1.テーマ: 国別評価 |
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2.現地調査国:エジプト |
3.評価チーム:
(1)評価主任:松本 哲男 (名古屋大学名誉教授)
(2)アドバイザー:土屋 一樹 (アジア経済研究所 地域研究センター中東研究グループ)
(3)コンサルタント:一般財団法人 国際開発センター |
4. 調査実施期間:2010年9月~2011年3月 |
5. 評価方針:
(1)目的
- ア
- これまでの日本の対エジプト援助政策を全般的に評価し,今後の援助政策立案及び援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得て,対エジプト援助政策に反映させること
- イ
- 中東地域に対する援助のあり方や日本とエジプトが第三国に対し共同で協力事業を実施する三角協力のあり方,日本がトップドナーではない国における援助のあり方等にかかる教訓を導き出し,類似の国・地域における援助政策に生かすこと
- ウ
- 評価結果を公表することを通じて国民への説明責任を果たすとともに,エジプト及び関係国政府・機関関係者や他ドナーにフィードバックすることで,これら政府・機関の我が国ODAへの理解促進に役立てること
(2)対象・時期
2000~2009年度における日本の対エジプト援助政策を対象とした。
(3)方法
外務省発行の「ODAガイドライン第5版(2009年2月)」を踏まえ,最初に政策目標を整理した上で,「政策の妥当性」,「結果の有効性」,「プロセスの適切性」の視点から評価を行った。 |
6. 評価結果:
(1)総論
日本の対エジプトODAは,政策の妥当性,結果の有効性及びプロセスの適切性の全ての項目において高い評価を得た。外交戦略的な観点からも,地政学的な要衝に位置するエジプトとの外交関係の重要性,アフリカ・中東地域の安定・地域の持続的発展を十分に考慮して行われていることが確認された。
なお,本評価では,2011年2月時点でのエジプト情勢,及びその後の日本のODAについては対象外としているものの,意義のある提言を行うために,こうした情勢も踏まえて,再度見直しを行い,その有用性を検討した。その結果,これまでの日本の対エジプト援助は,「持続的成長と雇用創出の実現」,「貧困削減と生活水準の向上」,「地域安定化の促進」の3点を目標として行っており,どの支援も雇用創出や貧困格差の軽減を求めるエジプト国民のニーズに基づいたもので,日本の対エジプトODAが,相手国の政権を問わず普遍的な内容となっていることが確認された。よって,評価のまとめについては,政変後の今も変更はない。提言についても,中長期的な方向性としては変更ないが,2011年2月時点のエジプト情勢を踏まえ,短期的支援の提供を新たに追記することとした。また,今次政変を受け,エジプト政府から求められ,我が国として対応すべき支援については,2011年9月の大統領選挙を筆頭に,人民議会選挙等,未だ当国の政府体制が不確定であることから,今後,大幅な変更もあり得る。
(2)各論
- ア
- 「政策の妥当性」に関する評価
日本の対エジプト援助政策は,エジプトの開発ニーズ(社会経済開発長期ビジョン及び第6次5か年計画),日本の上位政策(ODA大綱及びODA中期政策,並びに対エジプト外交政策),国際的な優先課題への対応(ミレニアム開発目標(MDGs),気候変動問題)と整合しており,他ドナーの支援との相互補完性や日本の比較優位性も確保されていたことから,おおむね妥当であったと判断される。このうち相互補完性の観点からは,日本の国別援助計画において重点分野とされていないガバナンスについて日本が拠出した基金を活用してUNDPが協力を実施している事例のように,日本が援助手段の「使い分け」を行うことによりエジプト側の幅広い開発課題に対応しようとする動きが見られた。比較優位性では,日本は自らの強みに立脚した援助政策を策定していると考えられるが,日本の援助政策の重点分野は相対的に広範な領域にわたっていることが明らかになった。
- イ
- 「結果の有効性」に関する評価
日本の対エジプト援助政策は,3つの援助計画目標に基づき実施された個別案件が総じてプラスの成果をもたらしていること,また,上位目標である,競争力のある安定した経済社会への移行についても一定の成果を上げていることから,有効であったと判断される。
