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一般財政支援
(タンザニアPRBS・ベトナムPRSC)のレビュー

1.テーマ:一般財政支援(タンザニアPRBS・ベトナムPRSC)のレビュー
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2.国名:タンザニア、ベトナム
(1)評価主任
 田中 弥生(東京大学大学院工学系研究科 助教授)
(2)アドバイザー
 坂元 浩一(東洋大学大学院国際地域学研究科 教授)
 高橋 基樹(神戸大学大学院国際協力研究科 教授)
 島村 真澄(政策研究大学院大学開発フォーラムチーム 助教授)
(3)コンサルタント:
 神尾 文彦(株式会社野村総合研究所)
 岩垂 好彦(株式会社野村総合研究所)
 佐竹 繁春(株式会社野村総合研究所)
4.調査実施期間:2005年9月~2006年3月

5.評価方針

(1)目的
 一般財政支援(General Budget Support, 以下GBS)に関する我が国の方針策定のための参考とするため、我が国が過去に行った貧困削減支援借款(PRSC)及び貧困削減財政支援基金(PRBS)への支援をレビューし、その実績や課題を明確にする。また、レビューの結果を国民に対して公表し、説明責任を果たすとともに今後実施する財政支援の運営のための教訓を引き出す。

(2)対象・時期
 ベトナムにおける貧困削減支援借款(PRSC)及びタンザニアにおける貧困削減財政支援基金(PRBS)への支援を対象とし、その目的、過程、成果について総合的に検証する。

(3)方法
 GBSの概要部分は文献調査、タンザニアPRBSについては現地調査・文献調査・国内ヒアリング、ベトナムPRSCについては文献調査・国内ヒアリングによりレビューを実施した。
 同じGBSでも国ごとに状況が大きく異なるため、援助スキームのみではなく、GBSに伴って実施される行財政支援を含む全容の把握を試みた。

6.レビュー結果

1)GBSの概念
 GBSは、これまでの援助について指摘されてきた問題点(オフバジェットのプロジェクトの氾濫、途上国(被援助国)に於けるオーナーシップ欠如等)を踏まえ、より被援助国政府の開発目的に資するような成果重視の考え方、また、被援助国政府・ドナー間の対話を重視することにより援助協調を促進していこうとする援助形態(モダリティー)である。
 無償資金によって拠出される場合、貧困削減を目標に据え、途上国のオーナーシップを尊重することで、特に援助依存度が高く、経済社会開発上の課題に直面している被援助国の行財政能力の向上を促進させることが可能と考えられている。あわせて、プロジェクト型等従来型の援助形態の効果を促進させる(ODAにより建設されたダムや道路等の経済インフラの維持管理費用が被援助国政府自身の予算により捻出される等の効果)ことも期待されている。一方、債務返済能力の高い被援助国に対して供与される有償資金は、借款対象のプロジェクトのコストリカバリーを重視するインセンティブを付与するとともに、複数年にわたる資金供与となることから、被援助国政府にとって安定的な開発資金と考えられている。
 その一方で、被援助国の援助依存体質を強め、かえって被援助国の自立的な発展にマイナスとなる側面がありうること、また、援助資金という外貨の流入が被援助国通貨の為替相場上昇に繋がり、輸出産業の国際競争力を失わせる可能性も指摘されている。

2)ケーススタディ編:タンザニア・ベトナムの事例にみるGBSの分析

(1)

被援助国の開発プライオリティからみたGBS導入の経緯

 GBSはドナーからの援助を被援助国の行財政環境や開発計画の方向性と調和・一致させるためのモダリティである。そのため、タンザニア、ベトナムにおけるGBSの導入経緯やGBSには、両国におけるこれまでの援助の歴史や国の経済財政状況と関わりがある。以下、GBS導入時の被援助国の状況、GBSを通じて達成しようとした開発効果、被援助国政府・他ドナーに対しての日本のポジショニング等を、タンザニア・ベトナム間で比較を試みてみた。両者の事例は、日本のプレゼンスやGBSを通じて取り組んでいる開発課題等において大きな違いが見られ、今後、アフリカ・アジア地域の他国へGBS導入を検討する上で示唆的な事例を提供するものと考える。

