一般財政支援取り組みの方向性
一般財政支援は被援助国・ドナーの二人三脚で進められるが、援助調和化を象徴するようなアプローチがとられている。だが、援助側にとってそれは単なる協調、協働を意味しているわけではない。ドナー会合などの場で互いの援助プログラムやアプローチを共有しながらも自ら積極的に提案し、場合によっては説得してゆく必要がある。調和化のもとでの知的な競争と言っても過言ではないだろう。ではどのような取り組みが求められるのか。
(1)明確な目的
財政支援に取り組む際に、日本の目的を明確にしておく必要があるだろう。
そして目的を設定するにあたって「選択と集中」が必要であろう。ベトナム、タンザニアでの財政支援の取り組みを試験的、学習プロセスにあると位置付けており、両国において可能な限り多くの政策協議の場に参加していた。
しかし、タンザニアのJICA関係者から提示されたように「選択と集中」による取り組みが適当であろう。ドナーの多くが自らフォーカスする課題やセクターを絞り込んで参加している。例えば、スウェーデンの場合には、二国間援助であること、そこには外交的な配慮も必要であることなどを鑑み、1)タンザニア政府のニーズ、2)自国の比較優位(得意な分野)、3)ある程度、アウトカムがわかりやすい分野、4)タンザニアでの経験蓄積 を判断材料に課題と参加するドナー会合の種類を決めているが、日本にも参考になる。
(2)コミットメントとタイミング
一般財政支援はその目的が行財政能力強化であり、それが定着するためには時間を有することが予想される。また、何らかの理由でドナーからの財政支援額が急激に減額されるようなことがあれば、行財政改革の進捗にダメージを与えてしまう。「予測可能性」は援助一般に指摘されることであるが、一般財政支援においても重要な課題である。複数年に亘るコミットメントの呈示に関しては議論の分かれるところであるが、日本としても、「予測可能性」の向上に努める必要があろう。また、GBSが改革をめぐる政策対話のプラットホーム的な役割を担う傾向を強めていることより、日本としても、他ドナーの動向や被援助国の状況等を踏まえながら、時宜を得たコミットメントの呈示を検討する必要があるものと考える。
また、財政支援に投じる金額についても見定めてゆく必要がある。財政支援について標準的な援助額の目安はなく、他ドナーも試行錯誤の段階にある。だが金額の大きさは、ある意味被援助国実施の改革支援に対するコミットメントの大きさを反映しているところがある。被援助国における他ドナーの援助額、日本の実績を参考にしながら、被援助国へのインパクト、則ち仮に日本の援助が減額された際の被援助国へのダメージの大きさ等を考慮し援助額を決めてゆくことが望ましい。
(3)日本の強みをいかした取り組み
1)現場の経験・情報をいかした政策提言
一般財政支援においては、国家開発計画、公共支出管理、税制など政策の上流部分での議論が進められている。これまで現場レベルのプロジェクトを得意としてきた日本にとってはまだ不馴れな領域であると現地調査、関係者のヒアリングで度々指摘されている。
その一方、ドナーの中にはプロジェクト援助を減らし日本などのプロジェクトを重視してきたドナーに比較し現場情報が不足しがちである、あるいは抽象的で実現性に欠ける政策議論になりがちであるという意見も何度か聞く機会があった。
これらの事を鑑みれば、プロジェクト支援の現場や経験から得られた情報をもとにした政策提言が可能であれば、日本の強みをいかし、地に足のついた政策提言ができるのではないか。
2)システムの視点
現場の情報や経験を政策提言にいかすためには、政策の上流から現場までを串刺しにして対象セクターを捉える視点が必要になる。そのためには対象セクターを政策から開発の現場までの全体像を鳥瞰しシステムで捉えることが必要である。
また、このような鳥瞰図を描くことができれば、当該セクターにおける取り組み状況の確認ができ、また、他ドナーと日本のアプローチの相違、他ドナーと日本の位置関係などを確認しながらドナー協議にのぞむことができるだろう。ヒアリングでは日頃の業務において政策の視点を持つ事の重要性が指摘された。だが、その視点を方法論として捉えることができないだろうか。そこで、その方法についてささやかな試みであるが付録に記したので参照していただきたい。
3)モダリティ・ミックス(援助形態の組合せ)
全ての援助が財政支援に吸収される、あるいは援助形態はプロジェクト→バスケット→財政支援という発展段階をたどるというような単純な考え方は不適である。セクターによっては、一般財政支援を通じての支援よりもプロジェクト支援の方が適しているものもある。例えば、道路、交通、電力などの大型インフラ、IT分野の場合には、調達管理、事業現場でのマネジメントなどは高度の技術が求められ、現在のタンザニア政府ではマネージしきれないところがあり、この点は、複数のドナー、政府関係者から出された意見である。また、ベトナムのように成長を重視した貧困削減の取り組みにおいては経済インフラの重要性をベトナム政府自ら述べている。従って、被援助国の課題や要望を見据えて財政支援のようなプログラム援助とプロジェクト援助を組み合せることもあり得るだろう。例えば、道路セクターの支援においては建設などのプロジェクトを実施しながら、財政支援を通して維持管理予算の増額が実現しているが、効果的なモダリティ・ミックスの好例であろう。
4)移行時期の配慮と戦略
以下の提案は援助依存度が比較的高く急速に財政支援に移行している国に援助をする際に必要な事項と考える。
多くのドナーが一般財政支援導入に伴いプロジェクト(オフバジェット中心)数を減らしている。しかし、タンザニアでのプロジェクト支援のインパクトは大きかったわけで、急速にプロジェクト数を減らすことによる負の影響も配慮しなければならない。特に、農村地区などの末端において、政府から一定の質以上の公共サービスが提供されるようになるまでには相当の時間がかかるはずである。
また、中央政府、地方自治体や学校などの公的機関の能力向上が必須であるが、そのためのニーズの把握、技術支援は今後も必要となろう。但し、これをどのように実施するかについては、ドナー協調、あるいはタンザニア政府との合意など幅広いステイクホルダーとの協議が必要になろう。
(4)戦略視点をもったエントリー・ポイントの見極め
タンザニア、ベトナムに財政支援を供与する際に、対象国の状態および自国の立場を拠出の基準としている。すなわち、エントリー・ポイントと呼ばれるものだが、タンザニアの場合には1)被援助国の政治・マクロ経済の安定の度合い、2)PRSPとそれを反映した予算枠組みの存在、3)PRSPのモニタリングシステムと財政管理能力、4)成長への取り組み、歳入拡大への努力、5)わが国と被援助国との関係、わが国側の体制やプレゼンス、を挙げている。
対象国によって事情が異なるため具体的な標準値を掲げることは適当でないだろうが、被援助国の状況、自国と被援助国の関係、自国と他ドナーとの関係や位置関係を確認しながら、比較優位性のあるセクターや政策提言分野と体制を見極めて戦略的に参入してゆく必要があるだろう。
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