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中国国別評価

1.テーマ:中国国別評価

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2.調査対象国:中華人民共和国
 現地調査国: 中華人民共和国
3.評価チーム:
(1)評価主任
 牟田博光(東京工業大学 理事・副学長)
 田中弥生(大学評価・学位授与機構 准教授)
(2)アドバイザー:
 高原明生(東京大学 教授)
 丸川知雄(東京大学 教授)
(3)コンサルタント:
 財団法人国際開発センター
4.調査実施期間:2007年6月~2008年3月

5.評価方針

(1)目的

 主に(1)2001年10月の対中国経済協力計画策定後の対中国援助政策を全般的に評価し、一層効果的・効率的な援助実施に向けた改善点を特定し、具体的な提言を行うこと、(2)評価結果を公表することにより、国民への説明責任を果たすこと、(3)中国政府関係者や他ドナーに評価結果をフィードバックし、今後の同国開発の参考となる情報を提供すること、更に、(4)日本の対中国援助の広報に貢献することを目的として実施された。

(2)対象・時期

 国別評価では、通常、「国別援助計画」や「国別援助方針」を評価の対象としているが、対中国援助では「対中国経済協力計画」がそれらに該当するものとして策定されている。対中国経済協力計画は2001年10月に策定されており、現在も同計画に基づき、援助が実施されている。したがって、本評価では「対中国経済協力計画」の策定以降2006年までに実施された、技術協力、無償資金協力、有償資金協力等、全ての援助事業を主な対象としている。ただし、実施案件の効果が現れるまでに数年を要するようなケースもあることから、必要に応じ過去に遡ることとした。

(3)方法

 「ODA評価ガイドライン第3版」に基づき、日本の対中国援助を「目的」と「手段」との関係という観点から整理した目標体系図を作成した。次に目標体系図に沿って、過去6年の日本の対中国援助政策を「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の3つの視点から総合的に検証した。
 また、評価者等及び外務省、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)の関係者をメンバーとする検討会を開催しつつ、以下の手順で進められた。

○評価の実施計画の策定
 評価チームは、評価主任の指揮・監督の下、外務省及び実施機関等の関係部局と協議を行い、評価の目的や対象を明確にし、評価基準を確認した。その上で適切な評価方法を検討し、作業スケジュールを含む評価の実施計画を策定して、ODA評価有識者会議において承認を受けた。

○文献・インタビュー調査(国内調査)
 上記で策定した評価実施計画に沿って、日本の援助政策及び実績、中国における援助動向等、評価対象ならびに比較対象に関する情報を収集した。情報収集は、文献検索、関係者へのインタビュー調査により行った。

○現地調査
 国内調査の結果を踏まえ、2007年10月28日から11月10日の期間に現地調査を行った。現地では、日本の対中国援助について、日本側関係者、中国政府関係者、他の援助機関等から聞き取り調査を行い、案件視察を行った。

6.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価

 対中経協計画は、中国及び日中関係の状況に即応した妥当性の高い計画だったと考えられる。その重点は「環境問題など地球的規模の問題への対処」「改革・開放支援」「相互理解の増進」「貧困克服のための支援」「民間活動への支援」「多国間協力の推進」の6課題に明確に絞り込まれている。この絞り込みは中国の5カ年計画の基本方針及び日本の新ODA大綱に基本的に合致している。6課題のうち、「相互理解の増進」「民間活動への支援」「多国間協力の推進」は、他の国に対する援助計画では重点課題としては取り上げられていないことが多いが、「日本の利益に資する援助」を重視する国内の声は、とくに対中協力に関して強かったことを背景に、この3課題も中国及び日中関係に照らして妥当な設定だったといえる。
 その後、重点課題は、無償資金協力については、1)環境、感染症等日中両国国民が直面する共通の課題の解決に資する分野、2)日中両国の相互理解、交流の増進に資する分野に絞り込まれている。技術協力については、これらに加え、市場経済化や国際ルールの順守、良い統治の促進、貧困克服に資する案件を中心に実施されてきている。貧困克服支援は、中国の著しい経済成長や、中国に対する経済協力についての国内の世論が厳しいことにかんがみ、中国国内の富の再分配の問題であるとの意見もあることから、他の重点分野と比較すると優先度は下がっている。世界銀行、英国は対中援助に関しては、貧困削減を既に主目標から外している。この点、日本を含む主要ドナーの援助方針、重点分野は格差是正を正面に掲げる中国の第11次5カ年計画とは異なってきている。ただし、いまだに残る貧困人口2億人という規模は、サブサハラアフリカ全体の貧困人口の6割に相当する。