(1)GBS導入時における被援助国の状況
 タンザニアは、1961年の英国統治領からの独立以降、約40年余にわたって援助が行われてきた。1980年代~90年代にかけてたびたび経済危機に見舞われるなど、対外債務残高が累積し、多国間債務救済基金(Multi Debt Relief Fund: MDF)の受け入れに至った。当時多くの中小規模のプロジェクト支援が濫立している状況にあり、被援助国側に過剰な負担がかかっていた。このように、GBS導入以前のタンザニアの国家行財政システムはいわば機能不全の状況にあったと言える。
ベトナムは、GBS導入時点で、1986年末以降のドイモイ(刷新)路線にのった市場開放経済政策が打ち出されるなど経済発展にむけて離陸段階にあり、WTO加盟という大きな目標に向けた経済開放、外国資本導入を積極的に展開している状況にあった。

(2)開発のプライオリティとGBSへの意向
 このような経済・社会状況の違いは、両国のGBS導入の目的・趣旨にも色濃く反映されている。タンザニアでは、第一次貧困削減戦略(Poverty Reduction Strategy:PRS)にもとづく7つの優先セクターにおける成果達成が大きな目標であった。そして1970年代~90年代を通じて破綻的状態に至った行財政執行能力向上のために、GBSを梃子として、自国における様々な行財政改革、経済構造改革を促進する効果が期待されている。具体的には、大蔵省を中心とした予算策定・執行システムの確立、社会開発分野・輸出振興産業(農業)への重点的な予算配分、ガバナンスの向上、反汚職の徹底、地方分権推進等である。
 これに対してベトナムは、構造調整クレジット(SAC)では芳しくなかったマクロ・構造改革(国営企業や国有金融機関改革等)を更に推進しつつ、PRSPを支援する新たな政策ローンとしてGBS(PRSC)を導入した経緯がある。そして第一次PRSCから第四次PRSCへと支援を継続していくなかでGBSを、市場の対外開放や経済構造の改革を進めるうえで、投資主導の経済発展を実現する一つの手段として有効に活用していこうとする姿勢がうかがえる。

   
(2)

日本における援助の目的と取り組みの方向性について

(1)ドナー間における日本のポジショニング
 タンザニアにおける日本の援助額の累積(2000年度~2004年度)は、無償援助、技術協力を含めると世銀、英国に次ぐ第三位の実績である。援助額のボリュームからみた全体のポジショニングは決して低くないものの、GBS導入後の2001年度以降の援助額は低くなっている。また、GBSに限ってみると、全14ドナーのGBS援助額総計のわずか1%程度(2004年)である。
 ベトナムは、全20以上あるドナーのうち、日本は、2000年時点で全体の約54%、1999年~2003年の5年間の累計でも全援助額の約34%を占めるトップドナーであり、バイドナーの中では2位フランスの約7倍近くの援助額を誇るなど、圧倒的な存在感を保ってきた。日本の援助額は、GBSが導入された2001年度以降も大きく低下しておらず、先行してPRSCに参加した世界銀行、英国、北欧諸国等と比べてGBSの供与額は極めて多くはないものの、その存在感は小さくない。

(2)日本と被援助国との関係
 タンザニアの場合は、援助の歴史をみると、1970年代から、電力、道路等のインフラセクターを対象とした無償資金協力(95年~2000年まで道路66億円、電力37億円)、農業、保健・教育を対象とした技術協力を実施しており、日本が得意とする経済インフラ分野を中心に、保健・教育・農業等の多様な分野を中心に、プロジェクトをベースにノウハウを活かした貢献をしてきた。
 ベトナムの場合は、東アジア経済圏のパートナーとして、政治的・経済的な交流が緊密であり、日本からの援助も1959年度から途中中断があったものの、約半世紀近く実施されている。さらに、1995年の石川プロジェクトを通じ、市場経済化という被援助国の意図を尊重した知的貢献ができたこと、さらに98年の「アジア経済危機支援に関する新構想」(新宮澤構想)を通じて、ベトナム政府の経済・金融・ビジネス政策(民間セクターの育成、大規模国営企業の監査、非関税障壁の関税化等)推進に対する支援にコミットしてきたこと、など政策・制度面で極めて緊密かつ信頼できる関係が築き上げられていた。

