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「日本NGO支援無償資金協力」
スキームの評価(NGO・外務省合同評価)

1. テーマ:「日本NGO支援無償資金協力」スキームの評価(NGO・外務省合同評価)
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2.評価チーム:(*はカンボジアでの現地調査参加者)
 本件評価調査は、NGO側、外務省側双方の評価者が、実務コンサルタントの補助を受けながら実施した。
(NGO)
 野田 真里(*) 名古屋NGOセンター理事 / 中部大学助教授
 片山 信彦  国際協力NGOセンター副理事長 / ワールド・ビジョン・ジャパン常務理事・事務局長
 野崎 泰志(*) 名古屋NGOセンター理事 / 日本福祉大学助教授
(外務省経済協力局)
 北沢 寛治 開発計画課 企画官
 中野 正則 民間援助支援室 首席事務官
 小杉 弥恵(*) 民間援助支援室 課長補佐
 中垣 朋博(*) 開発計画課評価班 課長補佐
(コンサルタント)
 福田 幸正(*) (財)国際開発高等教育機構(FASID)上席調査役
 三好 崇弘(*) (財)国際開発高等教育機構(FASID)コンサルタント
3.調査実施期間:2004年9月~2005年3月
 (カンボジアにおける現地調査:2004年12月14日~22日)
4.評価目的:
 「日本NGO支援無償資金協力」スキーム(以下、本スキームと呼ぶ)を総合的かつ包括的に評価し、
(1) 本スキームの今後のより効果的・効率的な実施に資するための教訓・提言を得ることによって本スキームの更なる改善に役立てること、及び、
(2) 評価結果を公表することによって説明責任を果たすこと。
5.評価フレームワーク:
 本スキームの(1)「目的」の妥当性、(2)運用「プロセス」の適切性、及び(3)運用の「結果」の3つの視点から、文献調査、国内におけるアンケート調査・インタビュー、及び現地調査(カンボジア)によって評価を行った。
6.評価結果:
(1) 「目的」の妥当性
(イ) 日本政府の開発援助政策との整合性: 本スキームの目的は「開発途上国・地域で活動しているNGOが実施する草の根レベルに直接役立つ経済・社会開発事業に対して資金協力を行う」ものであり、これは新旧のODA大綱、ODA中期政策に沿ったものである。
(ロ) 日本のNGOのニーズとの整合性: 本スキームはNGOの活動を資金的に支える制度であり、NGOの資金的ニーズとの整合性は高い。本部プロジェクト実施経費の支援については、本スキームは他の公的支援と比較しても遜色ない。現実にはハード面が中心の事業への支援が多いが、制度上の制約はなく、ハードとソフトを組み合わせた効果的な事業を計画し説明するNGOの能力と、それを適切に審査する外務省側の能力の如何にかかっている。
(ハ) 相手国(政府、カウンターパート、住民)のニーズとの整合性: 相手国政府は、資金面・物資面・技術面の協力とともに行政サービスの不備を補完するパートナーとしての役割、現地のNGOは技術面の支援を通した能力向上、住民は生活向上への支援を日本のNGOに期待しており、基本的には本スキームの相手国のニーズとの整合性は高い。また、殊に政府による支援が困難な地域や社会階層のニーズに対しては「人間の安全保障」の観点からも本スキームのような公的資金によりNGOが活動することが有効と認識された。なお、単年度制は日本の予算制度全体を通しての原則であるが、本スキームは工夫次第で相手国の長期的ニーズに対応可能である。
(2) 運用「プロセス」の適切性
(イ) 審査・資金供与プロセスの適切性: NGO側から申請された事業は外務省側で包括的な視点から審査が行われることになっており、選定基準は妥当と考えられるが、申請様式は選定基準と必ずしも整合しておらず、改善の余地がある。NGO側からは「審査に時間がかかる」、「審査中の情報が十分伝わってこない」といった指摘が多く聞かれた。だが外務省とNGOの協議等を通じて制度やその運営は改善されつつあり、今後は申請者であるNGOのプロポーザル作成能力をより高めていくことが課題の一つである。
(ロ) 資金供与後のNGO側による管理状況の適切性: NGO側の資金管理については、専用口座管理、中間財務報告、外部監査が行われることとなっており、これまでのところ大きな瑕疵等はなかったとのことである。NGO側によるモニタリング・評価については、必ずしも十分とは言えない状況のようである。また、NGOは本スキームの支援を受けた事業に関する情報公開が義務付けられているが、アカウンタビリティの観点からも重要な改善課題であるといえよう。
(3) 運用の「結果」
(イ) 資金供与額の達成度: 本スキームによる資金供与実績は、2002年度約12.9億円から2003年度には17.6億円と増加している。また、予算執行率は2002年度64.5%、2003年度は80%と向上している。ただし、パートナーシップ事業支援とマイクロクレジット原資支援の支援実績は低調である。
