1. 評価対象:対人地雷対策支援政策 |
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2. 国名(現地調査実施国):カンボジア |
3.評価調査団
今里 義和 東京新聞論説委員
(外務省ODA評価有識者会議メンバー)
古田 勝久 東京電機大学教授
石里 宏 (株)三菱総合研究所 海外事業推進センター シニアコンサルタント
宇佐美 暁 同 海外事業推進センター 主任研究員
山本 誠司 同 科学技術研究ユニット 主任研究員
水田 愼一 同 海外事業推進センター 研究員
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4.調査期間:2004年8月~2005年3月 |
5.評価方針
(1)評価の目的
我が国の対人地雷対策支援政策の目的、プロセス、結果を総合的かつ包括的に評価し、今後のより効果的・効率的な支援実施の参考とするための教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たす。
(2)評価対象
我が国が1997年12月の対人地雷禁止条約(オタワ条約)署名に際して対人地雷対策支援政策として発表した「犠牲者ゼロ・プログラム」とその下での一連の対人地雷対策支援案件を評価対象とした。
(3)評価対象期間
「犠牲者ゼロ・プログラム」発表直後の1998年1月から2004年3月までを評価対象期間とした。 |
6.評価結果
(1)目的の妥当性に関する評価
我が国の対人地雷対策支援は、我が国外交の基本政策や、ODA大綱、中期政策といった経済協力の基本政策と合致しているとともに、対人地雷禁止条約、特定通常兵器禁止条約といった国際法、人間の安全保障や貧困削減といった国際社会の援助の潮流とも合致していることが確認された。
(2)プロセスの適切性・効率性に関する評価
- 我が国は、各地域や支援分野の事情を考慮し、被埋設国政府機関・現地機関、国際機関、地域国際機関、NGO(国際・日本の両方)等の様々な援助供与先を適切に選定して支援を実施してきたことが確認された。また、被援助機関との協議は、全体として概ね適切に行われてきたことが確認された。一方、以下のような問題点や改善すべき点も確認された。
- 地雷対策には継続的取組みが必要であるが、日本の援助は単年度主義であり、中長期的支援の見通しが立てづらい。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力は、NGOの活動経費を十分にカバーしていない。
- 日本の地雷除去支援は地雷除去活動のみを支援するものがほとんどであるが、近年地雷除去と開発案件を組み合わせて実施するケースが増えており、このような連携を意識した支援をより積極的に実施する必要がある。
- 日本は、対人地雷除去に必要な機材等の輸出を一定の条件の下で武器輸出三原則等の例外としている。ただし、不発弾除去機材や対戦車地雷に対する耐久性のある機材はこの対象に含まれない。これに対し、現場では、不発弾処理が喫緊の課題になっており、また、地雷源の状況を考えると対戦車地雷の衝撃に耐えられる対人地雷除去機材が必要である。
- 地雷除去を手作業主体の現在の方法で続けるには限界があるため、地雷探知・除去技術開発に対する期待が高い。これに対して、技術開発よりも、現場での除去活動への支援を重視すべきとの意見もあるが、我が国は両方の取組みを重視して支援を実施していくべきである。
- 日本政府内の支援決定・実施等のプロセスの側面では、対人地雷対策支援政策を一元的に統括する担当課や体制が存在しなかった、地理的・分野的優先順位を示した戦略が存在しなかったという事実が明らかになった。ただし、これによって大きな問題が生じたという事実は確認されなかった。また、支援プロジェクトの実施監理については、被援助・実施機関からの報告や定期協議等を通じて概ね適切に実施されていることが確認された。
- 他ドナーによる支援との重複回避は、一義的には被援助・実施機関側の責任により行われ、我が国政府はこのような事実関係を確認した上で援助を検討・決定するというプロセスが取られてきたことが確認された。
(3)結果の有効性に関する評価