(3)日本の開発援助の方向性
 タンザニアについてみると、経済・社会基盤が立ち遅れた同国においてGBSの実施によって行財政能力の向上を支援し、もってマクロレベルの貧困削減と経済成長に資する効果を狙ったものであると推察される。
 ベトナムは、日本企業に裨益をもたらすインフラサービス(電力、道路・港湾など)の充実を、GBSを通じた政策・制度改善にコミットすることにより促進し、投資環境・経済発展を支援していく明確な意図があったと想定できる。

(4)現場の取り組み・体制・権限
 各ドナーのスタッフ陣容は、1)経済・経済(開発/国際)協力関係の仕事に従事する人数、2)何らかの援助協調関係の会合に参加している人数、3)GBSに直接関わっている人数といったカテゴリーに大別出来る為、ドナー間の援助体制の比較を行う場合、1)~3)のカテゴリー等スタッフ配置の詳細を把握する必要がある。タンザニアにおける日本の援助体制(現地ODAタスクフォース)は、1)大使館:5名、JICA:12名(協力隊調整員を含む)、2)大使館:4名、JICA:10名(所長、次長、企画調査員含む)、3)大使館:2名、JICA:3名となっている。ODAタスクフォースのスタッフは、プロジェクトの運営管理を兼任している者が多く、財政支援型援助の割合を増やしている他ドナーと比較すれば、セクター/テーマ・グループ活動等の援助協調へ割く時間が自ずと短くならざるを得ない側面がある。
 これに対しベトナムは、各セクターで大使館職員5~6名(直接GBSに従事している人は3名程度)、JICA 1名、JBIC(駐在員4名+長期滞在の外部専門家1名+ローカルスタッフ5~6名)の総勢12~18名程度がGBS業務に直接的・間接的に関わっている。専任の職員で対応するよりも、各分野・セクターの担当が兼任している。

   
(3)

GBSの課題

 タンザニアとベトナムのケーススタディーを通じて、レビュー・チームがGBSの全般的な課題として認識した項目を以下に列挙した。網羅的ではないものの、他国においてGBSの導入を検討する際に念頭に置くべき事項であるものと考える。

○GBSの効果の浸透(点の投入を面の効果へ)
 GBSは、途上国の一般会計に現金予算を拠出するため、被援助国にとっては、毎年の予算策定プロセスにあわせて資金を計画的に提供するという「足の速い援助(quick disburse型の援助)」としての効果が期待されている。しかしながら、資金が途上国の会計に入った後、各現場省庁(ラインミニストリー)に迅速に配分されないという問題点が指摘されている。この背景には、現場省庁の予算の策定、配分、執行に対する能力の不足が影響していると考えられる。
 政府会計に投入されたGBSの資金が、経済セクターや社会セクターに浸透し、さらに中央だけでなく地方部にも浸透していくために、政府予算を政策・施策・事業に結びつける各現場省庁、地方自治体、更には現場の公社や地域コミュニティのキャパシティ・ビルディングをより強化していくことが課題である。具体的には以下の3点が指摘される。

a. 行政組織および人材の能力の向上
 GBSの特徴として行財政改革を促すこと、則ち公共支出管理やライン省庁の計画・予算策定方法、地方分権に伴う地方自治体の徴税、サービス提供の仕方までに影響を及ぼすことが挙げられる。タンザニアではドナーから「システムの再構築」という言葉が聞かれることがあったが、国家システムの再構築にも及ぶ援助形態であると言っても過言ではないだろう。しかしながら、システムが整備されたとしてもそれを運営する行政職員の能力が追い付いていないのではないかという意見は日本関係者、他ドナーからも度々指摘された点である。特に、タンザニアでは地方自治体においては地域基礎データの収集、データベース化、計画・予算策定力など職員個人および組織力の面で不足が顕著であると指摘されている。これらのことを鑑みれば行政システムの再編と同時に各省庁や地方自治体および職員の能力強化が急務であると思われる。

b. アウトカム運用のための仕組みの構築
 GBSは、被援助国における各種改革の取り組みの成果をもって供与額を判断する成果重視型のモダリティである。このアウトカムを判断するのが、PAF(タンザニア)やVDGs(ベトナム)で示されたアウトカム指標である。しかしながらこのアウトカム指標を構成する基礎的な統計作成能力が欠如しているケースが多く、タンザニアでは、現在日本も他ドナーと協力して、統計作成に関するキャパシティ・ビルディングを行っているところである。いくら成果重視主義といっても成果を確認するインフラが不十分であれば、政策の上流による支援も砂上の楼閣になってしまう危険性がある。今後は、GBSの目標設定と同時に、それを支える指標やデータの収集・分析能力強化といったモニタリング・評価体制の向上が鍵になるものと考える。

