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対ヨルダン国別評価調査

1.評価対象テーマ:ヨルダン国別評価
2.評価対象国名:ヨルダン
3.評価者等:
 高千穂安長 玉川大学経営学部国際経営学科教授(ODA評価有識者会議メンバー)
 立山 良司 防衛大学校総合安全保障研究科・国際関係学科教授
 村上 雅博 高知工科大学大学院・工学研究科・基盤工学専攻社会システム工学コース教授
 三井 久明 財団法人 国際開発センター主任研究員
 シーク美実 財団法人 国際開発センター研究員
4.評価実施期間:2003年10月6日?2004年3月31日
5. 評価の目的:
 今後の対ヨルダン援助はどうあるべきかを幅広く分析し、わが国のヨルダンに対する援助政策の見直し及び今後のより効果的・効率的な援助の実施の参考とするための提言を示すこと、また、評価結果を公表することで説明責任を果たすこと。
6. 実施要領:
 「対ヨルダン国別援助方針」(1996年策定)を主な評価対象とし、外務省経済協力局のODA評価ガイドラインに従い、「対ヨルダン国別援助方針」を「目的」、「プロセス」、「結果」の3つの視点からレビューした。本評価の対象期間は、可能な限り最近の動向までをカバーすることを試み、基本的に対ヨルダン国別援助方針が策定された1996年から2003年9月までとした。現地調査に合わせて、ヨルダン国会議員に対するアンケート調査を実施、その集計結果を本評価の参考とした。本評価の制約としては、援助政策の策定段階において、重点分野別の成果指標(目標値:ターゲット)設定を行っていないため、ターゲットへの達成度測定が不可能であったことが挙げられる。なお、本評価では、ヨルダンに対する経済協力が中東地域の安定と和平に向けた環境造りを支援するとの政策的観点から実施してきたことを十分に踏まえ、また、ヨルダン国民の約30%がパレスチナ難民であることから、国連パレスチナ難民救済機関(UNRWA)を通じた支援も参考として扱った。
7.評価結果:
1) 目的の妥当性
(1) 上位政策との整合性に関して
 国別援助方針の根幹を成す重点分野及び留意点の内容は、旧ODA大綱及びODA中期政策との整合性を十分保っている。なお、新ODA大綱との関係では、大綱の「『人間の安全保障』の視点」といった基本方針や、「貧困削減」、「平和の構築」といった重点課題は、ヨルダン側の開発方針と合致していることが判明した。
(2) ヨルダン国家開発政策との整合性に関して
 対ヨルダン国別援助方針で明示された重点分野は、「経済社会開発計画(1993年?1997年)」、「経済社会開発計画(1999年?2003年)」、「社会経済転換計画(SETP)(2002年?2004年)」等のヨルダンの国家開発計画で示された開発ニーズに概ね合致していることが判明した。但し、国別援助方針と新しい開発計画(SETP)との整合性については、ヨルダン側のニーズの変化にともない整合性が低くなっていると判断する。
(3) 主要ドナーの対ヨルダン援助政策との比較
 わが国の国別援助方針における重点課題は、若干表現の仕方に差異はあるものの、他ドナーの重点課題と関連する部分が見られた。一方、貧困削減、政治面/行政面の改革支援は、他の主要ドナーの重点課題の一つとして挙げられていながら、わが国の国別援助方針では明示的に重点課題とされていないことが分かった。

2) 策定・実施プロセスの適切性・効率性
(1) 策定プロセスの適切性に関して
 国別援助方針の策定時から8年間が経過しているため資料が保管されておらず、同方針策定にかかる当時の状況についての詳細を把握することは困難であった。しかしながら、聞き取り調査の結果から、同援助方針は、わが国国内の関係者及びヨルダン側関係者の意見を吸い上げつつ策定されていたと推測し得る。
(2) 実施過程の適切性に関して
 JICA及びJBICは援助実施過程において対ヨルダン国別援助方針を適切に反映してきたものと判断する。また、同方針が個別案件の形成、要請、採択プロセスにおいて適切に反映されてきたことも確認された。他方、対ヨルダン国別援助方針の検証については、同方針策定以来一度も見直しが行われなかったことは適切性に欠けている。
(3) 実施過程の効率性について
 日本側の援助実施体制については、ODAタスクフォースを中心に整備されていることが確認された。他方、日本側の援助実施体制は、緊急時における体制では改善が必要と思われる。ヨルダン側の援助受入れ体制については、省庁間では案件形成能力に差異があるものの、計画・国際協力省(MOPIC)を中心に整理が行われ、機能的に整備されていると判断できる。
 わが国援助スキーム間の連携及びヨルダン側実施機関、二国間ドナー、国際機関、NGOとの連携は十分に行われてきたと判断される。一方、国際機関への拠出との連携については、世銀のPHRD(開発政策人材育成基金)及びJSDF(日本社会開発基金)の案件形成段階における世銀との緊密な調整体制が整っていないことから、効率的とは言い難い側面がある。また、現地レベルでのヨルダン側民間セクターとの交流強化が重要と思われる材料が見出された。