ここでは、統計上の制約、調査期間の制約などから、カンボジアのみに対象を絞って結果の有効性の評価を行った。
- インプット:評価対象期間における我が国のカンボジアに対する対人地雷対策関連支援総額は約38億円であり同期間における我が国の同分野における支援総額の約28%を占めていた。内訳は、地雷除去支援が約73%、地雷対策全般支援が約17%、犠牲者支援が約9%等であった。
- アウトプット:地雷除去分野では、対人地雷除去機材供与、地雷除去部隊の活動経費の手当て等が行われたことが確認された。犠牲者支援分野では、病院や義肢提供施設に対する機材供与、職業訓練施設の修復等が行われたことが確認された。また、カンボジア地雷対策センター(CMAC)信託基金への資金拠出については、イアー・マークされていないため、アウトプットを確認することはできなかった。
- 結果の有効性
総合的地雷対策:信託基金への資金拠出、機材供与、除去活動支援、専門家派遣等を実施したCMACは、地雷対策機関としての機能を高めてドナーの信頼を回復し、除去活動や地雷啓発活動において着実な成果をあげており、我が国の援助は有効であったと評価できる。
- 地雷除去:我が国の支援を受けた地雷除去機関は、着実に地雷除去活動を進め、利用可能な土地面積を増やしており、我が国の援助は有効であったと評価できる。
- 我が国の援助が犠牲者支援に取組む団体による活動に貢献し、これらの団体が着実な成果をあげている事実に鑑みれば、我が国の援助は有効であったと評価できる。
- インパクト
カンボジア経済は、全体としてもセクター別にも過去10年間で順調に成長しており、この成長に対人地雷対策の成果が与えたインパクトは少なくないものと考えられるが、このようなインパクトを数量的に評価することは、そのための方法が確立されてないこともあり、困難であった。
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7.提言
(1)対人地雷対策支援の継続
対人地雷対策には長期的・継続的な取組みが必要である。同分野での我が国の支援は近年減少傾向にあるが、今後とも積極的な支援を続けるべきである。
(2)対人地雷対策支援の総合戦略の策定と支援体制の確立
対人地雷対策支援を効果的・効率的に実施していくためには、外務省内で総合調整を担当する機能を特定の課に担わせ、省内の役割分担をより明確化していくことが望まれる。また、今後は重点地域・分野などを示すことにより明確な戦略をもって援助を行っていくことが望ましい。
(3)援助受入れ機関の適切な選定と現地機関への技術支援
我が国として、対人地雷対策支援を実施するにあたり、信頼の置ける機関に対して援助を行うことが肝要である。一方で、現地機関が組織的に脆弱な場合には、機能強化のために積極的な技術支援を行うことも必要である。
(4)開発と地雷除去の連携を意識した支援の実施
対人地雷対策の現場では、開発活動と地雷除去活動の連携が多く見られるようになっている。我が国としては、我が国の援助がより効果的にかつ顔が見える形で実施されるようにするために、意図的にこのような連携が促進されるような援助を実施していくことが望まれる。
(5)草の根・人間の安全保障無償資金協力の供与条件の見直し、運用改善
対人地雷対策に取組むNGOを支援する手段として草の根・人間の安全保障無償は重要である。しかし、同スキームについては、単年度主義であるため支援の中長期的な見通しが立てられない、地雷除去活動に必要な経費が十分に手当てされないなどの問題が指摘されている。政府は、これらの声に対応できるように、同スキームの制度及び運用の見直し・改善につとめることが望まれる。
(6)草の根・人間の安全保障無償資金協力に関する更なる広報
同スキームについては、より広くかつ適切に利用がなされるよう、その存在や制度内容についてより積極的に広報が行われることが望ましい。
(7)地雷探知・除去技術開発に対する支援の継続
新しい地雷探知・除去技術の開発は、「犠牲者ゼロ」の目標をより近い未来に達成するために必要な取組みである。我が国としては、地雷除去活動を支援するとともに、地雷探知・除去技術開発に対する支援も積極的に実施していく必要がある。
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