c. 被援助国の国民・議会に対するアカウンタビリティの確保
 GBSは、被援助国の国庫(予算)に直接資金を提供する以上、予算を監視する途上国側の議会や国民(ステークホルダー)に対して透明性のある手続きや意思決定を行う必要がある。タンザニアの場合は、国家レベルの予算配分・行財政改革を支援することによって、マクロレベルの貧困削減と経済成長に貢献する効果が期待されており、、改革の内容によっては、国家の骨格を支える税制度や社会サービスのレベル自体が大きく変わる可能性もある。この点について、広く被援助国の有権者である国民に説明をし、十分な理解を得ていくことは、GBSが支援する改革を定着化させるうえで極めて重要な課題である。今後GBSは、被援助国の議会や国民への説明責任を果たしていくというドメスティック・アカウンタビリティを強化するという視点から、GBSの効果を高めるような貢献をすることがドナーコミュニティに対して求められている。


7.一般財政支援取り組みへの意見

1)

一般財政支援の捉え方

 ドナー、被援助国の立場によって、一般財政支援が包含する意味は異なる。すなわち、タンザニアのコンテクストで言えば、被援助国であるタンザニア政府にとっては、財政支援を通じて、行財政執行能力の強化を図り、もって、貧困削減等の開発目標の達成に貢献するという狙いである。他方、ドナーにとっては、一般財政支援はあくまでも手段であるといえるだろう。すなわち、タンザニアでは一般財政支援を通じて行財政改革を支援するが、例えばベトナムにおいては投資環境整備を中心に支援している。
 したがって、日本政府が一般財政支援を行う際も、特定の国で行われている一般財政支援のアプローチ(目的や取り組み)が他国でそのまま適用できると考えることはできない。むしろ、被援助国の状況を把握した上で、当該国の課題を見据えた上で一般財政支援を通じた支援でそれが解決可能であるのかを見極め、更には日本としてどの課題に焦点を当てるのか、どこまでコミットするのかを見定めてゆく必要がある。また、いかなる開発も被援助国のオーナーシップが重要であるが、特に一般財政支援は、国家予算や行財政改革支援するモダリティーであるので、当該国政府の強いコミットメントとオーナーシップなくしては実現できない。

   
2)

一般財政支援取り組みの方向性

 一般財政支援は被援助国・ドナーの二人三脚で進められるが、援助調和化を象徴するようなアプローチがとられている。だが、援助側にとってそれは単なる協調、協働を意味しているわけではない。ドナー会合などの場で互いの援助プログラムやアプローチを共有しながらも自ら積極的に提案し、場合によっては説得してゆく必要がある。調和化のもとでの知的な競争と言っても過言ではないだろう。ではどのような取り組みが求められるのか。

(1)明確な目的
 財政支援に取り組む際に、日本の目的を明確にしておく必要があるだろう。
 そして目的を設定するにあたって「選択と集中」が必要であろう。ベトナム、タンザニアでの財政支援の取り組みを試験的、学習プロセスにあると位置付けており、両国において可能な限り多くの政策協議の場に参加していた。
 しかし、タンザニアのJICA関係者から提示されたように「選択と集中」による取り組みが適当であろう。ドナーの多くが自らフォーカスする課題やセクターを絞り込んで参加している。例えば、スウェーデンの場合には、二国間援助であること、そこには外交的な配慮も必要であることなどを鑑み、1)タンザニア政府のニーズ、2)自国の比較優位(得意な分野)、3)ある程度、アウトカムがわかりやすい分野、4)タンザニアでの経験蓄積 を判断材料に課題と参加するドナー会合の種類を決めているが、日本にも参考になる。

