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エチオピア国別評価

1. テーマ:エチオピア国別評価
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2. 国名:エチオピア
3. 評価実施者:
(1)評価主任:
 渡辺 龍也((特活)国際協力NGOセンター理事)
(2)監修者:
 児玉 由佳(アジア経済研究所研究員)
(3)業務従事者 :
 石井 徹弥((株)コーエイ総合研究所)
 齋川 純子((株)コーエイ総合研究所)
 二宮 雅信((株)コーエイ総合研究所)
 西田 敦子((株)コーエイ総合研究所)
4.調査実施期間:2004年8月23日~2005年2月28日
5.評価の目的
 第一の目的は、日本の対エチオピア援助政策がいかなる目的を持ち、いかなる過程を経て策定・実施され、いかなる成果を挙げてきたかを、総合的かつ包括的に評価し、今後のより具体的な案件策定の指針となる対エチオピア国別援助計画の策定及び効率的・効果的な援助の実施に資する教訓・提言を得ることにある。第二の目的は、評価結果を広く公表することで、説明責任を果たすことにある。

6.評価結果
 1995年度から2003年度までの間に実施された日本の対エチオピアODA協力を評価対象とした。対エチオピア国別援助計画/方針はこれまで作成されていないが、「重点分野」については、エチオピアの開発政策・計画に準拠し、以下のとおりの分野が各政策協議で決定されてきた。

1997年
経済協力政策協議
2001年
経済協力政策協議
2003年
現地政策協議
(1)教育
(2)保健・医療
(3)食糧確保
(4)インフラ復旧・整備
(5)環境保全(水供給、森林)
(1)教育
(2)保健・医療
(3)農業(食糧安全保障)
(4)インフラ整備(道路・水・電気通信)
(中長期的観点から環境保全)
(1)教育・人材育成
(2)保健・HIV/AIDS
(3)水
(4)経済インフラ
(5)食糧・農業・農村開発

 対エチオピア援助政策を、1)意義、2)目的、3)開発課題、4)重点分野、5)援助形態、6)援助手法、といった要素に関し、1)目的(目的の妥当性)、2)プロセス(政策策定・実施の適切性・効率性)、3) 結果(結果の有効性・インパクト・持続性)の3つの視点で評価を行い、今後の対エチオピア援助政策(エチオピア国別援助計画)のあり方につき提言を行った。

(1) 日本の対エチオピア援助政策の「目的の妥当性」

 対エチオピア援助については、以下のような課題があるが、これは援助目的自体がこれまで不明確であったことによるものであり、早急に目的を明確にする必要がある。

 日本のODA政策との整合性:日本の対エチオピア援助政策「重点分野」は、1992年策定および2003年改訂の「ODA大綱」に照らして十分妥当であり、1999年策定の「(旧)ODA中期政策」に照らしてもおおむね妥当と言える。しかしながら、「平和構築(紛争予防も含む)と民主化」及び「構造調整と民間セクター支援」については協議を始めているが、本格的な対応には至っていない。「債務削減」に関しては積極的な対応が見られず、妥当性に欠けている。

 国際開発イニシアティブから見た妥当性:TICAD II東京行動計画、NEPAD(New Partnership for Africa's Development)、ミレニアム開発目標(MDGs)、人間の安全保障委員会提言、G8アフリカ行動計画などの国際開発イニシアティブに照らし合わせると、「重点分野」は「経済インフラ」を除いて、優先分野・項目に合致しており、妥当性は高い。一方、「民間セクター開発」、「債務」、「ガバナンス」、「平和・安全の確保」については、一部を除き対応として不十分と言える。

 エチオピアの国家開発計画に照らした妥当性:「重点分野」は、「民間セクターの育成」、「地方分権化」をのぞき、「持続可能な開発と貧困削減プログラム(SDPRP)」に対応しており、妥当性が高い。

