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チリ・デジタル通信訓練センター

1.評価対象プロジェクト名:
 デジタル通信訓練センター
(クリックすると画像が変わります)
2.国名:チリ
3.援助形態:
 プロジェクト方式技術協力(92年7月~97年7月)
 専門家派遣(長期:6人、短期:23人)
 研修員受け入れ(20人)
 機材供与総額(5億5百万円)
4.評価者
 上山信一 ジョージタウン大学政策大学院教授
5.現地調査実施期間:2001年2月26日~3月2日
6.プロジェクトの分野:通信
7.プロジェクトの目的:
(1) チリの通信電話サービスのスムーズなデジタル化を支援することが目的。
(2) 具体的には、非営利法人(元政府機関)である全国職業訓練所(INACAP)が新規に設立した、デジタル通信訓練センター(CINCATEL)に対して、技術協力を行った(次ページ表参照)期間は5年間(92-97年)。
(3) 技術移転の分野は、(A)デジタル交換技術、(B)デジタル伝送技術、(C)デジタル無線技術、(D)通信網計画技術の4つ。
8.評価結果:
(1) 直接の援助対象であるINACAPの研修事業の成果について
(イ) 援助期間(92年~97年)に行われた活動は、(a)日本人の専門家派遣、(b)日本への研修生の受け入れ、(c)機材の供与。この結果、INACAPは、全体で20人の教官を養成し、先方受入機関(INACAP)の満足度は高い。
(ロ) わが国の援助を受け入れたINACAPのデジタル訓練研修は合計3,198人(93年~97年分)の研修生を送り出した。何人かにインタビューしたところ、コースの内容、教材については、日本が供与した機材を使った実習が出来るので、実践的と高く評価していた。また、当時のアンケート結果を見ても満足度は高い。
(ハ) 今回、当時の研修生が所属する電話会社にもインタビューをしたが、本件援助は、デジタル化の時期にたいへんタイムリーかつ実践的な研修だったとする意見が多い。
(ニ) さらに視点を広げて、本件援助は、チリの通信産業の健全な市場形成に貢献し、そのことを通じてサービスの質の向上とコストの低下に貢献したと考えられる。
 チリは、国営電話会社(2社、CTC Telefonica、ENTEL)の民営化(88年)及び通信分野の完全自由化(94年)及びデジタル化という3つの構造変化をテコに民間主導の通信インフラのサービス充実を図っていた。本件援助は、この分野での健全な競争環境の整備にも寄与した。具体的には、(a)ボトルネックとなりがちな技術者、中でも大量かつタイムリーに求められる現場レベルのテクニシャンの育成に貢献。(b)特に、旧国営会社以外の新規参入企業や施設業者などにも最高水準のデジタル技術 を提供し、健全な競争の機会を提供した。
(2) 本件援助の波及効果について
 本件援助を契機として、INACAPはその後も業界のニーズに併せてインターネット分野等の研修を自律的に運営。
 本件援助で育った専門家がわが国の対ボリビア援助で第三国専門家として活躍(98年3月)。また、INACAPは、いわゆる水平協力、即ち日本の資金援助のもとで、チリが、グアテマラ、パナマ等の他のラ米諸国の研修生を受入れ、本件援助で日本から得た技術と設備を他国のためにも活用している。
(3) 本件援助の費用対効果について
 本プロジェクトのケースについては、援助対象機関がINACAPという独立採算のNPO(非営利団体)であったことが、対政府機関援助よりも効果的かつ効率的な援助を可能にしたと思われる。
9.提言(今後のフォロー・アップ、改善すべき点等):
(1) 本プロジェクトは、個別プロジェクトとしてはかなりうまくいった案件であるといえる。しかしながら、現地の新聞報道以外には、プロジェクトの実施中も終了後においても、両国の国民に対して、本件プロジェクトの意義や成果が積極的に伝えられていない。両国民に対する広報のあり方を見直すべきである。
(2) 今回の評価対象プロジェクトは、NPO経由の援助のユニークな成功例といえる。今後は、政府機関に対する援助だけではなく、このようなNPO経由の援助の可能性を追求すべきである。
(3) 今回のプロジェクトの副次的な成果は、民営化、健全な自由競争の促進に貢献したことである。今後、特に、チリのような中進国に対する援助を検討するに当たっては、「民営化」、「健在な自由競争市場の形成」への貢献も対象にすべきである。
10.外務省からの一言:
(1) )このプロジェクトは、チリの電気通信網が急速に拡大していく中(電話普及率:7.9%(1991年)→17.4%(1996年)、携帯電話加入者数:36,000人(1991年)→350,000(1996年))で非常に時宜を得たプロジェクトであった。
 また、指摘されているとおり、このプロジェクトの波及効果は、チリだけではなく、中南米諸国の専門家にも及んでおり、極めて効果的なプロジェクトであった。
(2) このプロジェクトの意義や成果について積極的に両国民に広報を行っていきたい。
(3) IT分野での協力は、チリ側の関心も高いので、今後もチリに対してIT分野においてどのような協力が可能かを検討していきたい。
(4) チリのような中進国に対する援助については、民間セクターの重要性、政府機関との役割分担を視野に入れ、民間セクターへの裨益をも考慮してい行く必要がある。


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