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「平和構築のための支援の評価」

1. テーマ:平和構築のための支援の評価 写真

モラ橋・マリアナ灌漑

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2.現地調査国: 東ティモール
3.評価チーム:
(1)評価主任:下村 恭民(法政大学名誉教授)
(2)アドバイザー:上杉 勇司(広島大学准教授)
(3)コンサルタント:学校法人早稲田大学(国際戦略研究所)
4.調査実施期間:2010年9月~2011年3月

5.評価方針

(1)目的
 本件評価は近年の平和構築に係るわが国の取り組みについて,政策的な見地から,国及びスキーム横断的に総括的な評価を行い,教訓・提言を得るとともに,今後の政策立案・策定に生かすことを主な目的とした。また,評価結果を公表し,平和構築にかかる政府の取り組みについて国民への説明責任を果たすとともに,評価結果をフィードバックすることで,他ドナー等のわが国のODAへの理解促進に役立てることを目指した。

(2)対象・時期
 本件評価は,日本の平和構築支援にかかる援助政策を対象とした。2005年度に外務省のODA第三者評価として実施された「平和の構築に向けた我が国の取り組みの評価」を踏まえ,本件評価では,特に2005年以降の時期に焦点をあてた。特定の国・地域にとどまらず,また,政府による直接の取り組みに限定せず,NGO・民間企業との連携やPKO活動等の非ODAによる支援も含め,オール・ジャパンとして包括的な支援の全体像が明らかになるように工夫した。

(3)方法
 本調査では,個別のODA事業についての評価を行うのではなく,その上位にある政策体系(すなわち,「ODA大綱」「中期計画」「国別援助計画」「事業展開計画」等)を中心に,外務省「ODA評価ガイドライン第5版」に準拠し,DACの評価5項目(妥当性,有効性,効率性,インパクト,自立発展性)をベースに,「政策目的の妥当性」「結果の有効性」「プロセスの適切性」に関する評価を行った。
 また,本件評価では,独立前から10年余の支援実績のある国として,東ティモールにおいて現地調査を行った。ただし,特定国の事例研究という位置付けではなく,あくまでも平和構築支援の包括的政策評価という立場から,国内調査を通じて,他の紛争国・地域の事例,支援スキームについて可能な限り網羅的に調査を進めた。

6.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価
 ミレニアム開発目標との関連に着目した日本の平和構築支援の目的設定は妥当と考えられる。また,国際的な平和構築の潮流を受身でとらえるのではなく,積極的に関与する姿勢が見出されること,国際的な優先課題,国内の上位政策,途上国の優先課題との間に,基本的な整合性が認められること,支援対象国の実情,紛争の特徴,平和の定着度や復興期への移行の進度などが,妥当な形で考慮されてきたことなどは積極的に評価できる。

(2)「結果の有効性」に関する評価
 平和構築に貢献する支援には,DACのODA統計に「紛争,平和及び治安 (conflict, peace and security)」として計上される6分野(これを本報告書では「狭義の平和構築支援」と定義)だけでなく,インフラ整備や教育・保健分野への支援を含めた「広義の平和構築支援」がある。近年の日本では,2006年以降,狭義の平和構築支援の規模が急速に拡大おり,特に「治安制度運営・改革」や「文民平和構築・紛争予防活動」の増加が著しい。
 また,本件評価では,途上国の「紛争リスク」に注目しつつ,計量的手法を用いて平和構築支援のインパクトの把握を試みた。「(日本からの)一人当たりODA支援の増分」と「紛争リスク」との間の関係を分析した結果,両者の間に負の相関関係(ODAの増加と紛争リスクの低下)が確認された。この結果は,限定条件付きではあるが,ODAが平和構築に一定の効果を持ちうることを示唆している。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価
 平和構築支援に関する政策プロセスには,改善が見出される反面,課題も残ることが確認された。評価できる点としては,(ア)外務省国際協力局がスキーム別の編成から国別・地域別に再編され,一つの国別担当課で多様な支援手段を総合的に運営できるようになったこと,(イ) NGOとの連携の進展,(ウ)二国間援助と多国間援助の連携の進展,などがある。重要な課題として残されるのは,(ア)多くの対象国について国別援助計画が策定されていないこと,(イ)多様な支援方式の連携・調整機能の整備に改善の余地が大きいこと,などである。

(4)東ティモールに対する支援
 東ティモールに対する平和構築支援は,緊急人道支援と復興開発支援について,相手国のニーズと状況の変化に応じて,柔軟な形で実施されたと評価できる。同国の関係者や一般国民,現地の援助関係者から,日本の平和構築支援に対して,総じて高い評価が与えられていることを確認した。事業間の重複の排除や相互補完などの調整にも,大きな問題が見られなかった。予算制度や開発計画策定などの専門家を送り,東ティモール政府の開発政策策定の核心部分に貢献しようとする積極的な姿勢も評価できる。
 同時に,なお大きな課題が残っていることも否定できず,それは明確で一貫性のある政策指針の策定,調整システムの効率性などであり,例えば,PKOとODAの連携や治安部門等を含めた支援において課題が見られる。また,今後の自立をになうべき人材の育成の面で,改善の余地がなお大きい。

7.提言

(1)省庁横断的な総合調整を行う体制や仕組みの掘り下げた検討
 [政策・戦略レベル][中期的に実行]
  平和構築支援においては,多数の省庁の関係者の間で基本方針を共有し,省庁横断的な総合調整を行う体制や仕組みの確立が特に重要である。この困難な課題に取り組むため,経験豊富な専門家のチームによる,体制や仕組みに関する「代替案」の整理と比較,そして実現可能性の検討を提言する。
 代替案の候補として,(ア)「司令塔」の確立を軸としたトップダウン型のアプローチ,(イ)広範な総合調整機能を持つ組織の導入,(ウ)現地調整チームへの大幅な権限移譲を軸とするボトムアップ型のアプローチなどが考えられる。様々な代替案について,それぞれ期待される効果と予想される問題点を対比し,円滑に機能するかどうかの実現可能性を含めて,綜合的に検討する。課題の重さ,複雑さなどを考慮すると,複数年度にわたって,十分な時間とマンパワーを投入することが必要である。

(2)執務参考資料の作成と配布
 [実務レベル][できるだけ早く実施]
ア.「平和構築支援」の定義,内容,範囲の共有化
 「平和構築支援」の定義,内容,範囲を明示し共有して,外務省やJICAなどの関係者の間に共通の認識を確立する。可能な限り,他の省庁・組織にまたがる多様な担い手にも共通認識を広げる。これにより,基礎的な情報の共有を通じて,「継ぎ目のない支援」の実現に貢献できる。

イ.「組織の記憶」としての経験情報
 不確定な状況下で求められる迅速な判断に資するため,発生頻度が比較的高いケースを選び参照できる先行事例の事典とする。ODA手段間,ODAと非ODA手段間,非ODA手段間などの組み合わせについて,その具体例,今後のモデルとすべき点,将来繰り返さないための注意事項(「予防」のための手掛かり)を,具体的・実務的に記載することが特に重要である。

ウ.「国別評価報告書」の蓄積
 具体的な対象国に対する支援の経緯と結果に関して,関係者が容易に参照できる共通の情報源とするため,外部の専門家による国別の評価報告書の作成を通じて,これまでの平和構築支援の経験の教訓を蓄積する。イで取り上げた経験情報の蓄積にも寄与できる。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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