3) 結果の有効性
(1) 重点課題
 「水供給」、「食糧供給」、「輸出」「中継貿易のためのインフラ整備」については、わが国が主要ドナーであることや、わが国援助の成果が確認されていること等の理由から、わが国の援助成果の有効性は高かったと判断される。一方、「基礎的保健・医療」および「教育」については、わが国が主要ドナーでなく、また、ヨルダン政府の資金的な投入が大きいこと等の理由から、わが国援助の成果の有効性は限定的であったと考えるべきであろう。「観光産業のインフラ整備」については、将来的に大きなインパクトが期待されるものの、評価対象期間中には、どのプロジェクトも完成していないため、わが国協力の成果を測ることは困難である。「環境」については、水質汚染では「水質汚染管理計画」を実施しているが、大気汚染や廃棄物汚染では殆ど援助を行っていないことから、わが国のヨルダンへの環境保全分野に対する援助政策についての実質的なインパクトは現時点では認められない。
(2) 留意点に示された各課題
 中東和平支援:ヨルダンに対する最大規模の無償資金協力プロジェクトとなった第二次アンマン都市圏上水道施設改善計画(ザイ浄水場整備事業)は、ヨルダン・イスラエル和平協定(1994年)を具体化する水分野の和平プロジェクトのシンボルである。加えて、「シェイフ・フセイン橋」と「キング・フセイン橋」の架け替え事業については、イスラエル・パレスチナ関係の混乱にも拘わらず、ヨルダン・イスラエル間の政府技術者の交流、民間経済活動の促進や、パレスチナ自治区への人道支援物資の輸送といった面で重要な役割を担っている。UNRWAを通じたパレスチナ難民のための職業訓練支援は難民の生活向上にとって重要である。また、ヨルダンにおいて第三国研修事業を通じて、パレスチナ自治政府(PA)のキャパシティ・ビルディングが進んできた。
 債務救済支援:対外累積債務は近年のヨルダン経済にとって最大の懸念であり、わが国からの一連の債務救済措置の実施により、同国は危機的状態を脱することが可能となった。外貨準備高も安定的に推移しており、わが国の債務救済支援は、ヨルダンのマクロ経済安定化に大きく貢献している。
 女性支援:わが国の家族計画・WIDプロジェクトや草の根・人間の安全保障無償資金協力案件が女性の収入増に貢献してきたと推測される。ヨルダン女性の社会進出は、他アラブ諸国(アルジェリア、エジプト、モロッコ)との比較で向上の余地があり、今後とも留意していく必要がある。
(3) その他(ODA広報)
 わが国は、ODA広報に努めてきたが、現地のマスコミ関係者等によれば、ヨルダン国民のわが国のODAに対する認知度は決して高くないのが現状である。
8.提言:
<政策の立案に関する提言>
(1) 対ヨルダン援助政策の整理を行う
 ヨルダンに対する国別援助計画の策定が望ましいが、これが早急に実施困難な場合は、新ODA大綱を踏まえ、ヨルダン政府との政策協議を通じて、対ヨルダン援助政策の整理を行うことが適当である。
(2) 対ヨルダン援助政策の中でヨルダンをパートナーとして位置付け、ヨルダンと南南支援にかかるパートナーシップ・プログラムを締結する
 わが国にとってヨルダンは、パレスチナ支援及びイラク復興支援の拠点であり、中東地域の社会的安定と和平に向けた環境造りのためのわが国支援におけるパートナーとして位置付けられる。
(3) 穏健勢力に資する中東和平支援のための協力を推進する
 中東において和平の動きを支えるためには穏健勢力が優勢となる支援が重要であり、貧困削減、雇用創出及び教育の充実を目指すヨルダン側の自助努力への支援を強化することが肝要である。
(4) UNRWAを通じたパレスチナ難民支援を継続する
 難民キャンプにおける貧困削減支援は難民が過激派に陥ることを防ぎ、ヨルダンが中東における安定した穏健勢力であり続けるために重要であることから、UNRWAへの各種支援を対ヨルダン支援という側面からも位置付け、継続することが肝要である。
(5) 「人間の安全保障」の視点に立った協力を推進する
 ヨルダンは、「人間の安全保障」の概念を中東において普及させており、人間の安全保障の視点を広めるためにわが国との協力関係の構築を強く要望している。
(6) 環境に配慮した水資源管理を効果的に支援する
 ヨルダンの水分野では、下水処理水の再利用を含め、従来の伝統的な「水資源開発」から総合的な「水資源管理」に重点をシフトし、水需要管理と環境保全に配慮した取組みが始まっており、この取組みに最も効果的に応える支援が必要となっている。

<政策の実施に関する提言>
(1) 援助関係者の安全対策に係る共通ガイドラインを作成する
 ヨルダンはイラクにおける平和構築支援の拠点となっているが、イラク情勢はヨルダンの治安情勢に影響を与えかねないので、ヨルダン側への対応を含めた援助関係者の安全対策に関するわが国の共通ガイドラインの作成が急務である。
(2) ヨルダン側援助実施機関の実態調査を行う
 現国王の即位後、ヨルダンでは経済社会開発に携わる機関の顔触れや役割に変化が生じており、わが国支援の重点分野・課題に携わる実施機関の実態調査が必要である。
(3) 世銀のわが国特別基金を通じた援助を整理する
 わが国特別基金案件のわが国援助政策との整合性を確保するため、案件形成の段階で現地ODAタスクフォースと協議を行うよう、世銀に申し入れることが肝要である。
(4) 民間セクターとの交流を強化する
 民間セクターの動きを通じてヨルダンの開発ニーズを把握することが重要である。
(5) より効果的なODA広報を実施する
 ODA案件のインプットとアウトプットの時点に限らず、受益者の変化に焦点を当てたアウトカム発現後の時点での広報を強化することが肝要である。


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