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一般財政支援に関する米国との合同事例研究

1.調査目的・対象:
 本調査の目的は、東ティモールに対するプログラム型援助(一般財政支援)の効果を再検討し、それが支援実施の適切な方法であったか否かを判断するとともに、プログラム型援助の実施に適している国の条件とは如何なるものであるかを明らかにすることである。
 本調査では、東ティモールにおいて実施されているプログラム型援助の主要形態である「東ティモール移行支援プログラム(TSP: Transition Support Program)」を主な調査研究対象とした。
2.調査チーム
 本調査は、米国国際開発庁(USAID)及び日本外務省から委託を受けた以下の両国コンサルタントにより実施された。
 ジェフ・マリック 開発情報センター プロジェクト・ディレクター(チーム・リーダー)
 アン・ビーズリー 同 シニアー・リサーチ・アナリスト
 アンドリュー・メルニク 同 シニアー・エコノミスト
 水田 愼一 三菱総合研究所 海外事業推進センター 研究員
3.調査期間:2004年8月~2005年3月(うち現地調査同8月~9月)
4.調査結果
(1)一般財政支援の目的
 一般論として、一般財政支援の主要目的は、合意されたプログラムに基づいて柔軟に利用できる開発資金を提供することにより、開発における責任をドナー側から被援助国政府側に移し、被援助国が自国の開発に一層積極的な役割を果たすことを奨励することにある。このため、政府が脆弱かつ責任能力がなかったり、能力レベルが低く、財政管理能力が不十分である国は、原則として一般財政支援の対象候補国とはなりにくい。また、 組織的または広範な汚職が存在したり、管理・評価システムや監査機関が不存在・不十分である国についても同様である。
(2)東ティモール移行支援プログラム(TSP)の概要
 TSPは東ティモールに対して一般財政支援を行う枠組みであり、2002年の独立以降2年以上に亘り実施されている。TSPは、世界銀行の調整・管理の下で実施されており、世界銀行および10カ国の二国間ドナーによる資金拠出を受けている。2004年9月現在までのドナーからの拠出金総額は約9100万米ドルである。TSPによる支援は、石油・ガス収入が安定的に得られるようになると予想されていた2005年までに段階的に廃止される予定であったが、石油・ガス田開発の遅れを反映し、東ティモール政府は、2007年まで支援を継続するよう要求している。TSPの主要目標は、以下のとおりである。
  • 政府収入を補うための一時的な資金を供給する。
  • 東ティモールの国家開発計画(NDP: National Development Plan)の実施を可能ならしめること。
  • 将来の石油・ガス収入が適切に管理されるよう十分な政府の能力を構築する。
(3)東ティモールの特徴とTSPの目的
 東ティモールに対する支援を考える際に考慮すべき同国の特徴は主として以下のとおりである。
  • 東ティモールは、紛争を終えたばかり(post conflict)の新国家であり、外国からの援助以外に殆ど収入がなく、柔軟な形で財政資金を供与される必要がある。
  • 東ティモールの人的能力・行政能力は極めて低く、政府は多くの外国人アドバイザーや外国人スタッフに依存することを余儀なくされている。
  • 東ティモールは企業家精神の伝統に乏しく、開発可能な天然資源に乏しい。
  • 東ティモールは大半の紛争後諸国と異なり、情勢が安定しており、紛争再発の可能性がほとんどない。
  • 東ティモールでは沖合の油田・ガス田の開発により、恐らく2007年までには莫大な収益が得られるようになることが期待できる。
(4)結論
  • TSPは、東ティモール政府のオーナーシップの下で同政府の取組みを促し、それをモニタリングするための枠組みとして有効に機能してきている。このようなTSPの成功の大半は、世界銀行によるモニタリングとプログラム・デザインのおかげであると考えられる。二国間ドナーは、世界銀行によるモニタリングのおかげで、自国の援助を最小の人員で効率的に管理することが可能となったと主張している。
  • 明示的なコンディショナリティ(援助の条件付け)はないものの、東ティモール政府とドナーは、年に2回会合を開き、進捗状況をレビューし、新規目標と新たな優先順位を設定している。これらの会合において、ドナーは、ハイ・レベルの東ティモール政府関係者との間で重要課題について議論することができる。すなわち、このようにして、ドナーは、自らの関心を表明する機会が与えられる。
  • 東ティモール政府の観点からは、これらのレビューや強いドナー協調は、同政府に対する一種の圧力となっており、主権を一定程度の範囲で侵害するものだと捉えられている。それにもかかわらず、東ティモール政府は前向きに取り組み、良好な成果をあげている。
  • TSPが良好に機能している理由の一つとして、予算管理権限が計画財務省に集中し、同省の強いコントロールの下で財務管理が行われていることがあげられる。これにより、東ティモールの現在の財政システムは健全であり、汚職の発生は最小限の低いレベルであるとドナーは述べている。しかし、予算支出権限が中央集権化されていることにより、政府が支出を適時に行うことができないなどの非効率も生じている。
  • 現地の非政府組織(NGO)は、これまでのところ、TSPにかかる協議プロセスに対して、系統だったまたは意味ある形で関与してきていない。しかし、多数かつ多様なNGOを、組織立った形で、かつ、各組織の意見が代表されるように関与させることは大きなチャレンジであり、NGOコミュニティとしても、政府やドナーと協力しつつ自らも努力する必要がある。
  • 様々な形態の援助が相互にどのような比較優位を持つかという点について、東ティモール政府は、自らの嗜好を表明するだけの経験をプロジェクト、プログラムのいずれについても殆ど持っていなかった。しかしながら、現在、東ティモール政府は、プロジェクト型援助を好む姿勢を示している。というのは、東ティモール政府は、ドナーとともにプロジェクトに取組むことを通じて自分たちが必要としているキャパシティ・ビルディングが促がされると考えているからである。
  • 制度が未整備である東ティモール新政府にとって、TSPの持つキャパシティ・ビルディングの側面は、世界銀行やドナーの支援の下で、財政管理能力を身に付けるために極めて重要であった。東ティモールの紛争後の環境において、計画財務省内に財政管理能力を構築することは、TSPに対するドナーの支援を導きだすための鍵であった。この種のキャパシティ・ビルディングは、既存の政府組織が存在する他の国々においてドナーが一般財政支援の枠組みを通じて多額の資金を援助しようとするときにも考慮されるべきである。
  • 東ティモールは、近い将来、石油およびガスからの政府収入が期待されていることから、一般財政支援に関する明白かつ自然な“出口戦略”(exit strategy)を有している。ある意味で、この戦略は、東ティモールが外国人アドバイザーの支援を受けることなく自らの予算を管理できるだけの基本能力を持つことができるか否かにもかかっている。
注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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