1.テーマ: インドネシア国別評価 | |
2.調査対象国: インドネシア | |
3.評価チーム: (1)評価主任: 大野泉(政策研究大学院大学 教授) (2)アドバイザー: 佐藤百合(アジア経済研究所 地域研究センター専任調査役) 河野毅(政策研究大学院大学 准教授) (3)コンサルタント: 株式会社コーエイ総合研究所 |
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4.調査実施期間:2007年7月~2008年3月 | |
5.評価方針 (1)目的 イ. 日本の対インドネシア援助政策全般を検討し、国別援助計画改定を含む今後の援助政策立案、及び援助の効果的・効率的な実施に資する教訓・提言を作成すること。 ロ. 評価結果を広く公表することによって説明責任を果たすとともに、インドネシア政府関係者や他ドナーに評価結果をフィードバックすること。 (2)対象・時期 対インドネシア国別援助計画(2004 年11 月策定)以降の日本のインドネシア援助政策。 (3)方法 外務省評価ガイドライン(ODA評価ガイドライン、第3 版、2006 年5 月)に準拠し、主に「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の観点から総合的に分析し、提言を行った。特に2004 年を転機として経済成長と民主化定着に向けた安定期に入ったインドネシアにおいて、現ユドヨノ政権下でとられた開発政策の変化(投資環境整備・インフラに関する新施策、対外援助受入れ政策の変化、民主化定着と地方分権化法の修正等)に対する日本の援助政策の対応、さらには外交政策上の課題(経済連携協定(EPA)、投資、エネルギー、治安維持等)等を考慮して分析を行った。ただし、援助計画実施年数が限られていることから中間レビューと位置付け、「結果の有効性」については、現行の国別援助計画が掲げる3 重点分野において想定されている効果発現の時間軸(短・中期的には「民間主導の持続的な成長」、中・長期的には「民主的で公正な社会造り」、すべての時間軸に関わる課題として「平和と安定」)に留意し、特に短期・中期目標の達成度に重点をおいて分析した。 |
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6.評価結果 (1)「政策の妥当性」に関する評価
現行の対インドネシア国別援助計画は、経済危機後の成長回復に向けた開発・援助の方向性について日本とインドネシアの政府関係者や有識者が密接な政策対話を行って策定されたこともあり、日本の上位政策、インドネシアの中期開発計画(2004-2009 年)と高い整合性がある。また、「民間主導の持続的な成長」を短・中期の目標とし投資環境整備の一貫として経済インフラ支援を重視したことは、日本と並ぶ主要ドナーである世界銀行とアジア開発銀行がガバナンス改革を基本方針として政策・制度改革支援や社会的サービスを重視したことと補完性があり、適切である。 (2)「結果の有効性」に関する評価
日本の有償資金協力は、インドネシアの対外公的債務残高の4 割以上を占めており同国の開発資金に重要な貢献をしている。国別援助計画の短期的な目標である財政や金融セクター改革に関しては、重要な成果がみられる。短・中期的な課題である経済インフラ整備、裾野産業・中小企業振興、経済関連の法制度整備では、プロジェクト及び、世界銀行、アジア開発銀行との協調融資で実施したプログラム・ローンを通じ多くの達成があった。特に投資環境整備において日本は、日系企業の現場からの提言を政策支援型プログラム・ローンに反映しており、これに対するインドネシア側や他ドナーの評価は高い。しかしながら、まだ日系企業が実感できるような投資環境の改善は限定的であるとの評価もある。 (3)「プロセスの適切性」に関する評価 民間企業(日本・インドネシア)との緊密な連携による投資環境整備、地域開発を通じた貧困削減を目指す「東部インドネシア地域開発プログラム」とその拠点としてのマカッサル・フィールド・オフィス開設等の取組は、適切な援助実施プロセスとして特筆される。近年のインドネシアの開発政策の変化をふまえ、政策支援型のプログラム・ローンのモニタリング、地域開発のあり方、平和構築支援の実施体制、EPA の実施に向けた協力体制等、新たな課題が顕在化しており、競合する援助需要に対して、予算制約の中で優先度を決める必要がある。現地ODA タスクフォースは、これらの課題について日本の援助の優先度や方針を包括的に議論し、調整する場としての機能を高める必要がある。 |