(2)コミットメントとタイミング
 一般財政支援はその目的が行財政能力強化であり、それが定着するためには時間を有することが予想される。また、何らかの理由でドナーからの財政支援額が急激に減額されるようなことがあれば、行財政改革の進捗にダメージを与えてしまう。「予測可能性」は援助一般に指摘されることであるが、一般財政支援においても重要な課題である。複数年に亘るコミットメントの呈示に関しては議論の分かれるところであるが、日本としても、「予測可能性」の向上に努める必要があろう。また、GBSが改革をめぐる政策対話のプラットホーム的な役割を担う傾向を強めていることより、日本としても、他ドナーの動向や被援助国の状況等を踏まえながら、時宜を得たコミットメントの呈示を検討する必要があるものと考える。
 また、財政支援に投じる金額についても見定めてゆく必要がある。財政支援について標準的な援助額の目安はなく、他ドナーも試行錯誤の段階にある。だが金額の大きさは、ある意味被援助国実施の改革支援に対するコミットメントの大きさを反映しているところがある。被援助国における他ドナーの援助額、日本の実績を参考にしながら、被援助国へのインパクト、則ち仮に日本の援助が減額された際の被援助国へのダメージの大きさ等を考慮し援助額を決めてゆくことが望ましい。

(3)日本の強みをいかした取り組み

1)現場の経験・情報をいかした政策提言
 一般財政支援においては、国家開発計画、公共支出管理、税制など政策の上流部分での議論が進められている。これまで現場レベルのプロジェクトを得意としてきた日本にとってはまだ不馴れな領域であると現地調査、関係者のヒアリングで度々指摘されている。
 その一方、ドナーの中にはプロジェクト援助を減らし日本などのプロジェクトを重視してきたドナーに比較し現場情報が不足しがちである、あるいは抽象的で実現性に欠ける政策議論になりがちであるという意見も何度か聞く機会があった。
 これらの事を鑑みれば、プロジェクト支援の現場や経験から得られた情報をもとにした政策提言が可能であれば、日本の強みをいかし、地に足のついた政策提言ができるのではないか。
 
2)システムの視点
 現場の情報や経験を政策提言にいかすためには、政策の上流から現場までを串刺しにして対象セクターを捉える視点が必要になる。そのためには対象セクターを政策から開発の現場までの全体像を鳥瞰しシステムで捉えることが必要である。
 また、このような鳥瞰図を描くことができれば、当該セクターにおける取り組み状況の確認ができ、また、他ドナーと日本のアプローチの相違、他ドナーと日本の位置関係などを確認しながらドナー協議にのぞむことができるだろう。ヒアリングでは日頃の業務において政策の視点を持つ事の重要性が指摘された。だが、その視点を方法論として捉えることができないだろうか。そこで、その方法についてささやかな試みであるが付録に記したので参照していただきたい。

3)モダリティ・ミックス(援助形態の組合せ)
 全ての援助が財政支援に吸収される、あるいは援助形態はプロジェクト→バスケット→財政支援という発展段階をたどるというような単純な考え方は不適である。セクターによっては、一般財政支援を通じての支援よりもプロジェクト支援の方が適しているものもある。例えば、道路、交通、電力などの大型インフラ、IT分野の場合には、調達管理、事業現場でのマネジメントなどは高度の技術が求められ、現在のタンザニア政府ではマネージしきれないところがあり、この点は、複数のドナー、政府関係者から出された意見である。また、ベトナムのように成長を重視した貧困削減の取り組みにおいては経済インフラの重要性をベトナム政府自ら述べている。従って、被援助国の課題や要望を見据えて財政支援のようなプログラム援助とプロジェクト援助を組み合せることもあり得るだろう。例えば、道路セクターの支援においては建設などのプロジェクトを実施しながら、財政支援を通して維持管理予算の増額が実現しているが、効果的なモダリティ・ミックスの好例であろう。

4)移行時期の配慮と戦略
 以下の提案は援助依存度が比較的高く急速に財政支援に移行している国に援助をする際に必要な事項と考える。
 多くのドナーが一般財政支援導入に伴いプロジェクト(オフバジェット中心)数を減らしている。しかし、タンザニアでのプロジェクト支援のインパクトは大きかったわけで、急速にプロジェクト数を減らすことによる負の影響も配慮しなければならない。特に、農村地区などの末端において、政府から一定の質以上の公共サービスが提供されるようになるまでには相当の時間がかかるはずである。
 また、中央政府、地方自治体や学校などの公的機関の能力向上が必須であるが、そのためのニーズの把握、技術支援は今後も必要となろう。但し、これをどのように実施するかについては、ドナー協調、あるいはタンザニア政府との合意など幅広いステイクホルダーとの協議が必要になろう。

