1. テーマ:沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)中間評価 |
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2. 国名:タイ、フィリピン、エチオピア、ケニア |
3.評価者等:
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監修者
中村安秀 |
大阪大学大学院人間科学研究科 教授 |
三好皓一 |
立命館アジア太平洋大学大学院
アジア太平洋研究科 教授 |
稲場雅紀 |
アフリカ日本協議会 研究員 |
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評価者
石井 克美 |
(財)結核予防会国際部 企画調整役 |
大菅 克知 |
(財)結核予防会国際部 副部長 |
吉山 崇 |
(財)結核予防会結核研究所 研究部長 |
鈴木 修一 |
(財)国際開発高等教育機構事業部 主任 |
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4.調査実施期間:2003年7月~2004年3月 |
5.評価方針:
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評価の目的
a.今後のODAを通じた感染症対策支援のより効果的・効率的な実施に参考とするための教訓・提言を得る。
b.評価結果を公表することで国民や国際社会に対する説明責任を果たす。 |
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評価対象
2000年7月にわが国が九州・沖縄サミットにて発表した「沖縄感染症対策イニシアティブ(Okinawa Infectious Diseases Initiative:IDI)」(5年間で総額30億ドルを支援)を評価対象とし、IDIに基づきODAを通じて世界的に実施された感染症対策支援(IDI案件)を総体的に評価した(中間評価)。また、1997年発表の国際寄生虫対策構想「橋本イニシアティブ」及びその下に実施されている案件も評価の範囲とした。 |
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評価対象期間
評価対象期間は2000年4月より2002年3月までを基本とし、2002年度以降の取り組みも可能な範囲で対象とした。 |
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6.評価結果:
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IDIの目的の妥当性
IDIは、わが国のODA政策における感染症対策分野の援助政策と位置付けられており、国際的には1990年代後半のG8(G7)サミットの流れを受け、主要先進国元首レベルによる世界の“感染症問題”への取り組みへのわが国の方向性を示すもので、策定時の妥当性は高かったと言える。
IDIの現在の位置付けとしては、わが国の上位政策との整合性はあり、被援助国側ニーズとの整合性も認められるが、国際的な感染症対策との整合性という面では、わが国と国際的な取り組みとの間に、いくつかの相違点が見られる。
国際的な感染症対策支援における新たな潮流(コモンバスケット、HIV/AIDSにおける治療の重視など)に照らし合わせると、わが国も感染症対策への取り組みの方向性をより一層明確にし、被援助国のニーズとのすり合わせをより緊密に行なうことが重要である。
一方、わが国が感染症を克服した過去の経験に基づき、感染症対策支援における日本の独自性を出すことは、対策支援の多様性の観点からも重要である。この意味からも、衛生教育を含む基礎教育の強化や、安全な水の供給、地域保健促進等に見られる、感染症対策における間接支援を包含するアプローチも評価される。 |
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IDIの策定・実施プロセスの適切性・効率性
a.適切性
IDIは、外務省が中心となり関係省庁、NGO、国内及びWHO等の有識者を交えた意見交換を経て策定されており、適切な組織・人が策定に関与したといえる。しかし、IDIには具体的な目標、工程が示されていないなど、専門家の意見をもっと反映させる余地があったと思われる。しかし、IDIの発表後に、HIV/AIDS対策に係る広域専門家の派遣等、徐々に感染症対策支援への取り組みは具体化されている。つまり、策定過程の適切性は高いとはいえないが、IDI策定後、関係省庁・機関との連携強化等、改善に向けての取り組みが行われてきた。
