1.テーマ:貧困削減に関する我が国ODA の評価 |
2.国名(現地調査実施国):ベトナム |
3.評価チーム: 評価主任: 縣公一郎(早稲田大学政治経済学術院教授) アドバイザー: 伊東早苗(名古屋大学大学院国際開発研究科助教授) 大門毅(早稲田大学国際教養学術院助教授) 業務従事者: 中畝義明(社団法人世界経営協議会事務局長) 安田 靖(社団法人世界経営協議会特別研究員) |
4.調査実施期間:2005 年8月17 日~2006 年3月31 日 |
5.評価方針 |
6.評価結果 (1)我が国の貧困削減に関する援助政策 (イ)目的の妥当性に関する評価 我が国は、貧困を経済的観点からのみ捉えるのではなく、人間としての基礎的生活を確保するための機会の提供など多面的に捉えた政策を策定している。これは国際援助社会の動向と合致するものである。 援助実施機関は、DAC 貧困削減ガイドラインを基本とし、貧困削減への対応を強化しており、その取り組みは、貧困削減を重点課題の第一に掲げるODA 大綱の理念と合致している。 我が国は、新ODA 中期政策にあるように、「発展段階に応じた分野横断的な支援」を有償資金協力、無償資金協力、技術協力の二国間援助スキームや国際機関を活用した支援を相手国・地域の事情に合わせて効果的に組み合わせて実施することにより政策目的の達成を図っている。例えば、ベトナムにおける国道3号線道路ネットワーク整備事業では、貧困層が多い地域の周辺道路の改善により都市等へのアクセスの改善が図られ、さらにJICA 専門家との連携により「道の駅」の導入が行われ、地域産品の販売等地域住民の参加促進が考慮されている。 我が国が、ODA 中期政策において、援助対象国・地域ごとの多様な貧困の様相を把握し、支援内容を具体的に策定していくために、計画段階における貧困に係る基本情報の把握・分析に努めるとしている点は評価される。こうした情報の把握・分析の結果により、ベトナムでは、貧困層が多い地域である中部高原4省で学校校舎建設を実施し、教育へのアクセス改善、教育の質の向上が図られている。 (ロ)結果に関する評価 有償資金協力による貧困削減に関わる案件は、年々増加しており、その多くはアジアで実施されている。道路等インフラ整備や持続的成長のための支援が多いが、教育、保健医療といった人間的能力の向上につながる案件も増加している。より長期的な視点に立った貧困削減への取り組みがなされ、貧困層が十分裨益するような成長(pro-poor growth)を支援する方向にある。 技術協力に占める貧困削減に関わる案件の割合も年々増加している。件数はアジア地域が最も多いが、アフリカ地域も中南米と並んで件数の増加が見られる。技術協力では、技術移転から一歩踏み込んだ地域社会への普及、政策・制度支援まで援助のアプローチが広がってきている。 無償資金協力は人間的能力の向上につながる分野での実績が年々顕著に増加している。貧困層に直接働きかける支援において無償資金協力が以前より活用される傾向が強まっている。 (2)事例国における貧困削減への取り組み:ベトナム (イ)目的の妥当性に関する評価 ベトナムは、ベトナム版PRSP である「包括的貧困削減成長戦略(CPRGS)」を策定し、「成長」と「貧困削減」の両方を重視し、貧困削減に取り組んでいる。 対ベトナム国別援助計画は、1)成長促進、2)生活・社会面での改善、及び3)制度整備を3つの協力の柱とし、経済インフラ整備と社会セクターのバランスのとれた支援を行うとしており、「成長」と「貧困削減」の両者を重視するベトナムの開発目標に合致するものである。 国別援助計画はODA 大綱の考えを反映しており、また、ODA 中期政策で示された、「貧困層を対象とした直接的な支援」、「成長を通じた貧困削減のための支援」を重点事項として明記しており、ODA 中期政策とも整合的である。 我が国は、ベトナム国市場経済化支援開発調査(石川プロジェクト)以来、ベトナムの市場経済化のための経済改革、制度改革を支援してきた。 CPRGS に対し、我が国が、大規模インフラの重要性を提案し、他ドナーに貧困削減におけるインフラの重要性を改めて認識させたことは、リーディングドナーとしてベトナムの開発への重要な貢献であった。CPRGS 策定への積極的関与、PRSC3 への協調融資は、キャパシティ・ビルディングを重視する国際的潮流に合致するものである。 (ロ)貧困削減の取り組みの結果に関する評価 我が国の対ベトナム援助は、経済インフラに関しては、DAC 諸国全体の90%前後、教育、保健医療等の人間的能力の向上につながる分野では50%前後と高い割合を占めている。経済的能力に関する分野、人間的能力の向上に関する分野のバランスを考慮しつつ援助を行い、キャパシティ・ビルディング支援も実施し、効果的援助を実施している。 ODA 中期政策は、貧困削減に関するアプローチと具体的取り組みを示している。例えば、ネットワークの強化という中期政策が掲げている具体的取り組みについては、現地ODA タスクフォースが現地政府、ドナー、NGOなどによって形成されるテーマ別ワーキンググループへ出席、積極的に意見交換、情報収集などを行うなど十分対応している。 経済的能力に関する分野では、貧困層も視野に置きつつインフラプロジェクトを実施し、高い経済成長もたらす上で貢献してきた。一例として、国道5号線改良事業とハイフォン港リハビリ事業では、インフラの整備が図られることにより、外国企業の進出、雇用の創出、経済発展等の効果がみられる。道路の改善は、大都市への農作物の出荷を活発にし、農村部の所得の向上に貢献している。 人間的能力の向上につながる分野では、教育においては山岳部、僻地で初等教育の質的向上、保健医療においてはリファラル体制の構築により、地方の貧困層が上位病院で診療を受けられる機会を作りつつある。 (3)事例国における貧困削減への取り組み:エチオピア (イ)目的の妥当性に関する評価 エチオピア政府の開発戦略の柱は、農業主導型工業化政策(ADLI)と食糧安全保障である。エチオピア版PRSP である「持続可能な開発及び貧困削減計画(SDPRP)」を基本としてドナー・コミュニティは貧困削減に取り組んでいる。 我が国は、対エチオピア国別援助計画は策定途上にあるが、策定方針の中で、国際機関の要請によりステレオタイプになりがちなPRSP に対し、エチオピア固有の事情や主体性を尊重する態度を表明している。オーナーシップ尊重は開発の基本であり、国別援助計画策定方針がそうした方向性を持っていることは、貧困削減に向けた援助において重要であり、妥当であるといえる。 (ロ)貧困削減の取り組みの結果に関する評価 エチオピアにおいて、我が国の援助額はベトナムのように大きなものではない。日本の援助のプレゼンスが相対的に小さい中で、下記のように日本は独自性を出した援助を行っている。 無償資金協力による道路舗装は二国間援助で最大であり、保健・医療に関しては、UNICEF、WHO が推進する予防接種拡大プログラムの多くの資金を無償資金協力により支援している。 農業開発を含む経済インフラなど我が国が優位性を持つ分野を強化し、他の援助機関、国際機関が力を入れている分野においては連携して援助を行うなど、「選択と集中」が推進されている。 |
7.提言 |
注) | ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。 |