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7.提言 (1)開発ビジョンの共有と援助の戦略化 経済危機から回復・成長を遂げ、インドネシアが新しい安定期に入り中進国化を目指す段階にきたことによる開発ニーズの変化、またEPA 締結等を含め日本とインドネシアの二国間関係が新たな段階に入ったことをふまえ、さらなる「選択と集中」の強化を念頭に、今こそオールジャパンで、インドネシアに対する日本の援助の優先順位を再検討する必要がある。特に経済インフラ整備、裾野産業・中小企業振興、経済関連の法整備並びに法施行強化という短・中期の課題への一層の注力、地域別の成長戦略と組み合わせた分配・貧困対策としての地域開発、平和構築支援や環境保全・防災の位置づけを検討することは重要である。その上で、インドネシア政府と定期的で包括的な政策協議を実施すべきである。 (2)現地機能の強化
重点事項の課題分析能力を強化するために、現地ODA タスクフォースは情報共有という機能を超えて、分科会を制度化し、現地ODA タスクフォースで広くビジョンを共有し状況を正確に分析する仕組みと能力を作る必要がある。今後、重点的に取り組むべき事項、セクター等には、専門知識の機動的な動員や当該分野の政策と個別案件を関連付けた支援を可能にする機能をつくることを提案する。 (3)多様な関係者とのネットワーク構築
長年のインドネシア援助を通じて築かれた人的ネットワークと信頼関係は、同国の援助国化への支援を含め、日本が今後もインドネシアで協力を進めていく際の貴重な財産となる。事例として、(a)今までの地方教育行政改善への支援を通じて蓄積された経験の他地域への展開、他セクター(保健)や平和構築支援(マルク)への応用、(b)スラウェシにおいて過去の協力で育成した人材、蓄積した人的ネットワークを活用した地域開発能力向上への取組、(c)現地の大学との連携を通じた長期にわたる人材育成や人的ネットワークづくり、(d)警察支援における、様々な技術協力支援や無償資金協力を組み合わせた長期にわたる支援、等がある。 (4)低コスト・高インパクトの広報活動の強化 日本が投入した援助量に比べ、政府関係者以外の間でインドネシアでの日本の援助に対する認知度が低いことも課題である。幾つか注目される取組もあるが、予算制約の中で、インパクトのある広報の在り方、具体的には(a)年次活動報告セミナーの実施(活動報告の作成・発表)、(b)大使館の「ODA 有識者懇談会」の再開、事業視察を含む日本のODA 情報の提供、(c)NGO、研究者との意見交換会の開催、等は検討に値しよう。 今後の日本の援助政策の立案・実施の在り方への示唆としては、 (1)ローカルリソースの積極的な活用(高度な技術を必要としない事業や、平和構築等、特に社会・文化的な配慮が必要な課題におけるインドネシア人専門家・コンサルタントの活用)、 (2)平和構築支援への取組方針の明確化(治安状況の適切な把握、二国間援助と多国間援助の組み合わせ、日本として国際社会に発信したいメッセージ、モニタリングの方法)、 (3)無償資金協力と技術協力における案件採択過程の予測可能性の向上(案件採択過程での政策対話を強化し、相手国政府の準備状況を高めることによる援助効果の向上)、 (4)新JICA 設立を念頭においた現地ODAタスクフォースの在り方、援助政策の立案・実施における政府と実施機関との役割分担を明確にする必要性(例えば、外務省が策定する国別援助計画と新JICA が策定する援助実施方針の内容の検討)、等が挙げられる。 |
注)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。