(ロ) 支援の目的の達成度: 本スキームは支援を受けた大多数のNGOの資金ギャップ解消に貢献したと言えるが、NGOの資金不足体質の根本的な改善に直結したかは一概には言えない。なお、NGOが公的資金を受ける際には自らの組織としての能力を十分勘案することが求められ、一方、外務省側はNGOの資金運営能力の見極めのみならず、必要に応じ適切な助言・指導が行える能力が求められる。各支援事業の目的は、ほぼ達成されたというのがNGO側の見解である。但し、事業の自立発展性については、現地調査ではNGO側から明確な方針等を聞き出すことはできなかった。
(ハ) 正負のインパクト: 正のインパクトとしては、NGOからは「日本の援助の認知度が高まることで日本のプレゼンスが拡大した」、「NGO間または現地政府との関係が促進された」、「実務を通しNGO自身の組織能力や事務管理能力が向上した」、などが認識されている。一方、負のインパクトとして、「案件採択までの期間が長かったため事業内容の変更を余儀なくされた」、「公的資金への依存度が高まった」、ということが指摘されている。 
7.検討会における議論の焦点と提言
(1) 議論の焦点
 本件評価調査に際しては、NGO側評価者と外務省側評価者の間で随時議論を行った。その際、本スキームの支援対象外である事前調査、事後評価、モニタリングへの支援拡大の是非が最後まで焦点となった。ここでは、NGOの事業において「人間の安全保障」の視点から、こういう点が重視されることは望ましいという点で意見の一致を見たが、事前調査等に対する支援の是非等については、既存の連携推進委員会等の場において議論を継続していくことが適当であるとの結論に達した。
(2) 提言
(イ) NGOの活動は「人間の安全保障」の観点からODA政策を補強するとの視点 これまで、NGO側の申請案件が著しく国別援助計画の内容から乖離していたケースはなかったが、仮に見かけ上そのような乖離が生じた場合でも、「人間の安全保障」を増進するとの観点から見て、申請案件が政府レベルで見落とされたニーズに対応するものであれば、その案件を拾い上げることが望ましい。それは、政府の援助政策の補強にもなりうるものと考えられるからである。
(ロ) NGOの組織的能力と公的資金協力 多くのNGOの組織基盤が脆弱な現状に鑑みれば、NGOが公的支援を受ける際には自らの組織能力を十分勘案することが求められる。一方、外務省側はNGOへの供与限度額を設定する際には、NGOの資金吸収能力の見極めのみならず、NGOの組織強化、NGOの育成という包括的な視点に立った適切な助言や指導が行えるよう、一層の能力向上が期待される。
(ハ) ソフト費目、管理費・間接費の支援とNGO、外務省の相互理解 本スキームは、「ソフト費目」や「本部プロジェクト実施経費」といった直接経費以外の費用も対象としており、他の公的支援スキームと比較しても遜色はないと言える。NGO側は、この点に関する理解を深めると共に、申請に際し、これらの費用の必要性を説得力のある形で文書化することが必要である。一方、外務省側には、スキームの趣旨に沿ってNGO側が案件申請できるように導くための説明やコンサルティングの能力が求められる。
(ニ) 多年度にわたる事業への対応 形式上は、現行予算制度の下では多年度の支援を一般的に明確な形で行うことは不可能であるが、外務省側は、実施中事業の内容が妥当であれば次年度事業として実質的な審査を開始することは運用上可能としている。NGO側においては長期的な展望を複数年事業として示しながらも、形の上では単年度事業として計画を立案することが求められよう。そのような場合、各年度毎の事業評価が重要となり、NGO側の事業評価能力を培うことも重要な課題である。
(ホ) 申請プロセスにおけるNGO側、外務省側双方の能力向上と連携の強化 NGO側からは、外務省側での審査が長い、という不満が多く聞かれるが、その改善のためにはNGO側が申請書の質を向上させる必要がある。一方、外務省側は、NGO側の申請書作成能力が不足している場合には、適宜、作成を側面支援することが望まれる。在外公館レベルでの申請案件スクリーニング能力の一層の向上が必要であり、そのような観点から、在外公館体制のレビューを行い、必要なトレーニングの実施やマニュアル作り等を検討する余地がある。
(ヘ) NGO・外務省合同評価 例えば、多年度事業のパイロットケースを選び、NGO・外務省合同評価を実施し、本スキームに対する個別具体的な提言を導き出すことも一案である。こうした合同評価は、相互学習を通してNGOと外務省の間の建設的な連携関係を築く上でも有効と考えられる。
(ト) その他
  • 本スキームの支援を受けて実施された事業のNGO側によるモニタリング・評価を強化する必要がある。また、本スキームにおいては、支援を受けた事業の完了報告書等をNGOが各自のホームページ等で公表することが義務付けられているが、それを果たしているNGOは少なく、納税者に対するアカウンタビリティの観点からも、NGOの対応の改善が求められる。
  • 現行の申請書式は、必ずしも審査基準との整合性がとられておらず、改定を検討する余地がある。
  • 本合同調査を通じて得られた成果・課題や政策提言は、引き続きNGOと外務省がNGO外務省定期協議等の場を通じて検討し、本スキームの改善、ひいてはNGOと外務省のパートナーシップの改善に努める必要がある。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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