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インド国別評価

1. 調査対象国:インド
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2. 評価チーム:

(1)評価主任:山形辰史
(アジア経済研究所新領域研究センター貧困削減・社会開発研究グループ長/開発スクール教授)

(2)アドバイザー:押川文子
(京都大学地域研究統合情報センター教授)

(3)コンサルタント:株式会社三菱総合研究所

3. 調査実施期間:2009年6月~2010年3月

4.評価方針:

(1) 目的

 本評価は、日本の対インド援助政策を包括的に評価し、今後の対インド援助政策、経済政策の立案及び援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得ることを目的として実施された。また、評価結果を公表することで国民への説明責任を果たすとともに、関係各国政府・機関関係者や他ドナーにフィードバックすることで、日本のODAの広報に役立てることを目的としている。

(2) 対象・時期

 本評価では、日本の対インド援助政策を対象として、主に「政策の妥当性」、「結果の有効性」及び「プロセスの適切性」の観点から総合的に評価した。第1に、「政策の妥当性」については、2006年5月に策定された「対インド国別援助計画」を主な評価対象とした。本評価では、この国別援助計画に加えて、同年12月に発表された「『日印戦略的グローバル・パートナーシップ』に向けた共同声明」で確認された援助方針も考慮しつつ、それらの内容について整理し、政策協議で示された援助目的の妥当性について評価を行った。第2に、「結果の有効性」については、2006年のインド国別援助計画等で決定した重点課題を踏まえた援助が行われているかどうかについて評価を行った。日本は円借款を主体として、無償資金協力、技術協力等を行ってきたが、援助の結果を総合的に評価するためには各協力形態の有効性も含めて総括的に調査する必要があった。本評価では、無償資金協力、技術協力に加え、日本の円借款の結果の有効性(インドの経済発展と社会開発にどのような効果をもたらしたか)についても現地ヒアリング等を通じて調査を実施した。第3に、「プロセスの適切性」については、「政策の妥当性」と同様、原則として2006年以降に行われた援助活動を対象として評価を行うこととした。

(3)方法

 本評価を行うにあたり、まず、評価の視点、評価項目、評価指標を示す評価の枠組みを作成した。ここでは、外務省が実施する政策レベル評価の基本方針にならい、政策、結果、プロセスの3つの視点から評価の枠組みを作成した。

 「政策の妥当性」については、日本の対インド援助政策の援助目的・重点分野等の妥当性について、主として(a)相手国の開発ニーズとの整合性、(b)日本の上位政策との整合性、(c)国際的な優先課題との整合性、(d)他ドナーとの関連性などを評価することとした。

 結果については、「有効性」及び「インパクト」に着目して評価した。日本の援助のインプット・アウトプットを確認した上で、当該援助が有効なアウトカムを生み出しているか、主として、(a)経済成長の促進、(b) 貧困・環境問題の改善、(c) 人材育成・交流の拡充、という3つの主要課題ごとに結果の有効性を分析し、最終的に同国の自立的な経済発展に与えたインパクトを評価した。

 「プロセスの適切性」については、主として(a)政府(主として外務省)内のプロセス、(b)日本と被援助国との間のプロセス、(c)日本と他ドナーとの間のプロセスの3つに分けて、日本の対インド援助政策の立案・実施において適切な協力・協議・確認等があったかどうか、それらが効率的になされていたかどうかを確認した。

5.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 日本の対インド援助政策において掲げられた重点目標は、インド政府の掲げる重点分野を支援しており、両者は整合的であるといえる。また、対インド国別援助計画は日本の政府開発援助大綱の基本理念すべてを含んでいることから、日本の上位政策とも整合的といえる。

(2)「結果の有効性」に関する評価

 本評価では、対インド国別援助計画にて掲げられている重点3分野すべてにおいて、日本の特性をいかした援助が行われていることが確認できた。特に、「経済成長の促進」に直接寄与する支援分野として、電力、運輸分野のインフラ支援が円借款で多数実施されているほか、「貧困・環境問題の改善」に寄与する支援分野として、教育、保健・衛生、地方開発、環境に対し、一般無償資金協力、草の根・人間の安全保障無償資金協力、技術協力等を通じた支援が行われている。「人材育成・人的交流の拡充」は対インドODAの総額に占める割合は大きくないものの、日印関係を水平的な協力関係と位置付ける上で、有効な役割を果たしていることが認められた。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価

 日本のODAは幾つかの点において「予測可能性(predictability)が低い」、「柔軟性が低い」との指摘が一部のインド政府機関、他ドナー、草の根・人間の安全保障無償資金需給団体から寄せられた。また、これらのアクターからは、日本の援助が、インド経済・社会の発展に貢献している他の多くのアクターの活動と、より整合的であって欲しいとの期待が表明された。

6. 提言

(1)日印パートナーシップの更なる推進

 日本は対インド支援を「日印パートナーシップ」の一部として位置付け、「経済成長の促進」のためのインフラ支援を中心に実施してきた。インド政府の高い借款返済能力やインド経済に大きな影響を与え得るフラッグ・シップ的プロジェクトの計画・実施を考慮すると、インフラ分野への支援は今後更に正当性を増すと考えられる。このことからも、「日印パートナーシップ」の下、日印間で更なる交流を推進していくことが期待される。

(2)より調和的な支援へ

 日本の援助は、インドにおける重要な開発課題と合致していているものの、インドの社会開発目標における位置付けや、他ドナーとの役割分担・協調の方向性、実施されたプロジェクトの成果の普及方法について必ずしも明確に示されていない。そのため、特に社会開発関連援助について、インド政府のグランドデザインとの整合性及びドナー間の役割分担の両面において、より調和的な支援を発展させることが望まれる。

(3)南南協力への支援

 インドはその歴史的な歩みを背景に、途上国のリーダー的存在としての役割も果たしており、インドが日本の援助によって得た成果を他の開発途上国支援に展開することを日本が支援する意義は大きい。南南協力への支援は、日本とインドの相互協力の範囲を拡張するための方法の1つとして、真剣に検討していくべきである。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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