(2) 日本の対エチオピア援助政策の「プロセスの適切性・効率性」

援助政策の策定過程

 1997年以降定期的に政策対話の場を設け、対処方針を作成してエチオピア側と協議し、双方が方向性について合意した上で援助してきたことは評価される。

 2003年以降は現地ODAタスクフォースが中心となって対処方針を作成し、現地ベースの政策協議を行なうようになったことは、現地ODA関係者の当事者意識を高め、エチオピアの開発ニーズにより良く対応した政策作りができる意味で適切であるとともに、効率的と言える。また、現地での対処方針作りにあたって、援助事業に直接携わるJICA専門家や邦人NGOスタッフからも意見を聴取したことは、開発ニーズをより的確かつ具体的に把握し、政策に反映させえるものとして評価できる。一方、日本国内の関係各省やNGO、エチオピアのNGO・市民社会からの意見聴取は行なわれておらず、これらの援助関係者との協議・対話を持つことが必要と言える。

 州政府とは個別案件に関する協議を行なっているものの、政策協議に州政府は招待されていない。地方分権化の進展にともなって州政府が実施機関となるケースが増加していることから、今後は政策協議やその前の準備会合にも州政府の参加を求めるのが適切と言えよう。

 現地では、頻繁にドナー会合が開かれていて、その多くに日本も参加し、情報収集・交換を行なっている。援助協調の進展は、援助手法(コモン・ファンドや直接財政支援)だけでなく、援助重点分野そのものないしそのサブセクターの選択にも影響を与えてくることが予想される。今後日本として選択と集中を進めるのであれば、早めに選択・集中した分野でドナー会合に積極的に関わり、リーダーシップを発揮していく必要性が痛感される。

援助政策の実施過程

 重点分野の選択がエチオピアの開発計画と要請に応える形で行なわれており、エチオピア側のオーナーシップを尊重している。

 援助プロジェクトの選択は、ほとんどが重点分野および重点サブセクターに沿って行なわれており、適切と言える。援助形態の選択も、エチオピアの状況に鑑みて、円借款再開はなされず、無償資金協力と技術協力にとどめているのは適切である。

 無償資金協力と技術協力の連携が進んでいる。また、現地NGOの参加促進、および日本のNGO支援も行われている。一方で、南南協力はほとんど実施されておらず、改善すべき余地が大きい。

 2003年の政策協議で、大使-大臣レベルの政策協議を年1回開き、さらに実務者レベルのフォローアップ会合を年3~4回開催することで両国が合意した。こうした年次協議及びフォローアップ会合の開催は、援助政策の確実な実施を確保する上で非常に有益な仕組みとして高く評価できる。

(3) 日本の対エチオピア援助政策の「結果の有効性・インパクト・持続性」

重点分野における貢献

 重点分野のうち、道路と感染症対策では日本の援助の貢献が高く評価され、特に感染症対策ではポリオの発症件数が減り、撲滅も視野に入るという具体的成果を生んでいる。その他の分野では貢献度、成果ともに限られている。

 インフラ整備:電気通信分野の貢献は非常に限られているが、道路に関しては、エチオピア政府や他ドナー、現地NGOを含めて、日本の援助分野の中で最も認知度と評価が高かった。他のサブサハラ諸国と比べても道路の整備状況が悪く、幹線道路すら劣悪な中で二国間ドナー最大の修復整備を行なった貢献(output)は大きい。また、修復した道路の沿線で経済活動が活発化していること(outcome)も断片的ながら確認できた。

 保健衛生:感染症対策は、技術協力と無償資金協力の効果的な連携によってポリオの検査体制を整備し、さらにユニセフを通してポリオ・麻疹ワクチンを供与して予防接種率を上げたことで、ポリオ、麻疹の発症件数が減少するという具体的な効果を上げた。その他、母子保健を促進するヘルス・ポスト/センターの整備で一定の成果を上げ、一定の貢献をしたと言える。

 教育:エチオピアの教育分野の開発計画が最も重視する基礎教育の拡充を一貫して支援してきた。支援規模そのものが小さく、基礎教育全体への貢献度という点から見ればかなり限定的である。

 農業・食糧安全保障:食糧増産援助を通じた肥料の供与は、エチオピア政府の評価が高いが、単位面積あたりの収量は横ばい状態が続いており、評価は難しい。灌漑開発への支援は、規模は小さいものの、技術移転と持続性の点で評価される。食糧安全保障については、今後、農業生産(性)の向上とエチオピア国内の食糧分配是正(=食糧安全保障)に直接的に貢献する支援が強く望まれる。