援助計画目標のうち,「持続的成長と雇用創出の実現」では,新・再生エネルギー分野における大きな量的貢献や,各分野における多様なスキームを通じたエジプト側の政策策定・実施プロセスの改善への貢献などが認められる。「貧困削減と生活水準の向上」については,エジプト側の開発計画とニーズに沿って,特に,給水,農業(灌漑,農業機械化等),保健医療(ポリオ撲滅,母子保健等)の各分野でハード,ソフトの両面から効果的な協力が行われてきたことが確認された。「地域安定化の促進」については,エジプトが日本の支援のもと中東及びサブ・サハラ諸国に対して行っている第三国研修,国連を通じた国際連合アフリカ紛争解決平和維持訓練カイロ地域センター(CCCPA)への支援において貢献が確認された。また,こうした日本の支援は研修受講者をはじめ,エジプト政府及び他ドナーから高い評価を得ていた。
上記の援助計画目標の上位目標である「エジプトが競争力のある安定した経済社会へ移行することを支援する」に関する検証からは,所得格差,地域格差,男女格差などの格差緩和という点においては必ずしも目に見える大きな成果を上げたとは言い難いが,ビジネス環境の改善状況,経済成長等の実績からは,競争力のある経済社会への移行が順調に進んでいるといえる。
- ウ
- 「プロセスの適切性」に関する評価
日本の対エジプト援助政策は,援助政策の妥当性及び有効性を確保する上でおおむね適切に策定・実施されたと判断される。2008年版国別援助計画は,在エジプト日本大使館,JICA,JETRO等で構成される現地ODAタスクフォースの主導により日本国内関係者やエジプト政府の意見を踏まえおおむね適切に策定されていた。案件の形成・採択についても,国別援助計画に沿って適切なプロセスを経て実施され,エジプト政府側のニーズの把握も十分に行われていた。ただし,特定分野の援助の強化や地域の重点化といった「選択と集中」については,その重要性は援助計画策定当時から関係者の間で十分に認識されているものの,具体的な実施には至っていない。ドナー間の連携に関しては,日本はとりわけ有償資金協力において他ドナーとの連携・協調・棲み分けを積極的に行い,成果を上げてきたが,他ドナーの中には援助の更なる効果的・効率的な実施を目指すべく,政策レベル・プログラムレベルでの連携・協調を図っているところもあった。エジプト国内における日本の援助の広報活動は活発に行われており,日本の援助の認知度も高かったが,日本国内における対エジプト援助に関する認知度は現地に比べて低いのが現状である。
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7.提言:
(1)政策の策定・方向性を検討する上での提言
- ア
- 国別援助計画の戦略性の強化
日本の援助のプレゼンスを維持しつつ,「選択と集中」の観点から効果的な援助を実施していくための具体的な戦略を再検討する。
- イ
- 地域協力のさらなる強化と拡大
アフリカ地域の開発,中東地域の平和を目的とした三角協力は,これまでに成果も上がって
おり,エジプト政府の期待も大きい。さらなる協力拡大を目指していく。
- ウ
- 援助アプローチの見直し
エジプトの経済・社会発展状況に鑑み,援助からの撤退や,援助方針の見直しを行うドナー
も出始めており,日本もこうした動きを踏まえて対エジプト援助の在り方を再検証する。
- エ
- 民間企業等との連携の強化
民間企業等の知見を積極的に取り入れる努力をし,オールジャパンで援助に取り組む。
- オ
- エジプト情勢を踏まえた短期的な支援の提供
エジプトの早期安定化を支援すべく,日本が同国に対して迅速に効果を発揮できる支援を 行うことは有意義である。
(2) 政策を実施する上での提言
- ア
- 外交戦略上,重要性が高い事業の確実な実施と持続性の確保
援助事業の中でも外交戦略的な観点から重要性が高く,相手国政府の期待が大きい協力 については,事業終了後も成果を維持・発展し,長期な視点から両国の良好な外交関係に活かしていけるような仕組みを案件終了までに確実に形成する。
- イ
- 国別援助計画策定の背景・経緯の記録
国別援助計画の策定プロセスに関する情報は,計画見直し時ならびに国別評価の際に重要となることから,文書化し,整理・保存する。
- ウ
- 広報のさらなる強化
対エジプトODA案件の認知度はそれほど高いとはいえない。ターゲット層(日本国内の一般国民向け,エジプトの日本人観光客向け等)に合致した方法で広報を強化する。 |