(2)「結果の有効性」に関する評価

 「日本の協力は、中国の発展に長年貢献してきた。とくにありがたかったのは、時代の変化に応じつつ広い分野をカバーしてきたことだ。」と多くの中国政府関係者が強い感謝の意を表している。他ドナーも日本の協力を評価しており、とくに指摘を受けたのは次の点である。(1)資金協力と技術協力の効果的組み合わせ、(2)後進地域及び重点部門(環境、人材等)の財政ニーズにマッチした有償資金協力の有利な条件、(3)東洋の社会的土壌に根ざした、受け入れられ易い技術協力。
 これらの感謝及び評価からも、対中経協計画は有効であったといえる。効果に関し、我々が多くの案件を通じて観察した傾向は以下である。(1)持続的で広い波及効果。継続的な技術協力を伴う案件に著しい。(その逆は、いくつかの無償資金協力単独案件に典型的である。効果が資機材補充に限定され、認知度が低い(日本の顔が見えにくい))。(2)複合的な効果(例:環境保全に加えて生計向上の効果をもたらした住民参加型植林事業)。6つの重点課題間には相互関係がある。それを念頭に置いて案件内容が計画された結果である。(3)モデル効果。対象地域で一定の規模と質を備えた案件は、それ自体の量的貢献度は小さくとも、他地域からの視察等を通じて全国に広がる潜在力を持つ。(4)様々なスキームを通じた相互理解促進効果。研修事業(青年交流事業を含む)、青年海外協力隊、留学生受入など、焦点が人材にあるスキームやコンポーネントは勿論のこと、それだけでなく草の根無償を通じた民衆レベルでの理解促進、技術移転・コンサルティングを通じた人脈形成も相互理解促進に効果をもたらしている。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価

 こうした効果は、協力計画を作り実施したプロセスが適切であったが故である。とくに次の点を指摘したい。(1)政策ニーズと地元受け入れ能力を重視した中国側の体系的な案件要請。強いオーナーシップと実行力により、日本の協力方針を政府部内で周知徹底していることも功を奏している。(2)国内の対中批判とODA予算削減の中での援助努力。とくに案件採択における徹底した選択と集中。(3)確立した両国間の実施体制。とくにスキーム別協力受け入れ体制及びODAタスクフォースの存在。(4)日本側による着実かつ継続的な案件の管理及びフォローアップ。(5)対中経協計画期以前からの協力蓄積の活用による案件の形成と実施(例えば以前の技術協力プロジェクトを拠点とした人材育成案件)。

7.提言

(1) 重点分野に絞り込んだ協力
(2) 現在までの資産の有効活用(資機材、人脈、プロジェクト拠点等)
(3) 資産を活用した長期的な相互理解と友好関係の維持発展
(4) ニーズにあった協力規模の維持
(5) スキーム間の連携、スキームの特性を活かした協力(とくに、技術協力における管理運営面・制度政策面の重視や草の根レベルでの相互理解推進)
(6) 中国の速い変化に対応し得る柔軟な案件形成・実施体制
(7) モニタリング体制の見直し
(8) 協力主体の多様化への対応(とくにCSR活動及びNGOへの支援(情報の集約化と提供等))
(9) 広報活動の強化
(10) ドナー国としての中国との協力の検討
(11) 総括評価の実施
(12) 新対中国経済協力計画の作成

 以上の提言を念頭に置くと、対中国経済協力の継続と次期協力計画の作成が重要と考えられる。円借款は新規供与終了となると、継続される協力は、昨今の国際社会の動向や日中の関係を鑑みつつ、一定規模水準にあることが、両国の互恵関係の観点からも必要であろう。英国は援助終了を明言し、世銀もフェーズアウトの方向を打ち出している。一方、韓国のような新規参入ドナーも存在する。こうした中、日本は対中経済協力を最後に終了するような姿勢で協力を進めることが望ましい。
 今回の国別評価は、対中経協計画の成果を確認し、日本の経済協力に対する中国側の関心の高まりに相応したという意味でタイムリーであった。今後更に、以下の視点から総括的な評価を実施することが望まれる。
(1)日中両国民への説明
(2)協力開始以来の成果に関する情報の整理と共有
(3)評価に対する中国側の関心の高まり。日中合同の評価となれば一層望ましい。

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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