IDIの実施過程については、IDIの発表を受けて、感染症対策無償資金協力及び国際家族計画連盟(IPPF)の「HIV/AIDS日本信託基金」という新たな援助スキームと基金が設置されたことから、その適切性が高いと判断される。ただし、一部援助スキームを除き、案件形成時にIDIの関与が限られていること、案件のモニタリング・評価時にIDIの反映度が十分確認されていないこと、プロジェクトの関係者の間でIDIの認知度が低いことについては、今後改善すべきと思われる。
b.効率性
調査の結果、ケース・スタディ国においても(1)個別感染症と間接支援の関係、(2)援助スキーム間の連携、(3)他ドナー・国際機関との連携、(4)NGOとの連携、(5)地域間協力が行われていることは確認できた。しかし、他ドナーとの連携を通じた重複案件の削減や、協調案件による外的リスクの軽減などの取り組みは本格化されたばかりであることから、どの程度効率的であるかを示す十分な情報の蓄積はなく、また、代替案として比較対象可能な適切なものを選択することが困難であり、明確に効率性を検証することは出来なかった。
ケース・スタディ国における現状を見る限り、逆に現地調達時の手続きの遅延など、非効率的な実例も散見されたことから、実施プロセスにおける効率性が高いとはいえない。また、現在のところ、上記のような連携は効率性を意識して実施しているというよりは、案件実施の効果を高める方に活用されているように思われる(案件の重複を回避することやより安価な方法を追求するということは行われていない)。
現在、他ドナーや我が国の援助実施機関間の情報の共有による重複事項の軽減や、NGOの活用による迅速な実施、第三国専門家の活用による経費の節減などの取り組みが、徐々に開始され始めていることから、効率性は現段階では高いとはいえないが改善されつつある。 |
(3) |
IDIの結果(途中経過)の有効性
IDIの有効性を評価するには、鋭敏で信頼性のある指標とそのデータの存在、IDI以前およびIDI以外の介入の除外、介入とインパクト発現までの時差などを考慮する必要があるため、今回の中間評価の段階では、厳密に有効性を評価することは困難である。したがって、本評価は政策レベル評価ではあるが、IDIの有効性を個々のプロジェクト評価の総体とみなし、ケース・スタディ国において疾病別にプロジェクトの有効性を検討するとともに、IDIの基本方針および疾病別の国際的な取り組み(世界戦略)と照らし合わせて有効性を検討した。
ケース・スタディ国の中で、フィリピンにおける結核対策支援はインフラ整備、人材育成、技術協力の面で大きな成果があがっており、また当該国のみでなく他の援助機関・国際機関の優先課題とも一致している。タイにおいては最優先課題として広域性を持ったエイズ対策が挙げられるが、わが国が実施してきた技術協力と、現在行われている広域性を目指した取り組みは有効である。またタイとケニアにおいては橋本イニシアティブを受けた広域的な国際寄生虫対策が実施されており、人材育成を中心に成果があがっている。エチオピアはエイズ、マラリア対策が優先課題と考えられるが、人材不足等の理由で十分な成果があがっているとは言い難いのが現状である。
IDIの基本方針別に見た場合、まず(1)主体的取り組みの強化に関しては、結核対策・ポリオ対策等、世界戦略が確立したものでは当該国の十分な主体性が得られているが、エイズ対策を含め有効な戦略が未確定ないし模索中のものでは主体的な取り組みはやや弱い。(2)人材育成はわが国が力を入れてきた分野であり、結核対策分野をはじめ大きな成果をあげている。むしろ必要なのは日本人の感染症分野における人材育成である。(3)市民社会、援助国、国際機関との連携に関しては、WHOとの密な連携が結核対策分野でみられ、またポリオ対策もWHO、UNICEFと共同で進められてきた。エイズ対策においては連携はやや弱い。今後はGFATMに国レベルで関わることが重要と思われる。世界との連携を強化するには組織的な取り組みが重要であり、疾患毎の国内拠点を強化する必要がある。(4)南南協力に関しては過去の技術協力の成果に基づいた第三国研修や、第三国専門家の登用が実施されており、多くの感染症分野で効果が上がっている。(5)研究活動の促進面では、HIV簡易診断法の開発やワクチン開発につながる基礎研究、結核対策のオペレーショナル研究等が技術協力の範囲で実施され、現場で役立つ知見が得られている。(6)コミュニティレベルでの公衆衛生の推進に関しては、DOTSを主とした結核への取り組み、地域の中でのHIV検査と、ケアの推進はいずれもプライマリへルスケアに基づいている。住民教育、学校保健や地域共同体を通じた寄生虫対策を含め、地域レベルの公衆衛生が有効に推進されてきたと言って良い。
