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東ティモールの平和構築プロセスにおける日本の貢献の評価と平和協力の課題
(被援助国政府・機関による評価)

1. テーマ: 東ティモールの平和構築プロセスにおける我が国の貢献の評価と平和協力の課題
2. 国名: 東ティモール

3. 評価実施者
(1)評価主任

  • レベッカ・エンゲル(Ms. Rebecca Engel)コロンビア大学国際紛争解決センター研究員

(2)アドバイザー

  • ヘルダー・ダ・コスタ(Dr. Helder Da Costa)財務省援助効果向上局アドバイザー
4. 調査実施期間:2008年2月~2009年3月

5. 評価方針

(1) 目的

 本評価の目的は、日本が東ティモールで実施したODAが、東ティモールにおける平和構築プロセスの中でどのような状況下で妥当性、効率性、有効性を有したかを評価するものである。特に本研究では、1999年以来、10年間にわたる日本の対東ティモール支援について、同国における平和構築という観点から、日本の支援アプローチ及びプロジェクト等を総合的に評価し、如何なる貢献をもたらしたかを検証すると共に、今後の課題についての提言を行うことを目的として実施された。

(2) 評価対象

 本評価では、ODAによる平和構築支援を主たる評価対象としたが、その際、必要な限りにおいてODA以外の政治プロセスや外交面での日本の取組も含めて検討した。
 また、本評価の実施に当たって調査チームは、国際協力機構(JICA)、在東ティモール日本大使館、東ティモール国財務省援助効果向上局を始めとする政府関係機関及びプロジェクト/プログラムカウンターパート・参加者との議論に加え、事後評価報告書分析、文献調査を実施した。

(3)評価方法

 評価は基本的には、政策レベル評価に関する日本のODA評価ガイドラインに従い、政策、結果、プロセスの3つの視点から評価の枠組みを定め、評価を実施した。具体的には、東ティモールにおける平和構築プロセスのうち、1999年から2009年までの10年間に関し、紛争後から平和の定着、そして開発の各段階で実施された日本の支援について重点課題別評価を行った。

6. 評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 日本は、ここ数年、紛争国や地域に対して行う援助について、鮮明に平和構築に向けた取組を強化している。そうした変化の過程で、東ティモールは、ODAだけでなく国連PKO活動への参加を含め本格的な平和構築支援を目的として取り組んだ事例である。こうした目的は、国際協調、平和協力を掲げる日本外交の基本方針、ODA大綱及び中期政策、国際社会における紛争国・地域への取組と照らして妥当なものであったと考えられる。

(2)「結果の有効性」に関する評価

 日本は、東ティモールの独立に際し、中心的な支援国の一つとして当国における平和の定着に大きな貢献をした。PKO活動への財政的貢献だけでなく人的貢献や、タイムリーに実施された大規模な人道・復興支援は、紛争後の東ティモールが独立国として自立する上で、重要な役割を果たしたと言える。しかしながら、2006年に発生した騒擾事件は、順調に見えた平和構築プロセスが平坦ではないことを浮き彫りにし、平和の定着に向け、治安部門改革やガバナンスの向上、貧困と失業への取組等新たな課題を当国及び日本を含む国際社会に示すこととなった。
 日本が重点分野として取り組んできた項目(「人材育成」、「インフラ整備・維持管理」、「農業」及び「平和の定着」)への重点的支援は、各々のプロジェクト・活動レベルにおいて概ね期待された成果を達成したことが認められ、当国の平和構築に一定の貢献を果たしたと考えられる。