(4)戦略視点をもったエントリー・ポイントの見極め
 タンザニア、ベトナムに財政支援を供与する際に、対象国の状態および自国の立場を拠出の基準としている。すなわち、エントリー・ポイントと呼ばれるものだが、タンザニアの場合には1)被援助国の政治・マクロ経済の安定の度合い、2)PRSPとそれを反映した予算枠組みの存在、3)PRSPのモニタリングシステムと財政管理能力、4)成長への取り組み、歳入拡大への努力、5)わが国と被援助国との関係、わが国側の体制やプレゼンス、を挙げている。
 対象国によって事情が異なるため具体的な標準値を掲げることは適当でないだろうが、被援助国の状況、自国と被援助国の関係、自国と他ドナーとの関係や位置関係を確認しながら、比較優位性のあるセクターや政策提言分野と体制を見極めて戦略的に参入してゆく必要があるだろう。

   
3)

体制

(1)効率的な権限移譲
 一般財政支援におけるドナー会合においては、種々の政策課題の協議や決定が急スピードで進められている。しかしながら、大使館で決定できる内容が限られている場合、本省との合意形成に相当な時間を要するため、ドナー会合での決定事項にタイムリーに対応するのは容易なことではないようにみえた。デンマークでは外務省改革の結果、現地への権限移譲がなされたが、その結果、JASのMOUに関する対応も大使で意思決定することができ、迅速に対応することができたという。
 権限移譲の場合には、移譲された側の仕事量が急増して業務の進捗に支障をきたすことがないような配慮とともに行われるのが望ましいだろう。特に、ドナー協調が国際援助潮流になっている現在、現地への適正レベルでの権限移譲が検討課題の一つとなってくるものと考える。

(2)現地ODAタスクフォースの有効活用
 タンザニアでの日本の一般財政支援取り組みは他ドナーや政府関係者からも評判が良い。成功要因のひとつとして、十分とは言えない体制ながらも、現地ODAタスクフォースがうまくワークしている点にある。大使館をベースに、大使館職員、JICA職員がそれぞれの専門や担当を尊重しながら、コミュニケーションを密にして共同作業をしているようである。広範囲の分野で何度もドナー会議が行われる中にあって このプロセスに参加するには、このようなチームワークなくしては不可能であろう。同様にベトナムにおけるPRSC供与のプロセスにおいても現地ODAタスクフォース、財務省担当官とのチームワークが成功要因であると指摘されている。
 より効果的な現地ODAタスクフォースを築くためには組織間の相違や立場の相違をこえた共同が鍵を握る。

(3)人材について

1)新たな分野での専門家登用
 一般財政支援の導入によって求められる専門性に変化がみられる。政策協議や予算編成の協議にのぞむため、開発援助に加えマクロ経済、財政学、行政学や統計などの知識が新たに求められるようになっている。このような人材をどこに求めるのかは課題であるが、例えば、専門調査員や国際機関希望者リストなどを活用しながら、先の専門性を有する人材プールを作るなども一案であろう。

2)専門家の訓練と新分野専門家とのコラボレーション
 一般財政支援導入がプロジェクトやセクターの専門家を否定することにはならないだろう。確かに、DFIDではプロジェクト専門家を中心としたスタッフから、政策や経済を専門するスタッフへとその構成を変えている。しかし、プロジェクトやセクターの専門家に対してシステムの視点や経済学などを学ぶ機会を提供することで、現場の経験や情報とマクロの政策とを結びつける役割を果たせるのではないか。その意味でマクロ経済や財政学などの専門家とのコラボレーションも有効であろう。また、政策や制度整備の重要性はこれまでのプロジェクト支援の経験を通して認識しているところであり、開発調査スキームを用いてそのような提案を被援助国政府に行ってきた例もあったが、日常業務において政策や制度に目配りをする姿勢も必要である。

3)専門家の地位
 ドナー会合への参加には、大使館の専門調査員、JICAの企画調査員が重要な役割を果たしている。他方、ドナー会合に参加する他ドナーの職員は、局長クラス、あるいはエコノミストなどそれなりの地位のある専門家に比較して日本の参加者の地位が劣後しているのが現状である。専門家の登用、訓練とともに適当な地位を付与することも必要である。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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