 水:日本の援助は安全な水の供給に力を入れてきた。施設建設や技術移転の面で一定の貢献をし、エチオピア側から評価もされているが、投入規模が小さい分だけ貢献度も小さい。

スキーム間連携・セクター間連携・援助協調

 スキーム間連携事例はポリオ撲滅(無償-技協)、道路修復(無償-技協)、地下水開発・水供給(草の根-技協)があり、連携が相乗効果を挙げて、援助の効果・効率を高めている。セクター間連携はまだ実例がないが、水と農業分野の間の連携が模索されており、その実現が待たれる。援助協調による成果は、道路分野でのドナー間の棲み分けや、ポリオ撲滅でのユニセフとの連携による成果はあるものの、限定されたものにとどまっている。
7. 提言
 対エチオピア援助政策の評価結果を踏まえ、以下のとおり、今後の対エチオピア援助政策(具体的にはエチオピア国別援助計画)のあり方を提言する。

(1) 援助政策策定の視点:日本のODAは今後減る見込みの方が強い中で、日本としてどのように限られた資源を活用して効果と効率、存在感を高めていくかは最大の課題と言える。1) 援助の意義・目的の明確化、2) 援助対象(分野and/or地域)の選択と集中、3) 連携・協調による相乗効果、という視点からの計画立案が必要である。
(2) 対エチオピア援助の意義・目的:重点分野を含む目的・目標体系図を作成し、計画期間中に達成すべき目標(数値を含む)を、エチオピアの開発目標との整合性を取りながら掲げることが望まれる。
(3) 援助対象(分野・地域):相手国のニーズ、日本の実績と比較優位、他ドナーとのバランスの三つの基準に照らし、援助対象分野の選択と集中を行うことを提案する。エチオピアでは、1)食糧安全保障(農業、水、道路)、2)保健衛生(感染症対策)、3)教育(基礎教育)、でのニーズが高いと思われる。
(4) 分野横断的/新興課題:平和構築や民主化、経済改革(構造調整や民営化)はODA大綱の重点課題であるだけに、政策協議などの場を通して実現を求めていくとともに、事業実施のレベルにおいてもこれらの課題に対応していくことが必要である。
(5) 援助形態:LLDCであることに鑑みて、今後も無償資金協力と技術協力で対応していくのが適切である。また、草の根・人間の安全保障無償を一層活用していくことが望まれる。
(6) 援助手法:1) 重点分野・地域での連携(スキーム間、セクター間、マルチ-バイ間、他ドナー/NGO)の促進、2) 南南協力の強化、3)重点分野(特に道路や保健衛生)における政策スタッフ派遣、コモンファンドへの資金投入の検討、4) 直接財政支援の漸進的実施、5) 援助手続きの調和化(共通の様式・手続き、手続きの合理化等)による簡素化促進が必要である。
(7) 政策協議・対話:1) 重点地域の州の参加を得る、2) 重点地域の州レベルで協議の場を設ける、3) 日本の専門家やNGOの意見をよりよく反映する、4) 日本国内の関係省庁やNGOの意見を聴取・反映させる、5) 現地NGOとの協議/対話の場を設けることを提案する。
(8) 透明性・予測可能性の向上:プロジェクトごとの技術協力額を先方に対して明らかにするなどし、予測可能性を高めることが望まれる。
(9) 無償資金協力の改善:無償資金協力の業者アンタイド化推進が被援助国から求められている。また、住民のオーナーシップと事業の持続性を高めるコスト・シェアリングが活かせるよう、一般無償の仕組みを整えることが望まれる。草の根・人間の安全保障無償は、手続きは簡略なものの規模が小さいため、その解決策として草の根無償でクラスター(同種の複数事業を一案件として束ねる)処理をすることが考えられる。
(10) 援助要員の増員・強化:現地権限の強化・権限委譲の中で、援助の質を確保するには援助要員の増員が欠かせない。また、セクター支援や直接財政支援に対応し、ドナー会合でリーダーシップを発揮していくには、要員の能力向上を図らねばならない。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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