が求められる。なお、JICA事務所、現地ODAタスクフォースには必ずしも当該分野の専門家が含まれるとは限らないため、必要に応じてコンサルタント等の投入も行い、フォローアップの体制を充実させることが重要であろう。アクションプラン策定にあたっては、業務を実施したコンサルタントからJICAへ正確な情報伝達や引継ぎが行われるよう確保する必要もある。

(ホ)フォローアップ調査を充実し、事後評価を行い、評価結果の戦略的活用をはかる
 開発調査実施済案件現状調査は、これまで当該国政府機関とコンサルタントへのアンケート調査によって実施されてきたが、その手法を見直し、データ内容の充実と正確性・一貫性の向上を図ることが急務である。特に、開発調査終了後、事業化、或いは次段階の調査や資金協力を実施するには実施体制や財政基盤が弱すぎるなど、短期間の関与では改善されない本質的な理由もあり、それらは現在の調査枠組みで捉えることは難しい。開発調査が先方の問題で事業化に至らなかった、或いは日本側として事業化に適さないと判断した場合の理由を分析し、その教訓を記録しておくことは、同様の問題を繰り返さないために重要である。
 また、政策・制度支援型やマスタープラン型の調査についてはプログラム評価を含め、何らかの形で事後評価を実施し、教訓を記録して新規案件に活かすよう検討が求められる。JICAにおけるプログラム化推進により、将来プログラム評価が主流となる見通しだが、少なくとも移行期間中、開発調査の方法と結果が相手国政府の政策・制度・計画等とどの程度親和性を持つものであったか、どの程度は反映されたか、相手国政府の制度構築・改革にどのように寄与したか、その要因は何であったか等について、客観的見地から経験と教訓を抽出・整理しておくことは、今後同様の支援を拡充してゆく上で重要であろう。
 開発調査実施済案件現状調査の充実と事後評価の実施により、我が国ODAの上流部分を担う開発調査の結果を整理しておくことは、国別評価、分野別評価、またメタ評価2 の充実につながる意義を持つであろう。

2 一連の評価から評価結果を集計することを意図した評価。また、評価の質の判断及び(又は)評価実施者の実績(パフォーマンス)を査定するための、評価の評価。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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