疾患別に見た場合、ポリオ対策については、わが国は国際機関との積極的な連携により、流行国等に対するポリオワクチン供与、サーベイランス強化、人材育成などの支援を通じ、世界戦略としてのポリオ根絶に向けたその貢献・有効性は多大であり、結核対策については、DOTS拡大を主にした人材育成、抗結核薬・機材供与を含む技術協力を通じ、わが国が援助している国では有効性が高かったと考えられる。それ以外のわが国の支援については、エイズ対策ではHIVサーベイランス強化、コミュニティに根ざしたエイズ対策モデル作り、HIV診断の改善など、マラリア・寄生虫対策では、学校保健を通じた寄生虫対策のパイロット作り、研究支援など、途上国の対策プログラムの特定部分を担ってはいても、そのアプローチは限定的であり、支援国レベルでも世界的なレベルでも、感染症制圧に向けた明確な有効性を示すには到らなかったと考えられる。
一方、波及効果としては、IDIの発表が国際的な感染症対策の潮流を強め、世界エイズ・結核・マラリア基金(GFATM)設立の契機となったこと、また、社会開発分野への注目を集めたことなど、IDIの正の波及効果が見られていると考えられる。 |
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結論
IDIは、日本政府が感染症対策に対する具体的な資金拠出を表明することで、世界の政治的関与を引き出したとも言え、歴史的意義は大きい。その後、IDIの下、日本政府は2年半で20億ドルを越える貢献を現実に実施しており、IDIの下で進められているわが国の感染症対策支援に対する高い評価も得られている。
しかし、IDIは支援総額、基本理念と方針が明示されてはいるものの、この方針は感染症そのものに特化したものではなく、広く従来から公衆衛生に必要な要素を含んでいる。つまり、IDIは公衆衛生要素を含んだ広義の感染症対策支援のイニシアティブである。しかし、世界的には感染症対策支援といえば直接的な感染症対策(当該国の感染症対策プログラム等)を支援することと捉えられていることから、わが国の感染症対策支援では、どの様に感染症に対処するのかという具体的な方針および方法が見えにくくなっている。こうした問題に対処するためには3大疾患のみを対象にしているGFATMや、疾患特異的・選択的なアプローチをとる多くの世界のイニシアティブに比して、IDIのアプローチがやや異なることを明確に強調すべきであるが、今のところ、そのための広報は十分ではない。また、支援総額の中でエイズ・結核・マラリアおよび寄生虫対策への直接支援の割合が低いことの根本的な原因としては、わが国において世界的な感染症対策を推進できる人材が著しく不足していることが挙げられる。 |
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7.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等)
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IDI終了時までの短期的提言
a.IDIの広報活動を強化する
b.相手国のニーズを考慮し、IDI重点国/地域を選定する
c.広域的感染症対策アプローチを推進する
d.NGO支援を積極的に進め、日本のNGOとの連携を図る
e.未知の感染症に対応できる体制を整備する
f.感染症対策の人材育成プログラムを強化する
g.第三者を交えたIDIの客観的評価を実施する |
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これからのわが国の感染症対策支援に関する長期的提言
a.省庁間の壁を越えたオールジャパンの感染症対策支援体制を構築する
b.ODA感染症対策支援拠点としての国内感染症機関の強化を行なう
c.日本人の感染症対策専門家を育成する
d.感染症対策支援を戦略化するために疾患別の対策支援戦略を立てる
e.感染症対策国家プログラム支援を行なう
f.感染症対策における人材を、日本人に限らず広く各国から登用する
g.イニシアティブに具体的な目標とモニタリングの方法を明記する |
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