(3)「プロセスの適切性・効率性」に関する評価

 1999年以来日本が行ってきた平和構築への関与は、国連・国際社会と緊密に連携しつつ平和構築を進める政治プロセスに参画すると共に、その時々のニーズ及び状況に対し、適切な援助スキームや協力の形態を選択するなどして、東ティモールの自立に向けた国づくりと平和の定着に貢献してきたことが認められた。
 国連による暫定統治から東ティモールの独立が達成される過程で、日本はマルチ機関を通じた緊急無償資金協力からバイのチャンネルによる無償資金協力・技術協力に比重を移す中で様々なレベルでのマルチ・バイ連携を通じ援助効果の向上が図られてきた。一方、日本のODAの制度的な課題として、バイの支援はマルチに比してその意志決定及び実施プロセスのスピードが遅く、現場での状況やニーズの変化に対する対応に少なからずタイムラグが生じることが認められた。
 一方、東ティモール政府のキャパシティー不足は未だに深刻であり、他ドナーとも協調しつつ、人材育成面での取組を更に強化する必要が認められた。また、無償資金協力によって供与された資機材や施設等の活用を担保するにあたって、技術協力との連携が不可欠であることが多くの事例から認められた。
 援助実施プロセスにおいて、東ティモール側のキャパシティー面での制約に対し、日本側における手続き面の簡素化や東ティモールへの側面的支援等努力が見られるものの、更なる調和化の必要性があることが認められた。

7. 提言

 東ティモールにおける平和構築は、2006年の騒擾事件に象徴される紆余曲折を経ながらも、過去10年の間、同国と国際社会の努力により着実に進展を見せており、最終段階に達しつつあると言える。事実、東ティモール政府及び国際社会の関心は、紛争後の平和の定着から本格的な開発にシフトしつつある。
 但し、過去の教訓からも明らかなように、当国における安定と平和の基盤は未だ脆弱であり、紛争の終結だけをもって平和構築が完了したとすることは早計である。こうした中、近年、紛争地域・国における平和構築に積極的に取り組んでいる日本が、東ティモールで果たすべき役割は依然として大きい。

(1) 重点分野の見直し

 現在の重点四分野は当国のニーズ、他のドナーとの役割分担、日本の知見の活用という点から妥当なものである。但し、東ティモールが本格的な開発の段階にさしかかろうとする中、「平和の定着」は独立した柱というより、全体にかかるテーマとして捉えていく必要がある。例えば、安定の基盤を揺るがし得る要素として、貧困の増大や若年層の失業問題が挙げられるが、これらは、他の重点分野の取組においても配慮されるべき要素であり、平和の定着という視点が重要な鍵となる。
 また、持続的な平和の構築を促すためには、政府や社会の能力形成が重視されるべきであり、「人材育成」は政府や社会の組織作りも視野に入れて強化していくべきである。

(2)援助プロセスの改善、最適な援助スキーム・アプローチの選択

 当国の現状に即した援助スキーム・プロセスの更なる改善・拡充が期待される。バイ支援の実施において政府のキャパシティーや当国の現状も踏まえた援助手続きの簡素化・調和化が望まれる。また、一般無償資金協力や技術協力プロジェクトといったバイ協力の承認・実施プロセスの更なる迅速化を進めることがタイムリーな平和構築支援を実施する上で求められている。
 ティモールはLDCの一つであるが、資源収入から構成される石油基金を活用して海外からの無償援助に依存した経済から脱却を試みている。中長期的には、同基金を持続的な方法で産業育成やインフラ整備に役立て、貧困削減に繋げることが大きな課題の一つとなっており、東ティモール政府は借款を含めた新たな資金調達の方途を検討している。日本のODA支援は、現在のところ無償資金協力と技術協力に限定されているが、当国の自立に向けた最適な支援メニューを考える上で有償資金協力等も視野に入れられるよう、まずは東ティモール政府が借り入れ体制及びキャパビルに取り組むことが望ましい。また、ODAだけに留まらない民間投資の促進等にも配慮されることが有益である。

(3)草の根レベルでの交流の促進

 日本が取り組んでいる平和の構築に向けた支援は、研究者を含め一般の日本国民がその実態や成果に触れる機会は非常に限られている。こうした中、東ティモールでの経験を通じて平和構築に関する日本国内の理解が深まることは有益である。2国間ODAの実施にあたってJOCV等のボランティアや日本NGOの活動展開を積極的に後押しするための方策を検討することが有益である。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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